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第六十一話 再々走

「刀也、もう六時だよ、学校が閉まっちゃう前に帰らなきゃ」

 もう三度目になる声を聞き、俺は目覚める。


 俺を起こしたのは、学ランを着た黄金色の髪をした美少年。術木薔薇だ。


「ああ、おはよう薔薇。すぐに帰るよ」

 俺はなんでもないように応える。


「やはり魔術は使えなくなっているな」

 刀也が俺に語りかけてくる。

 前回もそうだったが、やはり優奈さんと契約しなければ魔術は使えないようだ。


 一応、前回全ての戦いが終わった後、魔術は使えたので、一度契約さえすれば以後は使えるようになるのだが、どうしても不便に思ってしまう。


 まぁ、こればかりはしょうがないだろう。


 と、俺がそんな思考をしていると、薔薇は俺が完全に起きたと認識し、帰ろうとする。


「うん、じゃあ僕は先に帰るね」

「ああ、またな、薔薇」


 別れの挨拶をして薔薇が教室を出ていく。


「よし、それじゃあ、俺たちも行くか」

「だな」

 優奈さんと契約をするためにも、俺たちは教室を出ることにした。





 夕焼けが沈んでいく中、俺たちは住宅街を歩いて行く。


「さて、道すがら簡単に作戦を考えておこうか」

 刀也が作戦立案を提案する。


「そうだな、百合は魔術師ではない。となると、攻略法も今までの二人とは大きく変わってくるだろう」


 というかそもそも、このルートにおいて、決議に参加することは正しい選択なのか?


 下手をすれば、決議に参加した時点で百合のルートは失敗、なんてことになりかねない。


「だが少なくとも、戦う力は必要だろう」

 刀也の言葉に俺は頷く。


 いくらなんでも、百合のルートだけ何もかもが平和、なんてことにはならないだろう。


 そうなれば、戦う力は必要だ。

 だから、優奈さんとの契約だけはしておくべきだな。


 俺たちが作戦を考えながら歩いていると、視界の端に見慣れた姿が映る。

「いた、優奈さんだ」


 優奈さんは路地裏に入って行く。

 どうやら間界に入ったようだ。


「追うぞ!」

「ああ!」

 俺たちも優奈さんに続き、間界へと入っていく。





 路地裏にできていた()をくぐり、間界へと入る。

 赤黒い景色、すでに見慣れた光景だ。


 すでに優奈さんは魔獣と出会っているはず……!


 俺は記憶を頼りに間界を駆け抜ける。



「きゃあ!?」

 甲高い悲鳴が聞こえた。

 優奈さんだ。


 俺はどうにか優奈さんのいる所に駆けつけられた。


「いた!」

俺は思わず声に出す。


「Gruu?」

 魔獣がこちらに気づき、誰だお前は、とでも言いたげな視線を向ける。


「人!?ここは危ないわ!逃げて!」

 優奈さんはあいも変わらず自分のことはお構いなしに他人のことを心配している。


「だから助けたくなるんだよなぁ」

 何度ループしても変わらぬ彼女に、俺は思わず笑みをこぼす。


「Gruuuaaaa!」

 魔獣の標的が俺に移り、飛びかかってくる。


「くっ!?」

 俺は魔獣の攻撃を横っ飛びで避けようとする。


 その時、体を魔力が駆け巡った。


「おわっ!?」

 想定よりも大きく飛んだ俺は危うく壁にぶつかりそうになる。


「今のは身体強化か!?」

 刀也が驚いている。


 いや、俺も驚いた。前回は身体強化すら使えなかったはずだが、この体の使い方がわかってきたとでも言うのだろうか?


 身体強化程度なら使えるようになっていた。

 しかし、魔術を使えるわけではない。

 流石に、身体強化だけでは不安がある。


 この先の展開のためにも優奈さんと契約するべきだ。


「こっちよ!速く!」

 俺がそこまで思考した時、優奈さんが物陰からこちらに手を差し伸べる。


 俺は優奈さんの方に逃げ出す。


「Gyau!」

 魔獣は逃すまいと、俺を追いかける。


「これでも、くらってろ!」

俺は道端に落ちていた石に魔力を込めて投擲する。


「Gruaa!?」

 見事魔獣の顔に命中し、その隙に俺たちは逃げ出す。




「ハァ、ハァ、……ここまで来れば安心かしら?」

 しばらく走り、適当な物陰で息を整える。


 さっそく、優奈さんが話を切り出す。

「あなた、さっき魔力を使ってたわよね?もしかして、魔術師?」


 まだ魔術を使えない理由などは、はぐらかすべきだろう。

 なので俺は微妙にぼかした説明をする。


「あ〜、一応魔術師の家系ですけど、俺、魔術は使えなくて、身体強化くらいならできるんですけど……」


 俺の説明を聞いた優奈さんはどこか苦しそうな、そして同時に、どこか嬉しそうな顔をした。


「そう……、()()()()()()()

 ……こちらは優奈さんの事情を全て知っている。

 それだけに、今の優奈さんの顔を見ると、とても心苦しい……!


「そういえば、自己紹介がまだだったわね」

 俺が一人で悶えていると、優奈さんが話を進める。


「私の名前は魔使優奈。一応、七大魔家の魔術師の一族よ」

 優奈さんが自己紹介を終える。

 では俺も自己紹介するとしよう。


「俺の名前は黒峰刀也です。一応、一般ですが、魔術師の一族です」

 どちらも“一応“だなんてつく。微妙な自己紹介だ。


 まぁ、仕方がないことだが。


「魔使って言うとあの【使役】魔術のですか?」

 早く契約するためにも、話を進めよう。


「っ!……ええ、その魔使よ。でも、私は魔術を使えないの。魔獣と契約ができなくて、ここには契約をしに来たんだけど、結局失敗してこのザマね」

 優奈さんが悲しそうな顔をする。


 すいません優奈さん。でも、話を進めるために必要なので……!


 優奈さんにここの中で謝りながら、話を進めるための決定的な言葉を言う。


「それじゃあ、俺と契約してみませんか?」

「え?」


 俺は優奈さんを説得するために言葉を重ねる。


「今まで魔獣と契約しようとして失敗してきたんですよね?だったら、魔使さんは魔獣と契約できる【使役】魔術じゃなくて、人と契約できる【使役】魔術かもしれないですよ?」


 さて、これで納得してくれかどうか……!


「い、いやいやいや、そんなことできるわけないでしょう!そもそも、【使役】魔術は元から人、魔術師も対象よ!でも、魔術師が相手だと無意識レベルの抵抗で契約が弾かれるの。だから、人が相手でも無理に決まってるわ!」


 ぐっ!まずいな。優奈さんが納得してくれない。

 ならば……!


「でも、今の俺たちに戦う術は有りません。なら、人との契約でもなんでも、やってみないと死にます」

「うっ!それは……そうね」


 優奈さんが痛い所を突かれたとでも言うような表情をする。


 よし、もう一押し……!

「それに、俺はあなたならできると確信があるんです」

「何を根拠にそんなことを……!」

 優奈さんは俺の言葉を怪しむ。

 

「勘です!」

 しかし、俺は完全に言い切ることで押し切ろうとする。


 数秒ほどの膠着。

 とうとう優奈さんは折れた。


「……そうね。生き残るためにも、やれることはなんでもやってみなきゃよね」


 三度目の、俺と優奈さんの契約が始まる。


  優奈さんが詠唱を始める。

 

「私、魔使優奈は汝と契約を結び、汝の主となる。汝の名を述べよ」

 俺はすかさず自分の名前を答える。

「黒峰刀也」

 

 光が俺たちを包み、俺の右手に収束していく。


 光が収まり、俺の右手に紋様が刻まれる。


「……成功……したわね」

「はい。俺と魔使さんの間に繋がりを感じます」


 優奈さんはまだ状況をうまく飲み込めていないようだが、ともかくこれで契約は成立した。

 後は間界から出るだけだ。




 俺たちは間界の出口を目指す。

 しかし、それを阻むかのように一匹の魔獣が現れる。


「もうお前の顔は見飽きたよ」

 一つのルートに二度の邂逅(かいこう)


 これでもう六度目だ。

 いい加減、見飽きるというものだ。


「手早く終わらせてもらうぞ」

 俺は懐からカッターナイフを取り出し、魔力を込める。


「あなた戦えるの!?」

 優奈さんが尋ねる。


 俺はただ一言告げて走り出す。

「これでも、それなりの修羅場は潜ってますよ!」


「Gruuuaaa!!」

 魔獣が吠える。


 くまほどの大きさで爪を振るわれれば、当たりどころによっては、俺ですら即死だ。


 だがしかし、それは、当たれば、の話である。


 すでに魔獣との距離は一メートルを切った。

 魔獣はそのよく研がれた刀のような爪を持って、俺を切り裂こうとする。


 しかし、その攻撃が当たることはない。


 優奈さんの目には、俺が一瞬で魔獣の背後に現れたように見えただろう。


 俺は型の名を呟く。

「黒峰流、【身寄せ】」


「Gaaaaa!?」

 俺が型の名を呟いたと同時に、魔獣は真っ二つに裂かれる。


 魔獣の体は消え、後には魔石が残るばかりだ。


「黒峰くん!あなたすごいわね!」

 優奈さんがこちらに駆け寄ってくる。


 俺は呼吸を整える。

「おい、油断するなよ」

 刀也が俺に警告を鳴らす。


 分かっているさ。

 もちろん、()()()()()


「黒峰くん!危なっ——」

 優奈さんが俺に向かって叫ぶ。


 俺の背後から襲いかかる魔獣のことを知らせようとしているのだろう。


 しかし、すでにその魔獣は切られている。


「Ga——」

 魔獣の牙は俺に届くことはなく。

 すでに奇襲してきた魔獣も事切れている。


 俺は優奈さんに向かって手を差し伸べる。

「さ、帰りましょうか」


 こうして、俺は、もう三度目になる優奈さんとの邂逅を果たした。

 


 

 

 

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