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第五十七話 双龍、共に吠える

 時は少し遡る。

 刀也と祈闘が戻ってくるまでの時間を稼ぐために優奈、操蛇、刀重郎は戦っていた。


「それ、次の攻撃だ!」

 天翳大神が手を振る。

 それだけで空間が凍てつき、冷気に侵食される。


「優奈!右から来るぞ!」

 刀重郎を挟んで、操蛇が優奈へと警告を飛ばす。


「っ⁉︎クロ、防いで!」

「Gyau!」

 クロは【漆黒盾】を出すことで、冷気の侵食を免れる。


「はあっ!」

 天翳大神が優奈への攻撃に意識を割いた隙に刀重郎が攻撃を仕掛ける。


「甘い!」

 しかしその攻撃は幾重もの氷の壁によって防がれる。


 すでにこの攻防を何度も繰り返していた。


「はぁ、はぁ……。時間稼ぎにさえなればいいとはいえ、こうも手応えが無いと気が滅入ってくるな」

 三人の中で唯一その身一つで戦っている刀重郎は、その神経と体力をすり減らしていた。


 こちらの攻撃は簡単に防がれるのに対して、向こうの攻撃をまともに食らえば即座に死ぬ。

 そんな状況下であるため、戦況は悪くなる一方であった。


「祈闘殿たちが何か秘策があるようだったが、それだけで勝てると思うのは楽観的だろう。できる限りこちらで削っておきたいが……」

 七大魔家の当主として、長く戦場にいる操蛇をしても現在の戦況は芳しくなかった。


 こちらは削れていく一方であるのに、相手は未だ呼吸の乱れ一つ無い。

 むしろ、戦闘が長引くにつれて勢いを増してすらあるようだった。


「いい、いいぞ!貴様たちは強い!未だ目覚めて僅かと言えど、貴様たちが強者であるのが分かる!もっとだ。もっと余を楽しませろ‼︎」

 天翳大神の魔力が膨れ上がる。


「でかいのが来るぞ!」

 刀重郎が叫ぶ。


「クロ!」

「水蛇!」

 二人の使役魔術師が叫ぶ。


「【漆黒盾】!」

「【氷白盾】!」

「「Gyau!」」

 黒と白、二つの大きな盾が生み出され、冷気の大津波を()き止める。


「ぐっ⁉︎なんて威力……!」

 ほとんどの冷気を防げども、刺すような冷気が肌を蝕む。


 幾度もの冷気による攻撃によって神宮の周りは雪原もかくやといった状態になっていた。


「うむ……。ただ冷気を放出するだけの戦い方は飽きてきたな」

 これまでほとんどその場を動かなかった天翳大神がついに動きだした。


「さぁて、次はどう防ぐ?」

 瞬時に天翳大神の姿が消えた。 


「「「っ⁉︎」」」

 全員が意識を集中させ、どこから攻撃が来るか予測する。


「まずは貴様からだ」

 天翳大神は刀重郎の背後に現れた。


「このっ⁉︎」

 一瞬で反応し、天翳大神に攻撃するが、一歩遅かった。


 刀重郎が攻撃しようとした時、すでに天翳大神の手が刀重郎の体についていた。


「【白撃】」

 轟音が鳴り響く。

 刀重郎が吹き飛ばされ、社に衝突した音だった。


「がっ、はっ!」

「刀重郎さん!」

「刀重郎殿!」


 本来であれば体が弾け飛ぶ程の衝撃を受けた刀重郎だが、本人の頑強さによって、どうにか無事であった。


 しかし、無事とは言えど、あばらは折れ、攻撃を受けた箇所は凍りついていた。


「ふむ、威力は十分だが、即死する程ではないか。これであれば、触れた瞬間に凍り付かせた方が良いな」


 三人は戦慄していた。

 この化け物はただ力を振り撒くだけの獣ではなく、知恵を振るい、試行錯誤する存在なのだと気付いたからだ。


「次はどんなことをしようか」

 天翳大神が笑う。


 そして三人は気づいた。

 最初から、奴にとってこれは『戦い』ではない。

 今奴が行っているのは『遊び』なのだと。



「それ、でも……、戦わなきゃならないんだ」

 刀重郎が立ち上がる。


「魔使殿、優奈ちゃん、少しいいか?」

 刀重郎が二人に囁く。


「おい!それではあなたが死ぬかもしれないんだぞ!」

 刀重郎からとある作戦を聞き、操蛇は声を荒げる。


「どのみち奴に勝てなければ死にます。このまま時間稼ぎに徹するのも悪くはないですが、刀也たちが少しでも勝つ可能性を上げるためにも、奴に一泡吹かせてやりましょう」

 これほどの逆境の中、刀重郎は悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 優奈にはその表情が、少しばかり刀也と重なった。


「作戦会議はもう終わりか?」

「ああ、目にもの見せてやるよ」

 刀重郎は挑発する。


「ほう?それは楽しみだ」

 天翳大神は笑みを浮かべる。

 まるで、サプライズを用意していると言われた子供のように。


「行くぞ!」

 刀重郎は駆け出す。


 ただし、()()()

 今までは刀重郎に合わせてクロと水蛇で援護していた。


 しかし、今度は刀重郎一人だけであった。


「その程度が作戦なら拍子抜けだぞ!」

「ここからだ!」


 黒峰流の歩法により、隙を見せずに接近する。


「はぁっ!」

 魔術によって重さを増した刀によって薙ぎ払う。


「またそれか」

 天翳大神は片手で氷を生み出し、刀を防ぐ。

 氷の壁は砕けるが、本体には傷一つつかない。


「おっ、らぁっ‼︎」

「っ⁉︎」

 今までは一度防がれれば離脱するヒットアンドアウェイに徹していたが、今度は離れずに攻撃を続ける。


 刀を振る瞬間は重さを消し、接触する瞬間のみ、重さを増やす。

 刀重郎が本来の戦闘でよく使う攻撃方法であった。


「なるほど。守りを捨てて、攻めに転じたか」

 刀重郎の連撃を冷静に氷の壁を出し続けることで防ぐ天翳大神。

 しかし彼は気づいていなかった。

 刀重郎の援護を止めた二人の使役魔術師が何をしていたのかに。


「優奈、もっとだ!もっと魔力を溜めさせろ!」

「わかってるわ!クロ、もっとよ!」

「Gyau!」


 優奈と操蛇は天翳大神に痛手を与えるためにクロと水蛇に魔力を溜めさせていた。


 全力、いや、主の魔力も用い、全力以上の攻撃を放つために。



「はぁっ、はぁっ、おらぁっ!」

 刀重郎は二人が魔力を溜める時間を稼ぎために、息をつかせる暇を無い程に連撃を繰り返していた。


「疲れが見えるな。それ、隙ができたぞ」

 疲労によって連撃に隙間ができたのを見逃さず、天翳大神は拳を叩き込む。


「ぐうぁっ⁉︎」

 吹き飛ぶ刀重郎。しかし、二人は見向きもしない。


「よくやった刀重郎殿。おかげで間に合った!」

 とうとう天翳大神は気づいた。


 二匹の龍の魔力が限界まで高まり、臨界寸前になっていることに。


「クロ、【黒葬】!」

「水蛇、【鉄穿つ雨垂れ】!」

「「Gaaaaaa‼︎」」


「っ⁉︎」

 さしもの天翳大神と言えども、七大魔家の当主クラスの全力以上の攻撃を二つも放たれれば焦る。


「このぉっ!」

 全力で冷気を放出し、氷の壁を生み出す。


 黒い光線と蒼い砲弾は氷の壁を全て薙ぎ倒し、とうとう、本体に届いた。


爆発が起き、視界が黒に染まる。


「これなら……!」

 優奈が期待を滲ませた声を上げる。


 果たしてその期待は裏切られることとなった。


 煙の中から声がした。

「あぁ、あぁ、素晴らしい攻撃だ!」


 煙が晴れ、その姿が露わになる。


「危うく死ぬかと思った」

 その半身は消し飛び、無事な箇所も焼き爛れていた。


「死んで……ない⁉︎」

 通常であれば死んでいるような怪我だ。

 それでも天翳大神は平然と喋っていた。


「あぁ、余はこの程度では死なない」

 突如、天翳大神の体が再生し始める。


「なんと……!」

 操蛇ですら驚愕で動けなかった。

 己と、己と同じ程に実力があるであろう娘の同時攻撃。

 それを受けて尚死なず、再生し始めることに衝撃を受けざるをえなかった。


「今のが貴様たちの全力か?」

 体を再生し切った天翳大神が尋ねる。

 誰も、その質問に答えられない。


「なら、もう死ね」

「っ⁉︎」

「まずいっ⁉︎」

「え?」


 天翳大神は瞬時に優奈の元に現れる。

 操蛇と刀重郎は反応できたが、間に合わない。


 絶死の拳が優奈を襲う時、黒き影が閃いた。

「【切断(ディバイド)】!」

「ぐっ⁉︎」


 腕を切り飛ばされ、たまらず距離をとる天翳大神。


「黒峰……くん?」

 いつもと変わらぬ姿の彼。しかし、一つだけ違う点があった。


 その手には、いつも使っているナイフではなく、白い鞘に収められた、美しい刀が握られていた。


「さぁ、天翳大神。決着を着けるぞ」


 これより、新たな神話が始まる。

 


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