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第五十六話 神成り

術木萄越によって星詠が変化させられた姿、天翳大神(あまかげすおおかみ)の初手の一撃を防ぐごとに成功した。

 改めて思うが、軽く指差しただけで瞬きする間に凍りつくなんて、とんでもない魔術だ。

 俺がリスポーンできなければ、初手で終わっていただろう。


「あ……う」

 天翳大神が手を横に振る。


「‼︎全員、離れて‼︎」

 俺の号令により、全員がその場を離れる。


 次の瞬間、俺たちのいたところが凍りつき、氷の壁を形成していた。


「さっきもそうだったけど、大した労力もなしに、これほどの魔術を使うなんて……⁉︎」

 優奈さんが天翳大神の強さに戦慄している。

 口にしていないだけで、みんなも同じことを思っているだろう。


 攻略の鍵はおそらく祈闘家の秘奥だが、どうすればいいか……。

 ひとまず作戦会議をしたいところだが、そう簡単に逃してくれる相手ではないだろう。


 そんな思考をしていると、氷の壁が砕け、天翳大神が出てくる。


「こ……、こ……は?わた、し、は、誰……だ?」

「「「⁉︎」」」

 喋った⁉︎いや、星詠に魔獣を融合させて作られた存在なのだから、喋れても不思議ではないが、流石に驚いた。


「星詠殿ですか⁉︎私のことがわかりますか⁉︎」

 祈闘さんが叫ぶ。

 もしも、もしも星詠の人格が残っているのなら、逃げ出すくらいはどうにかならないか……⁉︎


「星……詠?」

 天翳大神は何かが引っかかっているような仕草をする。

 これはもしかすると本当に星詠の人格が……!


 小さな希望、淡い期待、しかしそれらは、儚く散ることとなる。


「否、余は天翳大神である」

 長い髪に覆われた真紅の瞳がこちらを見つめた。


 

 刀也が叫ぶ。

「っ⁉︎攻撃が来るぞ!退避しろ‼︎」


「凍止せよ」

 天翳大神が右手を突き出した。


 俺の魔眼で見ても尚、高速で迫り来る氷海。


 考えるよりも先に本能で体が動いた。

「あっ、あああっ‼︎【魔切断】‼︎」


 ナイフを振るう。

 進撃する蒼き死は眼前にてその勢いを止める。


 さっきよりも速くなってる⁉︎

 魔術の速度が上がったことといい、急に流暢に喋り出したことといい、まさか、今やっと馴染んだのか⁉︎


 作戦会議なんかしている場合じゃない!

 一瞬たりとも気を抜けば死ぬ!


「ふむ、先程もそうだが。貴様、余の術を止めているな?」

 天翳大神が俺を指差す。


 どうやら奴には星詠の記憶が完全に無いらしい。

 もしかすると未来視も無くなっているかもしれない。


 もし未来視が健在なら、完全に勝機は無かった。

 とはいえ、それは不幸中の幸い。

 今現在も勝機があるとは言えなかった。


「天翳大神……、でしたか?なぜ、あなたはこちらを襲うのですか?」

 祈闘さんが天翳大神に尋ねる。


「余を作り出した者の意図は知らぬが、少なくとも余自身は己が力を存分に振るいたいと思っておる。ちょうどそこに良い的がいた。それだけだ」


 力を振るいたい……か。

 満足すれば止まってくれるかもしれないが、奴が満足する前に甚大な被害が出るだろう。

 それだけは絶対に止めなくては……!


「さて、話は終わりか?ならば続けるぞ」

 ただでさえ大きかった天翳大神の魔力が膨れ上がる。


 まずい⁉︎でかいのが来る‼︎


 天翳大神がさらに大きな魔術を行使しようとした時、声が響いた。


「水蛇、【鉄穿つ雨垂れ】!」

「黒峰流、【割地斬】!」


 大きな水泡と巨大な黒い刀が天翳大神に襲いかかる。

 しかし奴は、幾重にも分厚い氷を張って攻撃を防ぎ切っていた。


「今の攻撃は……!」

 上空から二つの人影が降り立つ。


片や白のスーツを着た、オールバックの男性、片や黒い甚兵衛に身を包んだぼさぼさ髪の男性。


 魔使家当主、魔使操蛇と、刀也の父である、黒峰刀重郎であった。


「どうしてここに……!」

 俺は二人に尋ねる。


「大きな魔力の波動を感じてな、呪禍の時のこともある。ひとまず様子を見に来たのだ」

「俺も操蛇さんと同じ理由で来たんだ。神宮の前でちょうど出会ってな」


 二人の増援はありがたいが、大丈夫なのか?

 一応あれは元星詠だし、決議のルールに反するんじゃ……?


 俺の疑問に刀也が答える。

「いや、よく見ろ。奴の右手には候補者の印が無い。おそらく、変身した段階で死んだ判定になって消えたんだ」

 確かに、よく見ると天翳大神の右手には候補者の印は無かった。


 だから二人が助けに入るのも問題無いのか。

 とはいえ、それだけで勝てる相手なのだろうか?

 二人の実力は本物だ。とはいえ相手が悪すぎる。


 そうなればやはり……。


「祈闘さん!」

「なんですか⁉︎」

 俺は祈闘さんに呼びかける。


「祈闘さん、秘奥を使うことはできませんか?」

「秘奥……ですか……」

 祈闘さんは黙り込む。

 それはそうだ。祈闘さんは秘奥を発動できるとはいえ、体が反動に耐えられないらしく、秘奥を使いながらの戦闘はできないと言っていた。


 だがこの場で逆転の方法があるとすれば祈闘家の秘奥だけだ。

 魔使家の秘奥、【誓約】であれば可能性はあるが、今は俺とクロが優奈さんと契約しているため使えないだろう。


 何より、これは祈闘さんのルートなのだ。

 逆転の鍵は祈闘さんが握っているはず……!


「余を無視する気か?」

 天翳大神の声が響く。


 奴はまた手を軽く振るだけで冷たき死を振り撒く。

「クロ、【漆黒盾】!」

「水蛇、【氷白盾】!」

「「Gyau‼︎」」


 黒と白、二つの盾がみんなを守る。


「隙あり!」

「ちっ!」

 父さんが隙をついて攻撃を仕掛ける。


「無駄だ!」

 しかし、またもや氷の壁で父さんの攻撃を防ぐ。


 父さんは攻撃が通じないと見るやいなや、すぐさまこちらに戻ってくる。


「もしあいつに勝つ方法があるなら早くしろ!長くは持たないぞ!」

 父さんの口調が荒い、それだけ彼我の実力差が激しいということか。


「……手が無いわけではありません。しかし、それはかなりの賭けとなります」

「そんなの、1%でも可能性があるならやりますよ!」


 祈闘さんは深呼吸をした後に話す。

「ならば黒峰さん、あなたを我が家に案内します。ついてきてください」

「わかりました。みんなには足止めをお願いできますか?」

 ……正直、無理難題を言っているのはわかっている。

 あの化け物を相手に時間を稼いでくれなんて、勝つよりはマシとは言え、かなり厳しいだろう。


「わかった。いくらだって稼いでやるさ。だから安心して行ってこい」

「あぁ、黒峰殿の言う通りだ。我々をあまり舐めるな」

「そうよ!私だって仲間なんだから存分に頼りなさい!」

「みんな……!」

 

 俺とは違い、みんなは死ねばそこで終わりだ。

 それでも命を賭けてくれると言うのだからありがたいことこの上ない。

「では行きましょう」

「はい」

 俺と祈闘さんは祈闘家へと急いだ。






 祈闘家本邸

 他の七大魔家とは違い、祈闘家は三重県に本邸がある。

 前回のルートで祈闘さんが死んだ時、一度だけ訪れたことがある。


「それで祈闘さん、祈闘家の秘奥はどんなものなんですか?」

 祈闘家に着き、その後も祈闘さんはどこかを目指しているので、道すがら秘奥について聞くこととした。


「祈闘家の秘奥は一言で言えば『強化』です」

「『強化』?」

 これまたずいぶんとシンプルだ。


「祈闘家の秘奥は強き祈りと多くの修行の果てに目覚める魔術。その魔術は己の存在の()を上げて、絶大な力を得ることができます」

 格を上げる。いまいちどういうことがわからないが、強くなれるということはわかった。


 ですが、と祈闘さんは続ける。

「ですが、その力には代償があります。いくら己の存在の()を上げようと、鍛錬が足りなければ体は持ちません。あくまで秘奥が目覚めるのは資格を得たが故で、使いこなせるかどうかは本人の才能や努力によります」

 なるほど、これが祈闘さんの言っていた、「体が持たない」の意味か。


「私では体が持たない。ですが、私よりも丈夫な体を持ち、さらに再生能力すらも持つ者であれば?」

 祈闘さんが蔵のような建物の前で立ち止まる。


「秘奥魔術の名は【成神祈祷(じょうしんきとう)】」

 祈闘さんがこちらを振り返り、真っ直ぐに見つめる。


「私があなたを神にします」

 

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