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第五十二話 特異点

翌日、今日も俺は、父さんと祈闘さんに修行をつけてもらう。

 星詠との戦いまで残りわずかとなった。

 できる限り力をつけなくては……!


 父さんと手合わせをして少しした後に祈闘さんが到着する。

 さて、前回と同じならそろそろ星詠が来る頃の筈だが。

 ……そもそも星詠はうちに来るのか?

 前回はうちに優奈さんがいたから来たかもしれないが、今は優奈さんは屋敷に戻っている。

 

 まぁ、祈闘さんがいるから来る可能性は高そうだが。


 その時、刀也が呟いた。

「来たぞ」

「あぁ、俺も感じたよ」

 相変わらずとてつもない魔力だ。


「誰だ⁉︎」

 父さんが叫ぶ。


「貴様は初めましてだが、そっちは知っているはずだ。なぁ、祈闘守杜」

「あなたは……⁉︎」

 白い狩衣に身を包み、星空のような不思議な髪をした男。

 星詠家当主、星詠未来だ。


「どうやって入ってきた?」

 父さんが星詠に尋ねる。

 

「別に、気づかれないタイミングで入って来ただけだ。どうということはない」


 気づかれないタイミング……か。

 今ならば奴が未来を見て、気づかれないルート、およびタイミングで侵入してきたのだとわかる。


「俺の名は星詠未来。星詠家の当主にして、決議の候補者の一人だ」

 星詠は自己紹介をするが、俺も祈闘さんも星詠のことは知っているため、特に驚きはしない。


「わかってはいたが、反応が薄いな。祈闘から聞いていたのか?」


 俺は気になったことを星詠に質問する。

「何をしに……。いや、何故ここに来た」

 未来が見える奴ならば、祈闘さんがここに来ることも知っていたかもしれないが、それにしたってここに来る理由は謎だ。

 別に優奈さんの方に行ってもいいのだから。


「お前がいるからだ。黒峰刀也」

「俺?」

 星詠の意外な答えに俺は頓狂な声を出してしまう。

 

 てっきり、祈闘さんがいるからだと思っていたから、この答えは予想外だった。

 よしんば、俺がいることが理由だとしても、それはあくまで祈闘さんがいることに加えて、という理由だと思っていたが、俺が目的とは何故だろうか?


「お前だ。お前が決議に参加してから、未来が変わりだした。死ぬはずの者が生き、死なないはずの者が死ぬようになった。今まで、俺自身が行動しない限り未来は変わらなかった。……お前は何者だ?」


 何者だ……か。

 さて、なんと答えるべきか。

 転生者はさすがに言えないし、黒峰刀也も本当は違うしなぁ。……かといって優奈さんの使い魔なんて答えるのも何か違う。


 そうなると後は……。


 一瞬の思考。しかし、その一瞬の合間にいくつもの考えが浮かんでは消える。


 俺は答えを決め、星詠に答えを聞かせるべく口を開く。


「俺は、お前を倒す者だ」

「……ほう?」

 殺すのではない。ただ倒す。あるいは勝つ。

 死にたくないと願うが故に強さを追い求める星詠は、本来であれば分かり合えるはずだった。


 前回、星詠の本音を知ったのは星詠みが死ぬ直前だった。

 だが、今ならまだ間に合う。

 そのために俺は戦う。


「いいだろう。戦いは一週間後、伊勢神宮の前でやるとしよう。魔使の娘にも伝えておけよ」

 星詠が帰りだす。今回はずいぶんと大人しいな。


 

 星詠が帰り、皆が一息つく。

「黒峰さん、よく星詠殿相手にあんな啖呵を切れましたね」

 祈闘さんは星詠の強さを知っているが故に生きた心地がしなかったのだろう。


「それにしても、星詠殿が言っていた、黒峰さんが決議に参加したことで、未来が変わりだしたというのはどういうことでしょう?」

「う〜ん。ちょっと心当たりは無いですね」

 本当は心当たりどころか、リスポーン(理由)も知っているのだが、今言っても混乱するだけだろう。


 それよりも今は決戦まで少しでも強くならなければ。

「言葉の意味を考えても仕方ありませんし、まずは魔使さんも呼んで作戦会議をしませんか?」

「……それもそうですね。そうするとしましょう」




 それから少し時間が経ち、優奈さんと操蛇さんが来て作戦会議を始めた。


「まずは星詠家の魔術の説明からだな」

 そう言って操蛇さんが星詠家の魔術の説明をしだした。

 もちろん俺は星詠の魔術を知っているが、改めて聞いてもかなり厄介だ。


 特に、星詠未来は未来視の魔眼を持っている。

 魔力量も多く、【遠見】の魔術を改造して行われる隕石及び、スペースデブリの召喚は直撃すれば確実に死ぬ。


 正直、前回もよく勝てたものだと思う。

 魔使家の秘奥【誓約】による強化がなければ、勝てはしなかっただろう。


 ナビ子が言っていたように、今回も攻略法があるのだろうが、いったい何なのか……。


 心当たりはあるが、うまくいく保証は無いし、今ある戦力で星詠に勝つ方法を考えなければ……。


 その後も作戦会議は続き、俺も刀也も案を巡らせ続けた。



 

「黒峰さん、少しいいですか」

「はい、なんでしょう?」

 作戦会議がひと段落ついた時、祈闘さんから話しかけられた。

 前回のこのタイミングは操蛇さんに話しかけられたが、今回は祈闘さんに話しかけられた。

 これはいわゆるルート分岐だろうか?


 ともかく、祈闘さんと裏庭で話をすることにした。



「それで祈闘さん、話ってなんでしょう?」

「次の戦いが最後になりますし、その前に黒峰さんに感謝を伝えておきたかったんです」

「感謝?」

 何か感謝されるようなことをしただろうか?


「私は、父が死に、若くして祈闘家を継ぎました。努力はしていますが、まだまだ自分が未熟なのも分かっています。だから、ずっと自信が持てなかったんです」

「祈闘さん……」

 

祈闘さんはずっと偉大な先代(父親)と比べられ続けて、周囲からの重圧に耐え続けてきたのだろう。

 誰よりも父親と自分の差を知りながら、周りからの期待に応えるために努力をし続ける。

 ……しかし、決して父親に追いつくことはできない。


 それはどれほど苦しかっただろう。

 それはどれほど悔しかっただろう。


 俺にはわからない。それは祈闘さんにしかわからないことだから。


「ですが」

 なんと声をかけようか迷っていると祈闘さんが続きを話しだす。


「あなたと出会ってから少しづつ自信が持てるようになってきたんです」

 祈闘さんが俺のことを見つめる。

 真剣な眼差しで、ただ真っ直ぐと。


「祈闘家当主としての仕事や修行などで、友達なんかできたことがなかった。どれだけの鍛錬を積んでも、どれだけの魔獣を倒しても、周りも、私も、私のことを当主として認められなかった」

 今際の際にすら祈闘家のことを案じた祈闘さんのことだ。

 誰よりも自分のことが認められなかったのだろう。

 

「けれど、あなたと出会って、あなたと共に戦って、あなたと共に高め合う中で、私は少しづづ、自分のことを当主として認められるようになってきたんです。あなたと共に戦ったから、父のライバルであった呪禍殿のことも乗り越えられた。私は、あなたに出会えて本当によかった」

「あ……」


 声が漏れる。

 頭の中を前回の祈闘さんの最期が過った。

 前回の彼女からはここまでの事情はわからなかった。

 それでも、もしも、今の彼女と前回の彼女が同じ気持ちだったなら。

 どれほど……、どれほど救われることだろう。


「……それなら、よかったです」


 困ったな……。祈闘さんの顔がぼやけてよく見えない。


「これで話は終わりです。お互い頑張りましょう!」

「はい」


 今度こそ全員揃ってエンディングを迎える。

 改めて俺は、そう、強く決意した。

 

 

 

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