表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/67

第五十一話 秘奥

「よし、準備完了。行くか!」

 四元との戦いから四日が経った。

 俺は少しばかり早起きをして、道場へ修行に出る。

 2週目に入ってから、すでに何度か父さんから指南を受けていた。


 一度裏庭に出て、道場へと入る。

「父さん、来たぞ」

「おっ、準備できたか。それじゃ、始めるか」


 まずはウォーミングアップがてら技の確認をする。

 父さんは普通の木刀、俺は木でできた短刀を使って試合をする。


「それじゃあ、打ってこい!」

「わかった。はぁっ!」

 まずはこちらから打ち込む。

 移動はもちろん、黒峰流の歩行術を使う。


 緩急をつけた動きで残像を見せながら瞬時に近づいていく。

「黒峰流、【蛇行舞】!」

 俺は父さんの背後をとる。

 よし、行ける!


「おっと、危ない」

「なっ⁉︎」

 俺が父さんの首に打ち込もうとすると、父さんは見もせずに短刀を受けた。


「動きはいいが、殺気がバレバレだぞ!」

「くっ!」

 受けられてしまったので一旦距離をとる。

 次は……。


「今度はこっちの番だ」

 父さんが一歩踏み出す。

 次の瞬間、すでに目の前まで迫っていた。


「なっ⁉︎」

「黒峰流、【身寄せ】だ!」


 父さんが大上段で木刀を構える。

 あれはまずいっ⁉︎


「受けれるか⁉︎黒峰流、【割地斬】!」

 木刀が迫ってくる。普通に受けようとすれば、短刀は叩き折れるだろう。

 ……ならば!


「【祈闘神楽・須佐男ノ祓い】!」

 体全体の力を使い、全力で回転する。


 そのエネルギーをもって、なんとか父さんの攻撃を弾くことに成功する。


「うおっ!」

「隙あり!」

 父さんの体勢が大きく崩れた隙に、その喉元に短刀を突きつける。


「勝負あり、だな」

 俺も父さんも武器を下ろす。


「いやぁ、負けた、負けた!最近の若い者には敵わんなぁ!」

 よく言うよ。つい最近まで、俺は父さんに勝てなかった。


 勝てるようになったのは祈闘神楽を習得したことと、一週目を含めて、俺の経験値が積み上がってきたからだ。


 それに、この試合はどちらも魔術を使っていない。

 もしも魔術を解禁すれば、勝敗はどうなるかわからない。


「よし、まずは試合の反省会をするか」

「二人ともー!祈闘ちゃんが来たわよー!」

 父さんが試合の反省会を始めようとした時、姉さんが祈闘さんの来訪を告げる。


「お邪魔します」

 いつも通り、巫女の格好をした祈闘さんが道場に入ってくる。


「祈闘さん、今日もよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 黒峰流は父さん、祈闘神楽は祈闘さんから学ぶことで、俺は日々修行をしていた。


 最初は二人、別々に修行をつけてもらっていたのだが、どうせ修行するなら、と、二人一緒に修行をつけてもらうこととなった。


 以来、黒峰流と祈闘神楽の交流も行われて、融合技の開発も進んでいた。


「それにしてもまさか、祈闘家の次期当主と共に息子に修行をつけることになるとは思わなかったよ」

 修行の合間の休憩中に父さんが話しだした。


「昔、祈闘家の先代と少しばかり交流したけど、すごい人だったよ。祈闘ちゃんを見てると確かにその血が流れているとわかる」

 先代……、確か名前は祈闘命で、祈闘さんのお父さんだったか。


「ていうか、父さん、祈闘さんのお父さんと交流があったのか⁉︎」

 いまさらっと衝撃の事実が判明しなかったか⁉︎


「あぁ、10年前の決議で少しな。おまけにお前が決議の流れ弾をくらったものだからそこでも祈闘家と色々あったんだよ」

 あーなるほど、祈闘さんが呪禍との戦いの時に、黒峰家について聞いたことがあると言っていた。


 それが、10年前の決議より前のことからなら、決議にあたって何かしらの協力を仰いでいてもおかしくない……のか?


 まぁ、大きくは刀也が決議に巻き込まれたことからだろう。

「……あの時は本当にいろんなところに迷惑をかけたからな……」

 刀也が一人黄昏ている。

 小さな頃とはいえ、魔術を使えるようになって調子に乗った結果、死にかけた。いや、実際に死んだのだから、本人としては黒歴史なのだろう。


「あなた程の魔術師から見ても父はすごい人だったのですね……」

 どうしたのだろう?祈闘さんが少し元気がないような……。


「そりゃあ、彼の力は本物だったからね。10年前の決議では優勝争いをしてた程だったと言うし、私も彼ならば優勝できたのではないかと思っていたよ」

「そう、……ですね……」

 やっぱり祈闘さんに元気がないように思う。

 よし、ここは思いきって聞いてみるか!


「祈闘さ……」

「それじゃあ、修行を再開しようか!」

 俺の言葉は父さんによって遮られた。

 仕方ない、帰りに祈闘さんに聞くとしよう。



 今日の修行が終わり、祈闘さんが帰ろうとする。

 聞くなら今しかない……!


「あの、祈闘さん!」

「?何でしょう?」


 祈闘さんは不思議そうに振り返る。

「今日の祈闘さん、お父さんの話をしてから元気が無いように思えて……。それで、どうしたのかなって」


 祈闘さんは悲しげな笑みを浮かべてから答えた。

「やっぱり、気づかれちゃいましたか」


「……黒峰さんは秘奥について知っているんですよね」

「?はい、七大魔家に伝わるそれぞれの家の魔術の奥義ですよね?」

 何故今、その話をするのだろう?


「七大魔家の当主はその家で最も優れた魔術師がなります。ですから当然、当主は秘奥を習得しています」

 ふむ、その家で最も優れた魔術師が当主になるため、当主は当然、秘奥を習得している。当然の話だな。


「ですが、私は秘奥を習得できていないのです。……いえ、発動はできているのですが、魔術の負荷に私の体が耐えられない」

 祈闘家の秘奥。どんなものかは知らないが、祈闘さんの体が耐えられないとはかなりリスクのある魔術なのだろうか?


「父は秘奥を使いながら一日中戦うことができたというのに、私は十分も発動していれば限界がきます。だから、父の優秀さを聞くたびに私の弱さが嫌になるんです」

 そう言って祈闘さんは自虐的な笑みを浮かべる。

 

 祈闘さんの言う通り、祈闘さんはまだ、未熟なのかもしれない。

 でも、それでも……!

「そんな、悲しいことを言わないでください」

「え?」

 俺は、祈闘さんのお父さんがどれくらいすごい人なのかはわからない。


「あなたは、俺たちのことをずっと助けてくれているでしょう⁉︎」

 だけど、祈闘さんのお父さんがどれだけすごい人なのだとしても、今の俺たちを助けてくれているのは紛れもない祈闘さんなのだ。


「そんなあなたが、自分で自分のことを卑下しないでください!俺たちは、あなたに感謝しているんです!」

「黒峰さん……」

 今までずっと共に戦ってきた。一度は命さえ救われた。

 そんな人が自分で自分を卑下するのを見るのは耐えられない。


「もしも、俺に何かできることがあれば、何でもしますから、もうそんなことは言わないでください」

「……わかりました。もう、自分を卑下するのは辞めます。私は私の速度で進んでいくことにします」

 ただ思ったことを口にしただけだが、なんとか祈闘さんを慰めることができたようだ。


「それでは、さようなら」

「さようなら」

 祈闘さんが歩きだす。

 しかし、少し歩いた後、急に立ち止まってこちらに戻ってくる。


「最後に一つだけ、言っておきますね」

「?何ですか?」


 祈闘さんがいきなり顔を近づけてくる。

「そう気軽に『なんでもします』なんて言ったら本気にしちゃいますよ?」

「それって、どういう……?」

「では、さようなら!」

「あ、ちょっと!」

 祈闘さんは笑顔で帰っていく。

 結局、さっきの言葉の意味には答えてくれなかった。


 気のせいか顔が熱い気がする。

「なぁ、刀也」

「なんだ」

「今のってどういう意味かな?」

「……まぁ、順調に攻略が進んでいるということじゃないか?」


 俺はしばらくその場を動くことができなかった。

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ