第四十八話 長たる所以
「まずは一発!」
四元が右手を突き出し、構える。
「その属性は炎、その形を矢に限じ、我が敵を撃て!」
来る!
「【火矢】!」
合計20本ほどの炎の矢がこちらを目掛けて飛んでくる。
「はぁっ!」「せいっ!」
俺と祈闘さんで全ての矢を払いきる。
「さすがだな!」「次はこっちの番だ!」
俺たちは四元の元へと駆け出す。
ただ突っ込むだけでは前回と同じく、壁に阻まれ止まるだろう。しかし今、俺の影の中にはクロを潜ませている。
たとえ俺たちが止められても、クロが奇襲する!
しかし、俺たちの計画は四元の放った一言で瓦解する。
「気づいていないとでも思ったか?」
「「「っ⁉︎」」」
まずい、気づかれていた!いやしかし、ここで止まるわけには……!
「我が魔術にはこんな使い方もある。【疾風速】!」
四元が駆け出す。よく見ると足元に風を起こし、加速している。その速度はかなり速く、まるで一陣の風のようであった。
「ぐっ⁉︎」
四元が一瞬にして目の前まで近づく。
俺は咄嗟にナイフを振るうが、避けられる。
このままでは無防備で四元の攻撃を喰らってしまう。かくなる上は……!
「クロ!」
俺は仲間の名を呼ぶ。
「Gyaaooo!」
クロが俺の影から飛び出し、四元に襲いかかる。
「まとめて喰らうがいい!【魔砲・赤】!」
飛び出してきたクロと俺が一直線上になるように四元は両手を構える。
四元の両手からは赤く輝く光の奔流が流れ出した。
「ぐぁっ⁉︎」
爆発が起き、俺とクロは吹き飛ばされる。
「黒峰さん!」
「仲間の心配をしている場合か?」
「っ⁉︎」
吹き飛ばされた俺へ祈闘さんが心配の声を上げる。
しかし、その隙を四元は見逃さない。
「その属性は土、その形を棘へと限じ、我が敵を貫け!」
四元が地面に手を置く、すると、地面が隆起しだす。
「【土連棘】!」
「がっ⁉︎」
祈闘さんは迎撃しようとするが、いくつかの棘が体に刺さってしまう。
「……どちらも殺す気で放ったが、ピンピンしているとは……、さすがと言うべきか」
立ち上がった俺たちを見て四元が言った。
しかし、こちらとしても前回より戦力が増えているはずなのに、押されているなんて信じられなかった。
「四元家の魔術には詠唱が必要なはず……。さっきのはいったい……?」
優奈さんが疑問を口に出す。
そうだ、さっき俺とクロが喰らった、あの【魔砲】とかいう技は俺も知らない魔術だ。
四元家の魔術は基本的に詠唱が必要だった。
一応詠唱しなくとも魔術を使えるようだが、威力的にも、速度的にも、詠唱をした方が強いはずだ。
それなのに、あの魔術は詠唱せずに十分な威力を持っていた。
どういうカラクリだ……?
「不思議に思っているな。まぁいいだろう、教えてやる。今の魔術は【魔砲】。魔力に属性だけを付与し、放つ魔術だ。詠唱が不要なのはいいが、いかんせん魔力消費が激しくてな。速攻で決める時にしか使えないんだ」
なるほど、前回は長期戦を見越していたため、あるいは油断していたために、使わなかったということか。
少々厄介だ。あの魔術は【魔切断】で切れないことはないが、ほとんど魔力の塊をそのまま撃っているだけだから、少しは威力を削げるだろうが、消すことはできないだろう。
ならば……!
俺はあらためて構える。
遡ること2日前
「技の融合、ですか?」
俺は祈闘さんにある提案をしていた。
「はい、俺の黒峰流と祈闘神楽。二つを掛け合わせた技を考えているんです」
四元との戦いまであまり時間はないが、少しでも手札が欲しい。
そのため、案の一つとして黒峰流と祈闘神楽の融合技を考えていた。
「う〜ん、そうですねぇ。下手に合わせようとすると付け焼き刃以下のものになりかねないのですが……」
祈闘さんはひとしきり唸った後口を開いた。
「いきなり技と技を掛け合わせるのは危険ですし、まずは歩法と技を合わせるのはどうでしょう?」
「わかりました。そうしてみます」
現在
まずは仕掛けだ!
俺は駆け出す。
「来るかっ!だが遅い!」
四元は【疾風速】で加速して、一瞬にして距離を詰める。
「見えてるぞ!四元!祈闘神楽【木花舞】!」
祈闘神楽の一つ、桜の花びらが如く、瞬時に五連撃を撃ち込む技だ。
「ぐっ⁉︎」
切れたっ!が、浅い!
ギリギリで引かれたか!
「このぉっ!」
四元が距離をとり、詠唱を始める。
「その属性は炎!その形を槍へと限じ、我が敵を貫け!【火槍】!」
4メートルはある大きな炎の槍が出現する。
しかし、すでに手遅れであった。
俺はすでに駆け出している。
構えとしては先程放った【木花舞】と同じ。しかし、この技は黒峰流の歩法を合わせたことで、幻惑の妙技と化した。
黒峰流の歩法と、祈闘神楽を合わせた新技、その名も――
「合技、【桜花・散斬】」
傍目にはゆったりと、しかし高速で五度の斬撃が叩き込まれる。
決まった!かなり深く入った。これならもう四元も……。
俺は振り返る。
四元は今まさに倒れ――
「まだだっ‼︎」
ない!血を吐きながらも確かに己の足で踏みとどまる。
「私たちだっています!」「Gyau!」
そこに祈闘さんとクロが追撃を仕掛ける。
「舐める、なぁっ!【魔砲・赤】!」
「きゃあっ⁉︎」「Gruaa⁉︎」
四元は【魔砲】によって二人を吹き飛ばす。
「私は!第99代目魔術長、四元学人!仮と言えども矜持は本物!その力を刮目して見よ!」
四元の魔力が跳ね上がる。
まずい!大きな魔術を使う気だ!
もしも秘奥ならかなりまずい!
俺は駆け出す。
「その属性は炎と風、風は火を喰らい、焼け荒ぶ嵐となる!」
しかし、一歩、四元の詠唱の方が速かった。
「【炎嵐】!」
赤が視界いっぱいに広がった。
「ぐっ⁉︎」
熱い、いくらか飛火したようだ。
俺は転がることで消火する。
まずいな、いくらこの体が再生するとはいえ、あの炎の壁を越えようものなら、すぐさま焼け死ぬだろう。
このままでは手が出せない。
いや、まて――
「そうだ、クロの【黒葬】なら……!」
俺はクロと優奈さんに【黒葬】をお願いしようとする。
その時、炎の奥から声が聞こえた。
「その属性は土、大地を曲げ、槍へと化して、我が敵を貫け【地割槍棘】」
あたり一帯の地面に亀裂が走る。
俺は全力で叫ぶ。
「全員、跳べぇっー‼︎」
亀裂に気づいたみんなが跳び上がる。
次の瞬間、大地は裂け、槍のように変化し、突き上がる。
立て続けにこれほどの魔術を……!
一歩跳び上がるのが遅かったら全滅していた……!
俺たちは着地時に槍を破壊し、どうにか無事に着地する。
炎の嵐はすでに消えていた。
「これでもダメだったか」
四元が残念そうに呟く。
「諦めてくれるか?」
ないとは思うが、一応降伏を促す。
「諦める気がないと分かりながら聞くのか?悪いが、これでも命をかけてこの戦いに臨んでいる。諦める気は毛頭無い」
四元の体はすでにぼろぼろだ。
こちらが押している……、はずなのだが、四元から溢れ出る圧力は、追い詰められている者のそれではなかった。
暫定と言えど、魔術長に選ばれるには理由がある。
それを、俺は今、実感していた。
強さだけなら他にも候補はいたかもしれない。
しかし、彼はそれだけではない。
執着が故でも、プライドが故でもない。
ただ純粋な、名誉への、勝ちへの拘りが、彼を魔術師の長たらしめていた。
こんな場で出会いながらも、尊敬できる人だと感じた。
できれば殺したくはない。
しかし、彼を相手にほんの一時油断すれば、即座にこちらが負けるだろう。
故に、こちらも、油断はしない。
「決着を付けよう」
俺は一言そう告げる。
こちらは多少余裕があるとはいえ、かなり消耗している。
そして、四元は魔力こそまだ余裕はありそうだが、傷が深いはずだ。
おそらく、決着の瞬間は近い。
その場にいる全員がそう感じていた。




