第四十六話 果たされた約束、そしてデジャブ
呪禍との戦いの翌日、俺は出かける用意をしていた。
この日、俺はとうとう刀也に言いたかったことを言うことにした。
「なぁ、刀也。一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「なんでお前は制服しか持っていないんだよ!」
俺はクローゼットの中の大量の制服を睨みながら叫んでいた。
俺はクローゼットの隅から隅まで見渡す。
しかし、そこには真っ黒な学ランしか存在しない。
いや、一応パジャマであれば制服でない服もあるが、外に来ていける服は制服しかなかった。
俺自身オシャレに無頓着だが、さすがにこれはまずいとわかる。
俺の問いに刀也が答えた。
「だって制服は便利だろう?」
「は?」
刀也が言葉の意味を説明する。
「正直、服なんで着られればなんでもいいが、制服ならオシャレかどうかとか関係ないし、フォーマルな服としても扱える。おまけに丈夫だ。そう考えれば制服以外の服はいらないだろう?」
刀也の衝撃の回答に俺は頭を抱えた。
そんなっ、わけがっ、ないだろっ!
百歩譲って制服は便利だと認めても、普段着として扱うバカがどこにいる⁉︎
「し、しかしだな……」
そもそも、一年中学ランとか正気か⁉︎夏とか熱がこもって死ぬだろ⁉︎
「あぁ、それなら問題無いぞ。この体は暑さとかはあまり感じないからな」
「え?」
刀也が説明する。
「この体は半分死んでいるようなものだからな。一応感じはするが、ほとんどの感覚は常人の半分程度しか感じないぞ」
そういえば日差しが暖かそうな日に制服を着ていてもあまり暑さは感じなかったが、あれはそういうことだったのか⁉︎
ふと時計を見ると時間が迫っていた。
「くそっ!仕方がないか。制服で行くとしよう」
俺は準備を整えて出かけることにした。
「それじゃあ、行ってくる」
目的地は学校、今日は百合が言っていた陸上の記録会がある日だ。
しばらくして学校に着いた。
グラウンドでは記録会の準備がなされている。
俺がグラウンドの端で眺めていると一人の少女がこちらに気づき近いてくる。
「あ、先輩!来てくれたんですね!」
黒髪、褐色肌の少女、黒木百合だ。
今日は記録会に参加するので部活のユニフォームを着ている。
「今日は楽しみにしていてくださいね!なんてったって私、期待の新人って呼ばれてますから!」
百合は胸を張って宣言する。
どうやらかなり自信があるらしい。
「百合は魔術師ではないが運動神経が良くてな、昔からかなり速い」
刀也も百合の身体能力を褒めている。
なるほど、これは楽しいだな。
「それじゃあ私は準備があるので、さよならっす」
そう言って百合はグラウンドに戻って行った。
いまさらだが、百合は俺が制服を着ていることになんの疑問も抱いていなかった。
長い付き合いの百合からすればいつものことというわけか。
少ししてとうとう記録会が始まった。
周りを見ると何人かの人が見にきていた。
今日はあくまで私用なので祈闘さんも優奈さんもいない。
そういえば、前回では一人で博物館へ行って、四元学人と出会ったんだっけ。
改めて周りを見渡すが、それらしい人影は見当たらない。
どうして前回では居場所がバレていたんだろう?
疑問に思うが、答えは見つからないので、ひとまず頭の片隅に置いておくことにする。
「おい、そろそろだ」
闘也の言葉でじきに百合の出番だと知る。
百合の出る競技は短距離走100メートル、風はほぼ無風なので、それなりの好条件だと言えるだろう。
「セット!」
審判の掛け声で走者が一斉に腰を上げる。
電子ピストルの音が鳴り響き、全員が一斉に走りだす。
6人の走者の内一人が抜き出ている。百合だ。
他の走者全員を置き去りにして百合がトップでゴールする。
ストップウォッチで測ったわけではないので定かではないが、11秒くらいでゴールしていた。
他の走者を置き去りにしていたことからもかなり速いことが伺える。
「さすがだな」
俺は思わず称賛の声がもらす。
「そうだろう。百合はすごいんだ」
なんで刀也が得意げなんだ……。
何故か得意げな刀也に呆れていたその時、不意に声をかけられた。
「先程からずっとあの子を見ているが、知り合いかい?」
「え?えぇまぁ……っ!」
振り向いたその先には、シルバーのベストに黒のスーツを着ている眼鏡をかけた男がいた。
「お前……は……!」
見間違うはずがない。
暫定ながら、現代魔術長にして、前回での戦いでは祈闘さんが犠牲になったことでようやく勝てた相手――
「初めまして、黒峰刀也。私の名前は四元学人だ」
どうしてここにいる⁉︎いや、前回も何故か俺の居場所を知っていた。どういう方法かは知らないが、あちらにはこっちの居場所を知る手段があるのだろう。
「まぁそう怖い顔をするな。今日は事を構える気は無い。それは君も同じだろう?」
……、やはり前回と同じく、今日は宣戦布告をしにきただけか。
ここにいるのは俺だけ、さらに一般人も多くいるここでは戦うべきではない、か。
「それで、何の用だ」
「あぁ、今日は宣戦布告をしに来たんだ。魔使優奈や祈闘守杜の方に行ってもよかったんだが個人的に君の興味があってね」
俺に興味?もしかして、前回も俺の元に来たのはそういうことか?
「私は候補者の一人でね。2日後、私と戦おうじゃないか。戦いの場所はここに書いてある」
四元が一枚の紙を手渡してくる。前回と同じ場所だ。
「当然だが、魔使優奈や祈闘守杜も連れてきてくれ。そちらが本命だからな」
四元が去ろうとする。
そんな四元に俺は一つ質問をする。
「四元、お前の周りには、お前の魔術を貶す奴しかいなかったのか?」
四元は自身の家の魔術を貶す連中に認めさせるために本当の意味で魔術長になると言っていた。
家を貶す者たち全てを消してしまいかねない思想故に衝突するしかなかったが、もしも、もしも四元の周りにもっと四元家を認める人がいれば、戦わずにすんだのではないか、そう思うが故にこの質問をした。
四元が立ち止まる。
「何故、それを知っている」
「っ⁉︎」
四元の魔力が膨れ上がる。
とてつもない魔力量。まさに魔術長に相応しい。
しかし、その圧倒的な魔力はすぐに収まる。
「いや、どうでもいいことだ。おおかた、祈闘守杜か魔使操蛇に聞いたのだろう?言っておくが、その程度の揺さぶりで私は止まらんよ。むしろ、我が家を認めてもくれた者たちに報いるためにも、私は真の意味で魔術長になり、愚かな者どもを粛清する」
四元が再び歩きだす。
「止めたければ戦いに来い。……待っているぞ」
こうして四元は去っていった。
俺が呼吸を整えていると百合が駆け寄ってくる。
「先輩!さっきなんかゾワッとしたんすけど、先輩は大丈夫ですか?」
おそらく四元が魔力を放った時のことだろう。
「あぁ、大丈夫だ。問題無い。それよりも、とても速かったな」
「へへっ!ありがとうございます。先輩が見てくれているって考えたら力が出ました!」
「それじゃあ、俺は用事があるからもう行くよ」
「そうですか。それじゃあ、先輩、さようなら」
「あぁ、さようなら」
俺も家へと帰りだす。
刀也が俺に語りかける。
「今度こそ犠牲は出させるなよ」
「あぁ、わかってる」
あの日の思いを絶対に忘れない。
2週目に入った時の誓いを忘れない。
もう、誰も死なせやしない




