第四十五話 星割り
父さんが腰に下げていた刀を抜く。
しかし、その刀には鍔から先が無かった。
あれでどうやって戦うんだ?
俺が疑問に思っていると刀也が答える。
「俺もあくまで話に聞いただけだが、父さんは魔術で刀を作り出し、その刀を振るって戦うらしい」
刀也の言う通り、父さんが魔術によって刀身を作り出す。
「生まれろ、【黒刀・星雲】」
父さんの刀から黒いモヤが生まれる。
モヤはやや不定形であるが、刀のような形をしている。
父さんは迫り来る大量の魔獣を前にして言う。
「さて、道を開けてもらうぞ」
父さんが飛び上がる。
刀也がさらに解説を続ける。
「モヤのような刀身は宇宙であり、どこまでも広がる」
「広がれ、星雲!」
モヤのような刀が瞬時に巨大化する。
刀身だけではあるが、その大きさは20メートルは超えていそうだった。
「黒峰流!」
「そして、星を内包するその刀身は、どこまでも重くなる」
父さんが巨大化した刀を振るう。
「【割地斬】‼︎」
彗星の如き一撃が魔獣たちを襲う。
刀によって魔獣たちは押し潰される。
「星の如き重さの刀を振るうその姿から、父さんは『星割り』と呼ばれたらしい」
「これが、『星割り』……!」
圧倒的なその破壊力に俺は言葉を失う。
「やはり、そうでしたか」
祈闘さんが突然呟いた。
「何がですか?」
「祈闘家は近畿エリアの管轄ですからね。黒峰という魔術師一族は知っていました。そして、『星割り』と呼ばれた強力な魔術師がいるとも。……まぁ、まさか黒峰さんのお父様とは思いませんでしたが」
「よしてくれ、所詮は七大魔家には劣る一般の魔術師さ」
これだけのことをして父さんは謙遜している。
確かな実力がなければ操蛇さんだってここに連れてこないだろうに。
ともかく、かなり先まで道が開けた。今の内だ!
「よし!全員、急いで進むぞ!」
操蛇さんの掛け声で俺たちは一切に進みだす。
しばらく走り、俺たちはもうすぐ山を出られるところまで来た。
しかし、またしても大量の魔獣に阻まれる。
「くそっ!またかよ⁉︎どれだけいるんだ⁉︎」
あまりの魔獣の多さに、俺はつい愚痴をもらす。
「ここを抜ければ終いだ。合わせろ優奈」
「っ!はい!」
操蛇さんと優奈さんがそれぞれの使い魔と共に一歩前へ出る。
「魔力を溜めろ!」「全力でいくわよ!」
「「Gruaaa!」」
主の命令にそれぞれの使い魔が応える。
大きな魔力が収束し、魔獣へと狙いがつけられる。
「【鉄穿つ雨垂れ】!」「【黒葬】!」
「「Gaaaaaaa‼︎」」
蒼き水球と黒き光線が魔獣の群れを目掛けて飛んでいく。
水球と光線は魔獣に着弾し、大きな爆発を起こす!
爆風が吹き荒れ、魔獣は消し飛ぶ。
「これで最後だ!駆け抜けろ!」
「はい!」
こうして、俺たちは無事に脱出することができた。
「操蛇さん、父さん、助けに来てくれて本当にありがとうございました」
「私も、まさか本当に助けを呼ばれることになるとは思わなんだがな」
「父親が子供を助けるのは当然だろう?ねぇ、操蛇さん」
そう言えば、操蛇さんが父さんを手伝いに呼んだことといい、父さんの話しかけ方といい、二人の距離が近い気がする。
「そう言えば、どうして操蛇さんは父さんを手伝いに呼んだんですか?」
「ん?あぁ、初めて君の家に訪れた時に黒峰殿の気配が強者のそれだったものでな。調べたら歴戦の猛者だということで何度か話をしたのだ」
俺の知らない内にそんなことが……!
「まさかこの二人が仲良くなるとはな」
刀也からしても意外だったらしい。
「それじゃあ、帰るとするか!」
俺たちの二度目の呪禍との戦いは終わりを迎えた。
「それにしても、今回は綱渡りでしたねぇ」
俺は祈闘さんを家まで送っていた。
祈闘さんは呪禍との戦いが終わってから一言も喋っていなかった。
そんな祈闘さんがとうとう口を開いた。
「呪禍殿……、桔梗さんは、どうしてあれほどまでに変わってしまったのでしょう。お父様が生きていた頃は傍目に見ても楽しんでいるように見えました。元々皮肉や悪態をつくことの多い人ではありましたが、お父様が死んでからはあからさまに嫌悪を向けてきて、過去の私には何故そんなことをしてくるのか分からなかった。……あの嫌悪はあの人が抱えていた負の感情が漏れ出たものだったのでしょうか」
どうやら祈闘さんは呪禍に対し、何かしてやれなかったのかと気に病んでいるようだ。
「結局のところ、負の感情を誰にも言わずに抱えることを選んだのは呪禍です。あいつの周りに祈闘さんと祈闘さんのお父さんしかいなかったわけではないでしょう。だから、祈闘さんが呪禍のことを救えなかったと気に病む必要は無いはずです」
人を慰めるなどあまりしたことないのだが、これでいいのだろうか?
「……黒峰くんは神を信じていますか?」
「……はい?」
祈闘さんが突然訳のわからないことを言い出した。
まるで怪しい宗教……、というか祈闘さんは巫女だったな。
う〜ん、これはどう答えるのが正解だ?前の俺なら正直神なんて信じていなかった。
神様なんてのがいるならどうして自分は体が弱いのか、なんて考えていたからな。
ただまぁ、今は転生なんてものをしているから、一応神の存在を信じているとも言える。
「……そうですね、一応信じていますよ」
さぁ、これでどうだ?というか、祈闘さんはなんでこんな質問をしたんだ?
「そうですか、私はですね、神なんて信じていないんです」
「……え?」
祈闘さんのカミングアウトに俺は言葉を失う。
神職の人が神を信じていないとかいいのか⁉︎
「仮にも巫女が神を信じていないなんて良くないとは思うんですけどね。私は神様の存在を信じていないんです。だって、神様が本当にいるなら不幸な人を生み出す必要がないですから」
まぁ、俺も似たようなことを思ってはいたが、まさか巫女からこんな言葉を聞くとは……!
俺が驚いていると祈闘さんはさらに続ける。
「でも、同時にこうも思うんです。神様は人が善く生きるために必要なんじゃないかって」
「善く生きるために必要?」
いったいどういうことだろう?
「人は生まれながらに良い人もいるけれど、色々なものが積み重なって、悪い方に傾いてしまう人もいる。そんな時、『神様が言ったから悪いことはしてはいけない』『神様がいずれ救ってくれるから大丈夫』……そんな風に引き止めるための存在。それが神様なんだと思うんです。だから、私たちのような人が神は居ますって、言うんだと思うんです」
人が悪い方に傾く時、引き止める存在。それが神……。
「私は幼くしてお父様が死んで、家が分裂して、神様なんかいないって思ったんですけど、成長していくうちに、神様を信じることで救われる人がいるってわかったんです。心が弱った時に何かを信じることで救われるんだって……。桔梗さんには、信じられる何かがいなかった。彼の家族も、私も、彼自身でさえも、彼の神にはなれなかった。だからこれは、巫女である私の罪だと思うことにします」
「そんな……!」
俺は祈闘さんの言葉を否定しようとするが、言葉が出ない。
「傲慢かもしれない、無駄な考えかもしれない。それでも、救われなかった人がいるのは確かだから」
「祈闘さん……」
あぁ、彼女はあまりにも強い。普通であれば、呪禍のことなんて、関係ないと放っておくだろう。
それでも彼女は救われなかった人を見て何かできなかったのかと、心を痛めている。
そんな、苦痛を抱えにいく強さを持っている。
「私、もっと頑張ります。人の弱さに気づけるようになるために、人に頼られるほどに強くなるために。……だから、見ていてください。あなたが見ていてくれれば、私はきっと頑張れる」
夕暮れを背負い、こちらに微笑む彼女はまるで女神のようであった。




