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第四十二話 開演 百鬼夜行

翌日 三重県 紀伊山地近くの間界

 俺たちは呪禍がいるであろう山地の近くに来ていた。

 前回は奴が待ち伏せしていたからここにいたが、今回はいるだろうか?

 ……ともかく、行ってみなければわからない。俺たちは山の中を進んで行く。


 しばらく歩くと開けた土地に出た。

 そこには一人の男がいた。


 漆黒の狩衣に身を包み、被り物によって顔を隠した男、呪禍家当主の呪禍桔梗だ。


「やはり、ここにいたんですね」

 祈闘さんが一歩前に出て呪禍に話しかける。


「そうだな、私がお前と戦うのならばここしかあるまいと思っていた」

「一応聞きますが降伏の意思は?」

「あるわけがない。私とて魔術長を目指す者だ。それに、お前も不戦勝など望んでいないだろう?」

「……えぇそうです。私はあなたに勝ちたい。……始めるとしましょう」


 二人が構える。

 それに続いて俺たちも構える。


「行きます!」

「来い!祈闘守杜!」

 二度目の呪禍との戦いが始まった。



「まずはこちらからだ!」

 呪禍が懐から式神をいくつか取り出す。


「【呪術・狐火】!」

 祈闘さん、祈闘さんに続いて走り出していた俺とクロにそれぞれ一つずつ燃える式神を飛ばす。


「この程度!」

 俺たちは全員式神をかき消す。


 何故だ?いくら様子見だとしても一人一つの式神では有効打など与えられないと呪禍もわかっている筈だが……?


 考えていても仕方がないので俺たちはさらに呪禍へ近いて行く。


「祈闘さん、クロ!囲んで同時に攻撃しましょう!」

「はい!」「Gruaa!」

 俺たちは三手に分かれ、呪禍を囲む。


「そうくるか……、ならば!」

 呪禍は祈闘さんの方に近いていく。


「通させません!」

 呪禍と祈闘さんが打ち合う。

 呪禍はなんとかすり抜けようとするが引き止められ、俺たちに追いつかれる。


「おらっ!」

「ぐっ⁉︎」

 背後からの俺の攻撃を、呪禍は転がるようにして避ける。


「Gruuuaaa!」

「ぐぅあっ⁉︎」

 そこにクロが追撃を仕掛け、呪禍は大きく吹き飛ばされ、被り物が落ちる。

 黒曜石のような瞳と被り物によって一部しか見えていなかった艶のある黒髪の全容が露になる。


 どういうことだ?あまりにも手応えが無い。

 式神も全然使わない、むしろ使(・)え(・)な(・)い(・)か(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)……。


 呪禍はすでにぼろぼろになっているが立ち上がる。

「はぁ……はぁ……。さすがに、私一人ではお前たちに勝つことは難しそうだな」


祈闘さんが一歩前に出る。

「あなたの実力はこんなものじゃないはずです。いったい何を隠しているんです?」


 そうだ、今の呪禍はあ(・)ま(・)り(・)に(・)も(・)弱(・)い(・)。しかし、手加減しているような気配も無い。どういうことだ?


「あぁ、そうだな。私は隠しているさ。と(・)っ(・)て(・)お(・)き(・)をなぁ」

 とっておきだと?呪禍にそんなものが?

 何より、今の呪禍は何か変だ。まるで、別(・)人(・)か(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)……。


「耳を澄ませてみろ。何か聴こえてこないかぁ?」

 呪禍の言う通り耳を澄ませてみる。

 何だ?何か遠くで地響きが鳴っているような……。


「お前たちは知っているか?なぜ魔獣が候補者同士の戦いに乱入してこないのかを」

「それは、魔獣にも生存本能があり、候補者のような大きな魔力がぶつかり合う場所には魔獣も近づかないからでしょ」

 呪禍の質問に優奈さんが答えた。

 地響きが大きくなっている気がする。


「そうだ、普通、魔獣は候補者の戦いには割り込んでこない。しかし、戦いの近くに潜んではいる。もしその魔獣を誘き出せたら?」

 魔獣を誘き出す?そんなことが可能なのか?

 というかそんなことをして何になる……と……!


 俺は前回の呪禍との戦いを思い出す。

 奴は結局のところ決議に優勝する気は無かった。

  それよりも祈闘さんを殺すことに執着していたように思う。

 もしその予想が当たっているなら……、まずい!


「祈闘さん、魔使さん!早くここから逃げないと!」

「はい⁉︎なんで⁉︎」

 二人は俺の急な撤退の提案に戸惑っているようだ。


「あいつは、呪禍は、ここに大量の魔獣を引き寄せるつもりです‼︎」

「っ⁉︎」

 二人も呪禍の狙っていることを理解して驚く。

 

「気づいたか!だがもう遅い!」

 地響きが、いや、足音がかなり大きくなっている。

 まだ少し遠い。しかし、大量の魔獣によって黒い波が出来上がっている。


「この地より半径約100km!総勢300体近い魔獣を我が魔術【呪術】によって私の精神と繋いだ!これにより、魔獣の行動に方向性を示すことくらいはできるようになった。私とて無事では済まないだろう。しかし、祈闘守杜。貴様を殺せるなら本望‼︎」

 叫ぶ呪禍の目は血走り、瞳孔は大きく開いている。

 とても正気とは思えない。


「どうしてそこまで……」

 祈闘さんが呪禍に問う。尊敬する父と張り合っていた、曲がりなりにも尊敬できる相手がどうして正気を失ってまで自分を殺したがるのか知りたいのだろう。


「あなたはっ!父のライバルとして、七大魔家当主の一人として、尊敬できる人だった!どうして、そこまで……」

 祈闘さんの慟哭がほんの一瞬、呪禍の正気を取り戻した。


「わた……し、は……、あいつに……命(みこと)に、追いつくため……に……」

 辿々しく言葉を発する呪禍の目からはいくつかの水滴が流れていた。

 その後呪禍は何も言葉を発しなくなった。


 命(みこと)……、確か祈闘さんのお父さんの名前だ。

 呪禍と祈闘さんのお父さんはライバル関係だったらしいが、呪禍は祈闘さんのお父さんに勝つために努力し続けて、一度も勝つことなく先立たれたために狂ってしまったのだろうか。

 ライバルに追いつきたいという願いが、執着と殺意に変わる程に……。


 その時、刀也に話しかけられる。

「おい、魔獣がもうすぐそこまで来ている!早く逃げろ!」

 そうだ、今は魔獣に囲まれているんだった。


「祈闘さん!早く逃げましょう!」

「…………はい。わかりました」

 俺たちは行きに通ってきたルートを目指す。


 先頭に俺、すぐ後ろに祈闘さん、その後ろに優奈さんで、殿にクロの布陣で進む。


「前方に魔獣が見えました!戦闘準備を!」

「はい!」「わかったわ!」


 見えたのは狼型の魔獣だ。複数頭いるが、あまり強くはないはず、押し通る!


「まずは先制だ!黒峰流……【蛇行舞】!」

 姿勢を低くして緩急をつけた動きで魔獣を翻弄する。

 手始めに3体の魔獣を狩る。

 残りは……4体!


 そこに祈闘さんが追いつく。

「【祈闘神楽・天の羽々矢】!」

 祈闘さんは2体の魔獣を一気に串刺しにする。


「俺も……!【祈闘神楽・須佐男ノ祓い】!」

 近くにいた魔獣2体を祈闘神楽で一気に切り払う。


「行きましょう!」

 俺たちはさらに下山していく。

 するとまた魔獣に出会った。今度は一体だが、かなり大きい。

 見た目は少しトカゲに似ている。

 しかし、俺たちの敵ではない!

 俺たちはトカゲのような魔獣と戦闘を始めた。




 一方その頃

 呪禍は地面に寝転がり、独り言を呟いていた。

「ははっ!命の奴め、かなり焦っていたぞ。奴とて大量の魔獣には苦戦するか。あぁ楽しみだ。これでようやく私はあいつに……」

 すでにライバル(みこと)とその娘(すず)の区別はついておらず、夢と現実の境も定かではない。

 そこに何匹かの魔獣が現れた。


 呪禍の目に魔獣は映らない。

 今にも襲い掛かろうとしている魔獣の方を見向きもしない。


 とうとう魔獣が呪禍に襲い掛かかる。

 腕を喰われ、腹が裂かれようとも気にすることはない。

 死の間際に呪禍はまた呟く。


「私の勝ちだ……命……」


 すでに術者は死した。

 しかし、流れ出した水が止まらぬように、この百鬼夜行も止まらない。


 全てを喰らい尽くすまで……

 

 

 

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