第三十八話 子の成長矢の如し
互いの使い魔の実力は互角。
であれば勝敗を喫するのは主の実力!
二人の声が重なる。
「「身体強化!」」
二匹が同時に強化され、咆哮を上げる。
「「Guoooooo!」」
二匹はさらに速度上げ、高速でぶつかり合う。
互いに切り裂き、押し潰し、喰らい合う。
二匹はその体を削っていくが、互いの再生能力が瞬時に怪我を治す。
「これじゃ埒が開かない……、なら!」
優奈はこのまま戦い続けても決着がつかない、あるいはこちらが負けると踏んで次の行動に出る。
「クロ!一旦離れて!」
「Gyau!」
クロは弾かれたように離れ、距離をとる。
「クロ、魔力砲用意!」
「Gruaaaaa!」
クロがその膨大な魔力を一点に収束していく。
「水蛇、迎え打て!」
「Gyuaaaaaa!」
対する水蛇も大量の水を生み出し、一点に収束させる。
「行くわよクロ!【黒葬】!」
「Gaaaaaaaaaa!」
優奈の号令でクロが魔力砲を放つ。
「貫いてやれ、水蛇!【鉄穿つ雨垂れ】!」
「Gyuoooo!」
クロが魔力砲を発射したと同時に水蛇も水砲を放つ。
黒の光線を迎え撃つように水球がぶつかる。
二つの力は僅かな間拮抗するが、限界を迎え、爆ぜる。
「くっ、前が……!」
操蛇はクロと水蛇の攻撃のぶつかり合いによって起きた爆発で周囲が見えなくなる。
その時、操蛇は危険を感じ、咄嗟に身を屈める。
操蛇が身を屈めた次の瞬間、操蛇の頭部があった場所をナイフが通りすぎた。
「何っ⁉︎」
「避けられた!」
攻撃の下手人は優奈であった。
「使い魔の攻撃を囮に使ったか!」
時は少し遡り、二匹の技がぶつかり合い爆ぜた時、優奈は作戦会議を思い出していた。
「直接戦闘?」
優奈は刀也が発した言葉を聞き返した。
「はい、クロは強いですけどそれだけではおそらく魔使さんのお父さんに勝てないんじゃないかと思いまして」
作戦会議ではまず最初に祈闘から魔使操蛇の戦闘力を聞いていた。
これにより刀也は予想を立てるという体で操蛇との戦いで起きるであろうことを踏まえた作戦を立てた。
「クロに水蛇を抑えさせてその隙に魔使さんが直接攻撃するんです。上手く行けば虚をついてそのまま決着まで持っていけますし、上手くいなくてもこちらのペースに持っていけるのではないかと思うんです」
爆発によって目眩しができている隙に優奈は操蛇の元へと走る。
そして懐から刀也に借りたナイフを持って振り下ろす。
しかし、その攻撃は紙一重で避けられることとなった。
「それでも、このまま!」
一度避けられようと、優奈は諦めずに何度でも襲いかかる。
操蛇は優奈の攻撃を冷静に避け続ける。
「そこっ!」
何度目かの空振りの末に優奈のナイフが操蛇を捉える。
しかし、またもや攻撃は防がれる。
「【氷白盾】」
操蛇は静かに魔術の名を告げる。
「高度な【使役】魔術の使い手は自身の使い魔の魔術を借りることができる。覚えておけ」
優奈の攻撃をガラスの如き壮麗な盾で防ぎながら操蛇は攻勢に転じようとする。
しかしその時、優奈が呟く。
「えぇ、知ってたわよ」
優奈はまたも作戦会議を思い出す。
「魔使さん、使い魔の魔術を使うことってできたりしません?」
刀也がそれとなく優奈の魔術を開花させようと誘導していた。
「使い魔の魔術を?そんなことできないわよ」
この時の優奈は己が家の魔術すら碌に教えられていないため使い魔の魔術を借りられることを知らない。
ナイフを持たぬ方の手をかざす。
「そういえば、魔使殿は自分自身で水を操っている時があった気がします」
祈闘が記憶の中の操蛇の魔術を思い出し、刀也の予想を補強する。
己が魔力を一点に収束させる。
「ま、まさかっ⁉︎」
操蛇は自身の娘がすでにそこまでの使い手になっていることに驚く。
優奈は自身の使い魔の魔術の名を呟く。
「【黒葬】」
黒い砲撃が氷の盾を粉砕した。
優奈の魔力ではクロと同じ威力とはならない。
しかしそれでも、氷の盾を破るには十分な威力を持っていた。
「くっ⁉︎――水蛇っ!」
操蛇が己の使い魔に援護を要請する。
「Gyau!」
水蛇が操蛇の元へ動く。
「クロ!防ぎなさい!」
しかし優奈はそれを許さない。
「Gruuuaaaaa!」
操蛇の元へ動き出した水蛇をクロが突き飛ばし、止める。
「はあっ!」
優奈が攻撃を仕掛ける。
「おのれっ!」
操蛇が迎撃する。
再び数度の格闘の後、優奈がナイフを持たぬ方の手で魔力を溜める。
「――っ!【氷白盾】!」
操蛇はまたも氷の盾で迎え撃つ。
「【黒葬】!」
砲撃によって氷の盾は砕け散る。
「ぐっ⁉︎」
突如優奈がふらつく。
クロと自身、二つの【身体強化】、二度の【黒葬】。
魔力が急激に消費されたことで倒れかける。
それでも
一歩前へ
「ああああああっ‼︎」
優奈は全身の力を振り絞って進む。
「それほどまでに……。――【氷白盾】!」
操蛇は既に優奈は【黒葬】を打つだけの魔力が無いと判断。
今目の前にいる己が娘を魔術師として認めたが故に、再度氷の盾を展開することで確実な勝利を狙う。
ナイフが盾に迫る。
しかし、優奈の筋力ではたとえ身体能力を強化しようと破ることはでない。
そう、優奈の筋力だけなら。
優奈は最後の最後まで隠していた、最後の切り札を切る。
「【切断】!」
魔術によって強化されたナイフは氷の盾を容易く破る。
そして、ナイフはそのまま操蛇の首元へと迫る。
ナイフは操蛇の体に触れるギリギリで止まった。
「これでも……、私のことは……認められませんか?」
優奈の問いを操蛇は否定する。
「いいや、十分だ。……十分すぎるほどにな……」
操蛇は気力の限界により倒れる優奈を抱き抱える。
「本当に……、大きくなったな……」
「「魔使さん!」」
見物していた俺たちは突如倒れた優奈さんの元へ駆け寄る。
「安心しろ。気を失っているだけだ」
操蛇さんが俺たちに声をかける。
「私がお部屋に運びましょう」
「侍郎さん!」
影から突然現れた侍郎さんが操蛇さんから優奈さんを受け取り、部屋へと運ぶ。
「まずはお二人とも、我が家の騒動に巻き込んでしまってすまなかった」
操蛇さんが頭を下げる。
「いやいや、頭を上げてください!俺たちが勝手に首を突っ込んだだけみたいなものですから!」
「そうです!それに、私たちは友人の覚悟を見届けただけです」
俺に続いて祈闘さんがフォローを入れて、やっとのことで頭を上げてくれる。
「友人……か。あの子はいい友達を持った。これからも、あの子のことをよろしく頼む」
「「はい!」」
俺たちは胸を張って返事をした。
しばらくして優奈さんが目を覚ました。
日はすでに沈んでしまっている。
「私、屋敷に戻るわ」
「……やっぱりですか」
前回では俺しか使い魔がいなかったが故に優奈さんは決議中俺から離れることができなかった。
そのために、黒峰家に泊まり続けた。
だが今回はクロがいる。黒峰家に泊まり続ける理由は無いだろう。
「もちろん、最後まで決議に参加してあなたたちに協力するわ。大きな借りができちゃったしね」
どうやら決議には参加してくれるようだ。
「わかりました。荷物はどうしますか?」
ほとんど無いとはいえ、少しは優奈さんの物が黒峰家にはある。
「そうね、今日はもう遅いし、後日取りにいくわ。その時にご家族にもお礼を言いに行くからよろしく言っておいて」
「わかりました。言っておきます」
心の中で刀也が呟く。
「姉さんが騒ぎそうだな」
確かに、あの人は優奈さんが急にいなくなって寂しがりそうだ。
「それじゃあ、俺たちはこれで」
俺と祈闘さんは魔使家の屋敷を出る。
「黒峰さん、少しいいですか」
俺と祈闘さんの帰り道が別れる場所まで来て、祈闘さんが突如話しかけてくる。
「なんでしょう?」
「昨日あなたの能力を聞いて思ったことがあるんです」
なんだろう?祈闘さんには何か引っかかることがあったのだろうか?
前回の祈闘さんには何も言われなかったはずだが。
「私と武術を、祈闘神楽を習得しませんか」
「はい⁉︎」
ただ早く出会っただけではない。
明確な、優奈さんのルートとの分岐点が現れた。
ここではいと答えれば祈闘ルート、いいえと答える、及び、操蛇さんとの戦いで優奈さんに介入しまくると魔使ルートになります




