第三十九話 祈闘神楽
「俺が祈闘神楽を……ですか?」
祈闘さんは突如俺に祈闘神楽の習得を勧めてきた。
「はい、あなたの能力を聞いた日に思ったんです。祈闘神楽は魔術【祈祷】によって高めた身体能力があって初めてなせる武術です。魔使さんの支援ありきとはいえ高い身体能力を振るえるあなたは適正があります。それに、あなたの魔眼があれば習得も容易いでしょう」
なるほど、確かに今まで見た祈闘神楽は豪快な技が多かった。
高い身体能力が必要と言うのも本当だろう。
魔眼による習得の速さまで見抜かれるとは思わなかったが。
俺は心の中で刀也に問う。
「刀也、どう思う?やっぱり受けた方がいいかな?」
「おそらくこれは祈闘さんのルートへの分岐点だ。それに、強くなるに越したことはない。受けておくべきだ」
結論が出たので祈闘さんに返事をする。
「そうですね。俺ももっと強くなりたいですし、喜んでお受けします」
「よかった、お受けしてくれて嬉しいです。改めてこれからよろしくお願いします」
祈闘さんは晴れやかな笑顔を浮かべていた。
翌日
定期テスト期間なので学校が半日で終わり優奈さんが家に荷物を取りに来た。
「優奈ちゃ゙ーん゙どうして行っ゙ちゃ゙うの゙ぉー!」
案の定姉さんが騒ぎ倒していた。
いや、優奈さんに縋り付いているので想像よりももっと酷い。
「姉さん!魔使さんは元々家の子じゃないの!問題も解決したから家に戻るの!」
「やだー!私の妹がぁ!」
「あんたに妹はいねぇよ⁉︎」
バカな、たった一週間でここまで気にいるとは……⁉︎
心の中の刀也も頭を抱えている気がする。
「えぇと、とりあえず。短い間でしたがお世話になりました」
優奈さんが頭を下げる。
「いやいや、私も中々楽しい日々だったよ。まだしばらく三重にいるんだろう?用があったら気兼ねなく家に来てくれ」
「お宅にも、お宅の息子殿にも大変迷惑をかけた。礼を言う」
次に優奈さんと共に来ていた操蛇さんが頭を下げる。
「魔使殿も頭を上げてください。本当に気にしていないので」
「……ありがとう」
その後二人は荷物をまとめて帰ろうとする。
「そうだ、忘れるところだった。君にこれを渡そうと思ってな」
そう言って操蛇さんが古い携帯電話、いわゆるガラケーを手渡してきた。
「これは……?」
俺は操蛇さんに尋ねる。
「本来間界と現実世界では電話は通じん、しかし、魔術的加工を施したこの携帯なら間界から現実世界、その逆でも通じる。何かあればこれで私を呼べ。君たちに対するせめてもの礼だ」
間界で電話なんてしようと思いすらしなかったので電話が通じないことは知らなかった。
それに、一周目ではこんなもの貰わなかったので少々驚いた。
「はい、いざという時はお願いします」
まぁ、基本的に決議は部外者の介入が禁止されているから使うことは無いだろうが。
二人が今度こそ帰る。
「黒峰くん、また明日」
「はい、また明日」
別に同居が終わるというだけで、学校などでは会うのだから、なんだか変な気分だ。
帰っていく優奈さんを見送っていると姉さんがぽそりと呟いた。
「私も学校に行こうかしら」
「行けねぇよ⁉︎」
こうして、優奈さんは黒峰家を去っていった。
中間テストが終わり、とうとう祈闘さんと祈闘神楽の習得が始まる。
特訓場所には家の道場を使うことになった。
「俺の特訓に付き合ってくれてありがとうございます。魔使さん」
祈闘神楽には高い身体能力が必要とのことで、優奈さんにも来てもらっている。
「別にこれくらいいいわよ。戦力が増えるのは大歓迎だしね」
「それでは特訓を始めましょうか。黒峰さんは確か独自の武術を使えるのですよね?」
「はい、我が家に伝わる黒峰流という武術を使えます」
「それなら分かると思うのですが、武術において大事なのは足です。もっと言えば足腰ですね」
「黒峰流でも足は重視している。独自の歩法があるほどにな」
心の中で刀也が補足する。
なるほど、武術では足が大事なのか。一応俺も黒峰流を習得していはいるが魔眼と体の記憶任せのいい加減なやり方なのでそういうことは知らなかった。
「祈闘神楽でも足は大事で、特に歩法などがあるわけではないですが、技の威力を十分に出すためには足の力や足捌きが重要となります」
高い身体能力が必要というのも足の力が重要だからという理由もあるからなのかもしれない。
「それではまずは祈闘神楽の中でも簡単な技である【天の羽々矢】を教えようと思います。こちらの技はやること自体は簡単です。言うなれば全身に力を溜めて矢のように飛び出す、という技ですから」
そう言われてみれば簡単そうに聞こえるが、実際はどうなのだろう?
「この技でポイントなのは力を溜め込む時です。しゃがみ込んで体全体で力を溜めます。特に踏み出しが大事なので足の筋肉に集中する必要があります」
なるほど、矢のように飛び出すわけだから足での力の溜め込みが重要ということか。
「わかりました、やってみます!魔使さん、強化を!」
「わかったわ。【身体強化】!」
優奈さんによって俺の体は強化される。
「それじゃあ、行きます!」
俺は体を丸めるようにしゃがみ、力を溜める。
前回も含め、今まで何度も祈闘さんの技は見てきた。
その全てはこの眼に、脳に刻まれている。
筋繊維一本一本に魔力が通すようなイメージで力を溜める。
俺の体を矢と捉え、弓に番られているイメージをする。
弓弦が引かれ、緊張が最大限に高まった時、放たれる。
「【天の羽々矢】!」
俺はまさに放たれた矢の如く飛び出す。
俺の体は道場の端から端まで飛んでいき、俺は気づく。
これは壁に当たる……と。
「ぐわー!」
飛び出しすぎた俺は壁に激突してしまった。
「痛たたた。首がもげるかと思った」
「黒峰さん、大丈夫ですか⁉︎」
祈闘さんが心配して俺の元へと駆け寄る。
「はい、大丈夫です。少し力を込めすぎました」
「思っていたよりも黒峰さんの身体能力が高いですね。道場では狭いですし、次からは間界で特訓しましょう」
「わかりました」
その後、いくらかの技の解説、そしてその技の動きを教えてもらい今回の特訓は終わった。
翌日
俺たちは特訓のために間界へと来ていた。
「それじゃあ、今回からはここで特訓をしましょうか」
「はい」
先日習った技の特訓を始める。
【天の羽々矢】の他に【須佐男ノ祓い】や【別雷】などを習った。
そんな風に時間を過ごしていた時刀也が語りかけてくる。
「おい、そろそろだぞ」
「あぁ、わかってる」
刀也に返事をした瞬間声がした。
「君たち面白そうなことをしてるね」
「っ⁉︎」
祈闘さんが驚きつつ距離をとる。
肩まで伸びた水色の髪に黒のシルクハットが覆い被さり、マジシャンのような風貌をした男。
しかし、その顔には道化師のようなメイクが施されていた。
刻家の当主、刻 印だ。
俺はすでに奴が来ることを知っていたので声がした瞬間に振り向きながらナイフを振るう。
「どわっと⁉︎危ないなぁ、いきなり何するんだよ!」
俺の攻撃は瞬間移動で避けられてしまう。
「間界でいきなり人の背後に現れたんだから殺されても文句は言えないだろ」
「どういう思考だよ。君は殺し屋かい⁉︎」
こちらとしては敵対することがほぼ確定しているので容赦するつもりはない。
「あなたは……!刻家の当主、刻 印……!」
祈闘さんが刻の紹介をする。
「紹介どうも、祈闘殿。君は知っているだろうけど僕は候補者だ。君たちを倒しにきた。君たちが手を組んだと聞いて驚いたけどそれでも僕が勝たせてもらう」
刻の顔が真剣なものになる。
「来ます!二人とも気をつけて!」
祈闘さんが叫ぶ。俺は体に魔力を纏い、眼鏡を外す。
刻の姿が掻き消える。
「さようなら」
一瞬にして俺の元に現れ、足元に刻印を刻んで消える。
しかし俺には通用しない。
「【魔切断】!」
俺は魔術で強化したナイフを地面に突き立てた。
光り出した刻印が消え失せる。
「バカなっ⁉︎刻印が!」
俺は刻に向かって啖呵を切る。
「この目に見えるものならば、魔術だって切ってみせる。俺に魔術は通用しないぞ。刻 印」
二度目の刻との戦いが始まる。




