第三十七話 双龍相喰らう
家に戻った後、俺は俺が魔術を使えなくなった経緯、そして魔眼や再生能力について話した。
「あなたが言っていた秘密がこんなことだなんて思いもしなかったわ」
優奈さんは話を聞いて静かに驚いている。
「魔眼に再生能力か……。もしかしたら彼にも……」
祈闘さんは何やら思案しているようだ。
「俺が優奈さんと契約できたのはクロ……、禁忌の魔物でしたっけ?その一部が入ったことで体が魔獣に近いたからなんでしょう。また、優奈さんとの契約によって体の中の禁忌の魔物の一部が落ち着いて魔術を使えるようになったんです」
刀也が魔術を使えなくなった理由は正確にはわかっていなかったが、俺と刀也が話し合って考えたのがこれだ。
クロも優奈さんと契約してからは嘘のように大人しくなっていることだしな。
「俺の能力はそんな感じです。もしも優奈さんのお父さんと戦うことになっても俺とクロならきっと勝てます!」
俺はそう言って優奈さんに笑いかける。
すると優奈さんが答える。
「そのことなんだけどね、私、お父様と戦うことになってもあなたの力は借りないことにするわ」
優奈さんが衝撃の一言を述べた。
「な、なんでですか⁉︎俺も優奈さんの使い魔です。あなたが望むなら俺はいくらでも力を貸しますよ!」
俺は優奈さんに言葉の意味を尋ねる。
「あなたの力は確かに強力よ、でもあなたはやっぱり他人なの。できる限り巻き込みたくない。……あなたたちがいなければ契約できなかったクロの力を借りる時点で何を言っているんだって感じだけどね……」
優奈さんがいつか見た自虐的な笑みを浮かべながら続ける。
「これはただの私のわがまま。できる限り人の力を借りずにお父様に認められてみせる」
前回の優奈さんは少なくともこの時点でここまでのことは言えなかった。
それはきっと、自身の持つ唯一の使い魔が魔獣ではなく人であるが故にどうしても自身の力と認められなかったからだ。
だから今回の優奈さんは他人ではなく、自身の使い魔だけで戦うことで俺からも自立しようとしているんだ。
なら、それを止める理由は無い……か。
「わかりました優奈さん。ですが、俺が決議に参加するために優奈さんの参加が必要です。いざという時は俺もあなたに加勢しますから」
「えぇ、その時はお願いするわ」
その後多少の作戦会議をして祈闘さんが帰っていった。
明日になれば優奈さんと操蛇さんとの戦いになる。
翌日
俺と優奈さんは魔使家の屋敷に向かう。
途中で祈闘さんとも合流した。
「それじゃあ行きましょうか、二人とも!」
俺たちは魔使家の屋敷に到着した。
前回同様優奈さんが屋敷のインターホンを押して、迎えを来させる。
「おかえりなさいませお嬢様。そして、いらっしゃいませ黒峰様、祈闘様」
微妙に魔使侍郎の言葉が変わっている。
今回は祈闘さんが居るからだろうか?俺への敬称も少し丁寧になっている。
「旦那様がお待ちです。どうぞ中へ」
俺たちは屋敷の中に入っていく。
屋敷に入るのは二度目だがやはり大きい。
黒峰家も道場があるのでそこら辺の一般家庭よりは大きいはずなのだが魔使家は別荘ですら黒峰家より大きい。
その時刀也が心の中で語りかけてくる。
「あのなぁ、あくまでも野良の魔術師一族の家と七大魔家の屋敷を比べるなよ。うちだってそれなりに大きいんだぞ?」
それはわかっているのだが、やはりこの屋敷を目にすると違いを感じるというかなんというか……。
「お二人とも、失礼ですが旦那様はお嬢様との二人きりでの話し合いを望んでおられますのでお二人はどうぞこちらへ」
「わかりました。行きましょう祈闘さん」
「え、えぇ」
前回と同じく俺たちは2階へと通される。
まさかとは思うがまた魔使家の魔術師に襲われるんじゃないだろうな?
祈闘さんがいる以上そんなことにはならないと思うが一応警戒する。
そうだ、言い忘れるところだった。
「魔使さん、お父さんとの話し合い頑張ってください!」
俺は優奈さんに激励の言葉をかける。
前回と同じなら中々激しい言い争いになるはずだからな。
「えぇ、頑張るわ」
優奈さんは僅かに笑いながら操蛇さんの書斎に入っていった。
「失礼します、お父様。優奈です」
魔使優奈は魔使操蛇の書斎に入る。
「久しぶりだな優奈。お前が屋敷を出てからまだ一週間ほどだと言うのに、ずいぶんと久しぶりに感じる」
強面な顔ながらに優しい笑みを浮かべ、自身の娘の身の安全を喜ぶ。
「さて、もう少し感傷に浸っていたいところだが本題に入るとしよう」
「っ⁉︎」
操蛇の気配が変わる。先程とは打って変わってとてつもない気迫が溢れ出す。
「優奈、お前はまだ決議に参加しているらしいな?」
操蛇の迫力に優奈は怖気付く。
しかしそれでも一歩前に踏み出す。
「私は力を手に入れた。優勝できるかはわからない。それでも、私は決議に参加したい」
「……話は侍郎から聞いている。とんでもないのと契約したようだな。しかし、参加を認めるわけにはいかん。決議に参加するということは死ぬつもりで戦うということだ」
前回と同様、操蛇は子への思い故に子の願いを拒絶する。
前回であれば優奈はこのまま黒峰刀也が来なければ父の言い分を聞いて決議の参加をやめてしまう。
しかし、今の彼女にはもう一体の使い魔がいた。
「それでも私はこの子たちと自分がどこまでやれるのか試したい!」
影が浮かび上がる。
その影は蛇のような形を成し、自身の主の周りに侍る。
「それがお前の……!」
操蛇は自身の目で初めてクロを見て驚く。
魔力も体も小さくなっているとはいえ、その姿は紛れもなく10年前の決議で自分たちが戦った化け物だったからだ。
操蛇は一時思案する。
「良いだろう。ならば、俺にお前たちの力を見せてみろ。お前たちが勝てば決議の参加を許そう」
「……!わかりました。必ずあなたに勝ってみせます!」
二周目での親子の決闘が始まる。
結局今回は何もされなかった。
やはり祈闘さんがいると違うのだろうか?
ともかく、やはり優奈さんと操蛇さんは戦うことになったようだ。
俺たちはその見学となる。
屋敷の広間で優奈さんと合流する。
「やっぱり戦うことになったんですね」
「えぇ、それでもお父様に私たちの力を認めさせるにはこれしかないわ」
広間を通る時に水槽に向かって操蛇さんが呟く。
「来い、水蛇」
水槽の中の水が巨大な一匹の蛇となる。
こうして見てもやはり、水蛇とクロはよく似ている。
キャラデザをコピペしたのか?
「そうやって見るとこの世界が本当にゲームのように思えてくるな……」
刀也が何やら呟いている。
まぁ、この世界に生きる人からすれば少しショックかもしれない。
俺たちは屋敷の庭へと出た。
「さぁ、始めるとしよう」
優奈さんと操蛇さんが互いに距離を取る。
「Gruuuu……」
水蛇がクロを睨みつける。
「Guuuuu……」
クロが元のサイズに戻り、威嚇する。
二人が同時に叫ぶ。
「「行けっ、水蛇!」」
「「Gyaaaoooo‼︎」」
二匹が咆哮を上げながら突撃する。
中間地点で二匹の体が衝突する。
その衝撃で周囲には突風が吹き荒ぶ。
「なんてパワーだ……!」
わかってはいたが、大木のような二匹が衝突するとそれだけでとんでもない衝撃が生まれる。
「クロ、攻撃と離脱を繰り返しなさい!」
「Gyao!」
どうやら優奈さんはヒットアンドアウェイ戦法でいくようだ。
クロには再生能力があるため良い方法に思えるが、問題は水蛇にも似たような能力があることだ。
「水蛇、まずは小手調べだ」
「Gruu」
水蛇の周りに幾つかの水玉が浮かび上がる。
「Gruoooo!」
浮かび上がった水玉がまるで弾丸のようにクロへと襲いかかる。
なんだアレ⁉︎俺が戦った時には使ってなかったぞ⁉︎
「クロ、避けて!」
クロは弾丸のような水玉を難なく避ける。
水玉が着弾した地面は軽く抉られている。
そういえば俺が一周目で操蛇さんと戦った時、「殺す気はない」と言っていた。どうやらあれは本当のことだったらしい。
「この程度は難なく凌ぐか。ならばもう少し全力を出すとしよう」
二人の戦いはさらに激化していく。




