第三十六話 強靭!無敵!最強!
「そうだ、この子に名前をつけなくちゃね」
いくらか休んだ後百合を駅まで送って行った。後日、魔術組合から事情聴取があるらしいが、今日はもう帰れるとのことで帰っている途中に優奈さんがそう言った。
「この子ってこいつですか?」
俺はついさっきまで戦っていた化け物を指差しながら言った。
俺が指差した相手は今はその体を手乗りサイズにまで縮ませ、優奈さんの肩に乗っている。
まさか体のサイズを自由自在に操れるとは思わなかった。
「えぇ、この子は名前が無いみたいだし、つけてあげなくちゃ」
確かに、優奈さんの使い魔となった以上、これからは共に過ごすのだから名前が無いと色々不便だろう。
そんなわけで名付け選考会が始まった。
「じゃあまず俺からということで」
選考会が始まってすぐに俺は名前の案を出す。
「赤い眼!黒い体!そして龍!ここまで条件が揃えば付ける名はただ一つ!そう、真紅眼…「却下」なんでですか⁉︎」
完璧な名前を付けようとしたら速攻で優奈さんに却下されてしまった。
せめて最後まで言わせてくれ!
「あのねぇ、そんな厨二病みたいな名前を付けるわけないでしょ」
なぜだ、いいじゃないか真紅眼……。
刀也だってそう思うよなぁ⁉︎
俺は刀也に尋ねる。
「……ノーコメントだ」
この裏切り者ぉ!それでも男か!
刀也にも裏切られた俺は優奈さんに聞き返す。
「じゃあ優奈さんはいったいどんな名前をつけるんですか?」
優奈さんは自身満々といった感じで答える。
「そうね、私なら……、ノワール。ノワールなんてどうかしら。上品で優雅でこの子にお似合いでしょ」
「優奈さんも厨二病みたいな名前じゃないですか!」
俺は断固抗議する。結局センスはいっしょじゃねーか!
「な、そんなことないわよ‼︎あなたのと同じにしないでくれる⁉︎」
俺と優奈さんが言い合いを始め、祈闘さんと化け物は困り果てる。
「ふ、2人とも、落ち着いてください」
「「じゃあ、祈闘さんはなんて付けるの⁉︎」」
俺と優奈さんが同時に祈闘さんに質問する。
「え、私ですか?そうですねぇ、私なら……、く、クロとかどうでしょう?」
完全にそのままだ。しかもどちらかというと犬とかに付ける名前だ。
「Gruuu」
しかし化け物は祈闘さんにすり寄る。
もうそれでいいやと言わんばかりだ。
「まぁ本人……、本魔がいいならいいけど……」
俺と優奈さんはどこか消化不良だ。
まぁ、名前なんてシンプルで呼びやすいものの方がいいだろう。
「それじゃあ、これからよろしくな、クロ!」
「Gruuu!」
優奈さんの新たな使い魔クロが仲間になった。
とても頼もしい戦力だ。
薔薇との戦闘から2日が経った。その間魔術組合の事情聴取に付き合ったり、普通に授業を受けたりなどした。
今日も俺は優奈さんと共に登校する。
「祈闘さんもそうだけど、あなたたちあれだけ吹き飛ばされたり、押し潰されたりしたのにピンピンしてるなんてすごい体ね」
そういえば今の優奈さんたちは俺の再生能力を知らないのか。そのうちに説明しなければ。
「祈闘さんは鍛えているからでしょうけど、俺はちょっと秘密があるんです。また今度祈闘さんと一緒に説明しますね」
「秘密……ねぇ……」
俺たちがそんな他愛もない話をしながら歩いていると巫女服を着た少女が見える。
「お二人ともおはようございます」
「おはようございます」
「おはよう」
俺も優奈さんも挨拶を返し、3人で学校に入って行く。
教室に入るとチャイムが鳴り、先生が教室に入ってくる。
「お〜しお前ら席に着いたな。それじゃあ授業を始めるぞー。明日は日曜日だ、その後は月曜から3日間中間テストだからな、ちゃんと勉強するんだぞー」
中間テスト、前回は多いに苦しめられたが今の俺は違う!
テストの範囲、内容、全てがこの頭の中にある!これなら勝ち確だ!
刀也が呟く。
「頼むから変な点数はとるなよ……」
授業が午前で終わり、俺たちは帰途につく。
祈闘さんが話を切り出す。
「黒峰さんから話があるって聞きましたけど、いったいなんですか?」
ここで話してもいいがひとまず俺ははぐらかす。
「まぁまぁ、結構びっくりする話だと思うので腰を下ろして話します」
「はぁ……」
2人ともあからさまに疑っているが再生能力とか魔眼とかは十分驚きに値する話のはずだ。
そんな話をしながら家へと歩いていると一つの人影が見える。
あの人は確か……。
人影がこちらに気づき近づいてくる。
「お久しぶりでございます、お嬢様」
その人影は初老の男性で執事服のようなものを着ている。
魔使家に仕える執事の魔使侍郎だ。
「久しぶりと言ってもたった数日でしょう?」
優奈さんが魔使侍郎に答える。
「いえいえ、私としましてはお嬢様に
何かあったらと思うと気が気ではなく、たった数日でも久しぶりに感じるのです」
「あの……、魔使さん、この方は……?」
祈闘さんが優奈さんに尋ねる。
「おや、申し遅れました。私、魔使家において執事を務めさせていただいております、魔使侍郎と申します。魔使と言っても分家の執事でございますが以後お見知りおきを。祈闘家の御当主様と黒峰刀也殿」
魔使侍郎は慇懃に礼をする。
当然と言えば当然だが、魔使侍郎は祈闘さんのことを知っているらしい。
自己紹介を終えた魔使侍郎は話の続きを優奈さんに話す。
「お嬢様は未だ決議に参加しているご様子、旦那様が大変心配されております。至急、お戻りください」
魔使侍郎の言葉を聞いて、優奈さんは苦い顔をする。
前回であれば優奈さんの使い魔は俺しかいなかった。
しかし、今回はクロもいる。クロであれば見ただけで認めざるを得ないだろう。
「きっとお父様はまた私の決議の参加を辞めさせようとする……けれど、もう私には力がある」
「っ⁉︎」
優奈さんの言葉を聞き、魔使侍郎の眉が上がる。
「まさか、使い魔を得たのですか⁉︎」
「えぇ、それも2……、一人と一匹ね」
「一人と一匹?」
魔使侍郎の疑問に答えるように俺は一歩前に出る。
そして優奈さんの影からクロ(大きめの蛇サイズ)が出てくる。
なんとクロは影の中に潜むこともできるらしく、普段は優奈さんの影の中に潜んでいる。
「俺たちが優奈さんの使い魔です」
「はて……、そちらの黒い蛇は確かに魔獣のようですが……、人が使い魔とは……?」
俺はクロに呼びかける。
「クロ」
「Gruu」
俺は右手に、クロは頭に魔力を込める。
するとそれぞれの使い魔を表す紋章が浮かび上がる。
「使い魔の紋章⁉︎本当に人が使い魔に……!」
優奈さんが前に出て言う。
「これでわかったでしょ、私はもう力を手にした。連れ戻さなくてもそのうちに一度屋敷に戻るから干渉しないでって、お父様に伝えて」
魔使侍郎は黙り込んで考える。
「いえ、おそらく旦那様は話だけでは納得されません」
まぁ、そうだよな。あの親バカが話だけで決議に参加することを納得するはずが無い。
「……わかったわ、なら明日お父様に会いに屋敷に戻るから伝えておいてちょうだい」
優奈さんがアポを取る。
「承知しました。旦那様にお伝えしておきます」
魔使侍郎は一度帰ろうとした後立ち止まり、言う。
「旦那様はその力が本物か戦うことで見極めようとするでしょう。故に最低限、今のお嬢様たちに旦那様と戦う力があるのか確かめさせていただきます」
魔使侍郎から殺気が飛ばされる。
やはり来たか!
俺たちは臨戦態勢をとる。
「優奈さん、強化を!」
「【身体強化】!」
俺は体に魔力を通し、優奈さんの魔術でさらに強化される。
「行きなさいシャドー」
魔使侍郎の影から黒い何かが飛び出す。
影のような使い魔のシャドー、正面から来るか、それとも後ろか⁉︎
シャドーがこちらに近づく。
その時、咆哮が響く。
「Gruuuuaaaaa‼︎」
クロが主人に向けられる殺気を感知し、元のサイズに戻る。
そして七大魔家の当主クラスの魔力が放たれる。
「これは……⁉︎」
あまりの魔力に魔使侍郎は驚く。
「◾️◾️◾️◾️!」
シャドーは瞬時に対処優先度を変更。
クロの背後に影を通して移動し、攻撃を仕掛ける。
「待て、シャドー!」
魔使侍郎は慌ててシャドーを止めようとする。
しかし、一歩遅かった。
「Gruuuuaaaa!」
クロはシャドーが背後に出現したと同時に振り向き、シャドーを叩き潰す。
「◾️◾️◾️⁉︎」
あまりの速度にシャドーも影に逃げられなかったようで、地面にめり込んでしまっている。
「なんという戦闘力。お嬢様はいったい何と契約を……!」
クロの強さに魔使侍郎は戦慄する。
「これなら文句は無いでしょ、今日はもう帰ってお父様に伝えておいて」
「えぇ、承知しました」
なんとかシャドーは生きていたようで、起き上がった後魔使侍郎の影の中に溶け込んでいった。
「それでは私はこれにて……」
魔使侍郎もまた自身の影の中に消えていく。
「ごめんね祈闘さん、騒がせちゃって」
「いえ、私は構いませんが……」
「黒峰くんもごめんね、家の事情に巻き込んじゃって」
「大丈夫です。俺が先に巻き込んだようなものなので」
二周目でも操蛇さんと戦うことになりそうだが、クロがいれば百人力だ。前回よりは楽な戦いになるかもしれない。
ひとまず俺たちは話をするために家へと帰った。




