表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/41

第三十五話 薔薇は散れりど百合は散らず

俺たちと薔薇が呼び出した化け物との戦いが始まった。

 刀也が祈闘さんに呼びかける。

「祈闘さん、行きましょう!」

「はい!」

 俺と祈闘さんは同時に駆け出す。

 攻撃が通じるかはわからない。

 しかし、こいつを野放しにすればとんでもない被害が出る。

 それだけは避けなくては……!

 2人は一瞬にして化け物の側まで近づき、それぞれの技を繰り出す。

「【切断】!」

「【祈闘神楽・天の羽々矢】!」

 2人の攻撃が化け物に命中する。

 刀也の攻撃は化け物の体を二つ裂き、祈闘さんの攻撃は化け物の体を貫いた。

「なんだ?思ったよりも柔らかいぞ⁉︎」

 化け物は地面に横たわる。

 これで終わりか?薔薇は召喚を失敗していたのか?

 しかし、俺たちの淡い希望はすぐに打ち砕かれる。

「Gruuuuu」

 化け物は唸り声と共に体を再生し、起き上がる。

 そりゃあそうだ、おそらくこの化け物と同じ要素が入っているであろう黒峰刀也(おれ)の体が再生するのだからこいつが再生しないわけがない。

 刀也たちがもう一度攻撃を仕掛けようとした時、刀也が心の中で俺に語りかける。

「すまん、そろそろ入れ替わりの限界だ。あとは頼む」

 刀也がそう言うと体の主導権が入れ替わる。

 ここからは俺が戦うこととなった。

 だがしかし、どうするか。

 相手は再生する。その再生には限度があるのか、それとも何かコアのようなものを破壊しなければならないのか、検討もつかない。

 ともかく今は攻撃を続けるしかないか……!

「祈闘さん、もう一度攻撃を!」

 祈闘さんは頷き、もう一度攻撃を仕掛ける。

「おらぁっ!」「せいっ!」

 俺と祈闘さんの攻撃が命中するが今度は倒れすらせずに再生する。

「Gruaa!」

 化け物は再生しながらその長い尾で払いのけてくる。

「がっ⁉︎」

 俺と祈闘さんは吹き飛ばされ、住宅の塀にぶつかる。

 刀也が俺に語りかける。

「心也、魔眼を使えば何かわからないか?」

 それだ!魔眼を使えば何か見えるかもしれない。

 早速俺は眼鏡を外した。

 魔眼によって化け物の体を注視する。

 見えてきたのは魔力の奔流だった。

 あの化け物は肉体といったものを持たない。

 魔力の塊が意思を持って動いているようなものだった。

 つまり、コアのようなものを破壊すればいいというわけではないと言うことだ。

 魔力が尽きれば再生しなくなるだろう。

 しかし、それはいつだ?

 少なく見積もって当主クラス、下手をすればそれ以上の相手の魔力切れを狙うなど正気の沙汰ではない。

 確実に先にこちらがやられるだろう。周りの被害もかなり出るはずだ。

 いったいどうすれば……!

 考えていても仕方がない。

 正気の沙汰ではない?上等だ、どちらが先に力尽きるかの勝負だ!

「おおおおおお!」

 俺は雄叫びを上げながら化け物へと向かっていく。

 祈闘さんもまた俺に続いて攻撃を仕掛ける。

 切り、殴り、吹き飛ばされる。また切って、殴って、叩き潰される。

 勝ち目は無いかもしれない。

 それでも最後まで戦い続けてやる!



 化け物と戦いだしてからどれだけ経っただろう?

 十分?一時間?わからない。ただ一つ言えることは奴は未だ健在だった。

「がっ、はっ!」

 奴の攻撃によって俺はまた壁に叩きつけられる。

 幸いにしてまだ一般人は気づいていない。

 おそらく優奈さんが人払いの魔術を使ってくれたのだろう。

 怪我は治るので問題無い。しかし、魔力の方がそろそろまずい。

 祈闘さんの方も肩で息をしている。

 それなのに奴の魔力はまだ半分近くある。

 奴は戦っている最中にカウンターしかしてこなかった。

 戦いが苦手だからじゃない。遊んでいるんだ。今も「さぁ、打ってこい」と言わんばかりにこちらを見ている。

 どうにかして奴を倒す方法は無いのか……⁉︎

 その時、刀也が俺に語りかける。

「なぁ、あの化け物、倒すんじゃなくて、手懐けられないか?」

「は?」

 俺は思わず疑問を口に出してしまう。

 俺は刀也に尋ねる。

「手懐けるって、どうやってだよ⁉︎まさか、餌付けでもしようってのか⁉︎」

「おいおい、俺たちは誰の何だ?」

 誰の何って……、それゃあ優奈さんの……。

 そういうことか!

 刀也が満足気に頷いているように思う。

 俺は優奈さんに向かって叫ぶ。

「魔使さん、あいつと()()()()()()()()⁉︎」

「はい⁉︎」

 俺の提案に優奈さんは驚く。

「いやいや、契約って、魔術を使えってことでしょ⁉︎確かにあなたとは契約できたけど、あれはたまたまで……!」

 いいや、優奈さんならできるはずだ。ただの一欠片といえども、優奈さんは俺の中の化け物を手懐けている。

 それなら可能性が無いわけではないだろう。

「大丈夫です。あなたならきっとできる。俺たちができるだけ弱らせますからお願いします!」



 魔使優奈は悩む。あの化け物と契約なんてできるはずがない。

 だが、できなければ確実に被害が出る。

 それだけは絶対にダメだ。なら、やるしかないだろう。

 少女は覚悟を決める。

「……あぁもう!いいわ、やってやるわよ‼︎」


 俺は優奈さんの言葉を聞いて立ち上がる。

「祈闘さん、魔使さんが契約できる可能性を少しでも上げるために俺たちで奴を削ります」

「わかりました、もう少しだけ頑張るとしましょう」

 優奈さんが詠唱を開始する。

「私、魔使優奈は汝と契約を結び、汝の主となる。

 汝、我に従うか?」

 化け物の頭に紋章が刻まれ始める。

 しかし次の瞬間、ガラスの割れるような音を立てて紋章が消える。

「ぐっ⁉︎そう上手くはいかないわよね。……それでも、何度だって!」

 優奈さんがもう一度契約を始める。

「祈闘さん!」「はい!」

 俺たちは同時に攻撃を加える。

 化け物は煩わしそうに再生しながらこちらを攻撃する。

「どうした、契約に抗いながらだと戦いにくいか⁉︎」

 俺は化け物を挑発する。

「Gyaaaoooo!」

 初めて化け物があちらから仕掛けてきた。

「うおっ⁉︎」

 俺はなんとか攻撃を避ける。

「ぐっ⁉︎」

 優奈さんがまたもや契約を弾かれたようだ。

 しかし、先程よりも弾かれるまでの時間が長い。

 これなら……!

 

 俺たちは攻撃を続けた。

「【切断】!」「【須佐男(すさのお)ノ祓い】!」

「Gruuuuu⁉︎」

 俺たちの攻撃によって化け物の魔力も減ってきている。

 優奈さんが契約を試し始めてから奴の消耗も速くなっている気がする。

 このままいけば勝てる……!

 しかし、奴も馬鹿ではない。契約を弾いた瞬間に大きく打って出た。

「Gyuowaaaaaa‼︎」

「なっ⁉︎こいつ、魔力を溜め出した⁉︎」

 あれは薔薇の使っていた【龍の息吹(ドラゴン・ブレス)】にそっくりだ。

 だが、奴の場合、溜める魔力の桁が違う!

 あんなもん撃たれたらこの辺りが吹き飛ぶぞ!

 刀也が俺の中で叫ぶ。

「おい、あれはやばいぞ!絶対に止めろ‼︎」

 そんなことはわかっているが、どうすれば……⁉︎

 俺は一つの案を思いつく。

「魔使さん、強化を!」

「わかったわ、【瞬間強化】!」

 俺は一瞬にして化け物の頭に登る。

「魔使さんは契約を!」

「えぇ!」

 優奈さんがもう一度契約を結ぼうとする。

 俺はナイフにありったけの魔力を込めて強化する。

「Gaaaaaaaaaa‼︎」

 化け物がブレスを吐こうとする。

「やらせるか……よ‼︎」

 俺は奴の溜めた魔力にナイフを突き立てる。

 【魔切断(マジック・ディバイド)】の応用で魔力の放出を止める。

 もちろんこれは、ナイフが持つ限りかつ、俺か吹き飛ばされないという前提があるわけだが。

「ぐっ、こんの……!」

 今にも腕ごと体が吹き飛びそうだ。

 しかしブレスを放たせてしまえば多くの被害が出る。

 優奈さんが全力で契約しようとするが、化け物はブレスを放ちながら契約にも抗っている。

 体を覆う魔力が減る感覚がする。

 まずいな、そろそろ優奈さんの強化が解ける……!

 その時、俺の体に新たな強化が掛けられた。

「祈闘家の魔術は自分以外にも掛けられるんです」

「祈闘さん!」

 どうやらこの強化は祈闘さんが掛けてくれたようだ。

 優奈さんが叫ぶ。

「とっとと私に従いなさい‼︎」

 優奈さんから一際大きな魔力を感じた。

 次の瞬間辺りが強い光に包まれた。



 光が収まると化け物の頭に紋章が刻まれていて、大人しくなっていた。

 優奈さんが呟く。

「契約、でき……た?」

「Gruu」

 化け物は静かに返事をした。

「はぁー、死ぬかと思った」

 俺は地面に大の字になる。

 優奈さんや祈闘さんも地面に座り込んでいる。

 俺が死んでもリスポーンするだけとはいえ、できる限りは死にたくない。

 今回はどうにか死なずに済んだ。

「えぇと……、終わったんすか?」

 優奈さんの後ろで見ていた百合が尋ねる。

「あぁ、終わったよ」

 俺は起き上がりながら返事をする。

「兄さんが……、兄がご迷惑ををおかけしてごめんなさい!」

 唐突に百合が謝る。

「いやいや、お前が謝ることじゃないだろ!……それに、俺たちも薔薇を殺さずに止めることができなかった。お前の兄を殺してしまってすまない」

 俺は百合に対して頭を下げる。

「そんな、先輩こそ謝る必要は……!……そうっすね、謝る必要は無いっすね。……助けてくれてありがとうございました、先輩」

 百合がにこやかに微笑む。

 結局また薔薇を殺すことでしか止められなかった。

 しかし、今度は助けられた命もあった。

 今はその喜びを噛み締めよう。

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ