第三十四話 薔薇とナイフと大幣と
「刀也……、僕と戦うの……?」
薔薇が俺に尋ねる。
「……お前が、誰にも危害を加えないなら戦う必要は無い」
薔薇は僅かな間考えた後答える。
「そうだねぇ、できれば刀也とは戦いたくないけど、僕は君に近づく奴らを許すつもりはないよ」
「……なら戦うしかないな」
「黒峰くん(さん)!」
祈闘さんと優奈さんが合流する。
2人を見て薔薇が言う。
「祈闘に魔使……。なるほど、そういうことか。お父様から聞いてるよ、魔使の枠は当主じゃなかったって、娘の君が選ばれたんだね。僕みたいに」
「「っ⁉︎」」
薔薇の言葉を聞いて2人が驚く。
俺はすでに知っているが2人としてはやはり驚くべきことなのだろう。
「あの……いったいどういうことっすか?戦う?なんで⁉︎説明してください、兄さん!」
状況を飲み込めない百合が叫ぶ。
百合の叫びに薔薇が答える。
「百合、誰だって大切なものは誰にも取られたくないんだよ。お前は僕の大切なものに近づきすぎた。だからお前を殺そうとした。祈闘と魔使は別件だけど僕の敵であることは変わらない。僕は刀也以外みんな殺すつもりだよ」
「そんな……」
刀也が俺に語りかける。
「百合はほとんど一般人だ。一応魔術師の一族とはいえここから離した方がいい」
刀也の言葉を聞いて俺は百合に話しかける。
「百合、危ないから少し離れていてくれ」
百合は素直に俺の言うことを聞いて離れる。
薔薇が俺に話しかける。
「準備はいいかい?刀也」
「あぁ、始めよう」
薔薇が魔力を高める。
「【触腕】!」
薔薇が体中から触手を生やし、攻撃してくる。
「魔使さん、お願いします」
「【身体強化】」
俺の体が魔術によって強化され、迎撃の態勢をとる。
「我が信ずる神よ、畏み畏みお願い申す。どうか我に御身の加護を!」
祈闘さんが魔術によって身体能力を強化し、同じく迎撃の態勢をとる。
「はっ!」
俺と祈闘さんは向かってくる触手を全て迎撃する。
「これくらいは当然だよねっ!」
薔薇は触手を再生しつつ、祈闘さんに近いていく。
祈闘さんもまた薔薇を迎撃するために走り出す。
「【鱗甲】!」
薔薇は己が両手を鱗で包み、攻撃を仕掛ける。
「死ねっ!」
「無駄ですっ!」
「ぐっ⁉︎」
薔薇が強化された腕で祈闘さんに襲いかかるが祈闘さんに弾かれる。
「まだだよっ!」
薔薇は態勢を崩しながらも触手によって追撃を仕掛ける。
「させるかっ!」
しかしその触手は全て、俺によって切り払われる。
すかさず祈闘さんが薔薇を全力で殴打する。
「はぁっ!」
「ぐはっ⁉︎」
まともにくらった薔薇は何メートルも吹き飛んだ。
「ぐっ、やるね。なら、これはどうだい?」
薔薇は触手を再生し、さらに強化する。
「【触腕】+【鱗甲】、【鱗甲腕】!」
薔薇は触手に鱗を纏い、俺たちに仕掛けてくる。
「はぁっ!」「せいっ!」
俺たちは薔薇の強化された触手を切り、殴る。
「そんな……、強化された触手が……!」
触手を強化しても尚、容易く防がれたことに薔薇は思わず動揺する。
「祈闘さん!」
「はいっ!」
薔薇に隙ができたため、俺たちは一気に距離を詰める。
「だったら……!」
薔薇が大きく息を吸う。
「【煙幕】!」
「前がっ!」
薔薇が吐き出した煙によって俺たちの視界が塞がれる。
この場面で薔薇が行うとしたら2択!
煙の中での不意打ちか、空へ飛び上がって【龍の息吹】を使うか!
「祈闘さん、背中を合わせてください!」
ひとまず俺たちは薔薇の不意打ちを警戒する。
「残念だけど、そう馬鹿正直には突っ込まないよ」
突如風が吹き、煙が晴れる。
見ると、薔薇は背中から大きな翼を生やしていた。
まずい、ブレスの方だ!
薔薇が大きく飛び上がる。
「君たちは強い、だから、僕も全力で行く!」
薔薇の口の前に光球が生まれる。
刀也が俺の心の中で叫ぶ。
「おい!たとえ避けられてもあんなのが街中で放たれたら確実に犠牲が出るぞ!」
そうか!一周目で薔薇と戦った時は間界だったから周りを気にする必要が無かった。
けれど今は現実世界だ。避ければ周りに被害が及ぶ!
確実に止めなければならない……、なら!
「祈闘さん!挟み撃ちです!両側から飛び上がって薔薇を止めます!」
「わかりました!」
俺と祈闘さんは薔薇を挟み撃ちにすることで確実に止めようとする。
「魔使さん!強化を!」
「えぇ、【瞬間強化】!」
【瞬間強化】によって俺の体はさらに強化される。
「行きます!」
俺と祈闘さんは同時に走り出し、挟み撃ちにする。
「その程度、さらに飛べばいい!」
薔薇は魔力を溜めながら上昇する。
俺たちの攻撃は空振る。
だが――
「その対策は、もう知ってる!」
俺は薔薇の翼を目掛けてナイフを投げる。
「ぐっ⁉︎」
薔薇は翼を貫かれた痛みで魔力のコントロールに失敗し、溜めた魔力を爆発させてしまう。
そしてそのまま地面へと落下する。
俺と祈闘さんは難なく着地し、ボロボロになった薔薇を見据える。
「はぁ、はぁ。まさか……ここまで力の差があるとはね……。ちょっと勝てそうにないや……」
俺は薔薇へ止めを刺すために近づいていく。
「待った」
刀也が俺に語りかける。
「今度は俺にやらせてくれ。薔薇がこんなことをするようになったのは俺のせいでもある。今度は俺の手でケジメをつけたい」
俺は刀也に反論する。
「薔薇がお前に極端な思いを持つようになったのはあいつの性格のせいだろう⁉︎そりゃあ、お前が薔薇を助けなかったら薔薇はこうはならなかったかもしれないけど、お前は悪くないだろ!」
刀也が悲しげに答える。
「まぁ、俺だってあの時の行動を間違っていたとは思っていない。けれど、あいつの執着の一因は確かに俺にあるんだ。ずっと側にいたのにあいつの心の内まで見えていなかったからな……」
俺は刀也の言葉を聞き、刀也の思いを汲むことにした。
「分かった。止めはお前に任せる」
「ありがとう……」
体の主導権が入れ替わる。
薔薇に近いて行く刀也に俺は一言警告する。
「薔薇が麻痺毒を打ってくるかもしれないから気をつけろ」
「あぁ、俺もそれは知っている」
薔薇の目の前まで来た刀也は薔薇に話しかける。
「薔薇、俺たちの勝ちだ」
「あぁ、そうだねぇ。君1人ならなんとかなったかもしれないけど、祈闘家の当主までいたらどうしようもないや」
「薔薇……、俺はお前が思っているほど特別な人間じゃない。普通に笑うし、普通に失敗するし、普通に恋をしたりする……。そんな、普通の人間なんだ。お前もそれは分かっていたはずだろう?なのになんで、こんなことを……」
刀也の質問に薔薇は答える。
「確かに、僕も君は普通の人間だって分かってた。それでも君は僕にとってのヒーローだったんだ。どこにも行ってほしくない、誰のものにもなってほしくない。……そう思ったから僕は百合を殺そうとしたんだ」
薔薇の答えを聞いて刀也は決意を固める。
「ならやっぱり、お前は殺さなくちゃいけない。その危険な憧憬を止められないなら俺がお前を殺さなくちゃならない」
刀也の言葉を聞いて薔薇は笑う。
「ふふっ、君になら殺されるのも悪くない。……けれど、泥棒猫たちだけは始末しなくちゃね」
薔薇の魔力が急激に高まる。
「お前、まだっ!」
刀也が慌てて薔薇に止めを刺そうとする。
しかし薔薇は腕でナイフを受けて腕を切り離すことで距離をとる。
「僕じゃまだコントールすることはできないからできれば使いたくなかったけど、この戦力差はひっくり返しようがなさそうだからね」
刀也が祈闘さんに向かって叫ぶ。
「祈闘さん!薔薇を止めます。挟み撃ちを!」
刀也と祈闘さんが同時に駆け出す。
しかし、彼らは一手遅かった。
「術木家秘奥……、【禁忌召喚】」
薔薇が魔術の名を呟いた。
薔薇の背後に大きな黒い渦が湧き起こる。
「Gruuuuuuaaaaaaa‼︎」
黒い渦から大きな咆哮と共に魔力が迸る。
「何ですか、この魔力は⁉︎」
七大魔家の当主クラス。いや、下手をすればそれ以上の魔力を感知し、俺たちは驚く。
薔薇が魔術の説明をする。
「術木家の秘奥、【禁忌召喚】は術木家が禁忌の魔物と呼ぶ異なる世界に居ると言う、名も無き存在を呼び出す魔術だ。その存在は強大で七大魔家の当主すら遥かに凌駕する!……まぁ、僕の実力じゃ、せいぜい20%くらいしか呼び出せないけどね」
黒い渦の中から闇が這い出る。
その体は吸い込まれるような漆黒で、固体とも液体とも判別のつかない独特な質感をしていた。
その形は龍のようで、魔使操蛇が操る水蛇を思い出させた。
俺は心の中で刀也に語りかける。
「おい刀也、明らかにアレはやばいぞ!渦を【魔切断】で切ればどうにか返せないか⁉︎」
「……いや、おそらく無理だ。あの魔術はあくまであの化け物を呼び出す魔術だ。すでにあの化け物がここにいる以上渦を切っても意味は無いだろう」
化け物の体が完全に渦から出てきた。
先程も思ったがあの化け物は10年前の決議で刀也が見たあの化け物に似ている。と言うか瓜二つなのでおそらく同じ存在だろう。
薔薇が20%程しか呼び出せないと言っていたので10年前のよりは弱体化しているのだろうが、それでもあの七大魔家の当主6人と戦って尚犠牲者を出させた化け物だ。
舐めてかかれる相手じゃない。
そんなことを考えていると薔薇が悲しげな表情で呟く。
「じゃあね刀也、君だけは死なないでね」
「は?何を言って……」
次の瞬間、化け物がその手で薔薇を押し潰した。
術木薔薇と言う人間の形は跡形も無く消え去り、そこには赤いシミと汚れた学ランだけが残された。
「なんで……?」
刀也が思わず疑問を口にする。
「兄さん!」
「ちょっと、危ないから離れてなさい!」
後ろでは飛び出しかけた百合を優奈さんが制止している。
薔薇自身が呼び出したはずなのになぜ化け物は薔薇を襲った⁉︎
……いやまて、確か薔薇はコントロールできないと言った。
それはつまり、薔薇自身、あの化け物を呼び出せば真っ先に自分が殺されると分かっていて尚呼び出したのか⁉︎
まずいぞ、召喚者ですら即座に殺すような化け物を野放しにはできない。
ここで食い止めなくては……!
刀也が叫ぶ。
「祈闘さん、魔使さん!あの化け物は危険だ、ここで止めます!」
「はい!」「やるしかないか……!」
「Gyaoooo!」
化け物がこちらを見て次はお前たちだとばかりに吠える。
第二ラウンドが始まった。
術木家の秘奥 【禁忌召喚】この世界(ゲーム、ノクス・マギアの世界)とは異なる世界に住む名もなき魔獣を呼び出す魔術。呼び出される魔獣の強さ、及びコントロールできるかは術者の能力による。




