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番外編 5月10日

これは物語が始まる前の話、日本魔術組合魔術長決議が始まった日の話である。


 

 三重県伊勢市のとある場所

 『選定の部屋』と呼ばれる場所で1人の老人が佇んでいた。

「時刻は21時45分、集合時刻の15分前ですか、じきに当主の皆様方が集まりだす頃合いですね」

 その時、老人だけがいた部屋に来客が来る。

「やはりまだ誰も来ていませんでしたか」

 巫女装束に身を包み、長い黒髪を後ろで二つに縛った少女、祈闘家当主の祈闘守杜である。

 老人が言う。

「えぇ、祈闘様が一番乗りでございます。何分、他の皆様は遠方からいらっしゃるので」

 老人は平安の世に生み出されて以来、全ての決議を見届けてきたが、大抵近畿地方担当の祈闘家が一番に着き、その後他の当主が到着することがほとんどだった。

 そしてまた次の来客が来る。

「四元はともかく、祈闘以外の奴らはまだ来ていないのか?」

 白のスーツに身を包み、白髪混じりの黒髪をオールバックにした壮年の男、魔使家当主の魔使操蛇である。

 北海道地方担当故に飛行機に乗って来た操蛇は二番目に部屋に着いた。

 祈闘が操蛇に挨拶をする。

「お久しぶりです、魔使殿」

「あぁ、祈闘殿も元気だったか?私にはあなたくらいの娘がいるからな。心配だったのだ」

 この時はまだ自身の娘と仲違いを続けている操蛇は親しみと寂しさの混じった顔を祈闘に向ける。

「少ししんみりしすぎじゃない?僕が何かやろうか?」

 突然、1人の男が現れる。

 男はまるでマジシャンのような格好をして、道化師のような化粧をしている杖を持った男であった。

 中国・四国地方担当、刻家の当主、刻 印である。

 刻の提案に操蛇が答える。

「結構だ。じきに時間だ真面目にしていろ」

「つれないなぁ。祈闘殿はどう?新作のマジックがあるんだけど」

「えぇと、私は別に……」

 当主になってから日が浅い祈闘はどう断ろうかと困り果てる。

 その時会話を遮る声がする。

「全く、揃いも揃ってお遊び気分か?いいご身分だな、祈闘守杜」

 黒色の狩衣を着て被り物によって顔を隠した男。

 東北地方担当の呪禍家当主、呪禍桔梗であった。

「相も変わらず暢気な様子だな、どうやら余程当主としての自信があるらしい」

 挑発をする呪禍に対して祈闘が答える。

「そちらも相変わらず陰気そうな気配ですね。そんな被り物をしているから性格も陰気になるんじゃないですか?」

 今にも喧嘩を始めそうな2人を操蛇が諌める。

「おい、やめておけ!もうじき時間だ」

 ひとまず2人は喧嘩を止める。

「ふん、いいさ。決議で決着をつけることにしよう。まぁ、お前が候補者になれるのならばの話だがな」

 そう言って呪禍は3人から少し離れた所へ移動する。

 操蛇がため息を吐く。

「まったく、これから決議を始めるというのに何をしているのか」

 操蛇の嘆きを新たな客が答える。

「これから俺たちが始めるのは殺し合いなのだから別に構わない。そうだろう、四元?」

 客は2人であった。

 1人は白い狩衣を着て、星空のような不思議な髪をした若者。

 もう1人はシルバーのベストの上に黒のスーツを着て、メガネをかけた男である。

 若者は関東地方担当の星詠家当主、星詠未来である。

 そしてスーツを着た男は九州地方担当の四元家当主、四元学人である。

 星詠の言葉に四元が答える。

「決議を始める時くらいは静かにしてもらいたいものだがな」

「ふん、お前はお前で真面目だな。人は年を取るとそうなるのか?」

 すでに6人の七大魔家当主が揃った。しかし、最後の1人は未だ現れない。

 集合時刻まで残り5分を切っていた。

 操蛇が声を荒げる。

「術木の奴はまだ来ないのか⁉︎あいつの担当エリアは中部だろう⁉︎何をしているのだ⁉︎」

 時刻が10時丁度になった時、最後の1人が現れた。

 白衣に身を包み、腰ほどまで伸ばした金髪を垂れ流している美麗な男であった。

 名を術木萄越(とうえつ)。術木家の現当主である。

 操蛇が萄越に怒る。

「術木!ギリギリだぞ!何をしていた!」

 萄越は何故操蛇が怒っているのかわからず、質問する。

「集合時刻丁度だ。何も問題無いのではないか?」

「七大魔家の当主であるなら節度を持った行動をしろと言うのだ‼︎」

 さらに声量を上げる操蛇に対して萄越は静かに返す。

「実験に思いの外時間がかかったのだからしょうがないだろう」

「ッ‼︎……」

 操蛇がさらに怒りかけたその時、老人が間に入る。

「皆様時間になりましたので決議を始めることにしましょう」

 老人の言葉によって操蛇は冷静になる。

「……はぁ。もういい、位置に着くぞ」

 全ての当主が魔道具を取り囲むオブジェの位置に着く。

 魔道具を取り囲む当主たちから少し離れた所にいる老人が話し始める。

「これより、第100回日本魔術組合魔術長決議を始めます。皆様、承認をお願いします」

 祈闘が

「承認します」

 操蛇が

「承認する」

 刻が

「承認する」

 呪禍が

「承認しよう」

 四元が

「承認する」

 星詠が

「承認する」

 術木が

「承認する……」

 当主たちが承認するたびに承認した当主の前のオブジェが光を放つ。

 そして最後の術木が承認した時、光が魔道具に集まり、一際強い光を放つ。

 そして候補者の右手に印が刻まれる。

 突如、操蛇が叫ぶ。

「何故だ‼︎何故、私の手に印が刻まれない⁉︎」

 従来であれば候補者には全て七大魔家の当主が選ばれる。

 しかし、この決議では2人の当主が候補者から外されることとなった。

 叫ぶ操蛇を見て星詠が笑う。

「おい四元、どうやら星詠が候補者になれなかったようだぞ!何かが起きるとはわかっていたがよもやこのようなことが起きるとは!これでは術木のことをとやかく言えんな」

 話題にされている当の萄越は自身の右手を黙って見続けていた。

 そんな萄越を見て呪禍が尋ねる。

「おい術木、じっと右手を見ているがどうした?」

 その時呪禍は萄越の右手に何も刻まれていないことに気づく。

「術木、まさかお前も……⁉︎」

 呪禍の言葉を聞き、他の全ての当主たちも驚く。

 何故なら歴代の決議で1人の当主が候補者から外れることはあっても、2人も外れることは今まで無かったからだ。

 候補者には魔道具が三重県内の魔術師の情報を読み取り、その中から魔術長に相応しい()()を持った人間を選ばれる。

 その才能は魔力量であったり、魔術の強さであったり様々である。

 つまりこの時、魔道具は県内に七大魔家の当主以上の才能を持つ人間が2人もいると判断したのである。

 操蛇は呟く。

「誰だ?誰が候補者に選ばれた?まさか……、いやありえない。いやしかし……!悪いが急用ができた。すぐに帰らせてもらう!」

 そう言って操蛇は部屋を後にする。

 呪禍が萄越に話しかける。

「術木、まさかお前も候補者から外れるとはな」

 呪禍の言葉に萄越は静かに答える。

「別に、魔道具がそう判断したのならばそれでいい。私は帰って研究の続きをする」

 萄越もまた部屋を後にする。

「じゃあ僕も、もう帰るとするよ」

 刻が続けて部屋を出る。

「なら私も帰るか」

 刻と同時に呪禍も部屋を出る。

「おい四元、お前はこの決議どう思う?実に面白くなりそうじゃないか?」

 星詠が歩き出しながら四元に尋ねる。

「別にどうということはない。誰が相手でも戦って勝つだけだ」

「そうだな、誰が相手でも勝つだけだ。それが魔術師というものなのだからな」

 星詠と四元もまた部屋を出て行った。

 最後に残された祈闘は呟く。

「今回の決議もまたひどく荒れそうですね。……それでも、私は優勝して祈闘家を再興させなければ……」

 そう言って祈闘が部屋を出て行った。



 時は少し遡り、候補者が選ばれた頃。

 魔使家の別邸

「なっ、何⁉︎この紋章⁉︎」

 別邸で過ごしていた魔使優奈の右手に突如として謎の光と共に候補者の印である太陽の紋章が刻まれていた。

「まさかこの紋章って……!」

 優奈はすぐにこの紋章が日魔長決議の候補者の証であることに思い当たる。

 そして、自身を父に認めさせるための計画を企てることになる。


 術木家別邸

「何この紋章?」

 部屋で過ごしていた術木薔薇の右手にもまた、候補者の証が刻まれる。

「この紋章って……!なるほどね、まぁどうでもいいか」

 薔薇は自身が決議の候補者に選ばれたことから一瞬にして興味を無くす。

「そんなことよりも、最近また刀也に近づく奴が湧いてきたみたいなんだよねぇ。どうしようかなぁ」

 彼はまだ知らない、後に自身と自身の愛する者の仲を自身の手で引き裂くことになることを。


 黒峰家

 1人の少年が部屋の窓から外を見る。

「なんか雲行きが怪しいな、明日は雨か?」

 彼はまだ知らない、自身の肉体が奪われることを。

 新たな出会い、そして夜の世界の大きな争いに巻き込まれることを。


 世界(ものがたり)は未だ始まってすらいない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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