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第二十九話 ルートクリア

三重県伊勢市のとある場所

 俺たちは日魔長決議の始まりの場所、魔道具が設置されている場所に来ていた。

「ここに魔道具が設置されている部屋への入り口があるって聞いて来たんだけどなぁ」

 何の変哲も無いただの住宅街、そこには小さな神社がぽつんと置かれていた。

「お父様が行けばわかるって言っていたけど……」

 優奈さんにもどうやって部屋に行けばいいのかわからないようだ。

「お待ちしておりました。魔使優奈様」

 その時、俺たちの背後から声がする。

「「っ⁉︎」」

 俺たちは咄嗟に距離をとりながら後ろを振り向く。

 そこには執事服を着た小さな老人がいた。

(わたくし)は《代弁者》、あるいは《選定者》と呼ばれる者です。以後、お見知り置きを」

 代弁者、あるいは選定者?こいつ一体何者だ?

 明らかに怪しい、しかもよく見ればこいつの体全体がうっすらと透けているように見える。

「お前、人間じゃないな」

 俺は老人に尋ねる。

「えっ⁉︎そうなの⁉︎」

 優奈さんは俺の言葉に驚いているようだ。

 すると老人も僅かに驚いたような顔をして言う。

「いやはや、私の素性を知らずに即座に見抜きますか。他の方々には完璧に人間に見えているはずなのですが、どうやらあなたは特殊な眼をしているらしい」

 どうやら他の人には完璧に人間に見えているが俺にだけ薄く見えているようだ。

 魔眼の効果だろうか?

 老人が説明を始める。

「さて、魔使様。……いえ、ここは優奈様とお呼びしましょうか。優奈様には魔術長を継いでもらうために『選定の部屋』にご案内します」

 そこが魔道具のある部屋なのだろうか?と言うかこの老人はそこへの行き方を知っているようだが一体どうやって行くのだろうか?

 老人が説明を続ける。

「優奈様はこの神社の本殿の扉にお触れください。そうすれば『選定の部屋』に飛ばされます」

 俺はその説明を聞き、老人に尋ねる。

「ちょっと待ってくれ、優奈さんはそれで行けるかもしれないが俺はどう行けばいい?それとも、俺も本殿に触れれば部屋に行けるのか?」

 老人が俺の質問に答える。

「あなた様は優奈様の使い魔であられる様子。ならば、優奈様が部屋に飛ぶときにご一緒に飛ばされます。なので、ご安心ください」

 どうやら使い魔は主人と一緒に部屋に飛ばされるようだ。

 まぁ、魔使家も参加するのだから当然と言えば当然だろう。

「それじゃあ、触れるわね」

 優奈さんが神社の本殿の前まで歩き、本殿に触れる。

 その瞬間、一瞬目の前が白くなり、気づけば見知らぬ部屋に飛ばされていた。

「ここが……『選定の部屋』?」

 広さは学校の教室程だろうか?

 部屋は暗く、真ん中にぽつんと置かれている、円柱の上に杯のような物が浮いているオブジェのあたりだけが明るくなっている。

 オブジェの周りには胸のあたり程の高さの円柱が七つあり、そのうちの一つに候補者の右手に現れる紋章が浮かんでいた。

 もしかしてこの円柱は候補者の残りの人数を表しているのだろうか?

 老人が俺たちの目の前に歩き出て言う。

「改めて自己紹介をしましょう。私は魔道具の頭脳体であり、候補者の皆様方と意思疎通をするために生み出された架空の存在。《代弁者》または《選定者》と呼ばれている者でございます」

 なるほど、この老人が突然俺たちの背後に現れたり、俺の眼に薄くなって見えていたのも魔道具が生み出した幻影、ホログラムのような存在だからだったのか。

 老人が優奈さんに向けて言う。

「それでは優奈様、魔術長継承の儀を執り行いますので、御手を魔道具にお翳しください」

「えぇ、わかったわ」

 優奈さんが進み出し魔道具に手を翳す。

 魔道具を挟んで優奈さんの向かい側にいる老人が言う。

「候補者、魔使優奈。汝を第100代目魔術長に任命する」

 優奈さんが応える。

「心より承ります」

 すると魔道具が強く光りだす。

「くっ……何も見えない……!」

 あまりの光に俺は何も見えなくなる。

 少しすると光がおさまった。

 老人が言う。

「これにより、第100回日本魔術組合魔術長決議を終了いたします」

「これが……私の魔力……⁉︎」

 光がおさまった後の優奈さんは魔道具から大量の魔力を注ぎ込まれ、とてつもない魔力量になっていた。

 老人が優奈さんに歩み寄り言う。

「優奈様、魔術長の特権や仕事については追って知らせます。今日はもうお休みください」

 優奈さんが老人に尋ねる。

「えっーと、どうやって帰れば……」

 確かに、ここには入り口のような物は見当たらない。

 これでは帰るに帰れない。

 老人が優奈さんの質問に答える。

「あなた様が帰還を望めば私が元の場所に戻します。お帰りになられますか?」

 優奈さんが答える。

「えぇ、帰るわ」

「それでは」

 老人がその指をパチンと鳴らす。

 瞬間、ここに来た時のように目の前が真っ白になる。

 気づけば、俺たちはあの小さな神社の前に立っていた。

「それじゃあ、帰りましょうか」

 優奈さんがあの日、操蛇さんと戦った日のように手を差し出す。

 優奈さんは決議に優勝し、魔術長となった。

 俺はこれから彼女の唯一の使い魔として彼女を支えていく。

 この選択に悔いは無い。

 今日と同じく、帰りましょう、と言った優奈さんの手を取ったあの日から俺は彼女を守ると誓ったのだから。

「はい、帰りましょう」

 俺は笑顔で差し出した優奈さんの手をとった。

 次の瞬間、景色が一変する。



 俺の目に映るその景色はすでに何度も見たあの教室。

 ナビ子のいるリスポーンするための部屋だった。

 突如、どこかで聞いたことがあるような機械的な音声が鳴り響く。

「おめでとうございます。使い魔(サーヴァント)ルートをクリアしました」

 俺の目の前にシステムウィンドウのようなものが現れる。

 そこには今鳴り響いた音声と同じ文言が書かれていた。

 「は?」

 俺は突然の出来事にただ疑問を口にすることしかできない。

 しかし俺の疑問の言葉は虚しく宙に溶けていった。



 

 

 

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