第二十四話 決戦前夜
作戦会議が終わってすぐ、優奈さんは屋敷に戻って行った。
まぁ、操蛇さんに鍛えられるなら確実に強くなれるだろう。
「よし、俺も修行するか」
決戦まで、残り一週間、俺も父さんの元で修行することにした。
黒峰流の歩法からナイフを使った型など様々なことを学んだ。
また、魔術を組み合わせた新たな型も開発した。
こうして俺の一週間は瞬く間に過ぎ去っていった。
今日は6月5日、星詠との決戦前夜である。
優奈さんもこちらに合流した。
俺の部屋で優奈さんと2人きりで話をすることになった。
姉さんの目がとてもお節介な目をしていたが気にしないことにする。
俺の部屋に入ってすぐに優奈さんが話し始める。
「明日でとうとう終わるのね」
俺は優奈さんの言葉に頷く。
「そうですね、これで全ての戦いが終わります」
決戦が終わったからと言って魔獣が消えるわけではない。
魔術師としての戦いはまだ続いていく。
それでも大きな区切りであることには間違いない。
優奈さんが話を続ける。
「本当に色々あったわ。あなたと契約して、決議に参加して、お父様と戦ったり、新しい友達ができたりもした」
友達……、きっと祈闘さんのことだろう。
祈闘さんの分も最後まで戦って優勝したい。
俺はまた思いを強くする。
優奈さんが俺の目を見つめながら言う。
「あなたは大袈裟だって言うかもしれないけれど、私、あなたに会えて本当に救われたわ」
真っ直ぐに感謝を伝えられるとなんだかむず痒い。
それでもこれだけは言っておこう。
「じゃあ、どういたしまして、ということで」
優奈さんが俺に質問する。
「ねぇ、あなたは決議が終わったらどうするの?」
決議が終わったら……、どうしようか。
おそらく本来のゲームのストーリーなら決議が終わればこの物語も終わるのだろう。
しかし、ここは現実だ。
物語が終わっても俺の人生は続いていく。
進学したり、道場を継いだり、魔術師になるのもいいかもしれない。
だが同時にこうも思う。
ひょっとしたらこの世界は俺が死に際に見ている夢で次の瞬間には儚く消え去ってしまうのではないかと。
もしそうなら決議が終わればこの世界も終わってしまうのかもしれない。
だから俺は優奈さんの問いに答えることができない。
俺が黙っていると優奈さんが言う。
「もしあなたが良ければ……、いえ、これは決議が終わってから聞くことにしましょう。勝つのか負けるのか、死ぬのか生きるのかさえ分からないんだから」
どうやら優奈さんを俺を何かに誘おうとしているらしい。
だが優奈さんの言う通り明日俺たちはどうなるのか分からないのだから今未来のことを言っても仕方がないだろう。
俺は時計を見る。
すでに時刻は0時を過ぎている。
俺は優奈さんに話しかける。
「もう遅いですし、明日に備えて寝ましょう」
「そうね。おやすみ黒峰くん」
優奈さんは自分の部屋に戻って行った。
俺もベッドに入って寝ることにする。
俺の意識は微睡の中に落ちていった。
翌日
俺たちは準備をして伊勢神宮に出かける。
電車を使えばすぐだ。
伊勢神宮近くに着いた後俺たちは間界へと入って行く。
決戦の日だが間界はいつもと変わらず赤黒く不気味な雰囲気を醸し出している。
間界の建物は基本的に表の世界と変わらない。
ただ人の代わりに魔獣が蔓延っているだけだ。
時刻は正午10分前、時間通りに間界の伊勢神宮に到着する。
「来たか」
伊勢神宮の本社の前には1人の男がいた。
白い狩衣に身を包み、星空のような髪をした男。
星詠家当主、星詠未来だ。
星詠が言う。
「来るのはわかっていたがそれでも逃げずに来たことは褒めてやろう」
前にも思ったがこいつの態度は少し偉そうに思う。
自分への絶対の自信がそうさせるのかはわからないが、ともかく偉そうな奴だ。
俺はずっと疑問に思っていたことを星詠に尋ねる。
「なぁ、なんでここを決闘場にしたんだ?」
星詠が俺の疑問に答える。
「あぁ、そのことか。そうだな、まずは元々日魔長決議が御前試合の形式をとっていたことは知っているか?」
初めて聞く話だ。俺は優奈さんに確認する。
「そうなんですか、優奈さん?」
優奈さんが答える。
「えぇ、そうよ。平安時代に魔術師が増えてきたことで統率者が必要になって当時大きな勢力を誇っていた七つの魔術家が取り仕切って伊勢神宮の前で日本の魔術師の頂点を決める御前試合を行った。それが決議の始まり」
星詠が優奈さんの説明に感嘆する。
「ほぉ、よく知っているな。そうだ、元々決議は御前試合の形式だった。故にこそ今なおこの三重の地で決議は行われている。どうだ?これほどまでに決戦に向いた土地はないだろう?」
なるほど、確かにそう聞くと最も相応しい土地だと思う。
そして俺はもう一つ気になっていたことを星詠に尋ねる。
「なぁ、最後にもう一ついいか?」
「なんだ」
星詠が少し不機嫌そうに答える。
「お前はどうして強さに固執するんだ」
「ッ⁉︎」
その質問をした時星詠が驚愕の表情を浮かべる。
「誰から聞いた……!いや、そうか魔使か。あの蛇め、いらんことを喋りおって」
星詠は一息ついた後に答える。
「死にたくないからだ」
「は?」
死にたくないから強くなりたい?
確かに矛盾はしていないがならなんで魔術師なんかになっているんだ?
星詠が説明を続ける。
「人は簡単に死んでしまう。魔力によって強靭な肉体を得ることができる魔術師でさえだ。だから俺は鍛える。鍛えて鍛えてこの世の如何なる物であろうと俺を傷つけられないほどに強くなる。そのために俺は強くなりたいのだ。決議で優勝するのも強くなるための方法の一つだ」
決議で優勝することで強くなる?
いったいどういうことだ?
優奈さんが星詠に反論する。
「決議で優勝したって権力を得ることはできても強くなることはできないはずよ」
優奈さんの言葉に星詠が答える。
「ん?あぁ、そうかお前たちは決議に参加するのは初めてだったな。ならば教えてやろう。決議の優勝者は魔術長になる。だけではない」
「「っ⁉︎」」
俺と優奈さんは思わず驚く。
決議の優勝者は魔術長になるだけではない?
ならいったい何があると言うんだ。
星詠が説明を続ける。
「決議の候補者は七大魔家総出で作られたある魔道具によって決められる。そして決議の期間中に候補者が魔術に使用した魔力は空気中に散るのではなく魔道具に集められる」
魔道具?そんな物で候補者を決めていたのか?
優奈さんが星詠の言葉を補足する。
「お父様に聞いたことがあるわ。平安時代に決議が始まった時に当時の七大魔家が作り出した魔術を刻まれた道具、魔道具があるって」
「そうだ、そして決議中に魔道具に集められた魔力は決議終了後に優勝者に還元される」
「なんだって⁉︎」
還元⁉︎そんなことが可能なのか⁉︎いや、たとえできたとしても一時的な物じゃないのか?
「信じられないか?まぁ、無理もない。しかし、こうも考えられないか?なぜ決議の有効範囲はこの三重の地のみなのか、なぜ決議の参加者は皆その右手に魔力による印が刻まれるのか。魔道具はこの三重の地脈と繋がり県全体を掌握している。そして参加者に魔力によるマーキングをすることで魔術を発動した時に魔力を回収できるようにする。これらの能力によって魔道具は膨大な魔力を集め、決議によって決まったその時最も優秀な魔術師をさらに強化することで絶対的なリーダーを生み出すことができる。この話は当主以外には知らせることを禁じられている。できもしないのに決議の参加権を奪おうとする輩が出てくるからな。俺は決議で優勝することでさらに強くなる。ならば、強化に使われる魔力はできるだけ多い方がいい。だから……」
星詠が気迫が増大する。
「その命の全てを振り絞って戦え踏み台ども」
俺たちの最後の戦いが始まる。




