第二十三話 未来強襲
俺は父さんと修行をする約束をした翌日、早速修行を開始することにした。
道場に来た俺に父さんが言う。
「よし、じゃあまずは型を思い出すとしよう。お前は一度全ての型を修めているはずだからな、動いていけば自然と思い出すさ」
父親が師範なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、黒峰刀也は黒峰家が教える型を全て修めていたらしい。
さて、自分にできるだろうか?
ひとまずやってみるとしよう。
父さんが言う。
「黒峰家の流派、黒峰流は自分が持つ得物と体を一体化させて振るう流派だ。まずは基本的な歩法からやっていくとしよう」
黒峰流は武器と体を一体として振るう流派なのか、もしかしたら俺がナイフを体の延長として魔力を流すイメージから離れられないのは体に流派が染み付いているからなのかもしれない。
父さんが説明を続ける。
「今お前が使っているのはナイフだったな。まぁ、お前の魔術の効果を考えれば悪くない選択だ。ナイフを使った歩法なら……こうだな」
父さんが瞬時に姿勢を低くして這うように走る。
油断していた俺は父さんを目で捉えることができない。
首筋に手が当たる。
「どうだ、理解できたか?」
完璧に捉えられたわけではないので少しあやふやだが、なんとなく理解できた気がする。
ひとまずやってみることにする。
俺は姿勢を低くして這うように走ろうとする。
その時、体が勝手に動きだす。
父さんが呟く。
「なんだ、やればできるじゃないか」
やはり、体は覚えているようだ。
型の動きをしようとした瞬間、記憶が流れ込み、体が動いた。
これならば型をすぐさま習得できるかもしれない。
感心した父さんが次の型を教えようとする。
「さて、次の型だが……⁉︎誰だ⁉︎」
父さんが道場の入り口を見る。
俺も一瞬感じたが何か大きな魔力を感じた。
「さすが……と言っておこうか」
1人の男が道場に入ってくる。
呪禍桔梗に似た服装、おそらく狩衣だ。
しかし、呪禍とは違い狩衣は白色のものである。
だが何よりもその髪が特徴的だった。
一見すると黒髪にラメをまぶしたような見た目だが、よく見ると満天の星空のような見た目をしている。
父さんが男に尋ねる。
「どうやって入ってきた」
そうだ、家には優奈さんも姉さんもいたはずだ。
道場は塀で囲まれた家の敷地内にあるので乗り越えたりすれば普通は気づくはずだが……。
父さんの疑問に男が答える。
「別に、気づかれないタイミングで入って来ただけだ。どうということはない」
気づかれないタイミング?
2人は家の中にいたはずだ。
家の外からタイミングを伺うことはできないはずなのだが、そういう魔術でも持っているのだろうか?
俺がそんなことを考えていると男が話し始める。
「おっと、自己紹介が遅れたな。俺の名は星詠未来、星詠家の当主にして、決議の候補者の1人だ」
星詠!最後の候補者……!
居場所がわからなかったがまさか相手の方から来るとは。
しかしまずいぞ。こちらはまだ戦う準備などできていない。
完全に不意を突かれた状態だ。
俺が星詠を睨んでいると星詠が話す。
「まぁそう睨むな。別に今日は戦いにきたわけではない。今日俺は宣戦布告をしに来たのだ」
俺は言葉がうまく飲み込めず疑問を口にする。
「宣戦……布告?」
星詠が答える。
「日時は一週間後、6月6日の正午!間界、伊勢神宮前での決闘だ」
星詠は一拍置いて言う。
「思う存分死合おうか」
星詠から大きな魔力が放たれる。
俺と父さんはその魔力に思わず後退りしてしまう。
こいつの魔力、量は四元学人よりは少ないがそれでもかなりの量だ。
「2人ともっ、何かあったの⁉︎」
星詠の魔力を感じたようで優奈さんと姉さんが駆けつける。
「あなたは……!」
優奈さんは星詠を見て驚く。
「おぉ、確か魔使のところの娘か。決戦の場所や日時はお前の使い魔に話した。じゃあな」
優奈さんに簡単な挨拶だけして星詠は立ち去ろうとする。
しかし、何かを思い出したようで立ち止まる。
「あぁ、そうだ言い忘れるところだった。呪禍桔梗はすでに俺が殺しておいてある。気兼ねなく俺との戦いに集中するがいい」
その言葉に俺たちは驚く。
星詠が立ち去ろうとする。
「まっ……!」
俺は咄嗟に声をかけようとしたが星詠はそのまま立ち去ってしまった。
ともかく、作戦を立てなければ。
星詠の襲来から少し経った。
俺たちはひとまず作戦会議をすることになった。
優奈さんが最初に口を開いた。
「作戦会議をするにあたって助っ人を呼んでおいたわ」
俺が優奈さんに尋ねる。
「助っ人?」
その時家のチャイムが鳴る。
「ちょうど来たようね」
優奈さんが玄関の方に行く。
そして助っ人を連れて来た。
「あなたは……!」
俺はその助っ人を見て驚く。
白のスーツに身を包み、白髪混じりの黒髪をオールバックにしている壮年の男性。
優奈さんの父にして魔使家当主である魔使操蛇だった。
なるほど、確かに彼なら星詠未来にも詳しいはずだ。
操蛇さんが座り、話し始める。
「優奈から聞いたぞ、一週間後に戦うらしいな」
俺はその言葉に答える。
「はい、なので星詠未来の能力などについて知ってることを教えてくれませんか」
操蛇さんが俺の要望に答える。
「星詠家の魔術は特殊でな、ある意味で二つの魔術を持っている。」
二つ⁉︎星詠は二つの魔術を持っているのか⁉︎そんなことが可能なのか⁉︎
操蛇さんが能力を説明し始める。
「一つは占い。星を見て己や他人の運勢を占う。高位の術者はほとんど未来を見ていると言っても過言ではないほどだ。元々は星詠の魔術はこれだけだった」
星詠という名前からなんとなくそのような能力なのではないかと思っていた。
しかし、星詠はまた別の能力があると言う。
操蛇さんが二つめの能力を説明する。
「二つ目は遠見。遠くの空間と手元の空間を繋げてより遠くの、より多くの星を見るための魔術だ。中世ごろに日本に望遠鏡が伝わった際に当時の星詠家が開発した魔術だ。それでもこの頃までは星詠家の魔術師にたいした戦闘能力は無かった」
確かに、二つの魔術を持っているようなものとはいえそれほどまでに強くは思えない。
七大魔家ではあるが戦闘は得意ではないのだろうか?
操蛇さんが続ける。
「しかし、遠見の魔術が開発された数代後に変化が起こった。元々遠見の魔術は宇宙と繋げて光だけを通していた。そうしなければ宇宙空間に空気が流れこんで大変なことになるからな。だが、ある時の星詠の当主がこの遠見の魔術を改造して宇宙からの一方通行で物体を通せるようにしたのだ。これにより星詠は隕石を呼び込む魔術として遠見を使い、強大な戦闘力を得た。これが今の星詠の魔術【星見】だ。もっとも、今は隕石というよりスペースデブリを飛ばすようだがな」
星詠家の魔術、【星見】。かなり強力な魔術だ。
おそらく占いによって有利な行動をとったり、相手にとって最悪なタイミングで隕石やスペースデブリを飛ばしたりするのだろう。
魔眼を使えば切れないことはないだろうがどれだけの数を飛ばせるのかが分からない。
どうしたものか……。
「ちょっといいか」
俺たちが頭を悩ませていると操蛇さんに話しかけられる。
「はい、なんですか?」
俺は答える。
「少し2人きりで話そう」
俺は操蛇さんと2人きりで話すことになった。
家の裏で操蛇さんと話す。
「はっきり言うぞ、おそらくお前たちは勝てない」
操蛇さんから衝撃の一言を放たれる。
俺は咄嗟に反論する。
「確かに星詠は強そうですけど、それほどまでなんですか?」
操蛇さんがため息を吐いた後話す。
「今回ばかりは相手が悪すぎる。……当代の星詠家の当主、星詠未来は修羅だ」
修羅?そういえば、以前に操蛇さんは呪禍と共に星詠の当主に気をつけろと言っていた。
どういうことなのだろう?
操蛇さんが説明する。
「あいつはあまりにも強さに固執している。我々魔術師は市民を守るという大義名分の元戦っているとはいえ、大なり小なり戦闘に意欲的だ。だが奴は度がすぎる。奴はただひたすらに戦い、修行し、己を練磨する。戦闘狂とも何か違う、まさに修羅なのだ」
修羅……、だから操蛇さんは星詠に気をつけろと言ったのだろうか。
操蛇さんが続ける。
「奴には才能がある。その上である種狂気的とまで言える鍛錬を積んだ奴はおそらく……、日本の魔術師の中で最強だ」
最強、操蛇さんがそれほどまでに認める相手。
それならば確かに負けるかもしれない。
だが、そんな奴に魔術長にならせてしまって大丈夫なのだろうか?
魔術師が間界の魔獣を狩らなければいずれ市民に被害が出る。
戦闘に意欲的ではあるのでひょっとしたら何も問題無いのかもしれない。
だが、人命に関わることで賭けをするわけにはいかない。
ならばやはり、戦って勝つしかないだろう。
俺がそんなことを考えていると操蛇さんが言う。
「できればお前たちには……、優奈にはリタイアしてほしい。だが、お前たちが退くことはできないというのもわかっている。だから、お前が死んでも優奈を守ってくれ」
それはもちろん、優奈さんだけは絶対に守るつもりだ。
俺は操蛇さんの願いに笑顔で答える。
「えぇ、約束、しましたからね」
俺の答えを聞いて操蛇さんは笑顔になりながら言う。
「まぁ、お前が死んでも私は何も困らないからな」
この親バカは本当にブレないな……。
相変わらずの様子に俺は呆れる。
そして操蛇さんが真剣な顔で加える。
「だが、まぁ、お前が死ぬと優奈が悲しむ。だから、死んでも生き返れ」
無茶苦茶を言うなぁ、この親父は。
俺がリスポーンできる人間じゃなければ不可能な命令だぞ。
俺は操蛇さんの命令に笑顔で答える。
「えぇ、絶対に」
話も終わりということで家の中に戻ろうとする。
その時操蛇さんが思い出したように言う。
「そうだ、決戦までのわずかな時間だが、屋敷で優奈を鍛えることにする。お前もなるべく鍛錬しておけよ」
「えっ」
こうして優奈さんは一旦屋敷に戻り、俺たちは決戦まで離れ離れで暮らすことになった。




