第二十一話 オートセーブ
今回は番外編付きで更新します
俺は目を覚ました。
どうやら一瞬意識を失っていたようだ。
「黒峰くん!」
優奈さんが駆け寄ってくる。
自身の体を見るとあちらこちらに火傷を負っていて、右腕が吹き飛んでいる。
しかし不思議とあまり痛みは感じない。
「あなた大丈夫なの⁉︎」
優奈さんが心配してくれているようだ。
俺は答える。
「えぇ、大丈夫です。治りますから」
そう言って俺は右腕に魔力を通す。
すると傷口から綺麗な腕が生えてくる。
それを見た四元が驚く。
「なんと、君は再生能力まで持っているのか!君は魔使優奈の使い魔になっていると聞いたが、使い魔になると再生能力まで備わるのか?」
「さぁ、どうだろうな」
本当は使い魔になったのと再生能力は関係無いのだが、言う必要は無いだろう。
しかし、どうするか。【魔切断】でもあの魔力球は切れなかった。
いや、切れはしたがその途端に爆発した。
いったいどういうことなのか。
黙っている俺を見て四元が言う。
「不思議そうだな。まぁ、無理もない。今までは魔術を切る能力で戦ってきたのに突然切れない魔術が現れたのだからな。そんな君にわかりやすく説明してやろう」
四元が説明を始める。
どこかノリノリに見えるのは気のせいだろうか。
「私が今さっき使ったのは【四元家秘奥・滅の魔力】。これは【四元魔術】で扱う地水火風の四属性を本来は反発するところを繊細な魔力操作によって一つの魔力にすることで生まれる、反物質ならぬ反魔力の魔力を生み出す魔術だ。これは非常に繊細なものでね、何かに触れた途端に融合させた魔力が弾け飛んで大きな爆発を起こすんだ」
あの半透明な魔力はそういう代物だったのか。
それにしてもとんでもない威力だった。
魔力球の大きさは野球ボール程度の小さな物だった。
それであの威力なのだからそれがさらに大きければいったいどうなっていたことか。
四元の説明ではまだ切った途端に爆発した原因がわからないので続きを促す。
「それで、どうして俺が切った途端にあの魔術は爆発したんだ?」
四元が俺の質問に答える。
「まぁ、そう急ぐな。そうだな、こんな例えはどうだ。君の目の前に爆弾がある。ちょっとの衝撃で爆発するタイプの物だ。それを君は切ってしまった。そう考えると納得だろう?」
あの魔力球が爆弾だと考えれば確かにそうなのだが、魔術であるなら俺が切った瞬間に爆発する機能を失うはずなのだ。
だがそうはならなかった。
俺はその原因がわからない。
「だが、あれが魔術なら俺が切った瞬間に機能を停止する筈だ。なのに爆発した。それは何故だ?」
俺の質問に四元が答える。
「うん、そのことだがな。君は魔術は切れても魔力は切れないのだろう?」
俺は四元の言葉を考える。
確かに俺は魔術は切れるが魔力は切れない。
魔術は切った瞬間に形を失い機能を失う。
だが魔力は切ったとて、僅かにその形を変えはするが消滅するわけではない。
つまり――
俺の様子を見て四元が言う。
「気づいたようだね。そうだ。俺が魔術を使ったのは秘奥によって『滅の魔力』を生み出した時だけだ。あとば魔力操作の一環でぶつけただけ、あの魔力球自体は魔術ではないから君が切った途端に爆発したというわけだ」
なるほど、俺はようやく腑に落ちた。
あの半透明な魔力球自体が魔術でないなら俺が切った途端に爆発したのも頷ける。
あれはそういう魔力であって魔術ではないからだ。
そこまで考えて俺は言う。
「説明してくれたのはありがたいが、言ってしまってよかったのか?」
四元が答える。
「君が俺の秘奥を切れないことには変わりないからな。それに言わずにまた使って君が今度こそ完璧に命中してしまえば本当に死んでしまうだろう?」
相手は未だに殺さずに勝とうとしているようだ。
こちらだってそのつもりは無いが、正直勝てるかどうかすらも怪しい。
それでもやるしかない……!
優奈さんが俺に話しかける。
「黒峰くん、あなたナイフを無くしてるでしょ。これ使いなさい」
優奈さんからナイフの予備を渡される。
「ありがとうございます」
いつも使っているものとは違うが今はあるだけマシだと思うことにする。
俺は叫ぶ。
「祈闘さん、行きましょう!」
祈闘さんが応える。
「はいっ!」
俺たちはもう一度挟み撃ちをする。
四元が言う。
「さて、死んでくれなよ?」
俺たちの方にそれぞれの手を突き出す。
野球ボールサイズの半透明な魔力球が生み出される。
あれに触れたらまずい!
飛んでくる魔力球を避けながら四元に接近する。
四元が呟く。
「こちらの魔術を忘れていないか?」
四元が地面に手を置き、地面が光る。これは!
四元が魔術の名を呼ぶ。
「【土連棘】」
地面からいくつもの土の棘が生えて俺たちに襲いかかる。
祈闘さんは立ち止まり、土の棘に対処する。
俺はそのまま突っ込む!
足に土の棘が刺さる。
それがどうした! 進め! 敵を切れ!
棘に構わず突き進む俺に四元は一瞬驚くがすぐに次の攻撃を放とうとする。
その時一本のナイフが飛んでくる。
「ぐっ⁉︎」
四元はギリギリでそのナイフを避ける。
優奈さんよ援護によって隙ができる。
全力でナイフを振るう。
「おおおおっ!」
しかし、四元もただではやられない。
「こっ、のぉっ!」
風を生み出し、無理矢理避ける。
俺はさらに追撃を仕掛ける。
四元もこちらに反撃する。
「これならばどうだっ!」
無数の半透明な魔力球が生み出される。
それら一つ一つが必殺になりかねない強力な爆弾だ。
俺たちは全てを避けながら四元に接近する。
しかし四元はさらに罠を張っていた。
「避けても無駄だ!」
四元は生み出された魔力球の一つに風の矢によって刺激を与える。
一つの魔力球が爆発し、他の魔力球も連鎖爆発を起こす。
轟音が轟き、あたりが吹き飛ぶ。
俺と祈闘さんは爆発に巻き込まれる。
四元が笑う。
「これならば避けられまい!」
しかし、2つの人影が現れ四元は動揺する。
「何っ⁉︎」
その人影とはもちろん俺と祈闘さんだ。
俺は叫ぶ。
「この程度でやられるかよぉっ!」
俺たちがくらったのはあくまで爆風だ。
直撃であれば不味かったが、爆風であればダメージ程度で済む。
四元が叫ぶ。
「このっ、脳筋どもがっ!」
俺たちはさらに距離を詰める。
あとはそれぞれの武器を振るうだけ、そこまできた時、四元が呟く。
「相手が勝ちを確信したその瞬間が最も隙だらけな瞬間だ」
四元の魔力が大幅に減る。
そして俺たちの目の前にサッカーボールよりもなお大きいサイズの半透明な魔力球が生み出される。
これはまずい!こんなサイズが爆発すれば周囲一帯が吹き飛ぶぞ!
サイズが大きすぎる、四元を攻撃する時に必ず魔力球に当たってしまう。
自爆する気か⁉︎いや、違う。自身の魔力で生み出したものなのだから多少なりともダメージは軽減されるだろう。
威力が大きいとはいえ自分は生き残ると踏んだか!
どうする、どうすればいい⁉︎
思考が加速する。しかし、答えは出ない。
その時、体が押される。
祈闘さんが俺に体当たりをしたのだ。
俺は軽く吹き飛ばされる。
祈闘さんの方を見ると。
俺の方を見つめていた。
爆発が起きる。
全てが白に染まる。
あまりにも大きな音によっていっそ静寂にすら感じる。
一瞬が何秒にも何分にも感じた。
煙の中で四元学人は考えていた。
どうにか賭けに勝った、と。
あれほど大きな【滅の魔力】を自身の近くで爆発させて無事でいられるかはわからなかったが、全身の火傷程度でどうにか無事に済んだ。
彼らはおそらく死んだだろう。
自分の魔力で生み出した自分ですらこれほどのダメージを負ったのだから彼らは無事であるはずがない。
煙が晴れる。そして四元は驚く。
人影が動いている。
人影が、黒峰刀也が呟く。
「まだ、だ」
彼は腕を再生させていた。丈夫な体を持っているとは思っていたがこれほどとは思わなかった。
四元が呟く。
「まだ、立ち上がるか」
時は少し遡る。
俺は爆発が起きる瞬間、ナイフを地面に刺して、できる限り体勢を低くした。
これによりなるべく吹き飛ばされず、なるべくダメージを負わないようにした。
祈闘さんが爆心地から離してくれたとはいえ、あくまでも僅かな距離。
それでもその僅かな距離が俺を助けた。
祈闘さんがどうなったのかはまだ煙で遮られてわからない。
ただ今は、四元に勝つことだけを考える!
俺は立ち上がり、走り出す。
全身に魔力を纏い、四元に近づく。
俺は叫ぶ。
「四元っ‼︎」
四元はすでにかなり消耗している。
このまま決める!
しかし、四元もただではやられない。
「勝つのは私だっ‼︎」
四元の周りに赤い魔力球がいくつか生まれる。
おそらく火の属性を持つ魔力だろう。
すでに形を変える余裕すら無い。
魔力球が俺に向けて放たれる。
どれだけ当たろうが構わない。
あくまで火傷程度にしかならない。
それならば進め! 怯むな! 敵を切れ!
「おぁぁぁっっっ‼︎」
そしてとうとう俺の刃が四元に届いた。
四元は魔力で防御しようとしたが【切断】の前には無力だった。
四元は肩から腰までばっさりと切られ、大量の血を吹き出す。
そして膝から崩れ落ちる。
「くっ、そ……」
四元の右手が一瞬光り、模様が現れた後消えた。
どうやら死んだようだ。
俺は祈闘さんを探す。
少し先に祈闘さんが倒れているのが見える。
すでに優奈さんが駆け寄っているようだ。
俺は祈闘さんに話しかける。
「祈闘無事です……か……」
祈闘さんを見て俺は絶句する。
祈闘さんの右半身は炭化していた。
右腕に関しては欠片すら残っていなかった。
おそらく俺に体当たりした時に右半身が魔力球の方を向いたからだろう。
もちろん右半身どころか全身に大火傷を負っていて、口からは儚い呼吸音だけが漏れていた。
誰が見てもわかる手遅れな状態だった。
俺が呟く。
「祈闘さん……、なんで……、なんで俺を庇っちゃったんですか」
俺はリスポーンすることができる。
それ以前に俺は完全な致命傷を負わなければ再生することができる。
正直あの場面ではおそらく俺は死んでいただろう。
それでもリスポーンするだけだ。
実際俺はあの時すでに心のどこかで諦めていて次のことを考えていた。
次もここまで追い詰められるかわからない。
そう考えたが故に四元に止めを刺したが、今でなくともよかったのに。
俺がそう考えていると祈闘さんが言う。
「なんで……でしょうね……。それでも、あの時は体が……勝手に……動いたんです。……あなたに……死んでほしくないと……思ったのかもしれません」
俺は必死に考える。
どうする、どうすれば良い?
復活できる俺の代わりに祈闘さんが死ぬなどあってはならない。
だが今から病院に連れて行ったところで連れて行く途中で息絶えてしまうだろう。
そして俺は思い至る。
俺たちの努力を、祈闘さんの犠牲を水泡に帰す、最悪の考えに。
「……2人とも、すいません」
俺は自身の頭にナイフを突き刺した。
俺は教室のような空間で目を覚ました。
「よし、後はリスポーンすれば……」
俺が思いついた作戦はこうだ。
リスポーンする時、決まって少し前の時間に戻っていた。
故に俺はわざと死ぬことで戦闘をリセットして今度こそ全員無事に勝つという作戦だ。
俺はナビ子に話しかける。
「悪いナビ子、ヒントはいい。すぐにリスポーンをする」
俺はすぐにリスポーンしようとする。
「待ちなさい」
だがナビ子がそれを止める。
俺はナビ子に言う。
「なんだよ、急いでるんだけど」
今度こそみんな無事に勝利するために早く戻らなくては。
ナビ子が言う。
「リスポーンしても無駄よ」
「は?」
ナビ子の言う意味がわからず俺は硬直する。
俺はナビ子に話しかける。
「なんでだよ!リスポーンすれば時間が巻き戻る筈だろ!」
ナビ子が答える。
「時間は巻き戻らない。……いいえ、正確には四元学人を殺した瞬間に巻き戻るわ」
「……」
俺はただ黙ることしかできない。
思考の片隅に考えていないわけではなかった。
リスポーンは少し巻き戻った瞬間に復活するのではなく、セーブポイントのようなものがあってその瞬間に復活しているのではないかと。
だがその考えは見ないふりをしていた。
そうしなければ祈闘さんが死ぬ運命が決まってしまうから。
ナビ子が言う。
「もう気づいているんでしょう?」
「やめろ」
俺はその言葉を遮ろうとする。
しかしナビ子は続ける。
「リスポーンは少し巻き戻った瞬間に復活するんじゃなくて」
「やめろ」
もう一度遮る。しかしナビ子は止まらない。
「セーブポイントのような瞬間に復活するんだって」
「やめてくれ……」
俺は膝をつき、ナビ子のスカートを掴みながらか細い声を出す。
俺は叫ぶ。
「俺のっ、俺のせいだ!俺がもっと強かったら、もっと油断しなかったら。祈闘さんは死ななかった!」
相手は強力だった。警戒していなかったわけではない。
だが油断や慢心が無かったと言えば嘘になる。
俺は死なないと、死んだって復活できると。
その油断が祈闘さんを殺した。
ナビ子が屈み、俺に話しかける。
「聞いて炎上寺心也、あなたはよく戦った。祈闘守杜も全力で戦った。あなたのせいで彼女が死んだと考えるのは彼女への侮辱よ」
俺は顔を上げる。ナビ子が俺を見つめる。
「そうだな。祈闘さんの死んだ原因を俺に求めるのは彼女に失礼だ」
俺は立ち上がる。
「それでも、俺はこの罪を背負うよ」
彼女が死んだ原因を俺と思うことはもうしない。
だけど、俺は彼女の死を絶対に忘れない。
ナビ子が俺の顔を見つめて話す。
「もう大丈夫そうね。リスポーンするとしましょうか」
俺の意識が遠くなっていく。
意識が目覚める。
俺の目の前には四元学人が倒れている。
俺はすぐに祈闘さんの元へと走る。
祈闘さんは先程と同じ手遅れな状態だった。
「祈闘さん……」
俺は祈闘さんに話しかける。
「最後に言い残すことはありますか?」
祈闘さんがゆっくりと口を開く。
「そう……です……ね。私が……死ねば、家……は……混乱……するでしょう。だから……どうか……家のことを……頼みます」
まず自身の家のことを考えるとは祈闘さんも確かに七大魔家の当主ということか。
さらに祈闘さんが付け足す。
「それ……と、最後……に」
祈闘さんの目から涙が溢れる。
「あなたたちと会えて良かった」
そして祈闘さんは目を閉じた。
その目が開かれることは二度と無かった。
祈闘さんの死を確認してから少し経った。
優奈さんが俺に話しかける。
「すぐに引き取りに来てくれるそうよ。それまで待ちましょう」
優奈さんには魔術組合に祈闘さんと四元学人の死亡を連絡してもらった。
2人の死体は一度組合に回収され、その後それぞれの家に返されるとのことだ。
俺は中学になる頃まで死が身近にあった。
それなのに、いつのまにか人は簡単に死んでしまうことを忘れてしまっていた。
この日俺は、この世界はゲームでありながら現実でもあることと、失った物は二度と戻らないことを思い出した。




