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第十九話 魔術長

第十九話 魔術長

俺は家に戻り博物館で起きたことを話し、急遽作戦会議をすることになった。

「絶っっ体に罠よ!断言できるわ!」

 優奈さんが開口一番にそう言う。

 まぁ、正直俺もそう思っている。

 日付と場所を指定して戦おうとか明らかに罠としか思えない。

 だが俺はその上で優奈さんに反論する。

「ですが俺たちは残り2人、いや3人の候補者の居場所がわかりませんでしたから行くしかないのでは?」

 俺たちはあの後行方がわからなくなっている呪禍桔梗を含め、3人の候補者の居場所がわからない。

「そう、なのよねぇ」

 優奈さんが肩を落として言う。

 しかも厄介なことにあちらは博物館にいた俺の隣に座ってしかも名前を知っていた。

 たまたまという可能性も無くは無いがこちらの居場所は知られていると思っておいた方がいいだろう。

 祈闘さんが口を開く。

「それにしても四元から戦闘を申し込まれるとは。まずいですね」

 祈闘さんの言葉に疑問を覚え俺は質問する。

「四元って何か特別なんですか?」

 そりゃあ七大魔家の当主でさらに候補者なのだから特別と言えば特別だろうがそれは他の候補者にも言える事のはずだ。

 優奈さんが俺の質問に答える。

「四元学人はね、現在の日本魔術組合の組合長、魔術長なのよ」

「えっ⁉︎」

 優奈さんの言葉に俺は驚く。

 魔術長、それはつまり前回の決議の優勝者ということになる。

 確かにあの男の魔力は凄まじかった。

 魔術長と言われれば納得できる。

 しかし優奈さんが一言付け足す。

「ただし、暫定の、ね」

「暫定?」

 俺は優奈さんの言葉をオウム返しにする。

 優奈さんが答える。

「あなたはよく知っているでしょうけど前回の決議ではとんでもない化け物が現れた。そして化け物との戦いでその時決議に残っていた3人の候補者のうち2人が死亡したの、そして最後に残ったのが四元学人。当然決議のやり直しを求められたのだけど流石にそう長くはやれないということで暫定で四元学人が魔術長になったってワケ」

 なるほど、そんなことがあったのか。

 だがそれでも決議で最後まで残るほどの実力者なのは間違いない。

 だから、気を引き締めなくては。

 俺は言う。

「確かに相手は強大で、この誘いは罠かもしれない。けれどじっとしていても何も始まりません。だから俺は行くべきだと思います」

 俺は2人のことを見る。

 優奈さんが口を開く。

「そうね、居場所を探る手間が省けたと思うことにしましょう」

 祈闘さんが続く。

「私も異論はありません」

 どうやら2人とも賛成してくれたようだ。

 これは罠かもしれない、だが俺にはリスポーンという手札がある。

 今の2人には悪いが俺は最悪、死んで情報収集するつもりで戦うことにする。

 俺たちは2日後の戦いに備えることにした。



 作戦会議から2日後、俺たちは四元の指定した場所の近くに来ていた。

 今日は学校があったが集合時刻はそれを見越したものになっていた。

 つくづく手のひらの上で踊らされている感じがするがそれでも行くしかない。

「それじゃあ、行きましょう!」

 俺たちは間界へと入る。



 今日も間界は赤黒く、不気味な空模様だ。

 戦いの場に選ばれたのは間界とはいえ、なんてことはない住宅街だった。

 俺たちがしばらく歩いていると一つの人影が見えた。

「来たか」

 人影が俺たちを出迎える。四元学人だ。

 俺は挨拶をする。

「そりゃあ、来なきゃあんたを倒せないからな」

 四元が笑みを浮かべる。

「ふっ、私のことはもう聞いているのだろう?その上でそんなことを言えるのは勇気があるのかそれとも、知能が足りないのか」

 四元はただ立っているだけのはずなのにかなりの威圧感がある。

 俺は2人から聞いた四元家の魔術について振り返る。

 まず魔術には基礎魔術と呼ばれる魔術がある。

 この魔術は魔力を地水火風の四属性に変化させて様々な形で発動させるものだという。

 ただし、基礎魔術は威力が乏しく、基本的に基礎魔術では体を魔力で覆った魔術師に傷をつけられないらしい。

 四元家はこの基礎魔術を深く研究することで戦闘に使えるほどに昇華させたという。

 その魔術の名前が、【四元魔術】。

 基礎魔術でも使われている四つの元素を扱う魔術らしい。

 また、四元家の魔術師は代々生まれ持った魔力が多い人間が生まれやすいと言う。

 圧倒的な魔力と汎用性の高い魔術、これらにより四元家は七大魔家に名を連ねていると言う。

 確かに油断できる相手ではない。

 だが俺は勝機が無いわけではないとも思っている。

 なぜなら俺たちはすでに四元家の魔術を使う者と戦ったことがあるからだ。

 刻 印、【刻印】魔術を使う候補者。

 彼は四元家の魔術は基礎魔術と似ているからよくお世話になっていると言っていた。

 実際彼は炎の矢や、土の棘などで戦っていた、当然四元の方が扱いは上手いだろうが初めて戦うのと劣化版だとしても一度戦ったことがあるのとではずいぶんと違うはずだ。

 故に俺は勝機があると思っている。

 俺は一歩踏み出し、四元に向かって言う。

「それじゃあ、戦おうか」

「いや、少し待ってくれ」

 俺は危うくずっこけるところだった。

「なんでだよ!あんたが誘ったんだろ!」

 自分から誘っておいて戦うのを待ってくれとはいったいどういう了見だろう?

 四元が言う。

「俺は魔術師相手限定だが、戦う相手にある質問をすることにしている。そちらの2人にはしたことが無いのでね。質問させてもらう」

 四元は居住まいを正し、質問する。

「君たちは知識の探求についてどう思う?」

 これは博物館で俺にしてきた質問だ。

 優奈さんが答える。

「なんでそんなことを聞くのかわからないけど。そうね、大事なことだとは思うわ。たまになんでそんなことを探求するの?って物もあるけど」

 四元の表情は硬いままだ。

 祈闘さんが続く。

「そうですね、私も良いことだと思いますよ。私は趣味で修行したりしますがそれに通ずるものがあると思います」

 2人とも知識の探求については好意的なようだ。

 というか、祈闘さんは修行が趣味なのか。

 らしいと言えばらしいが、少し驚きだ。

 四元は博物館で探求を侮辱する者は死んでしまえばいいと思うと言っていた。

 探求を侮辱した場合は問答無用で殺すというつもりなのだろうか。

 四元が穏やかな表情で話し始める。

「あぁ、君たちはとても良い子たちだ。いやね、我が家は探求の結果基礎魔術を固有魔術にまで昇華させた、それはひとえにご先祖様たちの努力の賜物だ」

 四元が一拍置いて言う。

「だというのに」

 雰囲気が変わる。

「知能の足りない無知蒙昧な愚魔術師共は所詮は基礎魔術の延長やら、魔力が多いだけの能無しやら勝手なことばかり言う!我が家のご先祖様たちがどれほどの努力を重ねてきたのかも知らないくせに自身の勝手なイメージだけで我が家を貶めようとする!あぁ、何度あの手の奴らを殺そうと思ったことか!そんなことをすればご先祖様たちの顔に泥を塗ることになってしまう。そう自分に言い聞かせて我慢し続けたよ!魔術長になっても奴らは運でたまたまなれただけなどとほざく!だから私は、真の意味で魔術長になってみせる!そして奴らに探求の偉大さを知らしめてやるのだ‼︎」

 四元は怒りと共に大量の言葉を吐き出した。

 そして呼吸を整えてから言う。

「探求を侮辱しない君たちはできれば殺したくはない。リタイアしてくれないか?」

 それは暗に自分には絶対勝てないから諦めろと言っているということだ。

 俺は四元に対して答える。

「悪いが、それはできない相談だ」

 四元の気持ちはわからないでもないが少々危険な思想に思う。

 故に負けるわけにはいかない。

 四元が残念そうな表情で言う。

「そうか、ならば仕方ない。戦うとしよう」

 こうして俺たちと四元学人との戦いが始まった。

 この時の俺はまだ知らなかった。

 この戦いで俺の大切なものを無くすことになることを。

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