第十八話 知恵を好む者
今回は2話更新です
「痛っっったぁーい‼︎」
呪禍との戦いの翌日、俺は優奈さんの大声で目を覚ました。
俺は優奈さんの部屋をノックする。
「あの〜、優奈さん、大丈夫ですか?」
すると部屋の中から返事が返ってくる。
「頭がガンガンするぅ。あなたの方は大丈夫?」
自分だって痛いだろうに俺のことを心配するなんて実に優奈さんらしい。
俺の方は二回目ということもありそこまで痛くはない。
なので心配させないよう返事をする。
「俺はもう慣れたのでそこまでは、優奈さん起きれます?」
正直俺も初めて魔眼を使った翌日はめちゃくちゃ痛かったので優奈さんが起きれるかどうかが心配になる。
優奈さんが答える。
「う〜ん、ちょっとダメそう」
「そうですか、わかりました。父さんと姉さんにも言っておきます」
「えぇ、お願い」
下に降りて二人に今日は優奈さんがしばらく動けないことを伝える。
すると姉さんが言う。
「あらそうなの?困ったわねぇ。券が無駄になっちゃいそう」
「券?」
俺は姉さんの言葉を聞き返す。
「それがね、友達から博物館の券をもらったのよ、映画ならともかく、私は興味ない上に二枚もあるからあなたたちにあげようと思ってたんだけど、優奈ちゃんが動けないなら無駄になっちゃうわねぇ」
確かに今日は日曜日で暇だったが、この姉はさりげなく自分がいらない物を他人に押し付けようとしていたようだ。
俺は姉さんに質問する。
「それってペアチケットなのか?」
「いいえ、普通のが二枚よ」
俺は少し考える。
俺は知り合いが少ない、現状友達と言えるのは優奈さんと祈闘さんくらいだ。
優奈さんは魔眼の副作用で動けない。
祈闘さんも確か療養中なので誘わない方が良いだろう。
そう考えた後俺は姉さんに答える。
「それじゃあ、一枚もらうよ、チケットがもったいないし、優奈さんが動けないから暇だしな」
俺がそう答えると姉さんの表情が晴れる。
「あらそう?それじゃあ、あげるわ」
俺は博物館のチケットをもらい出かけることにした。
博物館は都市の方にある大きな博物館でゾウだったかマンモスだったかの全身化石が名物らしい。
「いやぁ、博物館に行くのは初めてだな」
小学生くらいに一度は博物館へ行ったりする人が多いかもしれないが、生憎俺は中学になるまでまともに外に出歩けず、高校になってからもあまり出かけることは無かったので初めての博物館に少しワクワクしている。
受付でチケットを出して中に入る。
「へぇ、中はこんな感じなのか」
博物館という物を知識として知ってはいたがやはり、見るのと聞くのとではずいぶんと違う。
こうして俺はしばらくの間、古代の化石やら地域に伝わる伝承なんかを見て回った。
「ふぅ、案外と楽しめたな」
俺は今博物館にくっついている広場のベンチに腰掛けている。
広場の周りに植えられている木も少々珍しい種類の物らしい。
俺がベンチで一息ついていると一人の男が近づいてくる。
「失礼、隣によろしいかな?」
どうやら隣に座りたいようだ。
日曜日とあってそこそこ人がいるのでベンチの空きは他に無かった。
特に断る理由も無いので俺は承諾する。
「えぇ、いいですよ」
「ありがとう」
男は俺の隣に座る。
男はシルバーのベストに黒のスーツを着ていて眼鏡をかけている。
男が話しかけてくる。
「失礼なんだが君は学生かな?」
男の視線は俺の服を見ていた。
まぁ、そう聞くよな。
俺は心の中で呟く。
今の俺の服装だがなんと学ランである。
上から下までしっかりと制服を着ているのである。
何故かというと俺こと黒峰刀也は制服しか服を持っていないのである。
俺も初めて部屋のクローゼットを見た時は驚いた。
クローゼットの中に制服しか入ってなかったのである。
流石にパジャマやシャツといった服はあったが普段着というものが一切無かったのである。
戦闘で制服がボロボロになったりするので買い替えたりしなければならずお小遣いもそれほど多くないので結局、学ランしか着る服が無いまま今に至る。
俺は男に返事をする。
「えぇ、制服が好きでいつも着ているんです」
とりあえずそういうことにしておく。
「なるほど、そういう人もいるのか」
男は納得したようだ。
その後俺たちは特に話すこともなく時間が過ぎていく。
すると突然男が口を開く。
「君は、知識の探求についてどう思う?」
知識の……探求?急に何を言っているんだ?
男の意図が理解できないがひとまず質問に答えることにする。
「そうですね、良いことだと思いますよ。少なくとも悪いことじゃないでしょう」
男は俺の答えに満足したような表情をして話す。
「あぁ、そうだ。知識の探求とは素晴らしいことなんだ。誰かが『知りたい』と願い、探求し続けることで人類は発展してきた。探求という行為の中身がどのような物であろうと、そこに貴賤は無い。いや、あってはならない。俺はね、博物館だとか科学館だとかいうものが好きなんだ。人類が未知を既知に変えてきた足跡、そんな風に感じられてね。これでも学者の端くれだから。まぁ、俺の専攻は文化に関することだから博物館や科学館とは関係が無いんだけどね」
男はそう照れくさそうに言った。
よくわからないがなんとなく探求することが心の底から好きなのだとわかる。
そして男はさらに話を続ける。
「そしてね、こうも思うんだ」
男の雰囲気が一変する。
「探求を侮辱するような奴は死んでしまえばいいと」
これは……魔力⁉︎
男から大きな魔力が迸る。
この魔力量、今まで出会ったどんな人よりも多い⁉︎
俺はたまらず声を出す。
「あんた、いったい?」
男は答える。
「四元学人、候補者の一人だ。よろしく、黒峰刀也」
四元⁉︎七大魔家の一つ、そしてこいつは候補者だと言った。
ならばこの男は四元家の当主!
まずい、今ここで戦えるのは俺だけだ。
さらに民間人もいる、ここで戦うのはまずい!
俺が四元を睨んでいると四元が言う。
「おいおい、そんなに睨まなくてもここでは戦ったりしないさ、俺だって博物館を荒らすなんてやりたくないしな」
四元が一枚の紙を渡してくる。
「2日後、それに書いてある地図通りに間界に入ってこい。そこで戦おうじゃないか」
そう言って四元は席を立ち、去っていく。
四元は去り際に思い出したように言う。
「そうそう、もちろん君一人じゃなくていい。君の主や仲間も連れてきていい。というかそれが目的だからな。それじゃ、2日後にまた会おう」
そう言って四元は去って行った。
周りにいた博物館の客たちは何も気づいていないようだ。
ひとまず家に戻り、優奈さんと祈闘さんに連絡をしよう。
客たちは広場で思い思いに過ごしている。
ただ俺だけが暖かな陽だまりの中、冷や汗をかいていた。




