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第十七話 蕾は咲かず

呪禍家当主、呪禍桔梗は天才だった。

 幼き頃より魔術に触れ、十つになる頃には家のほとんどの魔術師が勝てなくなった。

 次期当主として家中の期待を背負い、慢心することもなく研鑽を積んでいた。

 彼ならば魔術長になることも夢ではないと期待されていた。

 しかし、私は出会ってしまった。

 ()()()天才に。

 その男と出会ったのは呪禍家と祈闘家の間で行われている御前試合の時だった。

「もしかして君が呪禍家の次期当主?俺は祈闘命、祈闘家の次期当主だ。よろしくな!」

 命が握手を求める。

「……よろしく」

 私はおずおずと握手をする。

 明朗快活、まさに太陽のような男だった。

 私がその時十六で、相手は十五だと言う。

 人柄の良さそうな人ではあるが、それゆえに少々子供らしくも感じた。

 故に自分が負けるとは思わなかった。

 しかし、私は負けた。

 完敗だった。

 剛腕、豪速、齢十五にして戦う姿はまさに鬼神の如く。

 私の魔術は全てが簡単に薙ぎ払われた。

 自身より才能のある者がいると信じられなかった。

 私に勝った後命は言った。

「やっぱり君は強いな、またやろう!」

 朗らかな笑顔で再戦を提案する。

 それが私と命の関係の始まりだった。

 次こそは勝つと私はより一層鍛錬に身をやつしたがそれでも私は命に勝てなかった。

 あくまでも一年に数回会う程度、それでも私たちは会うたびに戦った。

 時が経ち私たちはそれぞれの家の当主になった。

 それでも私は命に勝てなかった。

 命が結婚し、子供が生まれた。その間も私は鍛錬を続けた。

 それでも私は命に勝てなかった。

 周囲からの圧力で特に好いているわけでもない女と婚姻させられたが、そんなことはどうでもよかった。

 ただ命に勝つためだけに私はひたすらに鍛錬を積んだ。

 それでも私は命に勝てなかった。

 私はひたすらに苦悩した。どうすれば命に勝てるのか、ただそれだけを考え続けた。

 すでに当初の目的を忘れたとも知らずに。

 そしてとある機会が回ってきた。

 10年前の日魔長決議である。

 私は決めた、この戦いでどんな手を使ってでも命に勝つと。

 たとえ自分が死ぬことになろうとも勝ってみせると決意した。

 果たしてその決意が報われることはなかった。

 命は死んだ。

 ただし、私の手によってではなく、突如決議に現れた化け物の手によってだ。

 化け物は強大だった。

 6人の当主が束になってかからねば勝てるかどうかすら怪しかった。

 私も死を覚悟しながら戦ったが、私は死ななかった。

 だと言うのに命は死んでしまった。

 火の海となった間界で死に際の命は私にこう言った。

「なぁ、桔梗、俺はお前と互いに高め合う日々が楽しかったよ。お前は否定するかもしれないけど、俺はお前のことを親友だと思ってる。娘を……家のことを頼んだ」

 そう言って命は事切れた。

 命が死んだ後の祈闘家は荒れに荒れていた。

 最低限の介入はしたがどうでもよかった。

 命が死んだ後、一人でよく命と戦っていた場所に居て思う。

 ふざけるな。お前が死んでしまえばいったいどうやって勝てばいいと言うのか。

 頭の中を一つの言葉が駆け回る。

 勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない

 じゃあ、私はこれからどうすればいい?

 命に勝つために鍛錬を続けた。

 そのためだけに生き続けた。

 その目標がもう叶うことはないとう言うのに私はどうすればいいのか。

 結局、その答えは出ないまま私は鍛錬を続けた。

 そして、命の娘が祈闘家を継いだと聞いた。

 最低限の介入しかしていないため、今命の娘がどのように成長しているのかは知らなかった。

 私はほんの少しだけ期待をした。

 命の娘が奴に迫るほどの才能があるなら、私のこの渇きをどうにかできるのではないかと。

 しかしその期待は裏切られた。

 確かに年を考えれば才能はある方なのかもしれない。

 だが足りない、命の足元にも及ばない。

 腹立たしいことこの上無い!実力が足りていないと言うのに、命と同じように振る舞おうとするこの小娘が憎くて仕方がなかった。

 だから決めた、日魔長決議で私の全身全霊を持って殺そうと。

 命の娘を殺すことで自分を救おうとした。


 呪禍は現在に思考を戻す。

 秘奥まで出したと言うのに今追い詰めらているのは自分である。

 それが呪禍には受け入れられなかった。

 ありもしない勝機を探す。

 そして目についたのは、この場で唯一直接戦闘力が低い者。

 魔使優奈である。

 呪禍は思う。

 まだだ、魔使優奈を人質に取り、逃げる。

 体制を立て直した後、改めて殺す。

 その願いが原初の願いとは大きく姿を変えていることに呪禍が気づくことは無かった。


 俺は呪禍に言う。

「呪禍、お前の負けだ。もう諦めろ」

 呪禍が答える。

「いや、まだだ!私は負けない!」

 突如呪禍の一人が走り出す。

 その先にいるのは優奈さんだ。

 俺は焦る。

「くそっ、やらせるかよっ!」

 しかし二人の呪禍が俺と祈闘さんの前に立ちはだかる。

 俺は叫ぶ。

「優奈さん!逃げて!」

 しかし、優奈さんは立ち止まったままだ。

 何故だ?何故逃げてくれない⁉︎

 俺は優奈さんをよく見る。

 すると、あることに気づく。

 優奈さんは鼻から血を流し、肩で息をしていた。

 優奈さんが呟く。

「私は……、まだ……やれ……る」

 限界だった。考えてみれば当然のことで、ただでさえ、自分とは違う感覚を同期すると言う負荷のかかる魔術を使用しているのだ。

 しかも魔眼によってさらに負荷がかかっている。

 何度も使用して慣れているならばいざ知らず、初めての優奈さんにはあまりにも過負荷だった。

 呪禍が迫る。このままでは優奈さんが襲われてしまう。

 どうすれば……!

 その時優奈さんが叫ぶ。

「舐めんじゃ……、ないわよっ‼︎」

 力を振り絞り、ナイフを握る。

 そして魔術の名を叫ぶ。

「【魔切断】‼︎」

 呪禍の体が消える。

 優奈さんが叫ぶ。

「残り一体!やっちゃいなさい、黒峰くん!【瞬間強化】!」

 優奈さんが俺の方に右手を突き出し、強化を施す。

 俺は一瞬で加速し、最後の分身を狙う。

「【魔切断】!」

 最後の分身が消える。

 俺は言う。

「残り、0体」

 呪禍は唖然として動かない。

 最後は彼女が決めるべきだろう。

 俺は叫ぶ。

「行けっ!祈闘さん!」

 祈闘さんは跳び上がり、呪禍に狙いを定める。

 空中で何回転もしながら呪禍に全力の一撃を見舞う。

「【祈闘神楽・別雷(わけいかづち)】!」

 それはまさに落雷の如く鋭く、重い一撃だった。

「があっ!」

 位置エネルギーと回転エネルギーを使ったその攻撃は呪禍にクリーンヒットし、その体を大地にめり込ませた。

 大地が窪み、周囲の木々が薙ぎ倒される。

 呪禍は意識を失った。

 俺は優奈さんに駆け寄る。

「優奈さん、大丈夫ですか!」

 優奈さんに肩を貸す。

 優奈さんが答える。

「えぇ……、なんとかね」

 俺たちは呪禍に近寄る。

「祈闘さん、呪禍は」

 俺は祈闘さんに尋ねる。

「かなりのダメージを負って気絶したようです」

 困ったな、できれば殺したくはないし、リタイアしてくれると助かるのだが、意識が無いとなると待つしかない。

「うっ……私……は……」

どうやら呪禍が意識を取り戻したようだ。

 あの攻撃をくらって少しの間気絶するだけとはやはりかなり丈夫だ。

 とはいえ、立つことはできないようだが。

 祈闘さんが呪禍に話しかける。

「呪禍桔梗、あなたの負けです。潔くリタイアしてください」

 呪禍がそれに答える。

「私は……また負けたのか……」

 祈闘さんがさらに話す。

「そうです。リタイアすれば命までは取りません。できれば、あなたを殺したくない」

 詳しくは分からないが呪禍は祈闘さんと彼女の父親に思うところがあったようだ。

 それゆえに呪禍は祈闘さんを殺そうとしていた。

 それでも祈闘さんからすれば父親の知り合い程度とはいえ幼い頃から知る相手を殺すというのは躊躇いがあるのかもしれない。

 呪禍が唐突に笑いだす。

「ふっ、ははは、ふはははは!」

 俺たちは何故笑っているのか理解できず怪しむ。

 呪禍が言う。

「あぁ、やはりお前はあの男の娘だ。私を見下ろすその目がそっくりだ。お前に負けてリタイアするくらいなら死んだ方がマシだ。だが、私もまだ死ぬつもりは無い!」

 呪禍が地面に落ちていた何かを拾う。

「何をっ⁉︎」

 祈闘さんが尋ねる。

 その時、呪禍の手のひらから炎が上がり、目の前が炎に包まれる。

 まさか今さっき手にしたのは式神の破片か⁉︎

 もし僅かにでも残っていれば再利用できるならば今起こったことも説明がつく。

 慌てて【魔切断】で炎を切る。

 炎はすぐに消えたが呪禍はすでに遠くを走っている。

 祈闘さんが言う。

「追いかけましょう!」

 俺たちもすぐに追いかけようとする。

 しかしその時、優奈さんが呟いた。

「ごめんなさい……、もう……限……界」

 そう言って優奈さんは倒れ伏す。

 俺は優奈さんに声をかける。

「優奈さん⁉︎大丈夫ですか⁉︎」

 返事が無い、意識を失っているようだ。

 祈闘さんが言う。

「呪禍はすでに遠くまで逃げてしまったようです。魔使さんの方を優先しましょう」

 こうして俺たちは戦いを終え、下山することにした。




 現実世界の住宅街に呪禍桔梗は一人歩いていた。

 時計の針は二つとも頂点を指し示している。

 呪禍が言う。

「はぁ、はぁ、私はまだ負けていない……。体制を立て直して次こそ祈闘守杜を……」

 ボロボロの被り物からは血走った目が見えていた。

 その時声が聞こえた。

「ほら言っただろう。やはり呪禍が負けだようだ」

 呪禍はすぐさま頭を上げる。

 そこには二人の男がいた。

 一人は呪禍と同じだが白色の狩衣に身を包み、その髪はまるで星空をそのまま持ってきたような不思議な見た目をしていた。

 もう一人はシルバーのベストに黒のスーツを身につけ、眼鏡をしていて、役人のような姿をしている。

 呪禍はこの二人の男を知っていた。

「『星詠(ほしよみ)』に『四元(しげん)』、何をしに来た……!」

 白い狩衣の男は星詠、スーツの男は四元と言った。

 星詠が言う。

「何って、敗北者を見に来たのだ」

 呪禍が叫ぶ。

「私はまだ負けていないっ‼︎」

 星詠が呆れたように尋ねる。

「その姿のどこが敗北者じゃないと?」

 呪禍が叫ぶ。

「だまれっ‼︎」

 四元が言う。

「それにしても驚いたぞ、いくら手を組んでいたとはいえ、片や当主ですらない魔術師、片や当主になって2年程度の小娘に負けるとは。俺はてっきり呪禍が勝つものかと思っていたが、何があった?」

 四元の質問に星詠が答える。

「俺が初めに()()時は呪禍が勝っていたんだがな。唐突に()()()()のだ」

 それを聞き、呪禍と四元が驚く。

 四元が言う。

「なるほど……、どうやらずいぶんと面白い奴らのようだ」

 星詠が言う。

「ひょっとするとお前でも負けるかもしれんぞ?」

 星詠の言葉に四元が尋ね返す。

「なら、俺が奴らと戦うとどうなる?」

 四元の質問に星詠が数秒ほど沈黙した後答える。

「お前が勝つさ……今はな」

 その後星詠は呪禍に向き直り言う。

「さて、敗者が再び戦場に立つことなどあってはならない。お前は死ななくてはならない」

 そう言って星詠は呪禍に対して右手をかざす。

 呪禍が叫ぶ。

「まっ、待て!私はまだっ

 轟く爆音、つい先程まで人がいたという形跡を吹き飛ばす程の衝撃が走る。

 二人は今し方できた小さなクレーターに背を向け歩き出す。

 星詠が呟く。

「人は誰も運命からは逃れられない。俺を除いてな。さて、お前たちはどうだ?」

 今宵は新月、二人の男を誰も、月すらも見ていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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