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第十六話 枯れ桔梗

俺は教室のような空間で目を覚ます。

 相変わらず教師のような服装をしたナビ子が俺に話しかける。

「今回はずいぶんと久しぶりね」

 俺はそれに答える。

「そりゃあ、誰だってできる限り死にたくないからな」

 ナビ子は笑いながら話を続ける。

「ふふっ。そうね、それじゃあ、今回の反省といきましょうか」

 俺は姿勢を正して聞くことにする。

 ナビ子が言う。

「今回のあなたの死因は出血多量ね。呪禍桔梗の魔術によってあなたは心臓を一突きされて血が噴き出て死んでしまった。これの対策なのだけれど、あなたが最初から魔眼を使っていれば髪の毛を取られることも、いつのまにか式神をつけられて動きを止められることもなかったわ」

 ナビ子の言葉に俺は反論する。

「でも、魔眼を使っているとすごく頭が痛くなって消耗が速くなるんだ。だから、最初から使ってたら息切れして負けてしまわないか?」

 俺の反論にナビ子が答える。

「そもそも、あなたが呪禍桔梗相手に粘り勝ちすることは難しいわ。やるのなら速攻、最初から全力を出しなさい」

「わかった。そうするよ」

 俺はナビ子の意見を聞き、リスポーンする。



 声が聞こえる。

「さて、わざわざここで待っていたんだ。戦うとしよう」

 どうやら無事にリスポーンできたようだ。

 俺は眼鏡を外して言う。

「二人とも、最初から全力で行きます!」

 魔眼を開放する。

 世界が静寂に包まれたように感じ、魔力の流れが見え始める。

 呪禍が言う。

「速攻か良い判断だ。だが、私もただではやられはしない!」

「【呪術・狐火】!」

 火の玉が飛んでくる。

 俺たちはそれら全てを切り、叩き落とす。

 ここまでは良い。問題はこれからだ。

 呪禍との距離を詰めながら俺は奴を注視する。

 すると気づかれにくいように地面スレスレを通って2体の式神が飛ばされていることに気づいた。

 俺たちが呪禍に攻撃を加えようとした時に奴は言う。

「少々、惜しかったな」

 俺は答える。

「悪いけど、気づいてるぜ」

 俺は自分の背後と祈闘さんの背後を切る。

 俺が新しく名付けた魔術を切る【切断(ディバイド)】、その名も――

「【魔切断(マジック・ディバイド)】!」

 式神が切り裂かれる。

 そして式神と呪禍との繋がりも断たれる。

 呪禍が驚く。

「バカなっ⁉︎魔術を切ったというのか⁉︎」

 奴が驚いている隙に攻撃を加える。

 俺と祈闘さんが同時に仕掛けるが呪禍はすぐさま後ろに退く。

 しかし被り物が僅かに裂かれる。

 呪禍の頬に赤い線が引かれ、血が垂れる。

 隙間からは一瞬、黒曜石のような目が垣間見えた。

 呪禍が言う。

「驚いたよ。その目、魔眼だな。魔眼の効果かは知らないがまさか魔術を切るとは」

 続けて呪禍が言う。

「ならばこちらももう少し本気を出さなくてはな」

 呪禍の魔力が高まる。何かが来る!

 呪禍が叫ぶ。

「【陵辱大社・狂骨宮殿りょうじょくたいしゃ・きょうこつくうでん】!」

 呪禍の背後に何かが現れる。

 それは大きな社だった。

 真っ黒な外観で、どこか不気味な様相をしている。

「何だ……?」

 俺はその社を注視する。

 そして俺は気づく。

「嘘……だろ。あれ、骨か?」

「えっ⁉︎」

 俺の言葉に祈闘さんが驚く。

 そう、この大きな社は全て骨でできていたのだ。

 呪禍が説明する。

「そうだ、この社は私が全国から集めた骸に魔力を込めた物で組み上げ、魔術化させた社だ!この社によって私の魔力が強化される!」

 全国から集めたと奴は言った、つまりこの社は実際の人間の骨で作られた物ってことになる。

 そしてそれは本当だろう。

 この眼はあれが本物の骨だと言っている。

「お前のそれは人間の尊厳を踏み躙っている!」

 俺が憤りの声を上げる。

 悪趣味極まりない社だ。

 そんな俺に対して呪禍は平然として言う。

「だからどうした」

 俺たちは息を呑む。

 呪禍が続ける。

「私は少しでも強くなりたいのだ。そのためならば人の尊厳など知ったことではない」

 あぁ、こいつは人の尊厳ってものにまるで価値を感じていない。

 だから平気で死者を冒涜できる。

 俺にはこいつが同じ人間とは思えない。

 祈闘さんが叫ぶ。

「あなたはっ!昔はそんなんじゃなかった!父と力を競い合っていたあなたは間違ってもそんなことをする人じゃなかった!」

 それは魂の叫びだ。たとえ家同士の仲が悪くとも尊敬する父と肩を並べていた、同じく尊敬する相手への落胆の叫びだ。

 そんな祈闘さんに対して呪禍が言う。

「不愉快極まりない」

 怒りを露わにしながら話を続ける。

「貴様も、貴様の父も、いつも、その目で正しいことを言う!貴様に何が分かる、正しいことをして正しく強くなれる貴様に何が分かる!私は貴様の父には終ぞ勝てなかった、いつもいつも私の先を行くあの男が憎くて仕方なかった!強くなるためなら、あの男を超えるためなら、私はなんだってして見せよう‼︎」

 呪禍の魔力が膨れ上がる。

「来るっ!」

 俺たちは迎撃の姿勢をとる。

 呪禍が叫ぶ。

「【呪術・狐火】!」

 今度は九つの燃え上がる式神が俺と祈闘さんにそれぞれ飛んでくる。

 数が増えたとはいえ、これはまだ捌ける。

 だから注意すべきは。

 俺は叫ぶ。

「祈闘さん危ない!」

 俺と祈闘さんに近づく何体かの式神を切り払う。

 あれに触れられれば即座に動きをとめられる。

 とはいえ魔眼を使っていれば問題は無い。

 このまま決める!

 俺は祈闘さんに呼びかける。

「祈闘さん!」

「はい!」

 俺たちは全力の一撃を叩き込むために力を溜める。

 俺たちの技が炸裂する。

「【切断】!」

「【祈闘神楽・天の羽々矢】!」

 高速で突撃する俺たちを見て呪禍が言う。

「私の本気はこの程度ではないぞ」

 その時呪禍の懐から八つの式神が出てくる。

 そして呪禍が魔術の名を呼ぶ。

「【呪禍家秘奥・形代分身】」

 瞬間、式神の姿が変化する。

 それは呪禍桔梗の姿そのものだった。

 呪禍本人も含めて九つの声が重なる。

「「「【呪術・狐火】」」」

 100を超える火の玉が俺たちに飛びかかる。

「ぐぅあっ!」

 俺たちは避けることができず直撃した。

 俺たちは吹き飛ばされ、周囲の木々に突撃する。

「がっ、はっ、祈闘さん無事ですか?」

 俺は祈闘さんの身を案じる。

 すると祈闘さんが返事をする。

「えぇ、なんとか」

 呪禍が話しだす。

「今のをくらって無事とは、お前たち二人ともなんとも丈夫な体だな」

 やはり見間違いではなかった。

 今呪禍は9人に増えている。

 俺は疑問を口にする。

「分身?この技はなんなんだ?」

 俺の疑問に呪禍が答える。

「七大魔家は歴史が古く家に伝わる魔術もかなりの研究がなされている。そのため、七大魔家にはそれぞれ秘奥と呼ばれる代々当主だけが使える強力な魔術が存在する。もっともそこの祈闘家の当主は未だに使えないようだがな」

 呪禍が祈闘さんを見る。祈闘さんは俯き、何も言うことができない。

 呪禍が説明を続ける。

「我が呪禍家の秘奥は【形代分身】。あらかじめ多くの魔力を注いでおいた形代と呼んでいる特殊な式神を私の()()()コピーと化する魔術だ」

 呪禍が一拍置いて言う。

「つまり、今お前たちの目の前には七大魔家の当主が9人いるというわけだ」

 奴の言葉は嘘じゃない、俺の魔眼は魔力が見えるが、奴の分身からは本体と遜色無い魔力が湧き出ている。

 つまり、単純計算で奴の戦力が九倍になったということだ。

 全ての呪禍と真正面から戦っていてはキリが無い。

 ならば、直接本体を叩く!

 俺は優奈さんに呼びかける。

「優奈さん!」

 優奈さんが俺の呼びかけに応える。

「【瞬間強化】!」

 俺は一気に踏み出し、本体の呪禍に突っ込んで行く。

 呪禍が言う。

「全く、舐められたものだな」

 先程と同じ大量の火の玉が飛んでくる。

「おっ、らぁ!」

 その全てを【魔切断】で切り払う。

 しかしその瞬間、俺の体から力が抜ける。

「しまっ……た」

 大量の火の玉に隠れて式神が忍び寄っていたのだ。

 呪禍が俺に近づく。

「やはり、魔術を切るには見えている必要があるのだな。とはいえ、これほど簡単な目眩しに引っかかるとは思わなんだが」

 どうやらあの火の玉は目眩しだったらしい、俺はそれにまんまと引っかかったわけだ。

「さて、まずはお前から殺すとしよう」

 呪禍が短刀を取り出し構える。

 その瞬間呪禍の背後から祈闘さんが襲いかかる。

「させません!」

 完全な不意打ちのより呪禍は吹き飛ぶ。

 いくつもの木々を薙ぎ倒して呪禍は止まる。

「大丈夫ですか、黒峰さん!」

 祈闘さんが式神を取ってくれたことで俺は動けるようになる。

「ありがとう祈闘さん」

 俺は祈闘さんに礼を言う。

 呪禍が立ち上がりながら言う。

「不意打ちか、やるじゃないか。なんとも卑怯なやり方だ。実に()()()()()()()

 祈闘さんの一撃は相当なもののはずだがそれでも立ち上がるとは、どうやら呪禍はタフネスも相当らしい。

 呪禍が言う。

「ところで、気づいているのか?そこは私に囲まれているぞ」

 俺たちを囲った8人の呪禍が一斉に火の玉を飛ばす。

「くっ!」

 俺たちはその攻撃をなんとか避ける。

 やはり厄介だ。どうにかして分身を片付けられないか。

 頭が痛む。魔眼の副作用で思考がまとまらない。

 俺も奴のように分身することができれば。

 そう思った時、俺にある考えが浮かぶ。

 俺は叫ぶ。

「祈闘さん、優奈さん、一旦引きましょう!」

「「えっ⁉︎」」

 二人が驚きの声を上げる。

 俺は優奈さんの方に走り、優奈さんを抱えて走る。

「えっ、ちょっ⁉︎」

 後方で呪禍が叫ぶ。

「逃すと思うのか!」

 火の玉が飛んでくるがどうにか避けながら走る。

 走りながら俺は優奈さんに先程思いついた考えを話す。

「優奈さん、俺と()()()()()()()()()()()()?」

 優奈さんが驚く。

「えっ⁉︎視界の共有⁉︎何で?」

 俺は考えの続きを話す。

「呪禍の分身を片付けるためには手数が足りません、ある程度のダメージを与えれば消えるかもしれませんがそれでは間に合わない。だから、魔術を切ることで一撃で分身を片付けていきます。ですが俺一人では結局手数が足りません。なので、優奈さんが俺の視界を共有して魔力を見えるようになれればなんとかいけると思うんです」

 俺の考えを聞いた優奈さんが思考する。

「そうね、できないことはない……と思うわ。けれど、やったことが無いからどうなるかは分からないわ」

 俺は言う。

「少しでも可能性があるなら十分です。お願いします優奈さん」

「あの、私はどうすれば?」

 話を聞いていた祈闘さんが質問する。

 俺はその質問に答える。

「祈闘さんには俺たちが分身を狙うサポートをして欲しいんです」

「わかりました」

 祈闘さんが頷く。

「それじゃあ、反撃開始です!」

 

 

 俺たちはしばらくした後、戦っていた場所に戻った。

 呪禍が言う。

「性懲りも無く戻ってきたか、そのまま逃げていれば助かったものを」

 そんな呪禍に俺は言い返す。

「言っただろ、一旦引くって、作戦会議をしてたんだよ」

 それを聞いた呪禍が笑いながら言う。

「ほぉ、作戦か、どのような作戦を立てたかは知らないが今の私に勝てるのか?」

 俺は自信を持って言ってやる。

「勝つさ」

 俺は優奈さんに呼びかける。

「優奈さん、お願いします!」

 優奈さんが応える。

「ええい、やってやるわよ。【感覚共有】!」

 

 瞬間、魔使優奈の視界が変わる。

 世界は止まり、遠くの木々の葉の筋さえよく見える。

「これが、黒峰くんの見ている世界……」

 優奈は魔眼によって見えている世界に感嘆する。

 しかし、すぐに頭に激痛が走る。

「がっ、あぁ!」

 黒峰刀也が心配の声をかける。

「大丈夫ですか、優奈さん!」

 頭に大量の情報が流れ込み、脳が悲鳴を上げる。

 彼はこれに耐えられるのかと優奈は驚嘆する。

 それでも強大な敵に勝つために優奈は目を見開く。

「大丈夫……よ、それより、いくわよ!」

 気合いのこもった声に黒峰刀也は応える。

「はい!」


 どうやら優奈さんはどうにか大丈夫なようだ。

 とはいえ、あまり時間はかけていられない。

 速攻でいかなくては。

「行くぞ呪禍!」

 俺は呪禍に向かって叫ぶ。

「ならば来い!呪い殺してくれる!」

 呪禍もまた応える。

 俺は9人の呪禍の内の一人に襲いかかる。

 当然、全ての呪禍が俺に反撃する。

 しかしそれでいい。

 今この場において、分身を一撃で消せるのは俺だけじゃない。

 一人の呪禍にナイフが飛ばされる。

 そして優奈さんが魔術の名を呼ぶ。

「【魔切断】!」

 風船が弾けるような音を立てて分身が消え去る。

「何っ⁉︎」

 分身が消されたことに呪禍が驚く。

 優奈さんが呟く。

「残り7体」

 呪禍が言う。

「今のは何だ、何をした!魔使優奈も魔術を切れるのか⁉︎」

 奴が驚いている隙にさらに分身を消す!

 俺は近くの分身を【魔切断】で消し去る。

「残り6体」

 呪禍が叫ぶ。

「おのれっ!」

 7人の呪禍が俺に向かって火の玉を飛ばす。

「させません!」

 しかし、その火の玉は全て祈闘さんに弾かれる。

「一指も触れさせませんよ。私は二人を守る役目があるので」

 啖呵を切った祈闘さんに呪禍が(うめ)く。

「祈闘守杜……!」

 俺と優奈さんはさらに分身を消すことにする。

 俺が切り払い。

「残り5体!」

 優奈さんの投げナイフが貫く。

「残り4体!」

 

 呪禍は次々と分身が消されていくことで大いに焦る。

「まだだ、私が負けるものかぁっ!」

 呪禍は今出せる最大量の式神を使う。

 5人の呪禍は合計で100の火の玉を飛ばす。

 これにより手持ちの式神は尽きる。

 凌がれれば徒手空拳で戦う他無い。

 黒峰刀也に50、魔使優奈に50の火の玉が飛びかかる。

 刀也が叫ぶ。

「祈闘さん!優奈さんを!」

 自身で防げる刀也と違い、優奈には防ぐ術が無い。

 故に祈闘は優奈を守りに走る。

 刀也と祈闘の技が炸裂する。

「【魔切断】!」

「【祈闘神楽・須佐男ノ祓い(すさのおのはらい)!」

 片や全ての火の玉を切り払い、片や全ての火の玉を薙ぎ倒す。

 これにより、呪禍は徒手空拳以外の攻撃手段を失う。

「おのれっ!」

 5人の呪禍が刀也に襲いかかる。

 しかし、身体強化だけでは敵うはずがなかった。

 一人の分身が貫かれる。

「残り3体!」

 一人の分身が切り裂かれる。

「残り2体!」

 呪禍が叫ぶ。

「まだだぁっ!」

 すでに勝機は無いと気づいている。

 しかし、負けを認めることは己のプライドが許さない。

 呪禍は思う。

 自分は一体何をしているのだ。

 強くなりたかった。

 自分の才能が認められることが嬉しかった。

 だが、いつからか勝つことだけにこだわるようになっていた。

 いつからだ?そうだ、きっとそれは人生で最初の挫折。

 祈闘守杜の父親である祈闘(みこと)に負けたあの日からだ。

 呪禍の脳裏に古い記憶が蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

術木薔薇は刀也を殺す気が無かったため、秘奥を使わず。

魔使操蛇、刻 印は秘奥が実戦向きではないため使いませんでした。

ですが、ある意味ではすでにこれらの秘奥は出ています。

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