第十三話 魔眼
俺の言葉を聞き、刻が言う。
「全力……ね。つまり君は今まで本気じゃなかったって言いたいのかい?」
刻の質問に俺は答える。
「いいや、本気だったさ。ただ、全てを出し切っていたわけではなかっただけだ」
黒峰刀也にはもう一つある能力がある。
つい先程まで俺も知らなかった能力が。
「すいません優奈さん、今まで黙ってて。なにぶん使いづらい能力なので」
一応優奈さんには謝っておく。
使いづらい能力なのは本当なので知っていたとしても使っていたかは怪しい。
刻が言う。
「本当にそんな能力があるなら見せてみなよ。それで勝てるならね」
奴は油断している。きっとまだ俺たちが自身の手のひらの上だと信じているからだ。
それならまだ勝機はある。
俺は眼鏡に手をかける。
目を閉じて眼鏡を外す。
そして、ゆっくりとまぶたを開く。
赤黒い世界の中で二つの瞳が蒼く輝いていた。
刻が驚く。
「まさか……、それは魔眼⁉︎」
魔眼――それは魔術師が生まれ持つ体質の一つ。
ごく稀に魔眼を持った魔術師が生まれる。
魔眼は様々な種類があり、見た場所に炎を発生させるものや見た相手の記憶を覗くもの、果ては未来を見ることができるものまであるという。
俺の魔眼の能力は【超視力】。
目に関するあらゆる見る能力が強化されている。
その目は数km先まで見渡し、動く弾丸が止まって見える。
ただし、目から入る情報が多すぎるため、普段は特殊な眼鏡で魔眼の能力を抑えなければ生活すらままならない。
デメリットの割にあまり使い所が無い能力だが、今この場においては有効だ。
刻が言う。
「なるほど、魔眼持ちか。いったいどんな能力かはわからないけど僕に勝てるかな!」
刻が俺の足元の刻印を発動させる。
俺はその刻印を切る。
刻印は不発となった。
「何っ⁉︎」
刻が驚く。
「君は今何をした⁉︎」
俺はそれに答える。
「別に、ただ切っただけだ」
刻が反論する。
「ありえない!刻印とは爆弾のようなものだ。僕の意思で魔術が待機状態になっているだけで無理矢理刻印を破壊すれば即座に魔術が発動するはず!だからこそ今まで刻印を無理矢理破壊しようとする者はいなかった!」
あぁそうだ。ただ刻印を切っただけならそうなる。
だが、
「だが、魔術ごと切れば話は別だろう?」
刻が驚く。
俺は話を続ける。
「魔術とは回路だ。魔力というエネルギーを回路に流すことで現象を発露させる。なら、そのエネルギーの道筋を断ち切れば?」
刻が反論する。
「不可能だ!それは回路が物質的に存在するから可能なことだ。魔術は非物質的なもの、謂わば概念だ!できるわけがない!」
そう普通はそうなる。存在しないものを切れるわけがない。
だけど、この超視力と切断があるならば――
「この眼に見えるものならば、魔術だって切ってみせる」
俺はなんだって切ってみせる。
刻がうめく。
「まさか……魔術を切れるとはね。それでも、僕が勝つ!」
刻が辺り一体の刻印を発動させる。
数が多い……!
「優奈さん!」
俺は優奈さんに強化を要請する。
「【瞬間強化】!」
俺の体に魔力が注ぎ込まれ、体を強化する。
「はぁっ!」
俺と優奈さん、そして祈闘さんの周りの刻印を破壊する。
刻が見当たらない。一体どこへ⁉︎
背後から声が聞こえる。
「魔術を切れるなら、物量で押せばいい」
俺が振り向くとそこには大量の炎の矢が浮いていた。
「【火矢】×10」
合計で100本ほどの火矢が発射される。
俺と祈闘さんはそれを迎撃する。
「うおおおおおおっ!!」
火矢が尽きた。この隙に!
「まだだよ!」
刻が懐から魔石を取り出す。
「【火壁】+【嵐】、【炎嵐】!」
炎の竜巻が巻き起こる。
刻が叫ぶ。
「燃え尽きろ!」
俺はそのまま突っ込む。
「【切断】!」
炎の嵐を切り、刻の目の前まで近く。
刻が言う。
「君ならそうすると思っていたよ」
足元が光る。
刻が魔術の名を呼ぶ。
「【土棘】」
俺の体に土の棘が突き刺さる。
「ぐっ!……ぅうあっ!」
構わずに俺はそのままナイフを振るう。
「おっと、危ない」
刻は俺の背後に転移する。
俺は叫ぶ。
「祈闘さん!」
「わかってます!」
祈闘さんが刻に殴りかかる。
刻が言う。
「二度も同じ手はくわない!」
刻と祈闘さんの間に一枚の盾が現れる。
「ぐっ!」
祈闘さんの攻撃は盾に防がれる。
「終わりだ」
刻が魔石を使い、祈闘さんに魔術を放とうとする。
「させっ、るかぁー!」
俺は強引に棘を引き抜き刻に攻撃する。
「残念はずれ」
しかしその攻撃は空を切る。
刻は俺の背後に転移し、俺に攻撃を放とうとする。
刻は思う。この攻撃は完璧だと。攻撃直後の背後からの不意打ちは避けられるはずがないと思っていた。
しかし、その思惑は黒峰刀也がこちらを振り向いたことで無に帰した。
「悪いけど、見えてるぜ」
「なっ⁉︎」
刻は驚く。なぜわかったのかと疑問に思う。
空間把握能力というものがある。
人が自身の目で見た光景から今自身がどこにいるのか、どのような状況なのかを把握する能力である。
たとえ直接目で見ることができない背後であってもこの空間把握能力が高い者はイメージによって把握することができる。
とはいえ、そのイメージは自身の目によって周囲を見ることで作られる。
そう、目で見ることによって。
黒峰刀也の魔眼、【超視力】は空間把握能力も向上させている。
俺は刻に切り掛かる。
「終わりだ刻!」
刻がそれに答える。
「まだだ!」
自分は七大魔家の当主、負けることなど許されない。
そんな思いが刻の魔術を俺の攻撃よりも僅かに速く発動させた。
「【火球】!」
目の前で発生する火球、避けることはできない。
また、あまりにも近すぎる故に魔術ごと切るよりも命中する方が速かった。
勝利を確信する刻、しかし火炎の中から人影が迫る。
「止まれよぉ!」
刻が叫ぶ。
「止まらねぇよ!」
俺はそれに応えるかのように吠える。
「オラァッ!」
俺のナイフが刻の体を袈裟斬りにした。
刻が倒れ込む。
「黒峰くん、大丈夫⁉︎」
優奈さんと祈闘さんが駆け寄ってくる。
「俺は大丈夫です」
自分は大丈夫だと答えた後、俺は刻に向き直る。
「さて、お前の負けだ刻。リタイアするかこのまま死ぬかどうする?今すぐにリタイアすればまだ助かるはずだ」
命をかけて戦った敵とはいえ、無闇に殺す理由は無い。
できればリタイアしてほしいが。
刻が言う。
「そうだねぇ。別に僕は魔術長になるのに命をかけてるわけじゃないし、リタイアしようかな」
刻はそう言った後、右手を空に掲げる。
「『辞退』」
刻が右手に魔力を込めながらそう言うと右手の紋様が光り、紋様が消える。
「ふぅ、これで僕は脱落だ。家の奴らにどやされるなぁ」
刻がリタイアしたのを見て俺は言う。
「よしじゃあ、すぐに病院に」
「あぁそれはいいよ」
俺が刻を病院に連れて行こうとすると断られる。
「えっーと、確かここに、あったあった」
刻が懐から魔石を取り出して砕く。
すると刻の傷がみるみる塞がっていく。
「お前、回復の魔術も使えたのか⁉︎」
俺が刻に問う。
刻がそれに答える。
「まぁね、て言っても全快とまではいかないし、貴重だからね。これは応急処置程度だよ。病院は自分で行くさ」
そう言って刻は立ち上がる。
「にしても僕が負けるとわねぇ。せめて片方だけだったら勝てたかな?」
刻が俺たちの方を見る。
少し祈闘さんが気まずそうだ。
だが刻は何でもないように言う。
「まっ別にいいけど。それより、君たち気をつけなよ。僕は魔術長になるのに命をかけてないから追い詰められればリタイアしたけど。他の奴らはそうは行かないよ。きっと、死ぬその時まで勝ちを狙いにくる。だから、あんな悠長なことをしてたら死んじゃうよ。まぁ、それ以前に君たちで他の当主に勝てるかどうかわからないけどね」
一応、心配してくれるのだろうか?
ひとまず礼を言っておく。
「心配してくれてるならありがとう。肝に銘じておくよ」
刻が俺を気持ち悪いものを見るような目で見る。
「君、皮肉って知ってる?てゆうか、普通に君たちじゃ他の当主に勝てないって言ったのに礼を言うなんてどんな神経してるの?」
……ひどい言われようだ。刻から見れば俺たちが他の当主より弱そうに見えても仕方ないだろうし、皮肉の意味も知ってるが、なぜ今言われたんだろう?
「今日はもう帰りましょう」
優奈さんが言う。
俺も祈闘さんも頷き、帰ることにする。
「僕は別の方に行くから」
刻は別の方に行くようだ。まぁ、ついてこられても気まずいだけだが。
俺たちはそれぞれの家に帰った。
この戦いの一部始終を小さな紙でできた物体が観察していた。
その紙を通じて戦いを見ていたのは平安時代の貴族が着ていたような狩衣を真っ黒に染めた衣装に身を包み、布の付いた被り物によって顔を隠した男である。
被り物の隙間からは艶のある黒髪が伸びていた。
男は一人呟く。
「祈闘……、あの小娘が手を組んだか。大人しく家でお飾りの当主をしていれば良いものを。良いだろう、貴様には何の才能も無いのだと改めて知らしめてやる」
男は一呼吸置いて呟く。
「この呪禍桔梗がな」
呪いの魔の手が迫ろうとしていた。
魔眼の効果はニュータイプみたい(ただし、心を読むことはできない)になると思ってください




