第十二話 リビング・デッド
刻との戦いが始まった瞬間、俺の足元が光り、爆発した。
「がっ、はっ」
俺は吹き飛び、ダメージを負うが死んではいない。
「黒峰くん、大丈夫⁉︎」
「大丈夫……です」
優奈さんが俺を心配しているがひとまずは大丈夫だと伝える。
俺を見て刻が言う。
「へぇ〜、あれを受けて死んでないなんてかなり丈夫だね」
俺は今何をされた?
足元が光ったと思ったら爆発した。
爆発を起こす魔術?だが妙だ、それならば一瞬で消えたり、現れたりしたことに説明がつかない。
これが本当はただただ身体強化だけで俺が反応できないほどの速度をだしていたならお手上げだ。
そうでないことを祈る。
祈闘さんが説明をする。
「刻家の魔術は【刻印】です。術理を解析した魔術は自分のものとして扱うことができます。おそらく先程の爆発は爆発を起こす魔術を地面に刻印して発動させたのでしょう。魔法陣が見えたら気をつけてください!」
「なるほどな、瞬間移動をしたり、爆発を起こしたりしたのはそういう魔術だからか」
俺がそう尋ねるが刻ははぐらかす。
「さぁてね、どうだろう」
俺は祈闘さんの方を見る。
祈闘さんもまた頷く。
二人で挟み込む!
俺たちは同時に駆け出す。
そんな俺たちを見ながら刻が言う。
「まさかとは思うけど僕の攻撃が爆発しか無いなんて思ってる?」
刻の周りの地面が一斉に光る。
刻が魔術の名を叫ぶ。
「【土棘】!」
現れたのは土でできた棘だった。
俺たちはそれを咄嗟に避ける。
「まだまだいくよ!」
刻はさらに畳み掛けてくる。
刻が何かを放り投げる。
あれは……魔石?
投げられた魔石が光りだす。
「【火矢】」
魔石から十本ほどの炎の矢が飛び出す。
「ぐっ!」
そのうちの一本をくらってしまう。
以前優奈さんが使っているのを見た基礎魔術に似ているが、あれは魔術師を傷つけるほどの威力はないはず。
なのになぜこんなに威力が高い⁉︎
祈闘さんが驚く。
「今のは四元家の……!」
四元家、それは確か七大魔家のうちの一つだったはずだ。
どうやら四元家の魔術は基礎魔術に似ているらしい。
だが、その威力は段違いだ。
刻が説明しだす。
「そうさ、これは四元家の魔術だ。あそこの魔術は基礎魔術に似ているから解析がしやすくてね。いつもお世話になっているのさ」
魔術師ならほとんどの者が使えるらしい基礎魔術に似ているとはいえ、七大魔家の魔術すらも自分の物にしてしまうのか……!
優奈さんが叫ぶ。
「こんな開けた地形じゃ勝てないわ!一旦引いて隠れるのよ!」
俺は優奈さんの提案に返事をする。
「わかりました!」
「逃すと思うのかい?」
刻が追撃を放とうとする。
「悪いけど逃げさせてもらうわ」
優奈さんが懐からナイフを取り出し投擲する。
刻はそれを瞬間移動で回避する。
俺たちはその間に全力で逃げる。
一人残された刻が呟く。
「逃げられちゃったか。でもまぁ、関係ないけどね」
俺たちは知らなかった。
俺たちはすでに奴の手のひらの上だということを。
全力で逃げて数分ほどたった。
「ここまで……くれば……すぐには見つからないでしょう」
祈闘さんとはバラバラに逃げたのではぐれてしまっている。
とはいえ、住宅地に逃げ込んだので見つかりにくいはずだ。
今のうちに祈闘さんと合流して作戦を練らなくては。
俺は優奈さんに話しかける。
「ひとまず、祈闘さんと合流しましょう」
優奈さんがそれに答える。
「えぇ、そうね」
その時声が聞こえた。
「残念だけど、それは無理かな」
「「ッ!」」
俺たちは上を見上げる。
今俺たちが背を向けている住宅の向かいの住宅に刻は立っていた。
「住宅街に逃げ込んで奇襲で倒す。その考えは上出来だけどね。こうとも考えなかったのかい?地面に刻印ができるなら、すでに間界中に刻印が仕掛けてあるかもなんて」
「「ッ!」」
俺たちはすぐにその場を離れようとする。
しかし、俺が背を向けている壁の刻印が発動する方が速かった。
刻が魔術の名を呼ぶ。
「【土棘】」
壁から生えた何本もの棘が俺の体中に突き刺さる。
「がっ、はっ」
「黒峰くん!」
優奈さんが悲鳴をあげる。
俺の体からは鮮血が吹き出し、俺は意識を失った。
刻が言う。
「これで君の使い魔は死んだ。もう諦めたら?」
それに優奈は返す。
「あんたなんかに絶対負けてやるものですか!」
優奈が懐からナイフを取り出し投擲する。
「【切断】!」
刻はそれを避ける。
空を切ったナイフは刻の背後の住宅を貫通し、地面に落ちる。
「おっと危ない。さっきも見たけどそのナイフとんでもない切れ味だね、何か魔術がかかってるのかい?当たったらひとたまりもなさそうだ。まぁ、当たれば……の話だけどね」
そう言って刻はゆっくりと優奈の方に近いていく。
彼女は逆立ちしても自分に勝てないと思っているからだ。
優奈はその油断につけ込む。
「属性は炎、その形を矢に限じ、我が敵を撃て!【火矢】!」
それはただの基礎魔術、刻は何の警戒もすることなく進み続ける。
なぜなら、基礎魔術では魔術師を傷つけることはでないから。
そう、基礎魔術だけなら。
「これでも、くらいなさい!」
火矢と同時に優奈はとある瓶を投げる。
その瓶にはガソリンが詰め込まれていた。
「ッ!?」
基礎魔術だけならと油断していた刻だが、同時に放たれた瓶は警戒する。
だが、その警戒は僅かに手遅れだった。
火矢が刻の目の前で瓶に命中する。
瓶を貫通した炎の矢は中のガソリンに触れ、引火する!
優奈が叫ぶ。
「燃えなさい!」
次の瞬間、刻の目の前には炎の壁が広がった。
突然のことで刻は動けず、直に炎を浴びる。
「がっ、ぐぅああああ‼︎」
転がる刻、炎の熱さと痛みによってのたうち回る。
ナイフはすでに使い切っている、これで仕留めきれなければ後は無い。
すぐさま刻は懐から魔石を取り出し、砕く。
刻の周りを大きな水泡が包む。
炎は消化される。
「はあっ、はあっ。やってくれたね魔使優奈、まさか君一人でここまでやれるとは、でも仕留めきれなかった。君の負けだ」
立ち上がる刻を見て優奈は一切動じずに言う。
「いいえ、まだよ。私には仲間がいるもの」
住宅の影から人が飛び出す。
「てやぁっ!」
祈闘守杜が全力で殴打する。
「何ッ⁉︎」
刻は吹き飛び、住宅にめり込む。
「ナイスタイミングよ祈闘さん」
優奈が祈闘に話しかける。
「はい、なんとか不意打ちが決まってよかったです」
その時声が聞こえる。
「もう勝ったつもりかい。舐められてるなぁ」
「何でっ⁉︎」
祈闘が驚く。
自身の全力だった。
タイミングも完璧で確実に当たったはずだ。
刻の前には氷のような盾がひび割れながら浮いていた。
「いやぁ、持ってて良かったよ【氷白盾】」
優奈が叫ぶ。
「それは!お父様の!」
それは紛れもなく父の使い魔である水蛇が持つ魔術であった。
刻が説明する。
「あぁ、そうか。君は魔使操蛇の娘だから知ってるのか。そうだよ、これは君の父親の使い魔が持つ魔術だ。前に見たことがあってね、解析しておいたんだ。おかげで助かったよ」
刻が一拍置いて言う。
「これでもう手札は尽きたかい?なら、終わらせるとしよう」
懐から魔石を取り出す刻。
祈闘が迎撃しようとしたその時、声が聞こえた。
「おい、待てよ」
その声は黒峰刀也のものだった。
少し前に遡る。
俺は意識を失っていた。
「――――」
声が聞こえる。
俺は死んだのか?
それならこの声はナビ子の声か?
「――――」
いや違う、これは男の声だ。
ナビ子の声じゃないなら誰だ?
俺は死んでいないのか?
体中に棘が刺さったはずなのに死んでないなんて丈夫だな。
また声が聞こえる。
ひどく聞き慣れたような声が。
「目を覚ませ炎上寺心也」
「えっ」
俺は目を覚ます。
体中が痛いが生きている。
今どうなっている?
二人は無事か?
俺はあたりを見渡す。
その時、刻が二人に近こうとしていた。
「これでもう手札は尽きたかい?なら、終わらせるとしよう」
俺は咄嗟に声を出す。
「おい、待てよ」
みんなが俺に気づく。
「黒峰くん、あなた生きてるの⁉︎」
優奈さんが心配と驚きの声をあげる。
「えぇ、なんとかね」
俺はそれに答える。
刻が俺に質問する。
「いやいや、それで死んでないなんて君、いったいどういう身体構造をしてるんだい?体中に穴が空いて、血も大量に流れてるはずなんだけど。君、本当に人間?」
刻の疑問はもっともだ。
実際、俺もなんで死んでないのかわからない。
その時、俺の頭に記憶が流れ込む。
あぁ、そうだったのか。
どうやら俺は本当に人間じゃなかったらしい。
ひとまずこの棘が刺さった状態から抜け出すことにする。
俺は力を入れて体を引き抜こうとする。
それを見た刻が言う。
「やめとおいた方がいいよ。そんなことをすれば腕や足が引きちぎれるよ。たとえ引きちぎれなかったとしても出血多量で今度こそ死ぬよ」
あぁそうだな。だがしかし、それは俺が人間だったならばだ。
刻の警告を聞かずに俺は体を引き抜く。
腕や足からミシミシと音が鳴るが構わずに引き抜く。
優奈さんが俺を心配する。
「黒峰くん、あなたそれ、大丈夫なの⁉︎」
「大丈夫……です!」
棘から体を引き抜いた。
その時左腕が千切れたが構うことはない。
刻が言う。
「正気じゃないね。せめてそのままでいれば助かったかもしれないのに」
奴がそう言うのは今も俺の左腕から大量の血が噴き出ているからだろう。
流石にこのまま放置すれば死んでしまう。
なので再生する。
今までは無意識にやっていた。
だから、体が丈夫程度だった。
だから、治すのに一晩かかってしまった
だが今は違う。意識して左腕に魔力を通す。
すると、俺の左腕が再生する。
優奈さんが慄きながら質問する。
「黒峰くん……、あなた、何者なの?」
俺は刻に問う。
「刻 印、あんた10年前の決議でとんでもない化け物が現れたのは知っているか?」
刻が答える。
「あぁ、知っているとも。僕もその決議に参加していたからね。七大魔家の当主6人がかりでやっと倒せた化け物だったよ。むしろ、どうして君が知っている」
刻の質問はもっともだ。俺が今の体になった日、間界では候補者たちが争っていた。だから、普通は誰も近づこうとしない。
知らずに一瞬近づいてもすぐに帰るだろう。
「別にたまたまあの日現場にいただけだ」
俺は、黒峰刀也はあの日魔術を覚えた嬉しさに単身で間界へと入った。
そして、そこでは災害が起こっていた。
遠目に見ても分かる巨大、頭から尻尾まで吸い込まれるような漆黒の竜だった。
その竜を中心に爆発やら火災が起こっていた。
その風景はまさに地獄絵図といった風だった。
一瞬近づいただけでとんでもない余波が巻き起こり、俺は巻き込まれた。
「あの化け物とあんたたちの戦いの余波で俺は死んだ」
話を聞いていた全員が驚く。
優奈さんが質問する。
「死んだって、あなたは生きてるじゃない⁉︎」
「えぇそうです。俺は死んで、生き返ったんです」
あの戦いの余波で俺は死んだ。
だが、そこで終わりじゃなかった。
「あんたたちがあの化け物を倒した時、化け物の体が間界中に飛び散っただろ。化け物の肉片が俺を蘇らせたんだ」
刻が質問する。
「確かにあの化け物の肉片はとてつもない魔力を秘めていたけどとくになんの影響もなかったはずだよ」
そうあの化け物の肉片は生者には何の影響もない。
「あの肉片は死体に入ることで初めて効果があったんだ」
死んで生命というなかみを失った器に肉片が入ることで擬似的な生命となったのだ。
「それから、俺の体はこんなんになったんだ。」
一度死んだせいか上手く魔術が使えなくなっていたようだが、優奈さんの使い魔になってからはそれも解消している。
刻が言う。
「なるほどね。君の丈夫さの秘密はよくわかった。でもだからと言って僕に勝てるのかい?」
残念だが、ただ再生するだけでは奴に勝てない。
だから――
「あぁ、このままじゃお前に勝てない。だから、全力を出す」
全てを出し切ることにする。
【刻印】魔術は魔石に刻むことで魔力消費無しで発動できます。ただし、魔石に刻んだ刻印は一度使用すると魔石が砕けて消えます。
それと余談ですが十年前の決議で化け物を呼び出したのは術木家です




