The 13th Ride アップデート!
ここからいよいよリベンジ編、再開!
連載開始当初は毎日更新とか頑張りすぎてしまったので、そうならないように更新ペースまったりですが、読んでいただけると嬉しいです♪
「次のレースに向けて色々やっとかなアカン事があるから、2人ともウチ来てや」
茜からそんなメールが入ったのは、僕とユーダイにとって初めてのレース・横須賀エンデューロに参加して半月ぐらいが過ぎた土曜のことだった。
「茜ちゃん家ってどんなだろうなぁ? オレ、女の子の家って行くの初めてだから緊張するわ~。あ、ヤイチは茜ちゃんち頻繁に行ってたりとかすんの?」
「俺だって初めてだよ。大体、家も分かんないし」
「2人ともおっそーい! 女子待たすなんてダメダメやで!」
ユーダイと喋りながら川沿いの細い道を抜けて海岸通りに辿り着くと、そこには自転車に跨った茜が走る準備万端と言わんばかりの姿勢で待ち構えていた。
「自転車、新しくなったんだね」
「今まで乗ってたヤツはこの前のレースで壊れてもぉたからな。もうちょっと身長伸びたら……と思ってたヤツなんやけど早めのお披露目や♪ カッコええやろ!」
黒とピンクに光る新しい自転車は今まで茜が乗っていたものよりも大きく、その分だけ茜も大きく頼もしく見える。
「DE ROSAのIDOLっちゅうんやケド、どや? ウチにピッタリな名前やろ?」
「ん、ああ……良い名前だね」
「ああ、うん……」
リアクションに困って返事が棒読みになる僕とユーダイを差し置いて、茜は海岸通りを既に走り始めていた。
「今日はレースを想定してトバすから、しっかりついてくるんやで!」
「げぇえ~日曜なんだし、ゆっくりでいいよ」
「そんな事言ってたら置いてくで、気張りや!」
そうしてペースアップを重ねて僕とユーダイには全力を出させながらも、先頭交代で後ろに付くとやけにジロジロと見てくる茜。
特にユーダイの走りを眺めている茜の視線が真剣すぎて、(コレはもしかしてユーダイの事が気になってたりする的なアレなんじゃないか?)とか走りながら思い始めて、何だか僕は胸がモヤモヤしたけれど。
「着いたで!」
そう言われた建物があまりにも予想外だった事に、そんな気持ちは一瞬でどうでもよくなった。
たどり着いたのは、江の島を過ぎて鎌倉海浜公園から住宅街の方へ曲がってすぐの所にある古い立派な家。
背の高さを超える壁に囲まれてその奥からは、天に聳える立派な木が何本も枝葉を覗かせている。その敷地へと繋がる門の前にも立派な松が等間隔に並んで植えられていて、間違いなく僕やユーダイの家とはレベルが違う建物である事を表していた。
「あのぅ……茜の家ってもしかして……すっごいお金持ち?」
「まぁ、母方の爺ちゃんはな。父ちゃんは自転車狂いのしょーも無い男やけど。んで、こっちや」
そうして案内されたのは建物の裏手にある、立派なシャッターが電動で開くガレージの中。そこは自転車の部品や工具が理路整然と並べられていて、何だか自転車屋さんの整備ブースを思わせた。
「自転車はそこに並べて停めて。置いたらまっすぐ気を付けのポーズな。ちゃちゃっと始めるで!」
言うが早いか、僕らよりも先に自転車とヘルメットを置いた茜は巻き尺を持って、ユーダイの腕や脚と自転車をテキパキと図り始める。いったい、何を始めるつもりなんだろう?
「やっぱしな。ユーダイ君、アンタこの自転車……買ってからロクに弄ってないやろ?」
「え、あ……いちお洗ったりチェーンの汚れ落としたりはしてたんだけど」
「そんな見た目だけのハナシと違う。身長や乗り方に合わせてるかって事や! ヤイチもやで」
そう言われて『ロードバイクは自分の身長や体格と合ったものに乗る必要がある』って自転車屋さんに言われていたのを思い出す。
考えてみれば僕もユーダイも、自転車を買ってからの1年半で身長も少し伸びたし乗り方だって最初とは違うハズだ。だけどそれに合わせて自転車も調整をしてきたかと言われたら、何もしていなかった。
「サドルはこれぐらい上げた方がええな。ステムもこれぐらい長くしてハンドルを前に持ってきて……あとはホイールか。コレ、最初に付いてきたヤツそのまま使ってる?」
「んーまあ、カラオケとかゲーセンとかでパーツまで買い替えるお金が無くてさぁ」
「キミ、よくそんなんでレース出ようって言えたわな……とりあえずウチの前使ってたホイール貸しとくわ」
茜はさんざん文句をユーダイにぶつけながらアレコレとパーツを入れ替えていく。1時間ほどで組み上がってローラー台の上にスタンバイされた自転車を漕いでみて、ユーダイは絶叫をあげた。
「なんだコレ!? ホントにオレの柚葉ちゃん2号なのか? まったく別の乗り心地じゃねえか!」
「この子……バイクに名前付けとるんか」
「えぇと柚葉ってのは……ユーダイの好きな先輩の名前でね」
それを聞いて引き気味だった顔が更にドン引きになる茜など気に掛けず、夢中になって自転車を漕ぐユーダイ。
「ヒャッハー、こんだけ速く走れるなら今日から俺はネオ雄大だ! ヤイチ、お前も早くネオヤイチに魔改造してもらえ♪」
最早テンションが上がりすぎて意味不明なユーダイは無視して、茜は僕の手足と自転車に巻き尺を合わせてテキパキとセッティングを変えていく。
「ヤイチはこのバイク、中古だったって言うとったよね」
「うん。格安にしてもらったけど、ホントは赤字だって」
「前の持ち主がレースに出るつもりで組んでたんやね。ホイールも他のパーツもちゃんといいヤツ付いとる。あとは【乗り手】が、この性能をちゃんと活かせるかどうかやな」
そう言ってニヤリと笑う茜に、僕は嫌な予感しかしないのだけど。
「フォルトゥナの練習がない月・水・金は学校終わったら朝、合流したトコに来てや。週3やけどみっちりしごいたるから♪」
Tips:ロードバイクあれこれ
ロードバイクは乗り手の身長・手の長さ・足の長さ・柔軟性に合わせて、サドルの高さや前後位置、ステム(車体とハンドルを繋ぐ部分)の長さを変える事で細かいポジション調整が可能です。
その効果はたった数センチの違いで乗りやすさやパワー伝達が格段に変わるので、今回はその調整をしたという描写になります。
※レースガチ勢は年1回から半年おきにプロに1回数万円払ってセッティングしてもらうものらしい……金銭感覚ぇ……




