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The 14th Ride 僕の武器になるものなんて、見つかるのだろうか?

 茜に自転車のセッティングを直してもらって1週間後。


「お、割と早いやん。もう少し時間かかるかと思っとったわ」


 学校から大急ぎで家へ戻り、サイクルジャージに着替えて海沿いの通りへ出ると、茜は優雅にコーラなんか飲みながら待ちかまえていた。

 

「それじゃ今日は少しずつペース変えながら走るから、ちゃんとついてくるんやで!」

「うん、頑張ってみるよ」

 

 

 茜の走り出すペースに合わせて僕も最初からペダルをフル回転で踏み込む。


 今の僕の身長と脚力にフィットするように、茜が何度もやり直して綿密に調整してくれた事で、今までのスピードとは比べ物にならないぐらい速く走れるようになった。


 

 だけど、どれだけペダルを踏み込んでみても、この前の帰り際に言われた言葉が頭の片隅から離れなかった。


 

『次のレースまでに、ヤイチにとっての武器になるモンが何なのかハッキリさせんとなぁ』


 

 僕の武器、って何だろうか?


 

 裏門坂でユーダイが見せたみたいに急な坂すらものともしないダッシュ力は僕には無いし、茜みたいに急加速してとんでもないスピードを出すことも僕にはできない。


 榛名はるなくんの坂道を全く意に介さず登っていく脚なんてものも当然持っていないし、三波みなみくんみたいにレースのペース全体を支配するような能力なんて、レースにもほとんど出た事の無い僕にはあるワケが無い。


 

 そんな僕が、彼らと一緒に戦えるような武器なんてあるのだろうか?



「ヤイチ、どしたん? 遅れとるで」

「え、ああゴメン」

「セッティングなんか変なトコとかあった? バイク見直そうか?」

「いや、ちょっと考えてただけで……」


 走り始めて30分ぐらいの所で、茜がブレーキをかけて急停止する。僕も慌ててそれに続き、海岸と国道を隔てるコンクリートの壁に自転車を立てかけた。

 

 7月初めの夕暮れ時、眼前に広がる海は黄金色に輝いて、風はもう夏の暑さを運んできている。


 

「ねえ……僕の武器になるもの、って何だろう? そんなの、見つかるのかな?」

「なんや、この前言った事か。あれ、気にしてたんね」

「うん」


 僕が呟いた言葉に反応して、しゃがんで自転車の調子を見続けていた茜が立ち上がり、僕の隣に来る。


 

「恥ずかしいからあんまり言いたくない話なんやけど……ロードバイク始めた頃な、ウチもずっと負けっぱなしやったん」

「え、茜が?」


 驚いた。いつだって無敵だった、ってずっと話していた茜にも、そんな時期があったなんて。


「小4で前の自転車(バイク)に乗り始めて女子チームにも入ったんやけど……2個上でウチより先に始めてたお()ぃと、そのチームメイトには全然敵わんかったんよ。緩いペースで走ってるときは普通やったけど、全力出して走ってみようってなるとあっという間に取り残されて……」


 小4で2個上となると6年生の男子と一緒に走っていた事になる。それもロードバイクに乗り始めたばっかりの初心者なのに、1年か2年ぐらいとはいえ経験者と。


 そんなの、どうやったって勝てるわけが無いと僕なら思う。それでも、茜には諦めきれない出来事だったのか。


「すごく悔しかったんよ。だからお兄ぃ達より沢山ペダル回して、少しでも最高速度に入れるタイミングを早くなるようにして……って頑張って頑張って、ようやく今の武器を手に入れて短い距離だけでも勝てたのは、お兄ぃが中学生に上がる直前やった」


 そうやって1年かかって手に入れたのが茜の、急加速して誰も到達できないトップスピードまで辿り着く【スプリンター】という能力だったのだろう。だけど――――ー



「でもさ、茜だってそれ手に入るまでに1年もかかってるでしょ。それを茜と比べたら本気でやっている期間の短い僕なんかが、それもあと2カ月でなんて……」

「出来る、ウチが何とかしたる! これ以上ヤイチを弱虫だの雑魚だなんて言わせないから!」

「茜……」


 意志の強さを伺わせる茜の横顔が、夕日の中に輝く。


「あんなヤツから良いように言われっぱなしでなんて、終われないやろ!?」

「うん。啖呵切っておいて簡単に負けて終わりになんてできない、って思ってる。でも……そう思えば思うほどさ、何の武器もない僕が足手まといになるんじゃないかって……」


 

 僕には、茜ほどの強さは無いよ。そう言ってしまって、顔を伏せてしまえたらどれだけ楽だろうと思う。でもそんな僕の気持ちを先回りするように、茜の手の平が僕の肩に温かく触れた。


「ヤイチは足手まといなんかやないよ。ウチのために怒ってくれたし一緒に戦う仲間やって言ってくれた。だから今、ウチは頑張れてる」

「茜……」

「その恩返しや。絶対にヤイチの武器になるモンを見つけ出したる! だってヤイチはウチの……」


 そこまで言い切ったところで置いた手に力が入りすぎたと気付いたのか、ハッとして手を離して続けた。


 

「ヤイチはウチの、一番弟子やから!」

「一番弟子……うん、そうだね」

「せやから師匠として責任もって、ウチが何とかしたる。もうすぐ夏休みやし、そしたら毎日1時間くらいなら一緒に練習できるから。それ以外の時間も、ヤイチは出来る限りの事をやるんやで!」


 そう一気にまくし立てると「よっしゃ!」と気合を入れて自転車に跨る茜。


 そのおかげで、少しだけ折れそうになっていた気持ちが繋がってくれるのを感じる。


 

 レースまであと2か月。でも、夏休みっていう全力を注げる期間がもうすぐやって来る。その間に僕は自分の武器になるものを、何とかして見つけ出す!


 そう心に決めて、夕暮れの中をもう一度、走り出した。

今回のシーンはこんな曲をひたすら聴きながら書きました。

MONOEYES - アンカー

https://www.youtube.com/watch?v=1J2SXCIDS2s


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