Detoured-1 由比ヶ浜 茜
タイトルの『Detoured』とは「迂回」「回り道」の意。つまりスピンオフ的なものです。今回は茜ちゃん編!
小学生を卒業するまでのアタシは、はっきり言って無敵だった。
お父さんの影響でお兄ちゃんが『ロードバイク』っていうカッコいい自転車を買ってもらって競技を始めたのは、あたしが小学校3年の時。
「カッコ良い! 茜もやってみたい‼」
これまでずっとお兄ちゃんがやってきたゲームや、友達と遊びに行くのもほとんど混ぜてもらって互角の戦いをしてきた。
そんなアタシだから、お兄ちゃんに1年遅れて小学4年で始めたロードバイクも女子しかいないチームでなら、あっという間に頭角を現す事が出来た。
「茜の能力なら6年になる頃にはウチのエース級になれるかもしれんなぁ」
ユースチームの監督に言われた通り……というかそれ以上の成長を遂げて、5年生の頃には1個上のエースだった筋肉隆々のゴリちゃんを押し退けてアタシがチームのエースになった。
チーム自体も神奈川県の、というか関東エリアの小学生女子チームの中では上位入賞を狙えるチームになっていた。
完璧だった。何もかもが上手くいきすぎていた。
だから中学生になっても、あっという間に何もかもが上手くいくと思っていたんだ。
それなのに。
「邪魔くせぇんだチビ! 俺様のコース取りを邪魔すんじゃねえ!」
中学から自転車競技部がある小田原学園に入って、最初のチーム合同練習の時。フィジカル的に勝ち目がない男子に弾き飛ばされ、落車して集団に入れなかったアタシを待っていたのは、早すぎる戦力外通告だった。
「決定が不服? オメーみたいなの何度やったって無駄に決まってんだろ?」
「だよなぁ。ちょっとぐらい速くても俺らとの体格差、埋められんの?」
「そうそう、そんなに俺らと張り合いたきゃ、磯崎女子ユースのゴリぐらいムキムキになってから来いよ。ギャハハ」
ロードバイクはレースとなればチームで走る競技。なのに女子で唯一の入部希望者であったアタシに味方してくれた部員は、誰も居なかった。
だから、たとえアタシが【直線スプリント】では他の男子たちに負けないぐらいの速さを持っていたって、その前に対格差で集団から振り落とされてしまえば能力を発揮する場もないのだ。
それは中学での部活だけでなく、女子ユースチームの練習でも同じ状況だった。
「茜は小学生の頃なら体格差とか関係なくやれてたんやけど。チームとして守りながら戦うとなったら厳しいわなぁ。せめてあと身長が10センチ、伸びてくれるんやったら……」
小学生の部ではアタシをチームエースにしてくれてた監督も、中学になって体格が良いだけじゃなくて速くなった1学年上のゴリちゃんこと、五里愛花を中心とした体格差で押し負けないチーム作りにシフトしていた。
アタシに任された役割は全力のスプリントでゴールをもぎ取るエースではなく、意表を突いたアタックを掛けて敵チームのペースを攪乱する飛び道具的なパンチャーだけ。それか部活での雑用専門のマネージャー扱い。
悔しかった。居場所が無くて、大好きだったロードバイクすら、嫌いになりそうで。身長が伸びてくれない自分を呪ったりもした。もうロードバイクを降りようかななんて、思ったりもした。
ヤイチに再会したのはそんな時、中学2年に上がったばっかりの時だった。
「やっぱ速いなぁ茜は、全然敵わないや。やっぱりレースなんかでも活躍してるの?」
1年前、ロードバイクを買ったばっかりで初心者だったヤイチはこの1年で少しだけ背が高くなって、走りも少しだけ上手くなっていた。それにちょっとだけ……カッコ良くなっていた。
「あったりまえやろ!ユースチームじゃとっくにウチがエースや♪」
「へぇえ凄い! じゃあ今度レースの事とか走り方とかも教えてよ!」
「任しとき! ちゃんと先輩の走りに付いてくるんやで♪」
そんなヤイチに褒められたことでアタシは少しだけ自信を取り戻せて、久々に走るのも楽しくなった。彼にとっては『先に始めた先輩』として、カッコ良いトコを見せないといけないって思ってた。だけど……
「ソイツから自転車を? クククッそりゃ傑作だ、面白ぇから教えてやるよ! その女はなぁ、威勢良く自転車競技部に入ってきたクセに、男子の誰にも勝てなくて雑用マネージャーぐらいの用にしか使えないゴミなんだよ」
よりにもよって一番バラされたくないことを、一番バラされたくない相手に、バラされた。それも嘲笑われながら。
アスファルトの上に投げ出されて、恐らく致命的だろう亀裂が入ってしまったのが分かるあたしの自転車みたいに、気持ちはグチャグチャでボロボロだった。
ヤイチはきっと、勝手にエースだなんて言い張っておいて本当は情けない部分しかないアタシに対して、酷く幻滅してるだろう。元々は大見栄切ってウソついた自分が悪いのは分かってるケド……
惨めさに泣きそうだった。
でも彼はそんなアタシの前に立ち塞がって、こう言ってくれたんだ。
「茜は俺に、自転車を教えてくれた恩人だ。それに今回のレースで一緒に闘ってくれた仲間だ!」
「もし俺らが勝ったら、茜を馬鹿にした事をちゃんと、謝れ!」
東郷のヤツは鼻で笑っていたケド、そんな事はどうでもよかった。
アタシは仲間として認めてくれて、アタシのために怒ってくれたヤイチに恥じないように、東郷に勝たなくちゃいけない。それがどんなに不利な戦いだとしても。
「ちゃんと頑張るからね! 見とってや、ウチの相棒!」
使っていたパーツを全部新しいものに乗せ換え、フレームだけの姿になって壁に飾ってある4年半使った相棒ーーDE ROSA AVENTーーにアタシはグーを前にしてそう誓った。
少しの間連載お休みをいただきましたが、いよいよ来週からリベンジ編、スタートです!
次回「アップデート!」お楽しみに。




