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The 12th Ride Result&Revenge


 気が付くと目の前には、泥土で覆われた木の根元が見えた。


 どうしてだろう、つい一瞬前まで茜の後ろ姿しか見ていなかったハズなのに……と思い返したところで傍らに散らばる僕の自転車と茜の自転車(ロードバイク)


 それから倒れたままの茜を見てようやく、今の状況に気付く。


 そうだ、あの黒いジャージの一団の真ん中にいた人を右から追い抜こうとした瞬間、その人が茜の方に突っ込んできて。それで接触した茜につられて、僕も自転車ごと吹っ飛んだんだ……直前の記憶が確かならば。


『横須賀エンデューロ1時間部門、1位は磯崎フォルトゥナ五里選手、2位は小田原学園自転車競技部の北条選手、そして3位は我らが横須賀のチーム、グランツリッター三波選手!』


 遠くの方から拡声器でゴールした選手のアナウンスが聴こえる。


 

(いっ)つつつ……」

「茜! 大丈夫か!?」

「コレから確認するけど……ヤイチも大丈夫?」


 言われて自分の身体に意識を集中する。転んだのが固いアスファルトじゃなくて土の上だったことが幸いしたのか、何処も痛みは感じない。あるとしたら転んだ瞬間に打ち付けた背中が痛いぐらいのものだ。


 だけど茜は何とか起き上がりながらも膝の辺りを押さえていて、そこから血を流していた。


「茜!? 足は……」

「ん、ああ。なんとか立てるし、骨まではイッて無さそうやけどな。マシンの方は……」


「おうコラ、こっちの心配はしねえのかよ? 足挫いてるっつーのによ!」



 その声がした方に視線を向けると僕らよりインコース側、舗装されたアスファルトから自転車を引きずるようにしておぼつかない足取りでこちらに向かってくる、黒いジャージに身を包んだ男の姿があった。


「大体そっちがコーナーで膨れてきたんが……」

「うっせえ! クソの役にも立たねえ女子のくせに、俺の走りを邪魔する方が悪いんだろうが!」


 反論しようとした茜の言葉を遮るように怒鳴りながら、足を引き摺って男が近付いてくる。その顔はサングラスで隠されていて分からなかったケド、声には何処か聞き覚えがあった。


 

「大体テメェはよ、足手まといの能無しで雑用係のマネージャーぐらいしか使い道もねぇクセに。諦めねぇで女子チームで頭数に入れてもらって、そんでわざわざ俺らの邪魔するとかあり得ないだろうが。ゴミ以下だな」


 茜のサイクルヘルメットを上から乱暴に掴むと、顔を近付けてそんな暴言を浴びせかける男。ソイツは僕よりも身長が大きくて茜と比べたら頭1つ分くらい大きく見えた。


「やめろよ!」

「あん? 何だてめえ!」


 思わず茜のヘルメットを掴んだ手を振り払うと、男はそのまま少しよろけてサングラスが地面に落ちる。そこで露わになった顔は、忘れもしないヤツの顔だった。



 東郷洋輔(とうごうようすけ)。小学校で5、6年と同じクラスで何かにつけて僕に文句を言ってきた、あのヨースケだ。


「部外者が口出してんじゃねえよ! って思ったらあの逃げた弱虫ヤイチじゃねえか。今更なんでテメーが居んだよ?」

「茜は俺に、自転車を教えてくれた恩人だ。それに今回のレースで一緒に闘ってくれた仲間だ! そうじゃなかったとしても、さっきみたいなのを許せるワケが無いだろう!」


 そう言ってこれ以上手出しできないように、茜の前へ庇うように進み出る。


 今度はそんな僕に対して何かの暴力を仕掛けてくるかと思ったが、出てきたのは()()()だった。


 

「ソイツから自転車を? クククッそりゃ傑作だ、面白ぇから教えてやるよ! その(アマ)はなぁ、威勢良く|小田原学園中等部自転車競技部ウチのチームに入ってきたクセに、男子の誰にも勝てなくて雑用マネージャーぐらいの用にしか使えないゴミなんだよ」


 浴びせられた言葉に辛そうに顔を伏せる茜。そこに追い打ちをかけるように言葉を続けるヨースケ。


「そんな分際でチームの邪魔しやがって、アレか? 普段こき使ってやってる腹いせでやってんのか? 大体テメーもテメーだよヤイチ! やっと俺の目の前から消えてくれて、せいせいしたと思ってたらこんな形でまた沸いてきやがって。雑魚コンビが何のつもりだ?」


 ぎりり、と奥歯の擦れる音がした。ヨースケが中学に入って自転車を始めたのか、それとも小学校から続けていたのかは知らないけれど。ここまで言われて踏みにじられて、黙っているわけにはいかない。


 

「別に復讐、ってつもりじゃないけどな。でも、そこまで雑魚って罵るなら勝負するのはどうだ?」

「ヤイチ?」


 茜は怯えの混ざった顔で困惑気味に尋ねるけど、吐き出しかけた言葉は止められない。止めるつもりもない。


「今日じゃなくて、いつか何処かのレースで俺と茜が組んだチームとヨースケのチームが走って、どっちが速いか勝負するんだ。それでもし僕らが勝ったら、茜を馬鹿にした事をちゃんと、謝れ!」


 

 自分でも話していてムチャな勝負なのはわかっている。今回のレースでヨースケの居るチームと勝負になったのだって殆ど三波くんと榛名くんのおかげだ。


 だけど……どうしても、今度は自分たちの力でこの男を叩きのめしたいと思った。しかもこんな終わり方じゃなく、きちんとゴールした上で。


「お前らゴミが? この俺を? アッハハハハ、やっぱ口先だけイキり野郎の青嶋は変わってねぇな。良いだろう! 今から3か月後、川崎市でエンデューロ大会がある。今日と同じ1時間、そこにエントリーする予定だからそれに出るなら相手してやるよ」

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