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The 11th Ride ダブルチーム・スプリント

「追いついたぞ! 先頭集団だ!」



 前方から聞こえた声に視線を向けると集団の先頭を走ってる選手の数10メートル先、縦にまっすぐ並んだ数人の選手たちの後ろ姿が見えた。


「全員で上がれ! 集団に取り込んでやれ!」

「ちょっと待ってくれ! 今ここでペースを上げられたら……」

「うおおおおっ! 愛花(まなか)ちゃんは何処だ~!」


 その状況に浮き足立つ選手たちと、さらに一段引き上がってしまったペースに付いていけず集団から千切れていく選手たち。


 先行集団が取り込まれて大集団が形成される以前に、三波君が危惧していた通りに僕らの集団はもう崩壊し始めていた。


「こうなれば先行集団に乗り移るぞ! 来い!」


 早めにそれを察知して動いた榛名くんに続いて、何とかペースを上げて前方に取りついていく。


 

「ヤイチ! 何でこんなトコに!?」


 インコースを走る白とピンクを基調にしたジャージの一団に並んだ時、一番後ろを走っていた茜と視線が合う。その前には女子だけど僕よりも身長がありそうな体格の良い女性が2人。


「キミが愛花ちゃん? 片瀬かたせ先輩程じゃ無いケド、なかなか可愛いじゃないか!? ヤイチも知り合いだったらちゃんと教えろよ~」

五里愛花ごりまなかは私だが……お前は誰だ? 茜の知り合いか?」

「え、あ……あなたがゴリさんでしたか……スミマセン」


 振り返った男子顔負けのゴリ……ガッシリした女性に委縮するユーダイ。三波くんはそんな五里さんに何かの言葉を投げかけ、更に集団の前へとペースを上げていく。


 


「貴様は……横須賀の三波か。今日のレースは捨ててたものだと思っていたが」

「悪いがオレにはロジックがあるんでな。それに今日は波もオレに向いている。ウチを()だけのチームだと思わないで貰いたい」

「小賢しい! 勝つのはこの俺、小田原のエース北条と決まっている!」


 先頭を走っていた真っ黒なチームジャージの男は、三波くんとのやり取りの後で急激にペースを上げ、彼のチームメイト2人もそれに続く。それに対してこちらはここまで急激にペースを上げてきた反動で追いつけない。


「三波、恐らく残りはあと3周半しかないぞ! どうする?」

「大丈夫だ榛名、もう少しで()()()()()。それまでは俺が牽く! 奴らの後ろ姿が見えてる範囲なら充分に射程圏内だ」


 榛名くんにそう言ってユーダイを伴いながら加速する三波くん。僕と榛名くんも遅れないように必死で付いていくけど、前方の黒ジャージ3人はコーナーの先へと消えていって、かろうじて後ろ姿を見失わずに済む程度だ。


 周回ゲートを通り過ぎて残りはあと3周。この状況で本当に追いつけるんだろうか? 僕が不安に思っていた、その時だった。

 

 

「ヤイチ!」

「茜!」


 僕のすぐ斜め後ろから投げかけられる、聞き覚えのある声。


「いくで。ここがウチの、いや()()()()見せ所や!」


 そう言って僕に片手を差し出した茜に付いて、すぐ後ろにくっつくように加速する。

 

 

「イケるか青嶋! 先頭頼んだ!」

「いけヤイチ! チーム雄大の力を見せてやれ!」

 

 背中を押すような三波くんとユーダイの声で先頭に上がると、これまでとは比べ物にならない風圧が一気に押し寄せる。


 ペダルが重い。今でさえ精一杯のスピードだというのにこれ以上に上げようとしたら、足が千切れそうだ。


 

「その程度やったらまだまだやな。中学卒業までにウチに追いつけるか微妙なトコや」


 敢えて僕に発破を掛けるためか、振り返りながら軽い口調で呟く茜。


「もうちょい……2つギア落としてペダル回すスピードをウチに合わせれる?」

「こう……かな?」

「おっけ、後はウチの回転に合わす事だけに意識を向けるんや。いくで!」

 

 僕の自転車の前輪と茜の後輪がぶつかるかどうかという位に距離を近付けて回転数(ケイデンス)が重なると突然それまでの空気抵抗が減り、ふわりと引き上げられるような感覚になる。


 

 前を行く茜の回す脚に意識を向け、同じ回転を生むことだけに全神経を集中すると不思議と、それまでに感じていたペダルの重さも脚が千切れそうな間隔も少しだけ、余裕を感じられた。


「上手い事付いてこれとるな、成長したんやね。おねーさん嬉しいわ♪」

「あれから1年以上だからね。それなりに頑張ったよ」


 そう、ユーダイと一緒じゃない日に1人で海風の中を走っている時はいつだって、逆風の中で茜に助けてもらったあの日の事を考えていた。支えてもらうだけの無力な僕じゃない自分に、って思いながら。


 

「くうッ坂きっついわ」

「茜、登りは任せろ!」

「ヤイチも下がれ、オレが牽く!」


 登りがキツい部分に差し掛かると茜のチームメイトと榛名くんが先頭を代わってくれた。こちらはそのおかげでスピードが落ちない分、先を行く黒いジャージの背中が少しずつ近付いてくる。このキツい登りを抜けて緩い下りのホームストレートを過ぎると、多分残り時間的には最後の1周。追いつけるだろうか?


 

「ヤイチ、もっかいいくで! 爆速スプリンター・由比ヶ浜茜さまの本領発揮や!」

「頑張って付いてくよ、茜!」

「ヤイチ、俺も居るからな!」


 立ち漕ぎ(ダンシング)で一気に回転数を上げてアタックする茜。そのスピードに必死で食らいつく僕。真後ろにユーダイがぴったりとくっついているのも分かる。その後ろには三波くん、榛名くん、茜のチームメイト2人。


 ロードバイクは仲間(チーム)で戦う競技。そんな言葉を何処かで聞いたけれどこういう事なんだなと思った。


 前を走ってくれる茜が居てくれる事。後ろを走ってくれるユーダイが居てくれる事。たとえここで力が尽きても後を担ってくれるメンバーが居てくれる事。その全員から託されたことの一部を担って、全力を出し切る事がこれほど心強くて背中を押してくれる事だなんて思わなかった。


 絶対に、この足が千切れたとしても追いついてみせる! そう強く意識しながら茜の猛スピードに全力で付いていく。


 少しずつ先頭との距離が詰まっていく。細かいアップダウンの続くコーナーを抜けて、道が狭くなる登りの入り口まであと数十メートルのところで、前を走っていた黒いジャージの3人に並びかけた。



あと少し、もう少しで先頭に並ぶ……と思ったその時!


「うぜぇぞ! 邪魔すんな!」

 

 黒ジャージ3人のうち真ん中に居た選手が並んでいる茜のいるアウトコース側へ進路を取る。


 「このままだとぶつかる!」と思った次の瞬間にはガシャン! という大きな音がして気が付いたら、僕の目は今まで向いていた視界とは別の景色を捉えていた。

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