あるパーティーの備忘録-15
脇に置いた魔術師の杖と、身にまとったローブが、こういう時は疎ましい。
「ぶっちゃけますと、賢者の学院への推薦状なんて、要求されたのは10年ぶりぐらいだって言われましたね。過去の書式が出てこなくて、教授たちは慌てていたようです」
ガロンは絶句していた。そんな国で魔術師養成学校である賢者の学院への入学を決めるとは、よっぽどの覚悟が必要なのが分かってしまったから。
「河を渡るにあたり、僕は家名を捨てました。商家である実家に迷惑をかけるワケにはいきませんからね」
「そこまで……」
バルナスは特に気負った様子は無かった。
「叡智の殿堂で学べる喜びに比べれば、家名なんて些細なモノです。実家とは最初から縁を切るつもりではいましたしね」
バルナスの笑みに迷いは無かった。
「入学試験の時に、魔術師の資質を見出されたのは、完全に予想の範囲外でしたが」
「世の中油断できんな」
ガロンはしみじみとうなづいていた。
「で、僕はすぐに魔術と知識の両方を求めることにしたんです」
バルナスは笑っていた。いつもの冷笑とは違い、非常に暖かい笑みだった。
「晴れて賢者の学院に入学が決まり、ジュールと2人、寮生活が始まりました」
「ん? 2人?」
ガロンの疑問に、バルナスはこう答えた。
「学院の寮は、基本的にメイドを伴うのが当たり前なんですよ。経済的な理由でメイドが雇えないような寮生は、別途費用を払ってベッドメーキングと部屋の掃除を頼む必要がありましたね」
「叡智を求めるも、多額のカネが必須……ということか。世知辛いのう」
ガロンは大きくうなづいていた。
「その費用も払えないようなヤツは、自分で掃除するのか?」
戦士レイブンが尋ねた。
「自分でやってもいいですが、抜き打ち検査で部屋が汚いと警告をもらいますからね。授業や実習で忙しい魔術師のタマゴにとって、部屋の掃除はけっこうな負担ですよ」
バルナスは苦笑しながら答えた。
「警告3回で停学。一度停学処分となると、次回は一発で退学です。そんなリスクを負うぐらいなら、費用を払って掃除してもらうというのが、一般的でしたね」
「部屋なんか汚くても、死ぬワケじゃねーのにな」
レイブンが不思議そうに言った。
「死にはしないでしょうが、怪しいモノは発生するようですよ」
バルナスは楽しそうだった。
「怪しいモノ?」
「魔術師の抜け毛や汗には、魔力がわずかに含まれていますからね。量がまとまると、シーツや毛布が勝手にゴーレム化して、動き出すらしいですね」
「ゴーレム? 毛布が?」
「はい。本人と違って、理性のブレーキはありませんからね。好きな相手に覆いかぶさって、窒息死一歩手前の大惨事とか、昔は多発したらしいです」
「なんだそれっ?!」
「あと、自慰の後始末をした布なんかは、もっと質が悪いようです」
「なんとなく想像はつくが……」
「シーツや毛布よりも、直接的な念がこもってますからね。凶悪度は、ケタ違いです」




