第2話 ティアの想い
国の命運を託されるという、大きすぎる使命を負ったセシルであったが、まだ北方の異変が、アトランティスを脅かすものになるかどうか、確定したわけではない。
(今日の任務は終わった。家に帰ろう)
アトランティスが誇る飛兵団の長として、セシルの心身は頑強に鍛えられてはいる。そうではあるのだが、どんな強者の気力体力も無尽蔵ではなく、休息を取らなければならない。国王との謁見を終え、今日の仕事を全て済ませたセシルは、父母が待つ我が家へ帰り、温かい晩餉を摂った後、自室でゆっくりと夜長の読書を楽しみ、やがて一晩の眠りについた。
ぐっすりとよく眠り、快調な目覚めを得た翌日の朝。セシルは、青髪ロングヘアを風になびかせる透き通った肌の麗人と共に、アトランティスの国定公園に来ていた。今日のセシルは非番で、丸一日、休暇となっている。
「セシルは忙しいから、またデートをすっぽかされると思ってたわ。今日はちゃんと来れてよかった」
「ハハッ、そうだな。面目ない限りだ。今まで何回かそんなことがあったが、ティアはその度に許してくれてたな。理解のある彼女でありがたいよ」
「もう! 許してるわけじゃないのよ!」
セシルがいらぬことを言うから痴話喧嘩が始まってしまったが、どうやら2人はデートの真っ最中のようだ。そんな掛け合いの中でティアと呼ばれた青髪の麗人は、飛兵長セシルの恋人である。2人はこのような仲の良いじゃれ合いを見せている通り、結婚の一歩手前まで関係が進展していた。
春から初夏にかけてのアトランティス国定公園では、開けた平地の一面に、青、黄、赤といったコントラストが美しい花が咲き乱れている。そんな花の柔らかな彩りが、じゃれ合いのような痴話喧嘩をしているセシルとティアを執り成したのか、2人はいつしかカップルらしく肩を寄せ合い、広大な花畑の片隅に建てられた東屋のベンチに座り、手を繋いでいた。
「デートをすっぽかされてきたのは許してるわけじゃないけど、あなたの仕事のことは理解しているつもりよ。セシル、あなたとずっと一緒にいると、私はこの先も、待ち続けることが多くなるんでしょうね」
「……いつも心配をかけてすまない、ティア。俺も君とずっと一緒にいたい。だが、俺にはアトランティスを守る使命がある。国を守ることは、君を守ることにもつながる。それをこれからも分かっていて欲しい。本当にすまない」
恋人と飛兵長としての自分の責務との間で、今、セシルの心は板挟みになっているのだろう。若干の苦悩の表情を浮かべていたが、ティアは恋人が感じているジレンマを打ち払おうと、セシルに深く抱きつき、長い口づけを交わす。
「ティア……」
「悩まないで、セシル。あなたのことは分かってる。私はいつまでも待つわ」
可憐な笑顔でセシルを勇気づけるティアの心根は、健気そのものであった。
(俺は……。ティアと、この国を守らないといけない)
ティアの口づけにより迷いが吹っ切れたセシルは、一面に広がる三原色のコントラストを眺めながら、そう決意を新たに固めている。




