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第15話: ベビードラゴンとイチゴのダンス①

「マリアさん、ほら! あいつ、出てきましたよ!」


 隣でヨシュアが興奮気味に囁く。

 新しいベビードラゴンの住処の前。背の低い木の後ろに隠れながら、ベビードラゴンがイチゴを見つけるのを辛抱強く待っていた。

 

 洞穴から目をシパシパさせながら、とてとてと歩いてくる姿が愛らしい。

 少しはこの森に慣れたのか、泣き出す様子も今のところはない。


「少し寒そうね」


 パタパタとはばたかせている翼に満たない羽が、風が吹くたびにぶるりと震える。


「普段は、母親ドラゴンの温かい背中にいるんですもんね」


 パタリパタリと羽を動かしながら、空を見上げる、その姿にどこか哀愁が漂う。


「……マリアさん」

「なに?」

「あいつにいっぱい、イチゴ食べさせましょうね」


 眼帯のチューリップとともに、ヨシュアが真剣な表情でこちらを向く。


「たくさん食べさせると、お腹壊すわよ」

「……ほどほどに食べさせます」


 ヨシュアが、しょんぼりと握り締めたこぶしを下げる。その姿に笑っている間に、ベビードラゴンはイチゴを見つけたようだ。


 空に透かしたり、匂いを嗅いだり、指でつついてみたりと忙しい。

 とうとう、パクリと口に入れた。


「食べた!」


 まるまる1つ口の中に放り込む。

 顔を真っ赤にさせながら、小さな手に力を入れながら、イチゴを口の中で潰そうとしている。


「やっぱり、まだ固かったかしら?」

「ちょっと、マリアさん! 大丈夫ですか!? また、雷とかが落ちてきたら……」


 ビリビリビリと、ベビードラゴンの周囲に電気が走る。


「や、やばいですよ、マリアさん!」


 放電するかのように、ベビードラゴンを中心に、その雷が放出されている。木々の枝の先が焦げ、地面の一部が黒く炭化する。


 イチゴを潰すことに夢中になっているベビードラゴンは、そのことに気づかない。


 力を入れるたびに、羽がパタパタと動く。歯のない顎の力で噛み潰そうと次第に力が入り、体が宙に浮き上がり──。


「伏せて!」


 キシャアアア!


 ビリッと、一際大きな光がベビードラゴンから発せられる寸前。


 大きな鳴き声とともに、ピタリと雷が止まった。驚きに目を見開いたベビードラゴンの羽の動きが止まり、地面へと落下していく。


 すんでのところで、アンデスがベビードラゴンの首根っこをくちばしで捕まえた。


「わ! アンデス!」


 追いかけられたのがトラウマになっているのか、ヨシュアがますます身を低くして、顔を隠す。

 笑いながら「大丈夫よ」と声をかけると、ヨシュアがビクリと体を大きく揺らした。アンデスに追いかけられたのは思っていた以上にヨシュアにはトラウマになったようだ。強張った体を優しくさする。


 首根っこを掴まれたベビードラゴンは、目をパチクリさせながら、やがて、リュクリュークと笑い声をあげた。


 落としたイチゴをアンデスがくちばしで潰して、ベビードラゴンに渡す。


 果汁を舐めながら小さくなった果実を頬張り、ベビードラゴンはアンデスにもっともっとと言うように両手を上げた。


 首を振るアンデスは、あとは自分でやれ、とばかりに、辺りにあったイチゴを一つつかむと、飛び去っていってしまった。


 ベビードラゴンが、今度こそ本当にしょんぼりとした背中で、アンデスを見送る。


 その姿に、マリアも胸が痛くなる。母親も友達もいないベビードラゴンは、この森でひとりだ。


「ちょっとだけ。ちょっとだけだから」


 そう言いつつ、マリアは簡単な浮遊魔法で、イチゴを浮かせると、ベビードラゴンの頭にコツンと落とした。

 俯いていたベビードラゴンが、辺りをきょろきょろと伺う。


「ほら、イチゴのダンスよ」


 頭を上げたベビードラゴンの前で、3つのイチゴが縦横無尽に跳んだり回ったり重なったりする。イチゴのヘタの緑の葉っぱが、動きに合わせて躍動する。


「リュークリューク!」


 一緒にジャンプするベビードラゴンは、楽しそうな声を上げながら、目を輝かせていた。


「元気、出たみたいですね」


 いつの間にか、顔をあげていたヨシュアがマリアを見て笑う。「ヨシュアもね」というと、ヨシュアはどこか寂しげに笑った。

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