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第12話: マリアの懸念

「おや、マリア、リリア。今、帰りか?」

「おばあちゃん!」


 リリアがマオ婆に駆け寄る。頬ずりをし合う二人は本当の祖母と孫のようだ。


「カザミにご飯ごちそうになってたの。今日はリリアを見てくれてありがとう」

「わしはなんもしとらんよ」


 マオ婆は、いちご、とーってもおいしかったんだよ、と話すリリアに、そうかそうか、と目を細めている。

 外套を着たマオ婆は久しぶりだ。


「でかけてたの?」

「国のお偉方との集会じゃ。最近、モンスターが凶暴化しておるからの。特に何もしてくれんくせに、あーだこーだとうるさいわ」


 ピクリと体がはねた。


「どうした?」

「ううん。そんなに多いの? モンスターの凶暴化」

「今までは報告されとらんかった場所のモンスターばかりらしいからな。今のうちに注意喚起じゃと」


 マリアは思わず顔を伏せた。

 モンスターの凶暴化。

 報告されていなかった場所。


「なに、そんな顔をしとる。マリアたちは何も気にせんでええんだぞ」

「ううん。マオ婆は大丈夫だった? またなんか嫌味言われたんじゃないの?」


 快活に笑うマオ婆は、周りの村の長と比べるとだいぶ年長者だ。小さな村だが、その年の功を買われて、大きな集会に呼ばれたり、小さな村の長が国王に謁見したりする。


 そのことに、周りの大きな村の長や国王の側近が、妬んで嫌がらせすると、カザミが憤っていたことがあった。


「あっはっは。小童どもの嫌味なんぞ、虫の音ほどにも気にならんわ。国王様の前で意見もできぬくせに、子どもが駄々をこねるようなものだ」


 否定しないということは、何か言われたのだ。マリアは唇をかむ。モンスターの凶暴化がマオ婆のせいであるわけないのに。

 このカナンの森では凶暴化の報告がないことが、不自然にうつるのだと、カザミがぼやいていた。


「おばあちゃん、いたいいたいしちゃったの?」

 マリアの顔を見てか、リリアが心配そうにマオ婆を見上げる。


「大丈夫だ。マオ婆はどこも痛くないぞ」

 マオ婆の様子を、じーっと見ていたリリアは、精一杯背伸びして、マオ婆の肩をなでる。


「よしよし。いたいのとんでけ! もう、だいじょうぶだよ」

 ママも、とリリアがマリアをなでてくれる。小さな手が温かい。


「マリアもリリアも本当に良い子だ。わしはそれだけで、幸せ者だよ」

 まだ浮かない顔をしているマリアと、満足そうなリリアに、マオ婆はしわいっぱいの顔をさらにしわくちゃにして笑った。



 

 家に帰ると、リリアがイチゴを食べたいとぐずりだした。


「もうねんねの時間だから、また明日食べようね」

「やだ。たべる!」

「あ、こら!」


 リリアがマリアの持っているカゴをひっぱった。カゴが手から飛び出し、イチゴが宙を舞う。

ボトボトと床に落ちたときには、リリアの目に涙が溜まっていた。


「あー、リリア落ちちゃったよ。ひろって」

「もういいよ!」

「リリア」


 寝室へと駆け出すリリアにため息をついて、いちごを拾い上げた。ところどころ潰れてしまっている。


 マオ婆から聞いた話に、動揺していないと言えば嘘になる。

 ことさらゆっくりイチゴを洗い上げると、気合いを入れた。ぐずったリリアの機嫌をなおすのは根気がいる。特にこんなに気分が沈んだ日には。


「リリアー」

 ベッドの隅に正座して座ったまま、リリアが口を真一文字に結んでいる。


「リリア。イチゴ、食べたかったね」

「たべるの!」


「でもさ、もうお風呂入って寝るんだよ。これから食べるとお腹痛いいたいになっちゃうよ?」

「なんないもん! こないで!」


 近づこうとすると、リリアがバタバタと暴れる。放っておくと落ち着くこともあるけれど、これからお風呂に入れて寝るのを考えると、機嫌を直してほしいところだ。


「明日、食べよう? 約束」

「やだ! ママやだ!」


 腕を振り回すリリアに思わずカチンとくる。


「じゃあ、いいよ。ママ、一人でお風呂入るからね」


 リリアが布団に顔を埋めてシクシクと泣く。ひとつため息をついて、寝室を出た。


 いつのまにか、リリアは眠ってしまったらしい。少しして、寝室を覗くと、布団に顔を埋めたまま寝息を立てていた。

 濡れた頬を拭って、毛布をかける。あとで、寝巻きに着替えさせよう。


「ごめんね。リリア」

 髪をなでる。本当は寝る前に抱きしめてあげたかった。寝ているリリアを抱きしめて囁いた。


「大好きだよ、リリア」

 明日はリリアの笑顔が見られるといい。



「それで、そんなに沈んでるのか」

 リリアが寝てしまった夜。机に頬をつけながら、リリアとの話をすると、そんなこともあるさ、とジンが慰めてくれた。


 台所で飲み物を用意するジンの背中を見ながら、ヒメギリスの鳴き声を聞く。


 いつもより低い音ということは、外の気温が低いということだ。ヒメギリスの鳴き声は、温度によって変わる。

 机がヒンヤリとしていて頬が気持ちいいはずだ。


「大丈夫だ。リリアもわかってるはずだ」

「うん。そうなんだけどね。ちょっと考えちゃった」


 目の前にカップが置かれる。

 湯気が上に登るのが見えて、体を起こした。

 今日はホットココアだ。甘さはジンが調整している。


「食べさせちゃえばよかったかなあ」


 あんなに食べたかったのなら。

 ココアを一口口に含む。ほんのりお腹に染みる甘さと温かさだ。


「寝る前に食べる癖がついても困るからな。そこは親が気をつけてやるってことでいいんじゃないか?」


 ジンが目の前に座る。

 親が、誰かが決めたものを食べる。


「そうなんだけどね」


 本当にそれでよいのか。

 マリアは頭を抱える。


「大丈夫かな? 私のせいで、リリアが突然、人を傷つけはじめたりしないかな?」


 食べ物を選んで、必要なときに食べさせる。

 自分でできるようになるまで、それが、親の務め。だけれど。


「何かあったのか? マリア?」


 頭を抱えていた手を、ジンがギュッと握ってくれる。鋭い目がマリアを心配そうに見る。

 大丈夫。大丈夫。そんなことにはならない。

 何も言わなくても、ジンがそう伝えてくれるのがわかる。


「ジン、さ。最近、モンスターが凶暴化してるって知ってる?」

「ああ。今日もそういう仕事だったからな」


 やっぱり。

 マリアは思わず顔を覆った。


「どうしよう」

 どうしよう。どうしよう。


「どうした? マリア?」

 思い出すのは、高笑いと黒い尻尾。


「ジン。凶暴化には私の父親が関わってるかもしれない」

 すべてはあの時から始まっていたのかもしれない。

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