第5話~今卑弥呼の国、静かなる超能力者たち
――伝統と誇りを抱きしめながら、それでも強く、自立した国をつくる――
今卑弥呼は、そう言い切った。
桜を咲かせるやわらかな雨、催花雨を見つめながら、どこか遠く、そして少し可笑しそうに、思いを巡らせる。
「日本人の“美徳”って……何やろな?」
それは、それは――
空気を読みすぎること。
もはや呼吸レベルを超えた、ほぼ超能力。
「言わんでも分かるやろ?」
その一言で世界が動く。
誰も発言しない会議が、なぜか円満に終わる奇跡。
……何やねん、テレパシー文化かい。
今卑弥呼は、くすっと笑う。
それから、それから――
褒められたら、すぐこれや。
「いやいや全然です」
「自分なんて、まだまだで……」
謙遜のインフレ。
自己評価、どこかでバグってへん?
それでも、それがまた愛おしい。
それから、それから――
ルールを守りすぎること。
誰もいない深夜の交差点。
それでも赤信号は、ちゃんと待つ。
「ここに並んでください」と書いてあれば、一糸乱れず整列する。
……何やねん、その誠実さ。
ちょっとNPCっぽいで。
今卑弥呼は、思わずクスンと笑った。
けれどその奥にあるものを、
彼女はちゃんと知っている。
見えない約束を守る心。
誰かのために、静かに整える優しさ。
言葉にならない“信頼”でつながる、この国のかたち。
なおも、なおも、なおも――
彼女の思索は続いていく。
この美徳は、誇りなのか。それとも、変わるべきものなのか。
雨はやがて止み、桜は、ひとひら、またひとひらと開いていく。
今卑弥呼は、ゆっくりと顔を上げた。
「さて――次の美徳は、どうする?」
その問いの答えは、まだ誰も知らない。
なお、なお、なおも……




