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よもやまストーリー  作者: 妻戸裕次


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22/24

第22話「飛鳥ナイトセッション 〜和は尊し、でも現場は修羅場〜」

夜の静寂に包まれた飛鳥の宮。

風は草を撫で、虫の声がひとつ、またひとつ。


油灯の揺らぎの下、聖徳太子は静かに書を読み、国の行く末に、ため息ひとつ――いや、半分だけ。


そのとき。


ふいに空気がゆらぎ、まるで湯気の立つ味噌汁のように、光がぐるぐると渦を巻いた。


「……ここは、どこだ?」


現れたのは白衣の女性。

どこか神秘的、しかしどこか“会見慣れ”した落ち着き。

名は――サナエ丸卑弥呼。


弥生から令和へ戻る道すがらの……サナエ丸卑弥呼。


太子、さすがに一瞬だけ目を見開くが、すぐに平静を取り戻すあたり、やはり只者ではない。


「あなたは、この世の者ではないように見える」


「時を越えてきた、と言えば信じますか?」サナエ丸はさらりと言い、少しだけ肩をすくめる。「未来から来ました。ええ、だいぶ先です。かなり揉めてます」


太子、無言で頷く。

「……ならば天の導き。ちょうど政治を考えていたところだ」


――この時代、相談相手が少なすぎる。


二人は向かい合い、静かに語り始める。


「いかにして国を治めたのか」


サナエ丸、迷わず答える。


「人々の“声”です」


「声、とな?」


「はい。時代が変われば、苦しみも変わる。だからまず聞く。とにかく聞く。時には同時に百方向から」


太子、少しだけ遠い目になる。

(十七条憲法、もう少し簡単に書けばよかったかもしれぬ……)


「だが、それではまとまらぬのでは?」


「まとまりません」即答である。


「だから“方向”は示します。

安全、経済、未来責任――この三つは絶対にぶらさない。あとは……だいたい現場でなんとかします」


「ほう……」


「理想だけでもダメ、迎合だけでもダメ。間で揺れて、最後に腹をくくる。それが仕事です」


しばしの沈黙。虫の音だけが、妙に場を仕切る。


やがて太子は静かに言った。


「和をもって貴しとなす、か。

だが、おぬしの和は……“調整”だな」


サナエ丸、ふっと笑う。


「ええ。きれいな和は、だいたい会議室で止まりますから」


再び沈黙。


やがて太子、ぽつりと呟く。

「……未来も、大変そうだな」


サナエ丸、少しだけ間を置いて答える。

「はい。でも一つだけ進歩しました」


「何がだ?」


「“炎上”という概念が増えました」


太子、静かに筆を置く。


「……火は昔から怖いが、

見えぬ火ほど厄介なものはないな」


その夜、飛鳥の宮では――

史上初の「時空を超えた政治対談」が行われたが、記録には一切残らなかった。


なぜなら翌朝、太子が書いた覚書の最後に、こう記されていたからである。


――「なお、“SNS”なるものは、当面、導入を見送る」――


(英断である)

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