第17話『卑弥呼、5Gに降臨す』
その日、官邸には
妙な静けさが降りていた。
風も止まり、時計の針すら遠慮がち。
ただ一つ動いているのは――Wi-Fiのランプだけ。
高市総理、正座。
机の上には、銅鏡とタブレット。古代と現代、まさかの同席。
「……来るわね」
その一言で、空気がピリつく。
側近(小声)
「総理、それただのオンライン会議です」
次の瞬間――
画面、暗転。
霧、もわっ。
出た。
「我は卑弥呼――」
「はい、音声クリアです」
早い。対応が現代すぎる。
「ここはどこだ」
「官邸です。回線は5Gです」
「ごじー……新たな神か」
「いえ、速いやつです」
沈黙。
時代が、ちょっと戸惑う。
議題は「民の心をどうまとめるか」。
卑弥呼は占いや神託で人々を導いたと語り、高市総理はデータと政策で国を動かすと説明する。
「私は見えぬ声を聞き、国を治めた」
「私は見える数字を読み、国を運営しています」
「では、民は従うか?」
「SNSで炎上します」
「炎……火攻めか?」
「心が燃えます」
しばしの間、
古代と現代が見つめ合う。
祈る者と、ログインする者。
占う者と、分析する者。
どちらも王。
どちらも、ちょっと孤独。
「……王とは、ひとりよな」
その言葉だけは、千年を軽々と越えてきた。
「ええ。でも現代は」
一拍おいて、高市総理。
「Wi-Fiがあります」
「それは良いな……」
卑弥呼、ちょっと羨ましそう。
通信、終了。
静寂、復活。
Wi-Fiランプだけが、やけに誇らしげに点滅している。
側近、震え声。
「今の、なんだったんですか……?」
高市総理、さらり。
「古代からのビデオ通話よ」
一呼吸。
「意外と、遅延なかったわね」
その日から、官邸の回線名は変わった。 Yamatai-Net。
パスワードは――
誰も知らない。
たぶん、神託で決まる。




