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「そんなにいっぱい、どうするんですの!?」
魔力結晶の購入数にドン引きされたようだ。
「主に趣味に……。いろんなものを作るのに使うんですよ」
それ以上説明すると長くなるし、理解してもらえる自信もないので、適当に濁した。
その後も飲食店、また雑貨屋、更に雑貨屋、と何軒か店を回ったけど、特に問題らしい問題は起きなかった…一応。
ご令嬢方は存分に買い物を楽しんだようだ。
それはもう、存分に。
私は明日ロザリンと立ち寄れそうな店もいくつか覚えたよ!
祭り当日の護衛打診もあったけれど、それは断った。
令嬢も「婚約者さまがおられますものね。わかっておりましたが残念ですわ」とすぐに引いてくれた。
あとは馬車で劇場へ戻り、衣装を返して依頼終了。
思ったより早く仕事が終わった。
まだ昼下がりだし、ギルドへの報告をするにしても、混む時間にはまだ間もある。
せっかく中央商業区まで来たんだし、祭り前の街をもう少し見て回ろうかな。
レコルナス祭まではあと半月を切った。
普段の街と違って、屋台を組み立てている人がいたり、花飾りを飾るための土台を壁面に取り付けている人がいたり。
何処となく忙しない。
そして、みんな浮き立ってて、わくわくしてる。
本番はまだ先だと思っていたけど、大掛かりな準備というのはもう、かなり進んでいるらしい。
そういえばケイティの露店、商品は考えてるけど、店自体はどう考えてるのかな。
木のしっかりした什器とか、資材とかの購入が頭からすっぽ抜けてないかが心配だ。
まあ、たとえ前日夜に『商品置く台が無い!』とか言い出しても、私のマジックバッグの中のごっちゃな物たちから出せなくもないんだけど。
それは最終手段として、木材や木箱、布類は見ておいたほうがいいかもしれない。
物によっては遅くなると高騰するだろうし。
そんなことを考えながら、ぶらぶら歩く。
木材の店は第一商業区のほうが多そうだから、まずはこの辺りで布類を見てみようかな。
最初に見つけた店では、色鮮やかな綿布が店先に飾られていた。
高価な絹なんかは店の奥にあるみたい。
厚みのあるしっかりした生地で、なかなか使いやすいんじゃないか?
と思ったら、どうやら祭りの準備のために買う人向けにディスプレイされていたようだ。
……新居のカーテンにも、いいかなぁ。
いや、カーテンは窓の大きさや用途が決まるまでは買ってはいけない魔のアイテムだ。
今衝動買いしては駄目。
…いい青だな。……一反買いしてえ。
いや、今はケイティの露店準備のための参考に、布の相場を調べるだけにとどめようかな。
露店なのに売り物が高級路線なので外観もあんまり安っぽい作りにはしないほうがいいかもしれないな。
厚手の綿布は一メータ四百ロフか…。
そりゃそうだ。手紡ぎ手織りの家内制手工業だもんな。
それにこの国での綿は最近栽培が始まったところだし。
まだちょっと贅沢品寄りなんだよね。
私は着心地が好きだから、衣類ではつい綿素材を選んじゃうけど。
綿素材って、肌触りとか案外ロザリンも好きそうなんだよね。
綿素材の寝衣着てるときとか、朝起きるとぴたっと抱き着いてるときがあるし。
麻ならもっと安くて、一メータ百五十ロフくらいで済むんじゃないかな。
麻だとやっぱり第一商業区が強いな。
中央商業区じゃあまり扱いがなさそうだ。
明日ロザリンと出かけたときには、中央商業区の布屋を回るのもいいかもしれない。
そろそろ新居の話もしてみようかな。
家具の発注だって、そろそろしたほうがいいだろう。
明日が楽しみで仕方ない。
そんなふうに中央商業区をしばらくうろうろしてからギルドへ報告に行った。
ギルドの建物内へ入ると、どこか見覚えのある二人組が依頼票掲示板の前にいた。
……誰だったかな。
たしか…。ギルドの新人講習に来てた子たちだ。
「えー…と。ミエルくんとダグくん、だったっけ?」
「「はい!」」
綺麗に揃った、いいお返事である。
だいぶ血色もいい。
多少は生活も改善してきているのだろう。
「今日は何かいい依頼あった?」
「はい。今日は荷運びと、午後から倉庫整理をしました」
「食事と飲み物支給だったんですよ! ヨルシと蜂蜜のソーダ水割りなんて初めて飲みました! な、ミエル!」
「うん! 美味しかったね、ダグ」
手伝った先で祭りの商品の試飲をさせてもらったらしい。
ヨルシはレモンみたいな酸味の強い柑橘っぽい果物。
蜂蜜レモンか。美味そうだな。
「おっ。いいやつ選んでるね。無理もしてなさそうだし良いじゃん」
褒めたら顔を見合わせてハイタッチするとか、仲いいな!?
「祭り前って、ずいぶん仕事増えるんですね?」
「増えるよー。こまごまと短時間のが特に増えるね。だからって変なの掴まないようにね。当日の仕事も結構あるし効率よく回れるように請ければ、かなり儲かるみたいだよ」
荷運びはもちろん、一時的な店番や、呼び込み、行列の整理など、何気にいろいろあるのだ。
「大丈夫です!曲がり煙突の先輩たちが教えてくれるので!」
もしかして新しい定宿が曲がり煙突か。
安心感しかないな。
「じゃ。頑張って」
「「はい!」」
楽になった子がいたなら、やった甲斐もあるというものだ。
その後、新人講習は一ヶ月に一度くらいの間隔で続けることになったらしい。
ちょっと嬉しく思いながら、今日の子爵令嬢護衛依頼の報告を済ませ、ギルドをあとにする。
そして銀麦亭までの道を機嫌よく歩いた。
よーし。明日はロザリンと出かけるぞー!
銀麦亭へ戻ると、ちょうど食堂にケイティの姿があり、どうやら早めに夕食を食べるところだったらしい。
「あっ。おかえり、アリー」
ちょうどいいので、聞きたかったことを聞いてみよう。
「ただいまー。ね、ケイティ、祭りの露店なんだけど」
「うん?」
「商品を並べる台とか、日除けとか、敷く布とか、そういうのはもう用意してる?」
ケイティが固まった。
やっぱりかー!?
「……商品を、並べる、…台?」
「うん」
めちゃくちゃびっくりした顔してる。
「……」
「ケイティ?」
「えー…」
「考えて無いんだな?」
ニコッと笑っても何も変わらんぞ。
「えへ」
やっぱり忘れてたぁぁぁ!
「だって露店って場所借りたら、机くらいあるんじゃないの?」
「知らないけど! 確認したの!?」
「してない!」
「明日にはして!!」
やっぱり商品開発だけで満足してたよ、この子!
「あと敷布! 木箱! 値札! 釣り銭入れ! 雨降ったときどうするか!」
「そんなにいるの!?」
「商売舐めんな!?」
物品販売なんて朱里さんのフリマ経験程度しかないけど、準備が足りてないのは私にも判るよ!
「……アリー、詳しいね」
「不安だなぁ…」
「まあ、あと十日はあるし、大丈夫よ!」
「不安しかないよ…!」
大丈夫よー、なんて言ってるけど不安だ。
いや、ケイティだってもう大人なんだから、あんまり手出しをしすぎちゃ駄目だ。
今は我慢だ。
後ろ髪引かれつつ、ロザリンの待つ部屋へ。
「おかえりなさい。アル」
「ただいまぁ」
ロザリンは当然可愛いが、ロザリンにただいまのキスをした後次は自分の番とばかりに待ってるポチさんも可愛い。
わしゃわしゃと撫で回すと、いつものように顎をべろんと舐められた。
食事のために階下へ降り、食堂で食べながら日中あったことをロザリンに話して聞かせる。
この時間が私は結構好きだ。
今日ドレスを着せられそうになった話をしたら、私の後ろの席に居たらしいルドルフが思い切り噎せていた。
何を想像したのか。




