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「ライリー、今日はありがとうね!」


 買い物に付いてきてくれて、とても助かった。

 魔道具の材料の水筒と金属が買えたし。


「⋯ああ。また何かあれば、言え」

「うんっ」


 昼食後に思いついて、塗料まで買っちゃったから、結局ライリーを一日連れ回してしまった。

 いつも助けてもらっているし、ライリーにもお礼ができたらいいなぁ。

 部屋の前まで送ってくれるなんて、すごく親切で優しい。


 さて、さっそく取り掛かろうっと。

 レコルナス祭まであと一月なのだし。

 マジックバッグから今日買った木の水筒を取り出す。

 余計な飾りもついていない、簡素な見た目の水筒。

 つまり、飾り付け放題ってことよ。


 銀蜻漆で塗装したら、きっと綺麗だと思うの。

 琥珀油もいい艶が出そう。


 でも見た目より先に、魔道具としての細工をしてしまったほうがいいかしらね。

 水を出す合図は、『蓋を外して傾ける』ことにしようかな。

 戻せば止まるようにすれば、普通に飲む感覚に近いだろうし。

 出す水の総量は十五リッタ。

 残量がわからないのがちょっと難点ね。どうしよう⋯。


 そうだ。

 せっかく魔力の通りやすい銀蜻漆があるんだから、葉っぱの模様を五枚描いて、水を三リッタ使うたびに一枚ずつ色が元の銀色になるようにしたらいいんじゃないかしら。


 『葉の模様がすべて銀色になったら、ただの水筒です』ってちゃんと書いておこう。


 あれ? それなら、やっぱり先に塗装しておかないと。

 まずは琥珀油の瓶をよく振ってから、開ける。

 刷毛とかは用意してないので魔法で塗っちゃう。

 このほうが薄く均一にきれいに塗れるし、なにより乾燥も早くできる。


 次に、銀蜻漆。

 蔦の葉っぱを五枚、描く。

 魔力を流し過ぎると固まっちゃう素材なので、慎重に少しずつ描いていく。

 塗る段階では、角度によって銀色に見える透明なので、ちょっと難しい。


 これは筆を使ったほうがいいかもしれない。

 試作の段階で気づいて良かったわ。


 ひとまず塗り終えてから、緑色になぁれ、と思いながら魔力を流す。

 思い描いた色に染まるけれど、流した魔力の量で艶まで変わるらしいので、ちょっとどきどきする。

 万が一途中で途切れたりすると、そこで変化が止まっちゃうんだって。

 そっと均一に、を心がけて流した甲斐があったのか、蔦の葉はガラスを貼ったみたいにピカピカになった。

 もうちょっと少なめでいいかしら?

 でもこれはこれで、きれい。


 下準備はこれでいいわね。

 さあ本番よ。

 水が三リッタ減るごとに、蔦の葉が一枚ずつ銀色へ戻るように。

 蓋を外して傾ければ水が出て、起こせば止まるように。

 最後に、十五リッタ分の水を生成できるよう、必要な魔力を封じ込める。


 出来上がった水筒の魔道具をいろんな角度から眺めて、あたしは深く息を吐いた。

 かなり可愛いんじゃないかしら!?


 そこまで作業したところで、部屋の扉を叩く音がした。

 コココッ、っていう叩き方だからアリーね。

 ちなみにテオ兄はコココン、って感じ。微妙に似てるのよね。


「なぁにアリー」


 入ってきていいよ、という意思表示として解錠すると、アリーは扉を開けて入ってきた。




***




「ケイティ。夕飯食べないの? ライリーとゾフィさんが心配してたぞ?」


 部屋まで送ったがその後夕食の時間になっても出てこない、とライリーがちょっとオロオロしてて、珍しいものを見たよ。


 どうやらケイティはレコルナス祭の露店で売る商品を作るのに夢中になっていたみたいだった。


「あっ。もうそんな時間?」

「作業は一旦そのへんでやめとけよ。⋯で、どんなのできた?」

「これ。水が十五リッタ出る水筒。蔦の葉の色で残量もわかるのよ!」

「おー。いいじゃん」


 ケイティが作った水筒型の魔道具はなかなかにいい出来だった。

 しっかりオシャレ感出てるよ。

 残量表示の蔦の葉の部分は銀蜻漆で描いてあるらしい。


 魔力を流すことで発色して固まる、レジンみたいな面白い素材なんだよね。

 魔力も通りやすいので、魔法をかける時の補助にもなる。

 見た目はラメ入りジェルネイルみたいなやつ。

 剥離剤がないので爪には使えないけど。


 めっちゃウッスく魔力を流すと、綺麗につや消しマットな質感になって面白いんだよな。


 夕食を食べるように促して、ケイティを食堂へ移動させる。

 私も人のことは言えないけど、集中しだすと寝食忘れちゃうやつなのでケイティは注意が必要なのだ。


「ひとまず完成か。あとは試しに使ってみるのと、偽造防止、未使用証明、製造者証明の仕掛けかな」

「えっ? 試しに使ってみるのはわかるけど、そこまで要る?」


 ケイティは不思議そうに小首を傾げている。

 要るよ!

 パチモン対策と、返品詐欺や転売ヤー対策は、要るよ!

 クレームに繋がりそうなことはあらかじめ潰しておくのだ。


「まぁ、それよりまずは夕食食べに行こ?」

「ちょっ⋯アリー! どうしたらいいのか、教えてよー」

「魔道具は後。早く行こ。ロザリンを待たせてるんだよ」


 ケイティを無理矢理促して、食堂へ。

 こうでもしなきゃ趣味に没頭するやつというのは動かない。

 少なくとも私なら動かないよ。


 ケイティはしぶしぶ付いてきて、きちんと夕食を食べていたけど、まだ魔道具のことを考えていたのか、どこか上の空だった。


「ロザリンさん、アリー借りるね!?」

「ええ。どうぞ」

「ぇぇえええ!?」


 食べ終わるなり休む暇もなく連行されたのがその証拠だ。

 食後すぐには動きたくないよ⋯⋯!


「アリー、偽造防止と未使用証明と製造者証明って何!?」


 ぉおう。食べる前に言ったやつ全部憶えてたのか。


「それより先に動作確認だよ。きちんと、設計通りできているかは重要だ」


 マジックバッグから大きな盥(たらい)と計量用の一リッタ容器を出して置いた。

 さあ、ここに出したまえ。


「うん」


 ケイティが木筒をそっと傾けると、透明な水が出てくる。

 出た量が一リッタほどになった頃、葉の色が徐々に抜けてきた。

 一リッタ、二リッタと量っていく。

 三リッタに達したところで、最初の葉が完全に銀色へ戻った。

 その後も同じように三リッタごとに葉が一枚ずつ変わり、最後の一滴が落ちたところで五枚目の葉も銀色になった。


「よし。確かに十五リッタだね」

「やったぁ!」

「じゃ、偽造防止と未使用証明と製造者証明な」

「うん。それ、どうしよう」


 この水筒の場合、寸分違わず同じ仕様で実際に作ろうとするとエルフ以外には無理なのだけど、もっと一目瞭然な目印もあったほうがいいよね。


「薬包の封みたいに、ケイティしか入れられない印を入れよう。それから一滴でも出したらわかるように、その印が変化するようにしておけばいいと思うよ」

「そっか!」


 ケイティは何か思いついたらしい。


「ね、アリー。着色してない蝋とか持ってない? あと松脂とか油とか」

「封蝋作るのか? 着色前の封蝋ならあるけど。要るならあげるよ」

「うんっ。これに銀蜻漆混ぜて印に使うの。使ったら色が変わるようにするの」


 いいかもしれない。


「蝋と混ぜたら薄い金色っぽくなるな。最初は別の色で、使うと金色っぽくなるってこと?」

「そうそう。んー、印は青にしようかな」


 全部を一つに集約したのか。

 コストも最小限だし、発想もいい。

 材料を出してやると、さっそく混ぜて専用の封蝋を作っていた。


「さっきの水出しちゃったやつ、どうする?」

「もっかい魔法かける。あたしが魔法かけ直して魔力流せば葉っぱの色も戻るよ」

「そっか。ケイティにしかできない仕様ならいいね。⋯あっ。ケイティ、温めるとき、魔法でやっちゃわないように気をつけて」

「わぁ、そうだった」


 何か適当なものはないかと探って、ろうそくとスプーンを使い、蝋を温めることにした。

 ケイティは慎重に蝋を垂らし、木筒の表面へ馴染ませるように広げてから、印章を押しつけた。


「よーし」


 ケイティなりに意気込んで、封蝋に魔法をかけていた。

 青く変化したそれは、蝋だったくせにプラスチックの質感になっていた。


「ふふふ。ついでに剥がせないようにしてやったわ」

「あとはこの仕掛けがちゃんと働くかどうかをみよう」

「一滴でも、だったっけ」

「そう」


 ケイティは、そぉ…っ、と水筒を傾け、水を一滴落とした。


「変わったわ!」

「商品第二号だな」

「アリーとライリーのおかげね! ありがとう!」


 ケイティは子どものように喜んでいた。

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