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まずは市場調査。
街で今どんなものが売られているのか、基準を知らなきゃ『ちょっとだけ便利』がわからない。
だから調べに行こうと思った。
一緒に来てくれているのは、アリー。
あたしの後ろをポチくんと一緒にただぶらぶら歩いてるだけなんだけど。
護衛って言ってるけど、これじゃただの付き添いよね。
服装だって、半袖のシャツにごく普通のズボンだもの。
休日にだらけてる時と同じ服装じゃないの。
ライリーだったらよかったのに。楽しいし。
お仕事もあるから毎回ライリーには頼めないけど。
まずは魔道具の店舗兼工房ね。
まだ暑い日もあるせいか、涼しく過ごすための道具が店先の目立つところに置かれてる。
今年は暑かったから、首から下げて服の中に冷風を通すペンダント型の魔道具とかはかなり売れた、って店員さんが他のお客と話してる。
毎日の生活に役立つものも売れるらしい。
食べ物を冷やしておく箱型の魔道具は、大きさで値段がだいぶ違うみたいね。
食べ物って、冷やすだけでも保存しておける時間が変わるんだって。
魔石をセットするものと、魔力結晶に魔力を込めて使うものがある。
前者は小さくて安いものに多くて、後者は大きくて高価なものに多いみたい。
料理をするときに竈っていうのを使わなくてもいい、加熱用の魔道具もあった。
お水を保管するための水瓶っていうのも売ってた。
人族の街だと、一般的に井戸っていう穴の底から汲んだ水を使うらしいんだけど、どうやら時間が経つと飲めなくなるんだって。
一日以上経った水は飲むな、ってアリーにも言われた。
水瓶はごく弱い時間経過遅延の効果がついてて、中に入れたものが長持ちするんだって。水なら五日は腐らずに保管できるみたい。
水はかさばるし、保管できるよりも、その都度出せるほうが道具を小さくできて便利だとあたしは思うんだけど。
マジックバッグもあるみたいね。
「ね、アリー。これってマジックバッグ?」
「うん。そうだね。んー⋯。こっちのは見た目の十倍入るやつで、こっちは三倍だって」
十倍っていうほうはカバンの形をしていたけど、三倍っていうほうは、ただの布袋だった。
あたしの作ったものもただの布袋だったけど、アリーはきっと安いマジックバッグに見せられるように、布袋にさせたのね。
でも、そっか。こういうのが売れるんだ。
「マジックバッグって種類があんまりないものなのかしら?」
「作れる人、っていうか空間拡張の魔法を強く安定してかけられる人が少ないらしいよ?」
「そうなんだ⋯」
見た目がかわいくないのよね。
街ってこんなに可愛い服とかいっぱいあるんだから、こういう道具だって可愛いのがあってもいいって思うのよ。
あたしのお店は可愛いものを置きたい。
「マジックバッグをお探しですか?」
あんまりじっと見てたからか、店員さんが話しかけてきた。
ただの調査だなんて言えないから、あたしは誤魔化した。
「ううん。どんな種類があるか見てただけよ」
店員さんは熱心にマジックバッグの説明をし始めた。
マジックバッグは、作成難易度で値段がちがうんだって。
隣ではアリーも興味深そうに聞いている。
空間拡張倍率が高いものや、元となる袋が大きいものほど作るのが難しく、低倍率で小型のものは安いらしい。
布でできたものだって、倍率が同じでも、大きさで値段もだいぶ違うみたいだった。
一番安く売ってるマジックバッグが意外と大きい布袋なのは、そもそもが安い布袋を使ってあるのと、それを練習してる人たちが作ったものだから値引きしてあるんだって。
ちょっと商品の案を思いついちゃった。
***
魔道具の工房兼店舗を出たところで、ケイティに「アリーに相談がある」と言われた。
気まずかったので、店を出られたのはとても助かった。
ケイティが間違って魔道具店の奥のほうへ行かないように誘導するのが大変だったのだ。
こういう多種類の魔道具を扱う店の奥のほうにある扉の先は、アダルトグッズ系魔道具の売り場だったりするので、気まずいなんてもんじゃない。
行ったことはないけど。
ないけれど⋯!いっぺんしか!
さてケイティの相談はというと、めっちゃ小さい容器が欲しい、ということだった。
傷薬を小分けにして、一回分ずつで売ってみようと思っているらしい。
「瓶屋さんも、そんな小さいものは置いてなかった気がするのよ⋯。それにガラスだと割れやすいし」
「うーん。試供品サイズの割れない容器かー。ね、傷薬は軟膏だから、蝋引きの薬包に一回分ずつ詰めるのでもいいんじゃない?」
「瓶のほうが可愛いんだけどねー」
「薬包の紙の色でも変えてみれば? あと、封蝋で工夫するとか。偽物防止にもいいんじゃない?」
意外としっかり考えているのでちょっと感動した。
あのケイティが。
「瓶がいいなら瓶入りも作って選ばせればいいんだよ。付加価値つけてお高めにして」
「なるほど。でも瓶が無いんだってばー」
「なら、瓶から作っちゃう? それこそ偽造防止になるよ」
伯父さんのところのぶどう畑の手伝いをしたくなかった私は、ワイン瓶を用意する仕事のほうを買って出ていたこともあるので、少しばかりガラスの扱いは慣れているのだ。
「廃ガラスっていくらで手に入るかな」
「試しに酒場とか行ってみよう」
そして私たちは数軒先の酒場へ向かった。
「割れた瓶か。透明なやつなら1キロ百三十ロフだな」
どうやら回収業者の引き取り価格自体が百三十ロフもするらしい。割れガラスなのに。
濁ったやつはもう少し安いみたいだけど、そっちはケイティが難色を示した。
酒場から出て相談する。
「ケイティ、透明な瓶じゃなきゃ駄目なの?」
「うん。商品価値っていうなら綺麗じゃなきゃ」
「⋯なるほど」
どうにか安くする方法は⋯。
ガラスって何でできてたっけ⋯。
「ケイティ、昼食を食べてから川に行って砂を集めよう」
「えっ? 砂ぁ?」
「知らないの? ガラスって砂から作れるんだよ?」
何馬鹿なこと言ってんだコイツ、みたいな言い方されたのでつい言い返したが、大人気なかったと思う。
案の定、ケイティが頬を膨らませた。
「ごめんごめん。でも本当に作れるから。騙されたと思ってついておいで」
マジックバッグから出した適当なものをつまんで昼食にしたあと、しぶしぶといった様子のケイティを連れて街を出て、ポチさんに乗って少し上流のほうまで行ってみた。
このへんなら、白っぽくて不純物の少ない砂が取れそうだ。
不純物も取り除けるとはいえ、最初から少ないに越したことはない。
「いいかケイティ。白っぽい砂だけを選り分けて取り出すんだ」
そう言いながら、目の前でやって見せる。
魔法で選り分けるのは少しコツが要るけど、ケイティもすぐに慣れたみたいだった。
小一時間ほどかけて、おおよそ三キロ集まっただろうか。
ちょっと試しにガラス作りもやってみせようか。
「ケイティ、ガラスにしてみるよ。見てて」
まずは加熱。とにかく加熱。あと不純物除去。
本来の作成手順と違うことしてるのはわかってるけど、砂だけでガラスにしちゃう。
大部分を魔法で無理矢理補完して成り立たせてるんだけど、足らないものが多いせいで魔力が結構持っていかれた。
砂だったものが形をなくして溶けていく。
赤く、紅く、朱く。溶けた色が、綺麗だ。
ここから瓶の形に成形していく。
最初に思い浮かべるのは朱里さんの同僚が持っていた化粧品の瓶。お高めクリームがほんのちょっとしか入ってないくせに、何万もするやつ。
次に思い浮かべたのはクリスタルカットグラス風。バカラとか綺麗だよねー。
あとは、そうだな⋯ブリリアントカットの宝石風の瓶って、あったよね。
調子に乗って作っていたら、ケイティが仕上がったものを真剣な目で見ていた。
本来ならグラスとかを作った場合は二十四時間くらいかけてゆっくり冷ますものらしい。
もちろん待ってられないので魔法で制御だ。
温度差で割れてしまわないように圧力を掛けて抑えたり、温度を調整したりして、均一に冷ましていく。
「アリーって、昔から妙なことが得意よね」
「ふふふ。お気に召したかい?」
キレイにできたね!
なんか、自慢の一品って言ってもいい感じになったよ!
ちなみにクリスタルカットグラス風が私のイチオシだ。
「かわいいけど、きれいだけど⋯! アリーにしか作れないじゃん! もう!」
「ごめんて」
べちべちと肩を叩かれ、仕方なく極々シンプルな瓶を作り直した。
ケイティ自身が満足できるものが作れるようになるまで付き合い、見本として私も更にいくつかの小瓶を作った。




