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翌朝、ケイティは朝食時に宣言した。
「改めて! あたし、正式にレコルナスに住むことになりました!」
「おう。無茶すんなよ、アルフレート妹。不安しかねえぞ」
「出鼻をくじかないでもらえるかしら!?」
「本当にそっくりだなお前ら」
ルドルフもかなり打ち解けてきたのか、ケイティにも軽口を叩くようになってきた。
反論しないぞ。
反論すると声がケイティと被る気がしたからだ。
ケイティも同じ判断をしたようだが。
「おめでとう、カタリーナ」
「ケイティおめでとう」
「ううぅ。お祝いしてくれるのはライリーとロザリンさんだけなのー!?」
催促するようなケイティに、ほかの三人も次々に声をかけてくれていた。
「私も当然お祝いするわよー。おめでとうカタリーナさん」
「おめでとうございます。良かったですね」
「独り立ち記念日ですね」
「うわーん。ありがとうリィナちゃん、フェイさん、マデリーンさんー」
みんな優しいな。
今日の朝食には、今が旬だというペルカナーが添えられていた。
ペルカナーは梨だ。
和梨と洋梨の間みたいな感じ。
夏の終わりから冬前にかけて出回るんだけど、私はこの晩夏に採れる種類のペルカナーが一番和梨に近くて好きだ。新高みたいにでかいし。
「もうペルカナーの季節なのね」
「レコルナス祭の時期ですね。僕、毎年楽しみにしてるんです」
「ギルドの依頼もそろそろ祭り関連が増えてきたぞ」
ライリーは昨年、ずいぶん荷運びを手伝っていたな。
「ああ。依頼票掲示板にあった、祭り用の商品を運ぶ商隊の護衛とか、露店の資材運びとかですか。そういう仕事も冒険者に振られてたんですね」
マデリーンさんは元々王都の人なので、この街ならではの仕事にはまだ少し疎い。
「今年は最高級食材の輸送の護衛依頼なんてのがあったぞ。積み荷は黒竜肉だそうだが」
「ブッ!」
ニヤニヤしながら言うルドルフ。
それほど時間が経ったわけじゃないのに、一騒動あったのがずいぶん前のことのように感じる。
そんな話をしているのを一歩引いたような感じで聞いていたケイティが、小首をかしげた。
こてん、と。
「祭り⋯⋯⋯⋯って何?」
「あ」
そういえばエルフの集落では、祭という文化が無かった。
少なくとも、私たちの故郷は。
儀式としての祭事はあるけど、娯楽という面はないし。
私は前世記憶込みで理解できているが、ケイティには概念すらないかもしれない。
エルフの感覚で言うなら、毎年やるとか忙しすぎるもんな。
「この街の祭りはレコルナス祭と言って」
「ライリー、たぶんそこからじゃない。ケイティは祭の概念から知らない。祭っていうのは、ざっくり説明すると一時的な屋台とかのお店を出したり、街中を飾り付けたり、みんなで大騒ぎして楽しく過ごすやつだ。大元は収穫祭って言って、秋の実りを祝う感じだな」
ケイティは小首を傾げて困惑顔。理解しきれてないっぽい。
映像残ってたかな⋯。記録用魔道具に記録してある内容を思い浮かべる。
「ケイティ、これ見て」
差し出した魔道具が映し出しているのは、五年ほど前の祭りの風景を記録したものだ。
そうそう、この露店の菓子が美味かったんだよね。
「⋯お店?」
場面は変わって、舞台上で綺麗な舞姫さんが舞うところや、ペルカナー早食い競争の映像へと移っていく。
「ペルカナー早食いってずいぶん昔のだな⋯」
「あれ、見てて面白かったのに。懐かしいわね」
ルドルフとリィナも、どこかで見ていたんだろうか。
ケイティはじっと映像に見入っていた。
「ね、このお店って、誰でも出せるの?」
「場所代を払って申し込めば、だいたい誰でも出せるね」
ケイティは興味を強く持ったときの顔をしている。
こうなったら、次に言う言葉なんて決まってる。
「あたしもやりたい!」
「ふぅん? 何を売るつもり?」
「傷薬! あと簡単な魔道具」
「祭りで傷薬と魔道具かぁ」
売り方や商材によっては売れるか?
ケイティ自身の安全確保も考えないとな。
黒竜の鱗で作ったアクセサリーを目玉として飾っておいたら、勝手に私と関連付けてくれて、下手な手は出してこなくなるかな?
逆に呼び込んじゃう?
なにか威圧できるブツを置きたい。
そもそも鱗自体を店の防衛用魔道具にしてしまうか。
小さめの鱗くらいなら、むしろ範囲も効果も露店の規模にちょうどいいだろうし。
「カタリーナは、店をやるのか? 護衛なら俺がやるぞ?」
「ライリー! ほんと!? やったぁ!」
依頼を出す前に護衛が決まった。
威圧できるブツ枠はライリーで充分だな。
でもたぶん昨年ライリーに荷運びを頼ってた人たちが今年泣くぞ。
「ね、アリーどう思う?」
「うーん。まあライリーがいるなら安全確保は大丈夫だろうし、やってもいいんじゃないかな」
「そっか!」
何かをしたい時にも、もう私の許可なんて要らないだろうに。
まあ、頼られる限りは助けるけども。
「おいアルフレート、その暴走娘で大丈夫かよ」
「ケイティはお馬鹿だけど賢いから大丈夫だと思う。たぶん」
「暴走娘とかお馬鹿ってなによー!」
どちらも的確に表せている気がするんだが。
言い返すときの様子からすると、多少の自覚はあるらしいけども。
「準備とか、私も多少は手伝えると思うよ」
「うんっ!」
この街に来て十五年、出店側をやったことはまだないけど、それも楽しそうだな。
ちなみに毎年私は、祭り当日は働かずに遊ぶことにしている。
祭りは遊んでなんぼだと思ってる。
稼ぎ時だと駆け回る冒険者も多いようだけど。
基本的に力仕事とか立ち仕事が多いので、そもそも祭り関連の仕事が私に向いてないのが悪い。
「ね、アリー。申し込みってどこでするのかな?」
「商業ギルドじゃない? たぶん」
「出店なら商業ギルドみたいですよ。以前僕の知り合いが露店を出したときは、商業ギルドに何度か通ってたので」
「そうなの? じゃ、今日早速行ってくるわ!」
「待て待て暴走娘。何売るかとか、提出書類に書く最低限が決まってねえと、行っても無駄だろ」
「⋯そっか」
ルドルフ、ケイティの相手をするのになぜか手慣れた雰囲気があるよ。
「じゃ、今日考えるわ!」
そう言ってケイティは残りの朝食を口に詰め込み、食器を片付けて、さっさと部屋へ戻って行った。
***
よくわかんないけど楽しそう!
最初にそう思った。
アリーが見せてくれた魔道具に映ってたのは、見たこともないほどたくさんの人と、屋台?露店?っていう小さなお店だった。
売ってるものは本当にいろいろだった。
武器の店、アクセサリーの店、食べ物の店。
売ってる商品はどれもあまり見かけたことがないから、それがどんなものかは、あたしには判別できなかったけど。
自分なら何を売るか。考えてみたらわくわくした。
ライリーも手伝ってくれるみたい。
頼りになるからとても嬉しかった。
護衛だなんて言ってて、おおげさだとは思ったけど。
人がいっぱいいるところだと、きっと怪我をする人もいると思うのよね。
あたしたちが作る傷薬はどうやら高級高品質に分類されるみたいだから、あんまり値段を下げて売っちゃ駄目。
そうなると、めちゃくちゃ小分けにして、何なら小さい傷に塗る一回分くらいにして売ったらいいって思うの。
あとは、目を引く魔道具とかね。
やっぱりいろいろあるところから選ぶ、っていうのが、お買い物の楽しみだし。
何がいいかしら。
そう思って、街で見かけた魔道具を思い浮かべてみた。
魔法を使うのが得意じゃない種族が便利に暮らせる道具が、やっぱり人気出るんじゃないかって、あたしは思うのよね。
でも、性能は上げ過ぎちゃ駄目。
マジックバッグを作るときにアリーが散々心配してたから。
そういうのは自分でナイショで使う分だけ。
売るならたぶん、ちょっとだけ便利、っていうのがきっと狙い目ね。
あとでアリーかライリーに聞いてみよう。
それと、自分の目で市場調査よ!




