084
※本話には、性的被害を受けかけたことを示唆する描写があります。苦手な方はご注意ください。後半のアスタリスク以降を読み飛ばしてください。
「いやだぁぁぁ! 死にたくないぃぃぃ!」
「オイ。⋯⋯本気で振るわけないだろうアルフレート。お前こそ剣に魔力通すのヤメロ。俺が大剣ごと斬れるわ」
ルドルフと打ち合うとか、冗談じゃないよ。
「私、無事生還できたらロザリンと結婚するんだ⋯」
「だから、そうやってふざけるなと。ただの打ち合いだろ」
しぶしぶ双剣を構えつつ、ルドルフから五メートルほど離れた位置に立つ。
仕方がないなぁ⋯。
「じゃ、身体強化のみでいくよー」
「おう」
私は呼吸を整え、地を蹴った。
身体強化した脚で蹴った音が、ダァン!!と訓練場内に響く。
デモンストレーションなので、隙なく身構えたルドルフの剣に向け、派手目に連撃を叩き込む。
ガガガガガッ!!
音だけは派手。あと火花。
振り被ったルドルフから飛び退いて斬撃を避け、再度振り上げる前に左斜め後ろに滑り込む。
ルドルフもそんなことは予測済みなので私に向けて回し蹴り。
ついでに脚を動かした体重移動の勢いで剣を振り抜こうとしているのが見えた。
うわ、やば。
「ぎゃー死ぬー!」
蹴りを双剣でいなして、その反動ごと横へ跳んだ。
バックステップで距離を取る。
デモンストレーションなら、これくらいでよくない!?
よくない!?
「ね、まだやるのー? 私疲れたよー」
「始まってまだ十秒も経ってないぞ」
「魔法も使わず戦い続けるとか、すっごい苦痛!」
無理ぃぃぃ!
「いくぞ」
「わー来るなー!」
今度はルドルフが地面を蹴って私に向かってくる。
わかりやすく真っ向から振り下ろしてくれるのはありがたいが、斬撃がそもそも重いんだよルドルフ。
私では受けられない。
真横に逃げるがそのまま追ってきたー!!
ひぃ。間合いの長さがっ。
やっぱり大剣のリーチはずるいよ。
仕方なく、左手の剣で防御した。
カァン!! と甲高い音が響いた。
あ、やっちゃった⋯。
傍目には大剣の一撃をただの片手剣で弾いたように見えてしまっただろう。
「ごめーん。私の反則負けだ。つい魔力流しちゃったよ」
静まった空気の中私の声が間抜けにも響いた⋯。
やだカッコ悪い。
誰も何も返してくれない。
ルドルフも苦笑するだけだし。
⋯私、こういう沈黙が苦手なんだが。
「⋯今、何したんですか⋯?」
「つい、反射的に魔力通しちゃったんだよぉぉぉ⋯」
ルドルフが恐ろしすぎて。
「こうやって剣に魔力を流して、剣自体も強化するのがアルフレートの本来の戦い方だ。こんなナマクラで黒竜を斬っていた」
「人の主武装に対してナマクラとか言うな」
「じゃあセール品」
「そうだけど!」
なんかみんな私の剣に対して言い方とか酷いよね。
「そ、その剣、もう一度見せてもらってもいいですか」
興味あるのかい?
どこにでも売ってる剣だよ。
「うん? 好きなだけどうぞ。振ってみてもいいよ?」
1,500ロフだったのをまとめ買いしたことで1,200ロフになったという破格の剣だよ。
見習いの習作なのか、もはや地金代に近い。
「⋯確かに、⋯ゴホン、普通の剣ですね」
何言い淀んだ?
「もう遠慮せず言っちゃえばいいよ!」
「本当にすっごい安物!! すんません!」
「実際安物だけどね。だいたい三カ月くらいで一本消費するかな」
「通常、剣は使い潰すもんじゃねえけどな」
だまらっしゃいルドルフ。
*
メネル草を摘みに出かけたり、解体の片付けをしたりそれからギルドに行って、宿へ寝に帰る。
毎日、ぼくはそんな生活をしていた。
晴れていればメネル草採取。雨なら解体場。
お金も全然ないから、毎日働いた。
こんなでっかいファングボア、よく狩ってくるもんだ。
Cランクの冒険者が狩ってきたものらしい。
ランクの高い人たちは自分ではあまり解体もしないらしい。そんなことより儲かる仕事をして、解体は人に任せるんだ。
解体どころか、解体の後始末をしているぼくとは大違いだ。
解体の仕事を請けるEランク以上の人たちは、素材にならない端肉などを貰って帰れるらしい。
ぼくらにはなにもない。
魔物の腸から出てきちゃった排泄物を片付けながら、臭いに嘔吐いた。
「うっ⋯臭え」
一緒に片付けているのは、同時期に冒険者になった新人だ。
雨の日の解体場ではよく顔を合わせるし、話したりもする。
「解体するならもっと上手くやれってんだ」
「そうだね。ちょっとウンチは勘弁してほしいな」
「なぁ、明日ギルドで新人向けの講習やるんだってさ。昼飯が出るらしいぞ」
「君、よく今の話の流れで食べ物の話ができるね」
床にこびりついたファングボアの糞を、専用のブラシで擦って洗い流す。
「お前も参加しねえ?」
「君は参加するの?」
「ああ。初回だけ、黒竜倒したパーティのBランクが講師だって聞いたんだ」
ずいぶん流行好きだったんだな。
でもぼくもちょっと興味がある。
「ぼくも⋯参加しようかな」
作業が終わってから、ギルド職員さんに講習について聞いてみた。
カウンターのお姉さんはみんな美人なので、報告にきたときでもいつもすごく緊張してしまう。
「参加してみたいんですが、まだ空きはありますか?」
「大丈夫です。満員の場合でも、新人の方が優先されますので」
「それで⋯、昼食出るって聞いたんですが⋯」
「ええ。昼食支給です。Fランク以下の方の場合は、指定の宿での宿泊券も発行することになっています」
「うわ、ほんとか!」
それなら、一日休んでも大丈夫、かな。
「名前と登録番号、ランクを確認させてください」
「はい」
ぼくらは揃ってギルドカードを差し出した。
「Fランク、ミエルさんと、同じくFランク、ダグさんですね。いくつか確認させていただきますがよろしいですか」
泊まっている宿について質問を受けた。
ぼくが泊まっているのは、安い宿屋の雑魚寝部屋。
いつも端っこのほうで丸くなって寝てる。
「おれも、お前の泊まってる宿に移ろうかな⋯」
「そんなに変わらないんじゃない? ぼく雑魚寝部屋だよ」
「おれもそうだけどさ⋯」
その日は一緒に夕食を食べて、宿に帰った。
夕食といっても、芋の入ったスープだけなんだけど。
「なぁ、この宿の雑魚寝部屋って変なことするやついない?」
「へんなこと? とくにはないけど⋯」
ダグは泊まっていた宿で怖い思いをしたみたいだった。
力で抑え込まれて、嫌なことをされかけたらしい。
詳しくは聞かなかったけど、話していたときに震えていたし、吐きそうになっていた。
怖がっているみたいだったので、壁際を譲って、手をつないで寝た。
翌日二人でギルドへ行くと、講習室っていうところへ案内された。
室内にいたのはぼくらみたいな新人と、ちょっと上くらいの人たちと、職員さん。
それから、背の高い薄藤色の髪で白いコートを着た人と、紺色の髪で大剣を背負った、黒いジャケット姿の、見るからに高ランクそうな人。
たぶんあの人たちが黒竜討伐者だ。
白いコートの人はぼくらよりちょっとだけ年上に見える。女の人みたいなすごく綺麗な顔をしてたけど、男だよね?
席は好きなところに座ってもいいらしい。
後ろのほうの席は埋まっちゃってたので、ぼくらは一番前の席に並んで座った。
講習が始まったら、あの白いコートの人――アルフレートさんはいろいろなことを教えてくれた。
ぼくらのメネル草採取のやり方のまずさもわかった。
宿の選び方もわかった。
おそらくダグに実際に起きた、許せないできごとも。
ダグは青い顔をして俯いていたので、ぼくはダグの手を机の下で握った。机の上に落ちた雫は見なかったことにした。
安全な宿をえらぼう。
昼食に配られたのは、丸いパンと、豆や根菜、それに細かいけれど肉まで入った温かいスープ、ゆで卵だった。
ダグは料理を見た途端、朝から何も食べていなかったみたいな勢いでパンをちぎった。
周囲を見ればみんなそうだ。
ぼくだって、人のことは言えなかったけど。
「うまい」
「美味しいね」
こんなに食べたら午後から眠くなっちゃうかな、なんて思ったけど、全然眠くなんてなかった。
黒いジャケットのルドルフさんは、自分が実際に使っている大剣と、昔使っていたという折れた剣を見せてくれた。
大剣はもちろんなんだけど、折れた剣のほうもよく手入れしていたんだなと伝わってきた。
ぼくは今短剣を使っているけど、何が向いているんだろう。
講習のあと、ぼくらは指定された宿屋に行った。
宿では、なんとそれぞれに個室を充てがわれた。
ちらりと値段表を見たら、一泊五十ロフだった。
今まで泊まってた宿の雑魚寝部屋は四十ロフだった。
十ロフしか変わらないのに⋯。
ちょっと壁は薄いようだけど、きっと今までより安心して眠れる。
隣の部屋から聞こえたダグの嗚咽は、気付かなかったことにした。
一泊して次の日も、二人でギルドへ向かった。
仕事も一緒にしようか、と話し合って決めた。
その前に、昨日習ったようにしてみよう。
ギルドの人にいろいろ聞いてみる。
たったそれだけで、ぼくらに合ったいろんなことを教えてもらえた。
教えてもらったメネル草の採取方法のおかげか、その日はちょっとだけ貯金ができた。
その後紹介してもらった宿へ行ってみた。
旅人の安息と祝福の宿、というところを探して聞き回ったのになかなかたどり着かなかったけど。
どうやら曲がり煙突という通称のほうが有名で、旅人の安息と祝福の宿という名前では誰も呼ばないんだとか。
曲がり煙突にはDランクくらいの人たちもいて、最初はダグが怖がっていた。ぼくらは一人部屋を二人で借りて泊まることにした。
普通の宿では考えられない泊まり方だけど、ここではいいらしい。
二人で泊まったら雑魚寝部屋よりよほど安かったので、ダグは笑いながら文句を言っていた。
いろんなことを教えてもらって、ぼくらの生活も少しずつ楽になっていった。
ただし、曲がり煙突の先輩たちは、少し世話を焼きすぎる、とぼくは思った。
なお、二人は今後もくっつきませんし付き合っていません。
えー、お知らせです。
どうにも最近1週間に2〜5話しか書けていません。
ゴリゴリ在庫が減り始めたので、ちょっと更新ペースを落とそうと思います。せめてストック50話以上はキープしたい。
とりあえず週4〜5くらいにしたい。
ひとまず月・水あたり休みます。
…月・火にすべき? どうしようか。




