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「では、本日午前の講師を務めます、アルフレートです」
ルドルフにジャンケン的なもので負けたせいで、最初の挨拶と午前の講師役をするほうにさせられた。
私、緊張しちゃうから後のほうがよかったのに。
今回集まったのは定員いっぱいの十五人。
参加は新人優先、だそうだ。
新人以外が聞いて何の役に立つのかと思ったら、黒竜討伐に参加したBランクの私とルドルフが講師をすると知って、申し込みが殺到したそうな。
本当に新人なのは十一人くらいか。
先日採取場で会った子も数人居る。
ちなみに、ギルド建物内なのにフル装備状態です。
以前飾り用に作った黒竜の骨の剣まで腰に佩いている。
武器まで装備しろと言われていつもの双剣を下げようとしたら職員さんとルドルフに止められた。
仕方なくではあるけれど、こうして講師をするからにはいつかのフェイのように、しっかり講師役を果たしたいと思う。
「この講習は、かつては新人冒険者が先輩たちから教わっていた基本的な知識や技術を、改めて皆さんに学んでもらうためのものです」
リアル新人たちは真剣そのものだが、偽新人たちが若干落胆したのが見て取れた。
しかし、中には偽新人層にも有益な話もあったらしく、きちんと聞いてくれていた。
「あと、初心者は採取依頼、戦えるようになったら討伐、なんて決まってるわけじゃないよ。その日の天気や体調、持ってる装備とか、今後どういう仕事をしたいかで選んだっていい」
先日の採取地を思い出し、私は説明をつけ足した。
「同じ仕事ばっかりやってると、その仕事には慣れるけど、他のことを覚える機会は減るからね。採取が悪いって話じゃなくて、届け物とか荷運びとか見回りとか、初心者でもできる仕事は他にもある」
私の解体技術向上は諦めたがな!
「依頼は、依頼票を自分で見に行くのでもいいんだけど、ギルドのカウンターへ行って、職員さんに紹介してもらうのもおすすめです。時間帯によっては混んでいますが⋯」
実例を交えて実体験なども話してみる。
「ちなみに私は解体がすこぶる下手なのだけど、受付でキャサリンさんが紹介してくれた依頼は、『できるだけ傷のない状態の魔物を納品』だったりしました。ね? コレって、個人の特徴に合った紹介でしょう?」
そう言ったら、ウケた。悲しいことにウケた。
「話は脇道逸れるけど、すこぶる解体下手な私は時々ギルドへ解体依頼を出しているので、いつか君たちにも請けてもらえると個人的にとても助かるよ」
時折自虐を挟みつつ、採取依頼の効率的なやり方や歩きやすいルートなどを説明。
そのあとは宿屋の話になった。
「宿屋についてだけど、宿屋は身体を休めて明日の仕事に備えるための大事な場所だよね」
数人の新人たちが頷いてる。
「安ければいいってもんじゃない。そこで、数軒ですがギルド職員さんや私達で実際に調べてみました。配った紙を確認してみてね」
ここ知ってる、とか、エッこっちのが安い、などの声が聞こえた。好感触なもよう。
「ちなみに私が宿屋を選ぶ基準にしていたのは、一つ目に安全性。二つ目に金額、三つ目は美味しい食事だよ」
誰だ、三つ目を言ったときに吹いたやつ。大事なんだぞ。
「基本的に雑魚寝部屋はおすすめしません。新人の頃こそおすすめしません」
込み入った話になるけれど、私はぼかすことなく危険性を説明した。
数人居た女の子たちと、後衛職系の男の子が、青い顔をしていた。
「宿選びをしくじると個室でも危険だよ。私も何回か狙われました。宿選びは慎重にね。不安ならギルドに聞いてみるのもいいと思います」
みんな真面目に聞いてる。
私の悪い癖であり、兄のテオドールに似ていると言われたところなのだけど、こういう時ってつい場の空気を崩したくなっちゃうね。
「あとは食事! めっちゃ大事! 私はごはんが美味しいと明日も頑張れます」
どっと沸いた。ちょっと嬉しい。
「食事のことを言うなら、『旅鳥の止まり木』と、『赤煉瓦亭』が特におすすめです。食事は身体を作る大切なものなので、軽視しないこと!」
体調を維持するために食事がどれだけ大切かを説明した。
「そういうわけで、野菜も食べましょう。便秘四日目とかめっちゃ辛いし、本当に仕事どころじゃなくなるからね?」
ゲラゲラ笑う子とちょっと顔を赤らめる子。反応も様々だけど、大切なことは伝わった気がした。
だれだよこの期に及んで『エルフってトイレ行くんだ』とか言ったやつ。
「ちなみに、そこそこランクも上がって野営とかをするようになると、料理ができるとかなり有利です。出来るようになっておきたいなーとか思う人や、先輩がたにビシバシいろいろ教えてほしい人は『旅人の安息と祝福の宿』っていう⋯曲がり煙突って宿屋もおすすめだよ」
あの宿の特殊性、すごい。
多分あの宿に泊まると、この講習が要らなくなるくらい周り中が世話を焼いてくれそうな空気だった。
「では、午前の私の講習はここまで。続きは昼食後だよ」
そうして私の講師としての担当箇所を終えることができた。
午後からはルドルフにバトンタッチだ。
昼休憩中は各々昼食をとる。
受講者たちにはギルドから簡単な昼食が配られていた。
私たち講師の分も用意すると言われたけれど、初回の講師は私とルドルフだし、昼飯くらいどうにでもなる。
次回の講師さんからは、お昼ごはんつけたほうがいいとは思うけど、と言って断った。
正直私とルドルフみたいな燃費の悪いのに新人と同じ量では足りないし。
さて、何食べよう。
マジックバッグに入っているものを思い浮かべながら迷っていると、偽新人たちに囲まれた。
なんか話が聞きたかったらしい。
「あの⋯その剣、見せてもらえませんか。あとコートも」
「ん? いいよー」
剣帯から外した黒竜骨の剣を手渡す。
実はこの剣、その後魔改造を施した結果、いつもの安物剣と同じくらいの重さに調整することに成功し、実戦でも使えるようになった。
そのうちもう一本も用意したいと思ってる。
「すげぇ⋯」
感嘆、といった声の彼は、手渡された剣を鞘からそっと抜いて、白い刃を眺めていた。
つや消しホワイトで面白い質感だよね。
「なんだか、見た目より重いんですね⋯黒竜の骨って聞いてますけど」
「重さは魔力結晶埋め込んで調整した結果だよ。元々はもうちょい軽かった。最初は普段使ってた剣と重心が違ってて使いにくかったんだ」
私としては、やっと使い物になるようになってきた、といったところだ。
「黒竜を倒したときってどんな感じだったんスか?」
「黒竜かぁ⋯」
正直最後が記憶ないからなぁ⋯
「アルフレートは途中は剣で応戦していたが、最後は魔法一発だったな」
後ろを通りかかったルドルフのフォロー!ありがたい!
「魔法かぁ」
「最初から魔法じゃなかったんですね」
「黒竜の位置が十四階層に降りる階段前でね。帰れなくなる可能性考えたら迂闊に使えなくて⋯。私の場合、魔法も範囲を絞ったものがちょっと苦手だったし」
私は剣で戦うほうが性に合ってる。
⋯と、自分では思っている。
「午後からはルドルフが自分に合った装備や武器の選び方とかを説明してくれるから、楽しみにしているといいよ」
午後からはルドルフのお仕事なので、肩の荷が下りた気分だ。
昼休憩終わらないうちにとマジックバッグからポテサラサンドと卵サンドを取り出して急いで食べた。
*
「さて、午後からの講習を受け持つ、ルドルフだ。自分に合った武器の選び方について話をしようと思う」
ルドルフすごい。なんかしっかり先生感が出てるよ。
見た目的にも私と違って明らかに威風堂々。
みんな背筋を伸ばして聞いている。
「まず、現在の俺の主武装だが、コイツになる」
威圧感あふれるルドルフの大剣を示す。
鞘から一度だけ抜いて見せ、すぐに納めた。
幅広で分厚い、黒鉄色の刀身だった。
刀身だけでも一メートルはありそう。柄まで含めたら百五十センチは多分ある。
装飾らしい装飾はなく、細かな傷と研ぎ跡だけが目立っていた。
私の主武装と違って刃こぼれ一つない、よく手入れされた剣だ。
「そしてコレがEランクまで使っていたものになる」
初めて見たそれは、ごく普通の長剣だった。
「おや⋯」
初めて見たね。
サイズ感としては私が使ってる剣と同じくらい。品質は比べ物にならないくらい良い剣だけど。
それが半ばあたりで折れている。
「敵の攻撃を正面から受けた際に折れた。後衛の咄嗟の魔法がなければ俺はこの場に居なかっただろう」
咄嗟に素早く魔法が放てたのはリィナのことかな。
ルドルフも結構危なっかしい頃があったんだな。
「俺の戦闘スタイルだと、攻撃も剣で受けることが多い。そうすると、当然だが剣にもダメージがいく。そこで徐々に頑丈な剣を選ぶようになっていって、大剣を使うに至った。自分の戦い方に合わせた武器を選べるかどうかは、命に関わることもあるので、とても大切だ」
ぼーっと話を聞いていたら、ハンドサインでルドルフに呼ばれた。なんだろう?
「アルフレート。いつもの得物出せ」
いいのかい。今日は装備すんなとまで言われたアレを。
マジックバッグから五〜六本取り出して、ルドルフの前に置く。
「アルフレートは特殊な例だというのは最初に言っておく。コイツのは剣を使ってるように見えて実際には、魔法で自身と剣自体を強化する戦い方だからな。だが、アルフレート、この剣を選ぶ理由は?」
「私でも振れる重さと長さ。あと魔力の乗りやすさと惜しげなく使い潰せる値段」
うっ。ドン引きしてる子がいるよぅ。
「つまり、アルフレートにとっては、多少値が張るが頑丈でデカい剣より、軽くて魔力を通しやすく、壊れても困らない剣のほうが合っている、ということになる」
なお、アルフレートの剣みたいなのは普通に使うと半年くらいで折れかねないので買わないほうがいい、は私には余計な一言だ。新人には有用だが。
「えー、そこでギルドからの連絡です。試験的に、訓練場内でのみ、実際に購入してしまう前にいろいろな武器を試せるよう、訓練用武器の貸し出しをしてみることになりました」
「あっ。できることになったんだ?」
ギルド職員さんの発表に、受講者たちも色めき立った。
そのあとは職員さんから、訓練場内限定であること、使用料についてと、破損時の扱い、刃を潰した訓練用であること、最初は職員か経験者の指導つきなことが通達された。
なかなかいい感じの制度になっているように思えるよ。
「次。防具について。これも本当に自分の戦い方動き方に合わせないとかなり辛い」
そうだね。私は鎧のたぐいを身に着けたら動けなくなる気がするよ。
「ルドルフさんやアルフレートさんは、竜皮革装備、で合ってますか?」
「俺のは竜皮革といっても飛竜だな。アルフレートのは白竜だ」
私は知っている。現在ルドルフは黒竜素材で新しい防具を仕立てている最中だと。
「アルフレートは、パーティ内では現在でこそ後衛に回っているが、元々は前衛だし、さらに元をたどればソロだ。コイツの戦い方は動いて避ける比重が大きい。だから防具の強度だけでなく、軽さや動きやすさも重要になっている。そういう選び方もあるな」
⋯そんな深く考えたことがなかったなんて、言えない空気だ。
動きやすさは重視したけど。
「武器選択でも言ったが、俺は避けるより受ける比重が高いので、アルフレートより重くても耐久を優先している」
⋯マジか。
竜種皮革のそれぞれの特性とか考えてなかったよ。
白竜、色で選んだなんて言っちゃ駄目だな。ナイショにしておこう⋯。在庫あったからって言おう。売って他のにするって選択肢もあったけど…。
その後、ルドルフによる荷物や予備装備の話もあり、初めての講習会は無事に終わった。
どうやら、私が大量に持ってる予備の剣は、本来の予備装備と呼ばれるものとは違ってたらしい。
反応を見る限り、成功と言っていいんじゃないかな。
そのあと訓練場でのデモンストレーションを望まれたのは想定外だったけれど。
私にルドルフの剣を受けろとか、無茶振りにも程があるんじゃないかな!?




