↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/92

079

 向いてないからと言って、逃げられるわけもなく。

 そして逃げるべきでもなく。


「では明日、低ランク冒険者が実際に利用している宿や店を回りましょう」


 紙いっぱいに並んだ項目を見ながらそう提案したのは職員さん。

 うん。正論だ。


「実地調査もするんだ?」

「発信する情報が不確かじゃ、新人のためにもなりません」


 本末転倒でしょう? と言われれば、納得せざるを得ない。


「リリちゃんたちは明日も大丈夫?」


 軽んじているわけではないが、FランクやEランクだと何日も拘束されるのはキツいのではないかな?

 この初心者講習企画はきちんと前準備段階で報酬出てるのかい?


「準備期間も含め、拘束日数ごとに報酬が出ます。必要経費もギルド持ちですよ」


 そこまで表情に出してた覚えもないんだけど、ほんとに表情を読む能力すごいな!?


「ふふ。普段の依頼より安定してますから、私は大丈夫ですよ」

「俺も問題ありません。護衛依頼ほど稼げませんが、引き継ぐ前提なら必要な仕事でしょうし」

「なら、続きは明日だな」


 妙に時間が余ったな。午後、何しようかな。

 ……そうだ。どうせなら、明日のために新人向けの店を覗いてみようか。

 ちなみにルドルフは午後から別の仕事なのだそうで、昼食は仕事する場所近辺で適当に食べるそうだ。


「ね、リリちゃん。おごるから新人向けの飲食店、連れてってくれない?」


 私は美味い屋台は知っているが、店となるとあまり詳しくはない。

 入店の際の緊張やら何やらで、わりと敬遠がちだったのだ。

 正直、人に連れて行ってもらった店しか行ってない。


「もしかして明日の下見ですか?」

「うん。私普段は屋台飯ばっかりで、店に入って食事ってあんまりしてなくて」


 屋台飯か銀麦亭ごはんか、もしくは自炊だからね。


「屋台ですか? アルフレートさんなら、もっと高いお店に行ってるのかと思ってました」

「知らない店に一人で入るくらいなら、私は知ってる屋台で買うよ」


 屋台ならかなり知ってる気がするけどね。


「あと、宿屋の主と交渉して調理場借りたり、野外で自炊することもある」

「野外⋯? そっか。マジックバッグがあれば調理道具も材料も持ち歩けますもんね」

「今回は何の参考にもならなそうだね⋯うーん」

「うっ。マジックバッグは初心者には遠いですから⋯」


 マジックバッグの要らないサバイバル調理はいくつか知っているが、それはそれで参考にならんしな。


「安い、量が多い、とかですかね?」

「あと新人でも入りやすい店」


 私には自身のランクなんぞ関係なくどこも入りにくいが。


「初心者っぽい装備の人に優しくない店、結構あるんだよ?」

「あー。それありますね」


 リリちゃんも何かあったのかな?


「あからさまに『お前払えないだろ』って顔するよね」

「そうそう!そうなんですよ!ほんとにもう!」


 あれは駄目、こういう店がいい、と新人に勧められる条件を話し合っているうちに、リリちゃんおすすめの店へ辿り着いた。


 やや古いが、落ち着いた外観。

 派手さはない。

 店内は明るく、雰囲気はいい。


 ……と、店名と場所も添えて書き留めていく。


「あ、そうだ」


 ちょっと思いついて、コートをマジックバッグにしまい、反対にいつもの双剣を取り出して腰に下げてから、店に入った。

 これで、初心者より初心者らしいとルドルフに評判な格好だよ。

 

「いらっしゃい」


 軽い挨拶の後、視線は一瞬だけ双剣や私の衣服へ向いたが、それだけだった。


 初心者差別、なさそう。そもそも若い子がいっぱいだ。

 昼には少々遅い時間になってしまったせいか、店内は少し空いていた。


「メニューもわかりやすいとこに書いてあるね」


 値段がわからない店では安心して飲み食いできない。


 水は有料だけど、一杯二ロフ。

 フロギとポクロポの甘辛煮、一皿二十五ロフ。

 フロギの香草焼き、温野菜添え。一皿十五ロフ。

 ファングボアとタルダネリの煮込み、一皿十ロフ。

 赤豆入り丸パン、一個三ロフ。

 端野菜とファングボアのほぐし肉スープ、一杯三ロフ。


「水は有料なんだ⋯」


 でも、何が何でも野菜食わせてやるという圧を感じる。ちなみにタルダネリはカボチャみたいな味のやつ。

 なるほど、いい店だ。


「注文は決まったかい?」

「ごめんなさい、まだです。リリちゃん先に選んで」

「えっと、フロギの香草焼きと丸パンください」


 メニューの端から端までチェックするよ。


『一品注文すれば、端野菜とファングボアのほぐし肉を煮込んだスープが一杯つきます』


 ⋯マジか。なんかすごいことが書いてあったね。


 何か一品注文すれば、端野菜とファングボアの、おそらく端肉だろうものを煮込んだスープが、一杯つくらしい。単品三ロフなのに。


「スープ、無料なの?」

「はい。おかわりは三ロフですけど、一杯目は無料です」

「そっか。すごいな」


 丸パン一個でも、温かいスープがつく。

 なんだこの店。新人を生かす気満々だな!


 ふむ。


「すみません、水と丸パンください」


 リリちゃんには、エッ? という顔をされた。

 頼んだモノがモノだけに、私の注文品はすぐに運ばれてくる。


「⋯ありがとう」


 木杯に入った水は臭いもなく、透き通っていて、いわば普通の水だった。

 安全な水が二ロフで飲めるなら良心的だ。

 丸パンは噛み応えがある。

 スープに浸して食べるのでもいいが、そのまま噛んで食べていたらすぐ満腹感を感じることだろう。

 ただし私個人としては、エルフの華奢な顎にはキツい。

 そしてスープだ。

 柔らかく煮崩れかけた端野菜と、肉の欠片が浮いた透明なスープだ。

 それを一口含んでみて、驚いた。

 骨ごと煮込んでいるせいなのだろうけど、すっごいダシが出てるよ⋯!

 ⋯普通に美味いなコレ。


「このスープ美味い⋯」


 この店は、控えめに言っても大当たりだと思う。


「美味しいですよね。何度そのスープに助けられたか」


 しかし、よくこの値段でやりくりしているもんだ。

 

「ここのスープ、昔ここで食べてた人たちが肉を置いていくから、続いてるんだそうですよ」

「ふぅん? 寄付?」

「はい。売るほどじゃない端肉とか、骨とか。自分も助けてもらったからって」


 なんだ。いい循環だったんじゃないか。

 なんか寄付できそうな肉、あったかな⋯。

 ケルピーくらいなら怒られないかな。


 もうちょい相手に気を使わせない感じの在庫がなかったか、脳内検索。

 ウーン⋯。


 人間に食わせられる状態で、相場も安めで、できれば肉本体より骨周辺。

 肉でも切り落としかバラ肉。


 ……ないじゃん。

 私、解体依頼を出して外注しているせいで、手元に戻ってくるのは革と肉ばかりだ。

 骨も端肉も、ちょうどいいものが一つもない。


「ね、リリちゃん。小さめのファングボア一匹丸ごと置いてったら、店主にご迷惑かな⋯」


 小声で聞いてみる。


「わりと迷惑だと思います⋯」


 遠慮がちな声だが内容は遠慮ないね。

 私も何か寄付したい気持ちはあるんだよ。

 適当なものが無いだけで。


「店主ー。お願いがあるんですが」


 私は諦めた。

 何事かと席まで来てくれた店主に、油紙で何重かに包まれたファングボアもも肉を差し出す。

 無いものは仕方がない。

 肉本体のほうだけど、受け取って欲しい。


「これを寄付させてください」

「もらえるか馬鹿野郎! ⋯坊主、それはお前さんが売って生活に役立てるべきもんだろう」


 悲報。私、本当に初心者に見えてるらしい件について。


「こ、困ってないからっ。大丈夫だから!」


 慌ててギルドカードを取り出し、提示する。


「試すような真似をして申し訳ない⋯! これでもBランクなので、本当に困っていないんだ⋯!」


 私のカードを見た店主の驚愕顔に傷つくよ⋯。

 初心者を見慣れた人からの初心者認定だ。

 しげしげと頭のてっぺんからつま先までを見る視線が遠慮なく私の心を折りにくる。


「スープも表示金額通り払わせてくれないかな。無料っていうそれは本来新人のための仕組みだろうから⋯」

「⋯Bランクカードなんて初めて見たぜ。Bランクにもなると、変装技術も凄えんだな!全然分からなかったぜ!」


 違うよ。これは私の普段着だよぉぉぉ。


「だけど、スープは無料だ。そういう決まりなんだ。金の有無で変えたら、それこそ若いのが頼みにくくなっちまうだろうが」

「な、なるほど⋯!」


 その後、興味を引かれ店主にいろいろ話を聞いてみた。

 店主はかつて王都の有名店で料理人をしていたのだが、一番上の息子は料理人の道を選ばず別の街で冒険者になったのだとか。

 しかし食うや食わずの極貧生活を送っていた頃に体調を崩し、結局病気で亡くなったと後で知らされたのだそうだ。

 それ以来、身を立てる以前に生活を破綻させる初心者たちを黙って見てはおられず、若手冒険者のための店を始めたのだそうだ。


 なんて崇高な。


「店主。実は今、ごく最近登録した新人冒険者たちが窮地に陥っているみたいなんだ」


 ダンジョン発見後と以前の違いと、彼らに起きた問題の数々。その改善のための対策の一環としてこの店を見に来たことなど、洗い浚い吐いた。


「そういうわけなのだけど、この店のことも新人たちに紹介させてもらっても、いいだろうか?」


 店主は即答はせず、少し思案していた。


「紹介するのは構わねえぜ。だが、一度に大勢押しかけられたら、こっちも回らなくなる」

「⋯そ、そうですね」

「場所と使い方は教えてやれ。だが、ここだけを当てにさせるな。⋯なぁに!ウチと同じ方針の店だって今は何軒もあるんだぜ!」

「そのお店も、紹介文をつけて貼り出すとか……そうだ! いっそ、本みたいにしてしまったらどうでしょう!?」


 それはもはや、グルメガイドマップとガイドブックなんじゃないのかな。


 でも、いいかもしれない。

 初心者冒険者必携、『レコルナスの歩き方』とか。


 リリちゃんに言ってみたら、名前がダサいと言われた。


 なんか容赦無くなってきてない!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 ……ビギナーズガイドブック、とか…?(頭から湯気が…)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。