076
新人くんたちと別れ、私たちはギルドへ報告に行った。
「中堅層が居ないからか、新人たちの知識不足が目立っていた」
なお、「一応お前もいろ」とルドルフに言われたため、報告する彼の斜め後ろに私も立っている。
「やはりそうですか…」
メネル草採取依頼の検品の手間が、先々月あたりから増え始め、今ではハネ物の廃棄量が無視できないほど増えていたそうだ。
なるほど。それで冒険者側からも調べさせたくてこの依頼に繋がったのか。
「採取量自体は増えているのに、買取量はさほど増えていなくて…。それどころか…」
減ってるんですかね。
言わないけど、そう匂わせてきた。
「採取場所の奥のほうにメタルボアが来ていた。この件に関しては、新人にギルドへ報告するように言っておいたんで、できれば俺たちからは聞いていないことにして報酬を支払ってやってくれないか」
「人数多いから一人あたりは少額だろうけど、それも仕事だって体感してもらいたいんだ」
「討伐自体は済んでるよ」
「分かりました。では、そちらは彼らからの正式な報告として扱います」
あとは言うべきか迷う件だね。
ルドルフと顔を見合わせる。
あ、言うんだ?
フォローしろとかサイン出されてもねぇ⋯。
「⋯⋯魔物が採取場所に来ていた原因の一つなんだが、採取に行った冒険者が、ゴミを持ち帰らずに埋めていた」
「これも教えてくれる中堅層が居ない弊害だと思うけど、問題が起きているのはメネル草の採取方法やゴミのことだけじゃないようだったよ。⋯⋯多分このままだと新人が路頭に迷いかねない気がするんだ。この冬とか、楽観視できないんじゃないかって私は思うよ」
自己責任って言うには、今の新人だけちょっと条件が悪すぎる気がするんだ。
あと三カ月もすると寒くなってくる。
メネル草の採取にはかなり厳しい季節だ。採取以外の仕事にも今のうちに慣れておかないと…。
「冬……」
「採取仕事が減るうえに、防寒具や暖房代も要る。今のままじゃ貯められない奴が出る」
現状彼らにどれだけの貯蓄があるかはわからないけど、考え無しに散財してしまう前になんとかしないと。
私も冬の間、解体依頼とかをマメに出すようにしてみようかな。
「今はまだ昼飯を買えているけど、もっと金がなくなれば食事回数そのものを減らす子も出てくるのかもしれないよね。一日二食、それでも足りなければ一日一食とか。冒険者は身体が資本なのに、それじゃ余計に仕事にならなくなるんじゃないかな」
今、働き続けているからギリギリ成り立ってるのに、働けなくなったりしたら…。
「Eランク以下がよく泊まっている安宿じゃ、冬になると暖房代まで別に取られる。今のうちに貯められないなら、本当に厳しいぞ」
これは私も知らなかったんだけど、安宿だと暖房に使う薪代を払わないと自分の部屋は無加温らしい。
それじゃ寒いよね!? 毛布だけで乗り切るの!?
レコルナスは雪こそ降らないが、冬は氷点下の日が何日も続く。
お金がないと自分の部屋で暖を取ることもできないらしい。
もしかして真冬になると日がな一日ギルドに居る子たちって、暖房代が払えなくて避難してたのかな⋯?
私が安宿を使ったことがあるのは春だけだったので、冬の暖房代については聞いたこともなかったのだ。
安宿だと、身体を拭くお湯だとかも別料金らしいし、わりといろいろなサービスがオプション扱いで、その都度お金がかかるのだそう。
「昔なら中堅層から教えてもらってたような情報がほぼ伝わってないみたいなんだ。登録したての新人向けに、講習とかやってもらえないかな?」
「実は、こちらでも新人冒険者への対応を見直していたところなんです。……キールの件もありましたので」
ああ、あいつか。
ロザリンに手を出したあの確定犯人氏、翌日保安部で聞いた通り、ギルド職員だったようだ。
キールというらしい。ちょっとだけ聞き覚えもある名前だ…。
そのキールは既に職員資格を剥奪され、王都へ移送されたんだそうだ。
少し前、リィナとマデリーンさんがその護送馬車を見かけたと言っていた。
リィナによると、顔などはボロボロでよくわからなかったそうだ。
中肉中背、顔以外もこれといって特徴がないせいで、どの職員だったのかもわからなかったらしい。
護送馬車の中まではよく見えなかったそうだが、あとで聞いた話では、キールはマデリーンさんたちのいた辺りを通った直後に叫んで狂ったように暴れ出し、護送の人たちに取り押さえられたそうだ。
当然、その件も処分に加味されるとかなんとか。
……何してんだ犯人氏。
そう提案すると、職員さんはしばし考え込み、「上に相談してみます」と言い置いて、少し離席した。
ギルドも信用を取り戻すために大変らしい。
「ね、ルドルフ。安宿の暖房代別料金ってさ、雑魚寝部屋のほうってどうなってるの?」
「雑魚寝は一応込みだな。ただし、凍え死なねえ程度だぞ。薪を足したきゃ、その部屋の連中で金を出し合う」
「共同購入なの?」
「嫌なら厚着して寝ろって宿もある。それと⋯⋯他人とくっついて寝ることもある」
「えっ」
「小柄なやつは秋までには雑魚寝部屋を卒業しねえと結構危ねえ」
「ひぃ」
たしかリィナが、ルドルフは昔は可愛かったとか言って⋯
「待て。俺の話じゃねえぞ!? リィナも居るパーティで雑魚寝部屋なんぞに泊まるわけねえだろ!?」
なんかすっごい慌ててる。
「⋯私はなにも言ってないのに」
「お前何でも顔に出過ぎなんだよ⋯!」
いや、違ったなら良かったけど、今のはルドルフが思わせぶりなこと言うのが悪くない?
そう言い返そうとしたところで、奥へ続く扉が開いた。
「お待たせしました」
職員さんの後ろには、最近よく会うようになってきた支部長さん。お世話になります。
「ひとまず、初心者向け講習を試験的に行う方向で話を進めることになりました」
「良かった!私たちも、何から教えればいいやらで困ったんだ」
「ダンジョン発見前に登録した連中を補助に使うと回しやすいかもな」
確かに、先輩にコツやら何やら聞いてた世代がいるとなにかと捗りそうではある。
「補助、ですか?」
「俺たちより新人の感覚が近いし、新人の緊張も和らぐ。準備段階でも新人寄りの意見が出るかもしれねえし、助かるだろ」
私とリィナに話しかけてくれる子はそこそこいたけど、ルドルフやマデリーンさんには、あまり近づきもしなかったもんな⋯。
「なるほど。補助役については、その方向で人を探してみましょう」
支部長さんが頷いたあと、少し難しい顔をした。
「ただ、問題は講師役です。座学なら職員でも対応できますが、現場での判断や採取方法までは、現役の冒険者に任せる必要があります」
「Dランクくらいのを呼び戻せりゃ一番なんだがな」
「依頼の受け方や報告、査定基準なんかはギルド職員。実地はDかCランクくらいの冒険者に依頼するのがいいよね、やっぱり」
「ああ。できればDランクに依頼を出して講師を務めてもらいたいと考えているよ。実は、高ランクになる冒険者は低ランクの頃から要領が良かった者も多い。普通の初心者とは感覚が違いすぎて、講師に向かない可能性がある」
「なるほど。アルフレートに任せたら事故になりそうだもんな」
「失礼だなルドルフ⋯!」
「君たち両方ともだと何故思わないかな⋯」
私違うもん、と言おうとして、昼間のゴミを灼いてしまった件を思い出し、押し黙った。
きっと言い返されてしまう。お口チャックだ。
「初回だけで構わない。どちらか、出来れば二人とも講師役を請けてもらえないか」
「支部長、さっき私たちに向いてないみたいに言ってなかった?」
「向いていないが最適だ。何が問題だったかを既に知っているわけだからな。講師役として教えておくべきことなどをまとめて報告も頼みたい。ギルドからの依頼だ」
講習そのものより、教える内容を洗い出して報告させるところまで込みで、私たちに頼みたい、ということらしい。
まあ言い出しっぺなので、断りにくいね。
いや、逆に考えよう。遠出しないで完結する仕事。それはそれで、いいじゃないか。
「私は良いよ。開催はいつにするのかな?」
「⋯⋯アルフレートだけだと不安なので俺も請けることにする」
この信用のなさよ⋯!
「FかEランクあたりの補助が必要だな⋯」
私たち二人を見て頷きながら支部長が呟いた。
あ、その案採用なんだ?
「支部長。講習補助なら、心当たりがあります」
「ダンジョン発見前の登録か?」
「はい。最近、魔法講習の補助をよく請けている子がいまして」
魔法講習ってのは、以前フェイが講師をやって、私が受講者だったやつだね。
あれは月二回くらい開催されているらしい。
ちなみに私の古語学習は進んでいないため、試験は受けていない。
教科書とノートはきちんと実家に帰った時に回収済みだよ。開いてないけどね⋯!
「講習は十日後あたりでどうでしょう。補助員とは、それまでに一度打ち合わせと準備をお願いしたいのですが」
結構大急ぎだな!?
案件が待ったなしだからやむなしってことか!?
「じゃ、補助員の子が請けてくれてからだね」
「ええ。補助員が決まり次第、こちらから定宿まで連絡に伺います。定宿は銀麦亭でしたね?」
「うん」
「では、よろしくお願いします」
思わぬ依頼を請け、私たちはギルドを後にした。
「さて、串焼き買いに行こっと」
昼からずっと気になっていたのだ。
「ん? 前にダンジョンで食ってたやつか?」
「そうそう。昼に話をしたら食べたくなっちゃって」
「俺も行く」
「あの安さと味に驚くといい。焼きたては、あの時の比じゃないよ」
ルドルフと一緒に第三商業区方面へ向かおうとしたところ、前方から薄藤色と赤い髪の二人の姿が。
「あっ。アリー!ルドルフさん!お帰り!」
「お帰りなさい、アル、ルドルフ」
「ただいまぁ。って言いたいところだけど、ちょっと串焼き買いに行って来るよ」
「あら、いつものお店?」
いつもの、という言葉に反応してかケイティが俄然興味を示してくる。
「えー! いいな! あたしも行きたい! いいでしょ? ね、お兄ちゃん」
こんなときだけ『お兄ちゃん』呼びをしてくる姑息さよ。
誰だ今、「白黒竜装備エルフの妹⋯」とか呟いたやつ。
「ふふ。私もご一緒していいかしら?」
「もちろん。むしろロザリンたちへのお土産にしようと思ってたところだから」
傾き始めた陽を背に、私たちは四人で第三商業区のほうへ歩き出した。
夕飯にはまだ少し早いけど、串焼きを食べるにはちょうどいい時間だと思った。
そりゃ、どん底に落としたと思ってたマデリーンが元気いっぱい幸せそうに笑って普通に暮らしてんのなんて見かけちゃったら、これから護送されちゃう身のキールは全力で泣き叫んで暴れますよね。




