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「ね、君たちの今日の昼飯ってどの辺りで買った?」
「ギルドの近くの店です。朝早くからやってるから」
「お、美味そう。これっていくらだった?」
燻製肉を挟んだ美味そうなパン。
確かに冒険者御用達だ。
「七十ロフでした」
ただし、収入が安定した層向けの。
「そっかぁ。…ところでメネル草、午前中だけでどれくらい採れた?」
「今日はまだこれくらいです」
そう言って鞄の中を見せてくれた。
おおよそ六百グラムほどか。でもハネられそうなものもかなり多い。この中からだとせいぜい半分くらいしか売れない気がするよ。
今のレートはだいたい百グラムで三十六から三十七ロフ前後だ。
午後に採り方を直して頑張っても、今日の収入は三百から四百ロフくらいか。
「そっか。今、どのへん定宿にしてるの?」
「赤靴亭です。南門側の」
「食事付きで?」
「ええ。帰って外に出る余裕もないので…」
疲れちゃうもんね。
「ま、食事付きのほうがいいよ。屋台飯だけだと身体壊すし」
食事中なので言わないが、屋台飯にありがちな炭水化物とタンパク質中心の食事ばかり続けてしまい、便秘に苦しむ冒険者は意外と多いらしい。
食事バランスは大切です。
ちなみにルドルフとライリーに関しては、今回私の目が離れたせいで一時的に文字通りの肉食男子に戻っているだけである。あいつら放って置くと肉ばかり食べてる。
あの辺りの相場だと一晩五十から七十ロフ。朝夕食事付きなら百二十から百五十ロフだ。
武器や防具や靴は使えば傷むし、刃物を研ぐのにも金がかかる。
それにいずれは今よりまともな装備へ買い替えなきゃならないし、そのための貯えも必要だ。
いくら貯蓄へ回し、そのために食費をどこまで抑えるべきなのか。
そのあたりもしっかり考えておかなきゃならない。
天候や季節などにも左右されるし毎日働けるわけではないから、その収支では冒険者稼業は結構厳しい。
「でも、現状だと食費か宿代のどっちかを削らないと厳しくない? 健康とか安全とか睡眠のためには、宿代と宿での食事代は削らないほうがいいから、昼飯をもう少し工夫したほうがいいかもね」
「えっ? 昼飯ですか?」
新人くんは、考えてもいなかった、みたいな反応だった。
隣りに居た子も興味津々といった様子。
「うん。昼飯。メネル草採取依頼で食べるには若干高いかな。今はメネル草が高騰してるから成立してるけど、以前の価格だと一日二百五十から三百七十五ロフにしかならないんだよ? 今も少しずつ値も戻ってきてるし」
メネル草に関してはダンジョン発見直後の需要も落ち着いてきたみたいなんだよね。
「じゃあ、さっき言ってた、採取だけで食べてる人ってどうやって稼いでるんですか?」
「そりゃ、売り方が違うんだよ」
「売り方…?」
専門の人、すごいんだぞ?
薬草採取が新人だけの仕事だと思っちゃいけない。
「うん。これは初心者でも持ち込める普通のメネル草。ギルドがまとめて買い取るやつね」
もちろん状態が良ければ多少は高くなるけど、本当に多少。限度はある。
「採取専門の人だと、良い株がある場所を知ってたり、自分で育ててたり、魔力の特別多い株とか、採る時期を指定されたやつは値段も全然違う」
「そんなに違うんですか?」
「物によるみたいだけどね。あと、遠くの薬師とか研究機関と直接取引してる人もいるよ。そういう人は専用の魔道具とか飛竜便まで使う」
「飛竜便!?」
「鮮度を落とさず管理するんだ」
同じ草を採ってるように見えても、売ってるものも、売る相手も、ぜんぜん違うのだ。
「雨の日も仕事って請けてる?」
「お金がないんで、雨の日もギルドの解体場清掃とか荷運びとかいろいろ請けてます。あはは」
街中屋内仕事か。そうすると雨の日の収入は合計しても百五十から二百五十ロフといったところだろう。
しかしそういった依頼は人気になり殺到するので、毎回上手くありつけるとは限らない。
「今のうちに、何にいくら使ったか記録する癖をつけたほうがいいよ。稼げてないのか、使いすぎてるのか、分からないままだとお金も貯まらない」
苦労してんなぁ…。
「例えばだけど、さっき私が食べてた揚げ芋とかだと、小粒1個2ロフ、三個包み5ロフだよ。安めの肉とピクルスでも足せば、結構安く上がる」
「お前、偉そうに言ってるけどピクルス嫌いで食わねえだろ…」
「だまらっしゃいルドルフ。暴露しないで」
通りかかったルドルフのツッコミの精度が高すぎて私の先輩ヅラが今のでだいぶ剥がれたぞ。せっかくがんばったのに。
「臭いが嫌いなんだよ。でも食べられないわけじゃないし!」
「大量の水で胃に流し込んでたな」
「やかましいよ!?」
私たちのやり取りに、新人くんたちも笑ってる。
ん…?
そういえば、彼らはあまり水を飲んでいないな。
「ね、水もちゃんと飲んでる?」
夏の脱水症状はかなり危ない。
採取依頼、しかも魔物も居る場所、ということで彼らのなかには、革の軽鎧を着けてる子もいる。
私は着けたこともないが、あれは暑くて蒸れるのだそうだ。
「飲んでます。帰るまで保つように少しずつ」
小さな水筒を示して言ったけど…。
ちっさ!オフィスでお茶飲む女子か!?
ガテン系兄さんくらいのを持ち歩かんかい!
「水はもっと持ち歩かないと危ないよ!」
「でも他のみんなもこれくらいですよ?水を多く持とうとするとメネル草を入れられないし…」
「今回、無駄が減る採り方教えたでしょう?その分水も入れるんだ」
新人くんたちの表情には、それをするくらいなら更にメネル草を詰め込みたい、という欲が見て取れた。
「お前ら、倒れたら治療費に五百ロフとか普通に飛ぶぞ?」
「水が足りないと、身体が動かなくなるよ?」
冒険者の場合、装備更新のための貯蓄以外にも、働けない日のための貯蓄や、いざという時の治療費のための貯蓄も、必要だ。
今の彼らくらいの稼ぎだと、割高な昼飯を何となく選んでいる余裕なんてないのが普通なのだ。
「新人くんたち!全員ちゃんと水飲んで!減ってたら今から新しく入れてあげるから!」
さすがに今日の気温だと、この量でもたせようというのがかなりまずい気がするので、緊急措置だ。
彼らの小さな水筒に、それぞれ満タンに水を入れてやる。
残量を気にして口を湿らせるだけ、なんて飲み方はやめさせたい。
冷たい水を飲めば、少なくとも火照った身体はいくらか楽になるし。
バテてた子は、もう一杯おかわりしていた。
「あー、涼風のペンダント、欲しいー!」
しみじみ、という感じで一人の新人ちゃんが言った。
涼風のペンダントっていうのは、服の中に冷気を循環させる魔道具だ。
多分、私がいつも使ってる温度調整の魔法みたいなのを、自動で発動してくれるものなんだろう。結構人気らしい。
「そっか。今はそれが目標なんだね。便利な道具はほんとに楽になる。そのためにも、節約と効率の良い稼ぎ方を考えないとだね」
「うん。がんばる…!」
ここまで関わってしまったなら仕方がない。新人くんたちに本来なら中堅層から学ぶことをいろいろ教えることにした。向いてないけど。
主に、私、マデリーンさん、リィナ、フェイが教える側になった。
ルドルフ曰く、食い物のことならアルフレートが詳しいだろ、とのことだ。
食い意地張ってるみたいに言わないでほしい。
「既に出来上がってるものを屋台で買うより、パンはパン屋で買って、他の店で串肉を買い足したり、保存の利く野菜を買うほうが安上がりよ」
「第二商業区でも表通りは高めの店が多いので、第一商業区寄りの店のほうが安くて量もあっておすすめです」
「第三商業区の手前の方にある串焼き屋とかめっちゃ安いし美味いし良いよ。一本十ロフだったよ」
「…アルフレート。子供に第三商業区の店を勧めるな」
「だから手前だってば、ルドルフ。あの辺なら全然いかがわしくないよ」
それくらい私だって配慮してますよ。
「あっ、黒竜肉が出たっていう店…!?」
「うっ…。もう黒竜肉が出ることはないけど、普段から安くて美味い良い店だよ」
「今度行ってみます!」
話題にしたら食べたくなってきたよ。
今日行ってロザリン達にお土産でも買おうかな、と思った。




