074
「ごめんて…」
「なんでアンタってそうなのよー!?」
リィナにも怒られ、ちょっと反省してる。
「まあ、アレだ…。ゴミは持ち帰って街で処分。いいな?」
「アレは参考にしちゃ駄目よ?」
みんな口々に私にダメ出しするんだ…。
ついうっかり、いつもの癖が出ちゃっただけなんだよ…。
現在、この採取地に採取に来ていた初心者たちを集めて、ルドルフとマデリーンさんとリィナたちベテラン勢が中心になって教えているところ。
なお、私はさっきのやらかし一発で除外された模様。
「アルフレートはいつも灼いて処理しているのだな」
「僕を見て言わないでライリー。僕は出来ませんし持ち帰ってますよ?」
フェイでもやらないらしい。高出力で塵にまでしとけば匂いもないし大丈夫だと思ってたんだが…。
「魔力の無駄だから、こんなの真似しないで、きちんと街に持って帰って捨てるのよ。いいわね? たとえダンジョンでもよ?」
なるほど。リィナはこういう実地の話に詳しいな。
ダンジョンでは三時間ほどで吸収されちゃうけど、わざとゴミを放置も駄目なのか。……別にしてないけどね?
ダンジョンの魔物も寄ってくるんだろうか。
いや、明かりにアイツらが群がるんだからゴミに獣系魔物が寄っていっても不思議はないか。
「街なら決まった捨て場があるだろ? そこに出せば回収の依頼を受けた奴らが持っていく。だが外じゃ回収しに来るのは食い物探してる魔物だ。だから持ち帰れ」
回収業務も昔は低ランク冒険者向けの雑用だったらしいけど、今は毎日決まった場所を回って異常も報告する、ちょっと特殊な信用込みの仕事になっているらしい。
戦闘職を引退してそっちへ移る人もいるそうだ。
なにかと保安部さんと関わりが深いらしいし、やっぱり冒険者も信用第一だね。
「あのぅ…採取、再開していいですか?」
遠慮がちに聞いてきた、まだ線の細い少年。ちょっとオドオドした感じだけど私をチラチラ見てくる。
白黒竜装備…とか呟かないでほしい。
「再開は、奥のほうの確認終わってからな。まずは皆でゴミ集め。ライリー、埋まってるやつ探してやってくれるか? それと魔物は…」
「私が警戒しとくし。とりあえず今は五十メータ以内に魔物は居ないみたい。ゴミも一カ所に集めてもらえば今回に限り私が灼いておくよ」
さすがに採取物と数日分のゴミを持ち帰れ、ではマジックバッグもない初心者には酷な話だ。
ゴミ集めが終わってから焼却作業をしていると、フェイに呼び止められた。
「アルフさん、ここ見てもらえますか?」
フェイが示した場所を見ると、土が少し掘られているような跡があった。
周囲をよく見れば、そこらじゅうに同様の場所が。
「マジか…」
まさかと思い、初心者たちのほうを見る。
「あった!」
そのうちの一人が今まさに、豪快にメネル草を引き抜いたところだった。
「ちょっと待ったぁぁぁ!!」
ちょっと声が大きかったか、引き抜いてしまった子がビクッと縮こまった。
「メネル草の採取方法から説明したほうがよさそうだね」
「えっ?」
周囲の視線が自分の手元に集まったのが居心地悪かったのか、少し隠すように持ち替えた。
「メネル草は根から抜かない。根から抜いちゃうと、枯れちゃう場合だってあるし、次に採取できるようになるまで時間がかかっちゃうんだ」
「でも、こんなにいっぱい生えてるんだし…」
だまらっしゃい。
「無くなってから後悔する気かな。無くならないとしても減っちゃうよ?減ったら必要量を集めるのに時間かかるでしょ?」
切る場所を示して実演してみせる。
葉っぱは三枚以上残すのがコツだよ。
根元と一番下の葉は残す、とか説明されることが多いけど、それは最低限の保全。
さらなるコツを教えてあげよう。
「それにね、このへんで切ると、下の脇芽から次が伸びて、なんと次に一株から取れる数が増す。お得でしょ? 今は夏だから、七日もすれば元と同じ長さで二本も採取できるようになるかもしれないんだよ?」
さほど歩き回らなくてもいっぱい取れるようになるんだぜ!
「あとね、根から取っちゃうと、採取物のほうも汚れる。あんまり状態が悪いと検品でハネられたりしてお金にならないよ。もっと楽して堅実に稼ごうよ」
私は無駄な労働が嫌いなんだよ。
元々無い体力振り絞って仕事をしているってのに、そのせっかくの労働が無駄になるなんて、私には耐えられない。
「なるほど…!」
「…たいへん。新人がアルフレートに感化され始めたわ…」
「ほ、他には…!?」
「メネル草を潰さないように、採取物専用の袋を用意するか、荷物の上の方に仕舞って、潰さないように気をつけること。いざ取り出そうと思ったら潰れてた、なんて悲しいだろ」
お使いを頼んだらよく熟れた美味そうなトマトが荷物の底で潰れていた、朱里さんの記憶と同じくらいの切なさだと思うんだ。
「お前、急にまともな講師になるな」
失礼な。
「いつもはおかしいみたいに言わないでくれる!?」
「さっきゴミを灼いた奴の台詞じゃねえ」
「言い返せないのがくやしいぃぃぃ」
ぐぬぬ、となっていたら新人くんたちに笑われた。
「あはは。怖い人かと思ったら、そうじゃなかったね」
「うん。親切だし…」
「あなたたち、最近登録したの?」
「はい。先月登録しました」
おお。ほんとにめっちゃフレッシュな新人だった。
私たちは他に、似ている別の草との見分け方や、取り過ぎへの注意などをした。
「薬草採取って、もっと簡単な仕事だと思ってました」
私もそう思ってた時期があったよ。
実家のほうだと採取は子どもの仕事だったしね。
「ああ。それね。採るだけなら初心者でも安全にこなせるからってギルドが新人に回してるだけみたいだよ?」
「こなせるから?」
「うん。ほんとは採取って奥深いよ? 採取だけで食べてる人だっているし、自分しか知らない場所を持ってたり、薬草を育ててる人もいる。王都の研究機関に納品してる人も居るんだよ」
「へぇ……」
同じメネル草でも、他の薬草でも、採る場所も育ち方も状態も違う。
突き詰める人は、そこまで見て仕事にしてるらしい。
匠だ。
「ダンジョンが発見されたせいでちょっと慣れた子たちはここに来なくなっちゃってるから、採取方法も、ちゃんと稼ぐためのコツも、誰にも教えてもらえてなかったのね。ちょっと可哀想だわ」
やっぱりギルドに講習とか提案すべきだな。
きっと講師側も依頼を請けた冒険者になるんだろうし。
そうなれば教えてくれる側にもタダで教えるわけじゃないというメリットまで生まれる。
中堅層不足が解決したときに、以前のようにタダで教えるのを渋る可能性、ってのは出てきてしまうけど。
私が登録したときは、保証人になってくれた冒険者が、いろいろ教えてくれた。
私もそこそこ彼の仕事に貢献したから、そこはおあいこだとは思ってるけど、彼からは初心者心得とか本当にいろいろ教えてもらったので感謝している。
初心者には初心者の、中堅層には中堅層の、高ランクには高ランクの、それぞれの暗黙の了解があるのだ。
ところで…。
休憩はまだかね。
だいぶ疲れたし、かなりお腹が空いたんだけど。
「ルドルフー。お腹が空いたよ」
「少しは我慢しろ五十六歳児…」
「でも、そろそろ休憩入れない? 新人達、さっきから全然水飲んでないよ」
「何故そちらを先に言わないんだお前は。おい!休憩するぞ!」
ごめん。本音のほうが先に出てしまっていたようだ。
暑さは人を駄目にするね。
「ふい〜。疲れたぁ…」
「ちゃんと水飲んだほうがいいわよ。甘く見てると倒れちゃうから」
「はい…」
どさりと座り込んだ新人たちに、リィナが水分補給を促す。
彼らもそれぞれ水筒や、昼食だろう食べ物の包みを取り出していた。
今日は何を食べようかな。
ちなみに今日は遠出ではないため、ルドルフたちパーティメンバーも各自で食事を用意している。
マデリーンさんの昼食は、薄切りの燻製肉と硬チーズ、麦入りの平パン、それから干し果物少しだった。
片手で食べやすく、匂いも強すぎず、腹持ちもする。
慣れた大人の冒険者の昼食である。
「フェイ、今日何買ったの?」
「僕は定番の赤い屋根の食堂のソーセージと、その隣のパン屋のナッツ入りパンです。冒険者になってすぐの頃からここのがずっと好きで。リィナさんは?」
「あっ。第二商業区の南側にある店? わたしもあの店のソーセージ好き。わたしは今日は銀麦亭に頼んだわ」
フェイが言ってる店は私も知ってる。それこそ新人のころに教えてもらった店だ。
うーん。今日は先日ロザリンと出かけた時に買った揚げ芋でも食べようかな。
なんとなく、あれを食べると初心者だった頃を思い出すのだ。あとはテノーのスープでもあれば十分だ。
ちなみにライリーとルドルフは、でっかい肉の塊をパンに挟んだものを食べてる。めっちゃ肉でかい。
パンが申し訳程度というか、ほぼ肉。
パンという名の持ち手がついた肉。
マデリーンさんのバランスの良さとは大違いだ。
「皆さん、普通にそのへんで買えるものを食べるんですね…」
「うん?どういうこと?」
新人くんたちは、どうやら見た目年齢が近いという理由で私とリィナには心理的にも敷居が低いらしく、度々話しかけてくれていた。
「もっと上のランクの人たちは食べるものも違うのかなって思ってたので」
「そんなことないよ。初心者冒険者御用達、揚げ芋だって食べるよ。美味いし」
普段は自分の作った料理を食べてるとかは言わないでおこう。
「ところでそれ、何?」
「フロギの蜂蜜煮です。ギルド前の屋台で安かったので」
「……そっかぁ」
フロギは卵を取るために飼われている鳥だ。
卵を産まなくなった個体の肉は少し固いけど、そのぶん安い。そして滋味深い。
柔らかく蜂蜜で甘く煮てあって味も濃い。
庶民の味方である。
庶民の味方ではあるんだけど。こういう時に食べるやつじゃない。
「採取依頼の途中で食べるには、ちょっと困っちゃうやつだね」
「えっ」
嫌な予感がするよ。もしかして、解ってない…?
「タレで手がベタベタになるでしょ。洗うには飲水しかない。甘い匂いも残るからわりと魔物を寄せやすい。その手でメネル草を触ると土も草屑もくっつく。包み紙も匂う。持って帰るにしても包み紙はベタベタしやすい……今日のゴミ講習の復習になるね」
初めて聞いた、みたいな顔で瞬きしているね。
ポリ袋なんて無いから、ゴミ持ち帰る前提ならそこから考えないと。
「……えええ!?」
「君らの世代、私たちが考えてるよりもずっと大変な状況に置かれてるのかもしれない…」
情報の断絶がひどい。
ダンジョンの影響は絶大だね!
話の方向性と着地点が固まってきたので、あらすじの最後あたりをこっそり少しだけ加筆しました。
(注意書きのことじゃないよ! その上だよ!)




