073
今日はパーティ全員で仕事を請ける日。
全員でギルドへ行き、リィナとルドルフ、マデリーンさんは受付へ。
私とフェイとライリーはいつものように依頼票掲示板のほうへ行く。
ちなみにポチさんはロザリンとお出かけ予定なケイティについていてもらっている。あいつ、私より体力ないから。
Cランク以上ので近場のやつ、あるかなー?
ふむ。『新人冒険者の実地監督依頼』に、『「採取地の縄張り争い」仲裁』か。ベテラン勢だけじゃなく中堅層までダンジョンに行ってしまっている影響かな。
今までなら中堅層が近辺で魔物を狩っていたため、ある程度間引かれて採取場所まで魔物が行くようなことはなかなか無かった。
その中堅層がごっそりダンジョンへ行ってしまっては、今まで安全だった場所まで魔物が出てくることも充分あり得る。
そのせいで安全に使える採取場所が減って、残った場所を巡って縄張り争いまで起きてる、と。
ダンジョンの影響、侮れないね!
新人監督なんて依頼が出てるくらいだし、今の初心者向けってどんなの並んでるんだろう。
そう考えて、ちょっとFランクの掲示板あたりを覗いてみる。
街内の届け物と倉庫荷運びか。私もやったことがあるな。
畑荒らしの小動物駆除、夜間見回り補助。そういうのもやったね。懐かしい。
あとは解体所の雑用か。やるわけがないね。
荷馬車護衛補助ってのもあるのか。補助ってなんだろうね。
Cランク以上には採取地関連が増えてるのにFランク掲示板には採取系の依頼票がなくなってるわけよ。
今なら採取系の報酬レートがいいから採取に集中しちゃってるのかな?
おっと脱線した。探すのはCランク以上の近場だ。
他には『郊外倉庫の夜明け前警備・不審者確認』とかあるけど、安っ。夜間の仕事にしては報酬安っ。パーティで分けるには厳しい金額だ。
もう一個『逃げた荷獣と積荷の回収依頼』か。
逃げたと思しき荷獣は森の中へ…。
森。…森は遠慮したい。
掲示されてるのは気が進まないものばかりだ。
ルドルフたちのほう、なんか良い依頼あったかな。
「アルフレート、そっちはどうだ?」
「割に合わない夜間警備と、森に逃げた荷獣と、人間関係が面倒そうな採取地案件」
正直今回のはどれも嫌である。
自分一人だったら『あっ、今日は帰ろう』ってなるやつである。
「採取地だな」
なんと無情なルドルフの声…!
「えー…」
「支部長からもそっちを見てほしいって話が来てる」
「うわー。新人監督と縄張り争い、どっち?」
恐る恐る聞いてみる。
どちらにしても面倒そうだが。
「ああ、両方だな。採取地が荒れてる原因を見て、揉めてる連中がいれば止める」
それ、私で出来るか?
めっちゃ向いてなくない?
「うわぁー魔物より人間が面倒なやつだー」
「そういう日もあるわよ」
「採取地の問題は影響大きくなりますもんね」
支部長さんからのお話じゃ、仕方がないね…。
請けておいて恩を売っとくほうがいいだろう。
しかし…『新人冒険者の実地監督依頼』か。
実地監督という名の邪魔な魔物討伐依頼かな?
場を整えて新人が安全に仕事をできるようにするのが本命?
「ね、ルドルフ。具体的には?」
「最近、初心者向けの採取依頼関連の問題が増えてる。魔物の目撃、採取場所の取り合い、勝手に奥へ入って怪我をする奴もいるから、監督しろっていうことらしい」
「うわぁ」
「その辺を見て、原因を潰してこいという話だな?」
ライリーも眉間にシワが寄ってるよ。
「そういうことだ」
「そういうことなら仕方ないわよ。ねっマデリーン」
「ええ。初心者も中堅もベテランも、どこが欠けても問題というのは起きるものだし」
「そっか。それで、どこか特定のパーティについていくの?それとも現地直行?」
仮にも実地監督ならついていくのか?
それだと速度的に私の体力が保たないんだが。
「現地直行だ。採取依頼を受けた新人が既に何組か向かっている。俺たちは少し離れて様子を見る感じだな」
「新人監督って、後ろから見張るやつで合ってる?」
やったことのない系統の依頼なもので、勝手がわからないよ。
そもそも私、基本になってるはずの常識が周囲とズレてる自覚あるし、教える側に圧倒的に向いてないと思う。
「最初から横についてると、採取にならねえからな」
「問題が起きやすい場所を見つけるには、普段通り動いてもらう必要がありますからね」
「なるほど…?」
「まぁ話は道すがらでもいいだろ。行こう」
「はぁい」
方針を話し合った私達はひとまず街を出て、新人達がいつも採取していた辺りへと向かった。
私がケイティと行った場所と違って、魔物の少ない場所だ。
「そこは俺たちが先に見つけた場所だろ!」
「昨日は誰もいなかったじゃないか!」
着いて早速、争い事が勃発してるの、何故。
メネル草は別にさほど密集してるわけでもなく、あちこち生える草。そもそもここはギルドが魔物の対応に不慣れな初心者でも比較的安全だからと案内してる採取場所だ。栽培してるのでもない限り縄張りを主張する意味は薄い。
「メネル草は密集する種類でもないのに、この付近でしか採取していないのも妙ですね」
「そもそもやたら人数多いな」
「…奥のほう、ボア系統の魔物が土を掘る音がする」
ライリーが耳をぴこぴこ動かして言った。
ボア系統だと初心者だけではキツいだろうな。
「あー…ほんとだ」
念のため探査してみたけどライリーの言う通りだった。
「手前に固まるしかねえから、場所の取り合いになってるわけか」
「別の仕事、結構掲示板に残ってたんだから他やればいいのに」
私なら街中の仕事を請けるね! 荷運びとか。
「採取範囲が狭いとなると、その結果も頷けますね」
「ねえ、奥のほう行ってボア狩っていい?」
「まだ駄目だ。揉めてる連中に、場所は共有だって分からせるのも仕事だ」
「うわぁ、残り半分が面倒なやつ。こう、ボアが居て奥に行けないってわかってるなら、ギルドに報告すればいいのに…」
そうすればギルドも先に動いてくれることもあるのにね。
報告がないと、今回のように原因調査からになってしまい、問題除去まで余計な時間が掛かる。
結果的に、報告を怠ることは自分たちの収入が減ってしまう原因に直結するだろうに。
「新人がそこまで考えられるなら、そもそも揉めてねえ」
正論だ。なるほど…。
「怖い、怒られる、依頼失敗扱いになるかもしれない。そう思ったら黙る奴もいる。それが分かるのは、何度か痛い目を見た後だ」
「そうか。失敗報告という扱いにされて、減点されると思っているのかもしれませんね。…報告内容によりますが、魔物目撃の報告自体は有益なんですけどね」
戦わずに収入になるんだからそっちのほうがお得だよねぇ。
「報告の仕方を知らないのかもしれないわね。魔物を倒せなかったことを責められると思っている子もいるでしょうし」
「初心者のうちって、いまいち決まりごとも曖昧にしか覚えてなかったりするものね」
まあそうか。普通、登録時の書類の隅まで読んだりしないもんね。
今までいろいろ口伝のように仕事のやり方を教えてくれていた先輩がたのありがたさよ。
「だから今日は、揉め事を止めて、魔物を潰して、報告の仕方も教える」
「新人講習会なのかな…」
やっぱりルドルフって面倒見が良いよね。
「行くぞ。まずはあいつらを止める。アルフレートは…後ろに立ってろ」
「えー…」
水戸の光圀公なのかな。
「おい、そこまでだ」
「な、なんだよ……って、Bランクの…!?」
ルドルフを知ってるらしい。
前々から思ってたけど、高ランク冒険者って個人情報もへったくれもないよね。
「採取地で揉めてるって話がギルドにまで来てるそうだが」
「え、いや、俺たちは別に」
「別に、で怒鳴り合ってたのか?」
「だって、奥は危ねえんだよ」
「危ない?」
「この先でメタルボアみたいなのを見た奴がいる。だからみんな手前で採ってるんだ」
メタルボアかー。ほう。あれはボア系統のなかでも特に美味しい。
採取地保全のためには早急に狩る必要があるね。
「それをギルドに報告したか?」
「……してない」
そうだろうね。こんな近くで狩れるとかそんな美味しい討伐依頼の依頼票が貼ってあったら真っ先に私が請けてるよ。
「魔物を倒せなかった報告じゃねえ。魔物がいるって報告だ」
「でも、俺たちじゃ倒せねえし……」
そう言った子の顔や声には悔しさが滲んでいる。
「だから報告するんです。内容によってはその報告自体が報酬に繋がるんですよ?」
「見つけた危険を知らせるのも冒険者の仕事よ。あなたたちだけじゃなく、後から来る子たちも危なくなるでしょう?」
「先に見つけた草を採るのは構わん。だが、場所ごと抱えようとするな。ここはお前らの畑じゃねえ」
「……はい」
畳み掛けるような先輩アドバイスだね。トドメの厳し目なルドルフの言葉にみるみる萎れていくのが、少しかわいそうに思えた。
でも判断を誤ったまま大事になったり、最悪命を落とす、なんてことにならずに済んで、良かったとも思った。
「それと、奥のメタルボアは俺たちが何とかする。お前らは安全になるまで勝手に付いてくるなよ」
おっ。やっと自分の出番な気がするよ。
「アルフレート。採取地の保全が第一な。踏み荒らすな。燃やすな。消し飛ばすな」
「しないよそんなこと。食べるトコなくなっちゃうじゃん」
「お前が食欲方向に考えるタイプで良かったよ」
なんか食いしん坊みたいに言われてる…?
まあいいや。
魔物を美味しく狩るなら、狙うのは頭。
頭は食べないし。タンとか頬とか、あんまり興味ないし。
内臓は傷つけない。肉を汚染するからね。
だから頭を切り落とすのが一番だ。
「なら、任せていいか? 俺達は他が居ないか探してみる」
「おー。やっとくー」
メタルボアは意外と逃げ足が速いので、襲いかかるなら素早くだ。身体強化を掛けつつ、走り寄る。
そして頭蓋が硬いので、最小限の労力を狙うなら、眼窩。
そんなちっさい的だと私の魔法じゃ無理なので、剣による刺突が最適だ。
って、思ってたのに…!
寸前に頭を下げられ、スカっと空振る。
やべ。今突き上げられたら危ない――
右腕を突き出した勢いのまま身体を捻り、咄嗟に逆さに持ち替えた左手の剣の方で、眼窩を突いた。
「あっぶな…」
そのまま倒してしまうと下敷きになるメネル草が台無しになりそうなので、メタルボアの身体を魔法で支えた。
…血抜きどうしよう。まあいいか後で。
マジックバッグに仕舞って、戦闘終了。
ルドルフたちのほうはどうかな?と姿を探すと、もっと奥のほうで手を振って私を呼んでいた。
「何かあった?」
聞いてみると、ルドルフが足元を示していた。
「コレで魔物が寄ってきたみたいだな」
示された辺りを見れば、焼き串と、包み紙の残骸。荒らされてボロボロだ。
キャンプ地でにわかゆるふわキャンパーが放置したゴミでキャンプ場に熊出没、なんてのを思い出した。
野外でゴミを放置していかないのは冒険者の基本、って私が初心者の頃お世話になった冒険者が教えてくれた。
採取地へ中堅層があまり来なくなったせいで、そういうことすら教えられていない初心者が増えたか……。
「この辺り以外でも臭いがする」
「誰だこんなとこに埋めやがったやつ」
ルドルフが地面の土を足先で少し退かすと、そこからも油の染みた包み紙と、齧られた串の残骸が出てくる。
「埋めて見えなくなればいいという判断かな」
「獣や魔物は掘る」
「…そうだねぇ」
ケイティと別方向で頭痛が痛いな。
「わぁ。すっげえ! 本当に倒したんですか?」
「おい、勝手に来るなって言われただろ!」
手前に残してきた新人のうち、二人ほどがこちらを覗き込んでいた。
安全確認大丈夫かな。ルドルフのほうを見たら頷いてたので大丈夫っぽい。ならいいか。
目がきらきらしている。
叱られた直後だというのに、なかなか切り替えが早いな。
これが若さか…。
「勝手に付いてくるなと言ったぞ」
「す、すみません! でも、もう危なくないと思って……」
「それを判断するのはお前らじゃねえだろ…」
安全確保の認識がまだ薄いようだ。
危なっかしいな。
「あ、それ……埋めたやつ……」
叱られ俯いたことでルドルフの足元のそれらに気づいたらしく、そう口にした。
ルドルフが、あちゃー、という感じで天を仰いだ。
「お前らか」
「だ、だって、そのへんに置いていくのは駄目だってギルドで聞いたから、…埋めればいいのかなって。みんなやってたし……」
やっぱりかぁ。
「それ、魔物が居座ってる原因の一つだね。掘り返して食べてるよ。ボア系統は掘るのが得意だし鼻もいい。最悪なことに頭もいいから、ここに来れば楽に食べ物が見つかるなんて覚えたら、居座るね」
「そ、そんなつもりじゃ……」
ちょっとレクチャーしておくべきか?
私も昔教えてもらった身だ。恩返しと思って私がしてもらったように後進に伝えるのもいいだろう。
「そんなつもりがなくても、しちゃったら結果は同じになっちゃうよ。どんなつもりで置いても魔物には関係ないし。罠用のエサでも、埋めてったゴミでも、動物や魔物にとっては美味そうなもので一括りだよ」
……と言いながら、なんかちょっと自分にも刺さった。
この子たちも、「ゴミを置いていくのは駄目」ということ自体は覚えていたんだよね。
ただ、その理由まではちゃんと自分の中に落とし込めてなかった。
アレ? 私も人のこと言えない気がしてきたぞ。
その場その場で「そうなんだ」と納得してはいるんだけど、自分の中の『普通』そのものを書き換えるところまでは、なかなか行かない。だいぶ身に覚えがある。
だいたい、ズレてる側からしたら、自分のどこがズレてるのかなんて毎回わかるわけないんだよ。
わかってたら最初から直してるんだよ…!
五十年以上これで生きてきちゃったからなぁ。
……新人相手に偉そうなこと言えんな、私。
「お前が言うのか。…あと、完全に講習会になってるぞ」
案の定ルドルフに突っ込まれる。
「あうち。必要な講習ですぅー」
教えてくれる中堅層が居ないのって結構危険だな。
ギルドで何らかの対策をしてもらえるように提案してみようかな。
「だから、食べたもののゴミは包み紙も串も骨も残さない。埋めない。隠さない。匂いの出るものを採取地に残さない」
私は足元の串を拾って見せて、説明した。
灼いて塵にして始末したらルドルフに怒られた。




