070
メネル草採取依頼を請けて、私とケイティとポチさんはメネル草の生えてる場所へと移動した。
ケイティは私と違って普通のエルフなので、私よりも体力がない。
そして普通のエルフなので、馬鹿正直に歩いて移動など考えない。
ポチさんの背から魔法でふわりと飛び降りた。
「さて、ケイティ。説明をするよ。メネル草というのはコレ。採取するのはこの二番目の葉から上だよ」
「うん。…コレ何に使う草?」
雑草?とか考えてる顔だな。
「魔力含有量が多めな草で、人族とかが作る回復薬の材料になる」
「ふぅん? 魔力の量のほうが重要なんだ?」
「そう。量なんだよ。魔力の通りがいいとかは関係ないっぽい」
私も最初に知ったとき、面白いなと思ったよ。
「まぁ、コレは本題じゃなくてただのついでだ」
「ふぅん!?」
怒るなよ。その後も聞いてくれよ。
「本当に採りたいのはいつもの薬の材料だよ。この辺なら生えてるんだ」
ヨモギっぽいのとドクダミっぽい葉っぱのことだ。
「あ。リュミナ草とゲルナ草。ほんとだ」
リュミナ草とゲルナ草というのか。ヨモギっぽいのとドクダミっぽい葉っぱ。
今更だが今知った。
「場所を荒らさず、他人の採取場を横取りせず、採取しよう。採取依頼は、目的の品を納めれば達成。依頼以外のついでにとった他の採取物を売るのも自由。魔物の討伐系も同じ」
「へぇ。冒険者って結構自由ね」
「自由だけど、全部自己責任だよ」
結構世知辛いんだぜ?
「いつもの薬って、傷薬?」
「そう。ケイティも作れるでしょう?」
「作れるけど……あんなの売るの?」
子どもの小遣い稼ぎだと思ってるね。私も昔そう思ってたよ。
「売るの」
「えー…売れるの?」
「一瓶で金貨二枚くらい」
「ぇえっ!?」
うん。驚くよね?
「あのね、相手が価格を知らないと思ってボられてんだよ。ちゃんとしたところに売れば、一瓶で金貨二枚なんだよ」
「えー…。アレそこそこいいお小遣い稼ぎだなとは思ってたのに。そんなぁ…」
「実際にはかなりお金になるので、正直普通にEランク以下の冒険者の仕事をするより、確実に儲かる」
それよりも物価というのも教えてあげよう。
「あとね、あの宿屋。銀麦亭は一人部屋でも一泊二百五十ロフ、銀貨二枚と小銀貨一枚はする。毎日それ以上稼がないと、泊まれない」
二人がかりで草を刈りながら、現実を語る。
ちなみに銀麦亭のお忍び貴族用の部屋の価格は聞いていない。
ゾフィさんが「結構いいお値段よ?」と言っていた。
Bランクでそれなりに稼いでいる私にもそう言ったってことは、きっと本当にいいお値段なのだろう。
「うっ…。街で暮らすって大変なのね……」
「あと、十五年暮らした感想からすると、銀麦亭以外はあまりおすすめしない」
「…頑張るぅ」
大変だよね。でも要るんだよ。
「ね、アリー。今気づいたんだけど、このリュミナ草とゲルナ草、こんなにいっぱい刈っちゃって、どうやって持って帰るの? いつもみたいに運ぶと目立つ気がするよ?」
ケイティ、観察力あるじゃないか。
ちなみに『いつもみたいに』は、魔法で浮かせて運ぶ方法だ。
街じゃ誰もやってないことに気づいたらしい。
「うん。それはね。……ケイティ、こっから先は絶対人には言っちゃ駄目だよ。街で暮らせなくなるからね?」
「う…うん。何よ急に」
私は白竜革のマジックバッグを指し示した。
「こういうのを使うんだよ。ちなみにこれは私が作ったやつ。ケイティも容量落とせば多分すぐ作れるから、まずはやってみようか」
まずは概要の説明。
「台所とかで使ってる、空間歪めてものをたくさん入れられるようにする魔法、あるじゃん? アレを、ポーチとかに掛けて持ち運びやすくするんだ」
「なるほど! 人族すごいね!」
そう! 画期的だよね!
この感動を共有できる相手が今までいなかったので嬉しい。
ド◯クエⅣにふくろ機能がついたときのような感動だ。
「私のはそれに時間経過を遅らせる魔法も掛け合わせてる。でもそれはもっと言っちゃ駄目。絶対言っちゃ駄目」
「う…わかった」
「そしたら、布の袋でもいいから、まずは外側の袋だけ作る。ほら、針と糸と端切れ布」
「うん。ありがと」
ちくちくと、ケイティはちょっとぎこちないけれど丁寧に袋を縫っていく。
「これでいい?」
なかなか上手だ。
「うん。上出来。…いいかいケイティ。もし人前で使う場合も、あんまりいっぱい入らないフリをするんだよ。時間経過減速もナイショ。少なくとも、自分で自分の身を守れるようになるまでは知られちゃいけない。作れることも、知られちゃいけない」
あとは使い勝手を良くする工夫も教えとこう。
「毎回出し入れのたびに魔力を使う方式じゃなくて、余剰魔力をある程度貯めておける方式にすると、急いでる時とか魔力流さずすぐ取り出せて便利。私のはそうしてある」
私の場合、戦闘の真っ最中に折れた武器を換えることもあるので、コンマ何秒差だろうと必要な工夫なのだ。
「…わかった。でもその機能、あたし要らないと思う」
そうしてケイティは袋に魔法を掛けて、自分用のマジックバッグを完成させた。
「ね、アリー。わざわざこんなところで作ったのも、ナイショだから?」
「そう。ナイショだから」
…なんか子どもの頃を思い出しちゃうな。
「さ。刈り取った草を仕舞って帰ろう」
「うん」
ケイティはできたばかりの布袋に、嬉しそうに草束を詰めていった。
「帰ったらギルドにメネル草を納品して、昼食を食べようか」
「うん」
素直に返事をするケイティは、幼い頃を思い出させた。
「お兄ちゃん。……ありがと」
「…おう」
しかたねえなあ、とか思ってしまっている私はきっと、チョロいんだろうな。
*
ギルドへ戻ってメネル草を納品すると、喜ばれた。
少しは落ち着いたとはいえ、ダンジョン需要でメネル草はまだ高値で取引されているのだ。
「一旦飯にしよう。ケイティ、どんなもの食べたい?」
ギルドを出て、さてどうするかと思案。
「アリーがいつも食べてるやつ!」
「街の外に居れば自分の作った料理だし、街中だったらそのへんの屋台だぞ? そんなのでいいの?」
「それがいいの!」
「そういうものかな」
「アリーが街でどんなふうに暮らしてるのか知りたいんだもん」
「……そう」
そう言われると、ちょっと弱い。
とはいえ、ここ最近の私のお気に入り第三商業区の串焼き屋に案内するわけにはいかない。
第三商業区方面はナシだ。
お安く腹の膨れるものだと第二商業区内の飲食店街あたりがいいか。
と、その前に。
街を歩くのに必要そうな情報を、歩きがてら話す。
「ケイティ。街中にもあんまり一人で行っちゃいけない危ない場所とかもあるんだ。分かるようになるまでは、絶対一人で外を歩いちゃ駄目だよ。案外一歩路地裏に行くだけでも危ないんだ」
「えっ。わかった。気をつけるね」
「ギルドのあたりは第二商業区って言って、わりと冒険者には過ごし易くて便利。北の端の方は貴族街になってて、そこはまた壁があるから普通に入ることはできないんだけど、絶対近づかないこと」
ウッカリにでも近づかないように釘を刺しておく。
ケイティの場合、魔法も使えないくらい一瞬で無力化されない限りは大丈夫なんだろうけど、用心するに越したことはない。
「貴族…」
「そ。貴族。権力者。で、貴族街と第二商業区の間には中央商業区がある。貴族向けの商品も扱う店とかがいっぱいだから、ちょっと良いものが欲しい場合はそっちだね。多分ロザリンが持ってった石鹸とかも中央商業区だと思う」
彼女が使うものと身につけてるものは結構上質なものばかりなので、殆どはあの辺りに行かなければ手に入らないものな気がする。
「第二商業区から見て東側は第一商業区。普通の庶民向けのお店が多いね。野菜とかの食材とかはそっちが安い。さて、ここが私のおすすめ、第二商業区の飲食店街だよ」
飲食店街の中でも屋台が立ち並ぶ地区だ。
周囲からは香ばしい匂いと、煮込みの湯気と、人の声が混ざって流れてくる。
ケイティが目を丸くした。
「すごい。匂いがいっぱいする」
「賑わった街って感じでしょう?」
「どれがアリーのいつもの?」
「だいたい安くて量が多いやつ。成人したばかりの男が好む飯なんてそんなもんです。だいたい茶色いやつ」
私たちは屋台でいくつか適当に購入し、その辺に座って食べることにした。
ポチさんにはケルピー肉をあげよう。
「んっ。おいしー」
「お?ほんとだ。美味いね。こっちの揚げ芋も美味いよ」
「へー。外側カリカリだね。これっていくらくらい?」
「この揚げ芋は一個五ロフ。小さいやつだと三個で五ロフのもある。串肉は一本二十ロフ」
「そっかー。串肉は二十ロフかぁ…。宿代ってけっこう掛かるんだねー…」
「そうだね。ん。よし。食べたら銀麦亭戻ろう」
「うん。ね、アリー。あっち側って何?」
「あー…第二商業区と第三商業区の間って、ちょっとスラムになってる地域があるんだ。そっちも絶対行っちゃ駄目」
「うん。わかった。それで第三商業区は?」
嫌な汗が流れ落ちる。これは暑さのせいじゃないと思う。
なんて説明すればいいんだ…。
「第三商業区は……。えっと。行っちゃ駄目」
「アリー、目が泳いでるよ?」
花街だなんて、私には言えなかった。
「危ないの?」
「危ない、っちゃ危ない」
「歯切れ悪いなー」
駄目だ。この感じ。
このままだと私以外に聞きかねない。
「えっと…花街、です」
「花街?」
「綺麗なお姐さんがいるお店が、いっぱい…うわぁぁー! もーー! 兄に言わせんなこういうこと!」
駄目だ。ケイティくらいの年齢ならエルフ的性教育は当然済んでるけど、元々性欲の薄い種族なのと集落内が牧歌的すぎて花街の概念が無い。
「どういうこと? アリー、顔真っ赤」
おかげでこうやって無邪気に聞いてくる有様だよ!
負けだよ! 私の負けだよ!
「…………綺麗なお姐さんが、えっちなことをしてくれるお店です。…はい」
私は耐えられず、顔を手で覆った。
泣いていいですか。




